勇者はスキルで人間はクズかもしれない
ギリギリ、書くのが間に合いました。
「おじゃまします」
「おじゃましまーす」
「ごめんね、何もない家っすけど」
学園から少し離れた場所にある、将太の家に俺とルリは来ていた。
周囲には結構、家があって、おそらくここは住宅街なのだろう。俺たちの家とは逆方向で普段こちら側に来ないから、なんだか新鮮だ。
将太たちが住む家は、日本で見るような一軒家で2人で住むにはかなり広いだろう。
「ここが姉さんが寝ている部屋っす」
家の中に入りすぐに部屋まで案内された。中には一人の女性がベットで寝ている、花蓮さんだろう。
寝ている花蓮さんを見ると、余り痩せていない事に気づいた。普通一年も寝たきりなら、かなり痩せていてもおかしくないと思うが、まぁそこは〔自然治癒〕のおかげなのだろう、たぶん
「それで、シオン何かわかりそう?私は今〈鑑定〉を使ってみたけどわかることが少なかったわ。しいて言うなら、悪い状態異常の4つ目がすでにかかっている事ね」
ルリが俺に尋ねてくる、ルリのほうでは何故ハルモニーが効かなかったのかわからないようだ。
俺は神から貰ったスキル、〔完全鑑定〕を使って花蓮さんを見た。
名前 蒼井花蓮
種族 人間
状態異常 麻痺 猛毒 衰弱 寿命半減 終りなき苦痛
衰弱まではわかっていた、だがあとの二つ、これはかなりヤバメの効果を持っていた。
寿命半減は名前の通り寿命を半分にするものだが、この状態異常にかかっている限り一定の時が立つとまた寿命が半減していくのだ。つまり解除しないと永遠に寿命が減っていく恐ろしいものなのだ。
だが寿命半減で永遠に寿命が減っていくのは【バジリスク】の4つ目の効果の時だけで本来はそんな事はおきない、さらにこの状態異常は、ハルモニーで治せるので本来そこまで脅威ではない。
ちなみに寿命半減が直った時点で寿命も元に戻る。
本当にやばい能力は5つ目の、終りなき苦痛、だ。
この効果は簡単に言えば状態異常を治す事ができなくなる効果を持っており、ハルモニーで治せなかったのは、間違いなくこれのせいだろう。
そして信じがたい事だが、この状態異常は【バジリスク】のものではない、人間が使える魔法の1つなのだ。つまり誰かが意図的に花蓮さんの状態異常を治せないようにしたのだ。
しかも厄介な事にこの魔法は帝王級で簡単には治す事もできない、さらに術者が隠蔽を施してたので〈鑑定〉では発見する事も困難になっている。
「ねぇシオン大丈夫?なんか凄い顔してるけど」
「シオン君大丈夫っすか?」
2人が黙ってる俺に心配そうに声をかけてきてくれる。
どうやってこの事を将太に説明しようか...
「将太、お前のお姉さん誰かに相当恨まれてたらしいぞ」
そしてスキルの事、今花蓮さんに何が起きているのか説明をした。
状態異常にしたのが誰か正確な事はわからない、だが1つだけ確かなのは
「あの魔法をかけたのは勇者パーティーの誰かってことっすね」
状態異常 猛毒の時に、終りなき苦痛、を付与できないとハルモニーで状態異常は治ってしまうのだ、【バジリスク】のブレスを受け王都までカレンさんを運んだ人達は、勇者のパーティーだからそのうちの誰かしか魔法はかけられない。
勇者のパーティーの中にそんなクズがいるなんて信じたくはないが。
「そういえば、花蓮さんは今でも一応勇者のパーティーって扱いになるのか?」
「いや、姉さんはもう勇者のパーティーには入ってないです、勇者自身がそう言ってましたっすから」
「勇者とあったことがあるのか!?」
「えぇ、何回かあるっすよ、でも最後に会った時は変な感じでしたけど」
将太は勇者と口にした時少し震えていた、その様子を見て俺もルリも黙って将太の事を見ている。
やがて何かを決意したように話し始めた
「あれは、【バジリスク】の件が少し過ぎた日でした、家にいきなり勇者がきて「お前の姉は、もう使い物にならないだろうからパーティーから外した、金は置いてってやるから後は勝手に生きろ」そう言って金貨の入った袋を渡してかえっていったっす」
この話だけを聞くと勇者もかなりのクズに聞こえる、もしかしたら実際にクズなのかもしれないが。
所詮、勇者とは神が与えるスキルの名前なだけであって、実際はそんなものなのだろう。
「そういえば、勇者の何が変だったの?」
ルリが将太に質問する、クズの話など興味はないが一応今回の件に関わりがあるかもしれないので、俺も聞くことにした。
「そうっすね、あの時勇者は姉さんの事を「お前の姉」って言ったんすよ。それまでは「花蓮さん」と呼んでたんすけどね。それと僕の事も「お前」って言ってました、会ってた時は「将太君」だったんすけどね」
おかしいと言えば確かにおかしいと思う、今まで名前で呼んでた人間がいきなり人のことを、「お前」とかと呼んだりするものだろうか?
