ルリ奪還作戦その2
今回は前回の続きです。
人を斬るのは初めてだった、前の世界ではそもそも剣などの凶器を持つ事はできなかったし、この世界は魔物を森で斬る事は何度かあったが。対人はいつも訓練用の木製の武器だった。
いつかは来ると思ってはいた、この世界は前の世界違い、命のやり取りをする機会が多い、だから人を斬る事も覚悟はしていた。だが不安もあった、人を斬る事によって罪悪感から剣を握れなくなるかもしれない、どんな状況であっても、自分自身を許せなくなるかもしれないと。
そして実際に斬ってみた時、俺は何も思わなかった。ルリを助けたいと思う気持ちが強かったのもある、クズを斬っただけだから罪悪感を感じなかったのもあると思う。だがこうして俺は、人を斬る事に躊躇いがないと理解した。
鍵を開けてもらい長い道を二人で歩く、室内なのにやけに暗く不気味さが漂っている。だがそんな道も終わりがあり、目の前には明らかに怪しい感じの扉があった。
一応俺とシャロは扉の前で〈索敵〉を使うが、中の様子はやはり分からなかった。
「シャロ、中に入ってルリを助けるのが無理だと思ったら、逃げて父さん達を呼んできてくれ」
「もし、私が逃げたとして兄さんはどうするの~?」
「俺は時間を稼ぐよ、まぁそう簡単にやられるつもりもないけど」
俺は扉をゆっくりと開ける。この扉には鍵がかかっていない。
中には手足を鎖みたいなものでつながれたルリと攫った張本人だと思われる、男二人がいた。
そしてこの二人から感じ取れる気配は...
「魔族か」
「ほぅ、よくわかったな」
見た目は二人とも普通の男性と変わらないが、おそらく魔法で見えなくしてるんだろう。
だが不思議なことに、この二人からは全く持って強さを、あるいは恐怖を感じることができない。
同じ魔族でもアイラさんと戦った時は、もっと強大な何かを感じたけど、この二人には一切なかった。
「おい小僧ども、お前ら何者だ?」
いつでも戦える準備をしていたが、相手のほうから話しかけてくる。
そしてその魔族は俺が答える前に続けて話始めた。
「この家に入ってまだ少ししか経ってないのに、どうしてここまで来れる、前の部屋の傭兵どもはどうした?」
「あいつ等なら全員倒したが、文句あるか」
「チィ、やっぱり人間は使えねーな、それよりお前らに良い事教えてやるよ、お前らが助けようとしてるこいつはな、魔王の娘なんだよ、そしてこいつはかなり凶悪でよぉ、お前ら人間が助けてもいいことないぜ、だからまぁ何もしないでやるから、ここから消えな」
どうやらこいつは俺達が、ルリが魔王の娘である事を知らない、と思っている。だがそんな事俺には関係ない。
「悪いけど、ルリが魔王の娘でも関係ない、大事な友達だから助けに来た、ただそれだけだ」
それを聞いた奴らは近くにある武器を取り構える。さっきから話しかけてきた奴は槍を、そいつの後ろにいて何かの魔法を使ってた奴は杖をとった。
「ついてねぇな、せっかくベルと、ヘラの二人の監視をまけたのによ、こんなガキに見つかるなんてなぁ!」
槍を持った奴が喋りおわると同時に、距離をつめてきて突きを放つ、それを俺は最小限の動きでかわす。
よけられると思っていなかったのか、一瞬動きが止まったがすぐに体勢を立て直し何度も突きを放ってきた。
だがそれも全てかわす、ひたすらかわす、何度か後ろの奴が魔法を撃ってきたが全てかわす。何度もかわした後、槍を持ってた奴がいったん離れた。
「どうなってやがる、何故あたらねぇんだ」
「それはお前の突きが遅いからだろ、もっと早くしないと一生当たらないぞ」
少し煽るとすぐに突っ込んでくる、まぁ何度やっても当たらない。そもそもこいつの動きが遅いのもあるが〈未来予知〉で動きが見えてるからあたる事は決してなかった。
そして決着は一瞬の事だった。
「ゴフゥ、な、何が起きた!?」
今まで後ろにいて魔法を使ってた魔族が、血を吐き膝をつく、そして心臓辺りを見ると短剣が刺さっていた。
おそらくシャロが〈隠密行動〉を使い背後をとり、後ろから一刺し。そして一人の魔族が絶命した。
「よくも、やりやがったな!」
仲間がやられた事にキレたのか、いきなりやられて危険と思ったのか、槍使いは標的を俺からシャロに変えて、シャロに向かって突っ込もうとした。だがそいつがシャロに近づく事はできなかった。
俺に背中を見せた瞬間、俺は〈ディメンションバック〉から剣を取り、そいつの首を刎ねたのたから。
そうして部屋には拘束されたルリと俺とシャロだけが残り、俺はすぐにルリの拘束を解いく、するとルリは泣きながら俺に抱きついた。よっぽど怖かったのだろう、俺もしばらくそのままにしてあげようと思ったが、いきなりシャロが〈火球〉を扉に向かって撃った。
「「え」」
いきなりすぎて困惑してる俺とルリ、そんなのお構いなしにもう一発〈火球〉を撃つシャロ。
「二人とも、構えて、何かいる今まで気がつかなかったけど、今ほんの一瞬だけ反応があった、今まで気配が掴めなかったのも考えると、本当の敵は扉付近にいる人たちかも」
シャロは普段は余り焦ったりしないのに、珍しくかなり焦ってる、それを見て俺もシャロもすぐに構える。
煙がひき、その奥から出てきたのはクラスメイトのベルと、ヘラだった。
「どうしてお前らがここにいる」
威圧しながら話しかけるとベラ達は両手を上げた。
「待つのです、戦う気はないのです」
「じゃあどうして、ここにいる?」
「そ、それは...」
ベルがおどおどし始めた、それを見てヘラがため息をこぼす。そして頭を下げた
「すいませんでした。私達が警戒していればルリ様がこんな目には、合わなかったのです」
「え、どういうことだ」
何がなんだかさっぱり分からない、そもそもルリ様って...
「詳しい事はまた今度話します、今日のところは上に報告があるので失礼します、いくよベル」
「あぁ、まってよヘラ、あの本当にごめんなさいです、また今度」
そう言って二人は去っていった。ホントなんだったのかなぞが深まるばかりだ。
「あのシオン本当にありがとう、二人がいなかったらどうなってたか...」
「気にするな、ルリが悪いわけじゃない」
「うん、ありがとう」
なんだろう、今のルリを見てると凄くうれしく思えてくる。そしてしばらく俺はルリを見つめていた。
「ゲフンゲフン、あのお二人さん~自分達の世界に入るのは、帰ってもらってからにしてくだい~」
シャロが凄いジト目で俺達を見てきくる。慌ててルリから視線をはずし帰る準備をして、家に帰った。
家ではすでに父さん達が夕食の準備をしてまっててくれた。
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魔法解説
〈隠密行動〉気配を消す〈気配遮断〉の強化版みたいな能力、だが本質は存在自体を薄めて他人から忘れられる魔法。
ベル「上司に怒られるです」
ヘラ「もう仕方のない事よ諦めなさい」
作者「告知です、今週から投稿頻度をあげる予定です」




