玩具の使い手
正月に特別イベントをやる予定でしたが、思いつかなかったので普通に更新にします。
―――バタ―――
俺の全力の手刀により勇者は苦しみながら倒れた。
俺の動きが早すぎたのか、勇者が負けるのが以外だったのか。倒れた勇者を見ながら全員が放心状態に陥ってた。
その中で一番初めに我に返ったのは、エピーロさんだった。
彼女は神速の如く速さで勇者に近づき、意識の確認を始めた。
それは、俺達の作戦の始まりでもある。
『皆、彼女が逃げられないように囲め、ルリ結界を頼む』
〈テレパシー〉で合図をして、作戦メンバーが一斉に集まる。
今回の作戦で1つの条件として。結界内に対象であるエピーロさんと俺を含めた作戦メンバーがいる事。そして他の人が結界に入らない事、これは今回の事をスムーズに進める上で重要な事なのだ。
たまたまエピーロさんが、1番に勇者に近づいてくれて、他の人たちが放心しているから。この条件はクリアできた。
俺達が包囲し終わった後、今まで勇者を見ていた、エピーロさんがこの状況に気が付いたのかゆっくりと視線を俺達の方に向けた。
「私、嵌められたのね。このガキ共が」
表情は歪み完全にキレてる。やけになったのか俺達は何も聞いていないのに自ら色々話し始めた。
「こんな事になったのは、すでに私が勇者を操ってるのがばれたからよね?いつ気が付いたのかしら?私の魔法は完璧なはずなのに」
エピーロさんが喋ってる最中に今まで後ろの方にいた将太が出て来て。俺の前に立ちエピーロさんと対面する。
「勇者の事なんてどうでもいいっす。あなたが姉さんに〈終りなき苦痛〉って言う魔法をかけたんすか?」
将太もかなり怒っていて、決して声を荒げてるわけではないが、今にも殴りかかりに行きそうな雰囲気だった。
一瞬エピーロさんは理解できなかったのか将太の顔をまじまじと見てた。そして
「あ~お前、あのアマの弟か、すっかり忘れてた、いるって言ってたわね。そうよ私が魔法をかけたの、実の姉の死ぬ瞬間はどうだった?」
「オマエェェェ!!」
エピーロさんに挑発されて将太は、あらかじめ腕に仕込んでいたであろう小刀を取り出し真正面から攻撃しに行った。しかしなんなく避けられ、拳でカウンターを貰い、その衝撃で吹き飛んでいく。その一撃で将太は気絶してしまった。
「勘違いしないで欲しいわね、私はここにいる誰よりも強い。そこで寝てる私の玩具[勇者]なんかよりもね、お前達みたいなガキが何をしようが、私は負けないわ」
エピーロさんは、自分がこの場最強である事に自信があるのか、構えてすらいない。それだけ何をされても余裕があるのだと思う。
「1つ聞きたい、勇者を操って、何がしたかったんだ?」
「知りたいわよね、勇者を倒したから特別に教えてあげる。私はね戦争を見たいのよ人間対魔族の戦争。勇者を操って時期を見計らい、魔王に攻撃させる。それに怒った魔族側は人間と戦争になる。今みたいな有効関係に私は反吐が出るのよ」
語ってる時の表情は先ほどまでの怒りは見れず、むしろ笑っている。まるで狂った者のように。
さらに続けて、語りだした。
「私の両親はね、私が物心付く前に戦争で死んだのよ、まだ子供だった私はいろんな人に助けを求めたわ、けど皆私を助けようとしなかった。誰も受け入れてくれなかった。そんな人たちを皆殺しにしたい、でも、ただ死なねるだけじゃ私の気はおさまらない。だから平和になった今、戦争を起こして理不尽に死んでもらいたいの」
ある程度話したいことを話し尽くしたのか、一度息を吐き、俺達の事を見ながら薄気味悪い笑顔を浮かべた。次の瞬間、彼女の周りに黒いもやが発生して、彼女を包む。
そのもやが晴れ、現れたのはただでさえ露出の多い服装がさらに露出度が多くなり、角と尻尾の付いた、エピーロさんだった。角は見たことないが尻尾はルリのに似ている。〈鑑定〉をするまでもなく、彼女が魔族だって事は分かった。
「この姿を見せたら、分かるかも知れないけど、実は魔族なのよ、私は魔族の中でもサキュバスと呼ばれる種族、人を操ったり、精神を穢すことが得意なの、ここまで話したからには、ここにいる全員私の玩具にしてあ・げ・る。ここで寝てる勇者と...あれ勇者はどこ?」
今まで勇者が倒れていた場所に勇者はもういない。決して意識が回復したわけでもない。シャロが〈隠密行動〉で勇者を移動させてたのだ。1人で喋ってたエピーロさんはその事に今の今まで気づいていなかった。
俺はエピーロさんに向けて手を突き出す。エピーロさんの周りには今は誰もいない。俺があの魔法を使うのには最高の条件だった。
エピーロさんは魔法を使おうとしてる事に気づいたようだが、その場を動こうとしなかった。
「お前達が何をしようとしてるかは知らないけど、あえて魔法を喰らってあげるわ、そして無傷でそれを耐えて格の違いを思い知らせてあげる」
圧倒的慢心、圧倒的余裕、エピーロさんはすでに勝ち誇ったような顔で俺を見ている。だが、その顔も次第に変化している。
俺のやろうとすることに気づいたルリが、他のメンバーを集めて俺からなるべく離れていった。
「ま、まって。その魔力量は何?一体何を...」
「エピーロさん、あなたは確かに強いのかもしれません、けど今回はあなたの慢心のおかげでこっちは誰も傷つかずにすみました、ありがとう、さようなら〈光の審判〉」
先ほどの黒いもやとは違い、今度は圧倒的光が、エピーロさんを包む、光がやむ頃にはエピーロさんの体は薄くなっていた。
正直驚いた、まさか〈光の審判〉で消滅しないなんて。
「いやだ、私には、まだやる事がある。こんなところで消えて」
エピーロさんは生きていたいと訴えているが、こうなったらもうどうしようもない。徐々に薄くなってるし、消えるのも時間の問題だろう。そのまま消滅を見てようとしたが、ルリがエピーロさんに近づいていき、消えかけてる手を握り締めた。
「あなたの思ってたことは、よくわかったわ。これからは良くなるように改善していくから。それをどこかで視ていて欲しいな」
「いきなり、なんなの?あなたに私の気持ちなんて...あ~そういう事なのね、私は最初から詰んでいたんだ。いい口ではなんとでも言える。でも実際はかなり大変よ。私は見てるから、託したわよ」
最初はルリに怒りそうになってたエピーロさんだが、何かに気づいたようで、最後は微笑みながらルリに何かを託し、消滅していった。
こうして。あっさりと黒幕は消えていった。
キャロ「私、何にもしていない...」
愛美「シオン君は本当に何者?」