もちろん呼んだりするだろうが、だとしたら冷徹にも程がある気がする、もしかしたら勇者は...
だがこれ以上、勇者の話をする時間がない。とりあえず花蓮さんをどうにかするのが先だ。
俺達は勇者の事はいったん置いておいて花蓮さんの話に戻した
だが現状どうする事もできない、おそらく俺の〈魔法創作〉で魔法を作る事はできるが、時間が足りない。ここまで酷い状態だと治すのには帝王級もしくは神級の回復魔法を作るしかないが階級が高ければ高いほど魔法を作るのに日数がかかってしまう。今の俺じゃ帝王級以上の魔法は最低でも1週間かかる、そうなるともう花蓮さんの命はないだろう。
ほぼ詰んでる状態だが考える事はやめない、そんな時ルリが「あ」と声を出した。俺も将太もその声につられルリのほうを見る。
「えっと、おとぎ話みたいな事なんだけど。たしかエルフのいる場所にしかない特別な薬草があってそれで薬を作れば、どんな状態異常でも治るってお母さんが言っていたような...ごめんね確かな情報じゃなくて」
「いや、それに賭けるしかないかもな、将太はどう思う?」
「僕も、それに賭ける価値はあるとおもうっす」
ただでさえ詰んでる状況で、一片の光が見える。もうルリの情報に賭けるしかない。これが全く知らない他人なら当然怪しむが、アイラさんがルリに話したとなればきっと間違いはないだろう。だが1つだけ問題があるとすれば
「エルフがいる場所知ってる奴いるか?」
沈黙。誰も答えられない、エルフは森にいるというが、王都付近の森は冒険者が出入りしていて目撃情報がない、これは父さん達が言ってた事だ、そもそもエルフは、人がよく出入りする森などにはいないって父さん達は言っていた。
あと1歩、花蓮さんを助けられるかもしれない所まで来ているのに手が届かない。これほどまでに悔しい事はない。
「古代森林」
ポツリとルリがつぶやいた、そしてまた俺と将太の視線がルリに向く。
「古代森林にはエルフが住んでいるってどっかの資料でみたことがあるきがする」
そういうとルリは俺を見つめてきた、将太も俺のことを見ている気がする。選択権は俺にあるのか...
だがこの状況、行く以外の選択肢はもう残されてはない気がする。
「行くか古代森林、悪いが将太は王都に残ってくれ、古代森林に着いたら連絡するその時に花蓮さんの状態とかを教えてほしい」
「わかったっす、シオン君お願いするっす」
「任せろとはいえないが、同じ日本人だ救えるなら救うだけだ。ルリ急いでいくぞ」
将太と話した後すぐに将太の家を出た。すでに日は傾きかけている。
俺はシャロに〈テレパシー〉を使った。
『シャロ聞こえるか?』
『聞こえてるよ~』
『すまないけど、俺とルリは今日は帰れないかもしれない、母さん達に伝えといてくれ』
『ふ~ん、わかった伝えとくね~お幸せに~』
何が盛大な勘違いをされてる気がするが今は考えない事にした。
そして俺とルリは急いで古代森林に向かうのだった。
シオン「行くぞ迅雷が如く」
ルリ「???おー!」




