不安と進展
ちょっと寄り道。ゼウスとの戦いの前に書きたい事を書いてます。
「はぁ...」
「シオン、どうかしたの?」
訓練の休憩中。鬼気迫る表情でメイシスと模擬戦をしているルリを見ながら、溜息をつく俺の横に母さんが腰を下ろす。
「最近ルリと、あまり話してなくて。こういう時期だから、ルリの邪魔をするわけにはいかないし、でもなんか避けられているような気もするから」
ここ最近ルリが俺に対する接し方が変わってきたような気がしてならなかった。
最近は、夜一緒の部屋で寝るのは当たり前だったが、それもなくなり今では初めのころの様に、別々の部屋で寝たり、別々の訓練をしてる事もあり、なかなか2人っきりで話す機会もなくなっていた。
「シオン、そんなに不安なら。明日朝からどこかに出かけてみればいいんじゃないかしら?」
「でも、明日も学園はあるんだけど」
「大丈夫よ、学園には私の方から伝えておくから。それにずっと気を張っていても疲れちゃうだけだろうし、たまには2人で羽を伸ばしてきなさい」
母さんの気遣いが身に染みる。背中を押してくれた母さんの為、そして今の状況を変えたい俺の為、明日はルリと2人でデートをする事にした。
と、言ってもだ肝心のルリに了承を得ていない。俺だけ舞い上がり、明日になって行かないと言われても困るので、寝る前にルリの部屋を訪ねてみた。
「ルリ、ちょっといいか?」
ノックをしながらルリの部屋を開ける。そこにはいつも薄い寝間着を着てベットに腰かけているルリがいた。
「シオン、あまり女の子の部屋にノックしながら入ってくるのは感心しないわよ」
「ごめん、もしかしてもう寝てるかと思って」
ルリは手招きして、俺を部屋に入れてくれる。普段ルリの部屋に入る事は多くないが、きれいに整理された部屋、いろんな参考書や魔導書が机や、本棚に大量に置かれていた。
「それでシオン、どうかしたの?」
「えっと、ルリ明日朝から2人で出かけないか?」
「でも、明日も学園があるわよ」
「そうなんだけど、最近2人で出かけられてなかっただろ。だからまぁ」
俺が言葉に詰まってしまうと。ルリはクスリと笑って「いいよ」とだけ言ってくれた。そしてルリは立ち上がり、俺に軽いキスをしてくれる。そしてニッコリ笑って「お休み」と言いベットに寝転んだ。
キスをされた嬉しさを噛み締め、俺も部屋に戻る。明日の事を考えながら俺もベットに入りその日は眠りについた。
「さて、行こうか」
翌朝、学園をサボり、2人で家を出る。キャロ達は何も言わず俺達を見送ってくれた。
今までデートで学園をサボったことはなくて、多少の罪悪感と、背徳感にドキドキしながら、手を繋いで王都内を歩く。
王都に住む人々はいつも通り活気あふれていて、ゼウスや神の事など誰も知らずここは平和な場所だ。
デートと言っても何か特別なことをするわけじゃない、2人で屋台を見たり、いろんなお店に入り商品を見たり、お昼ご飯を一緒に食べたり、まるで昔のデートを再現するように楽しい時間は過ぎて行った。
そして気が付けば日も落ち始めた頃、俺達は王都を一望できる、建物で2人並んで景色を満喫していた。
たまたま誰もいない時間帯でここには俺達だけしかいない。だから俺は思い切って話を切り出してみた。
「なぁルリ、最近どうしたんだ?なんか俺避けられてるような気がしててさ」
俺の質問にルリは答えない。景色を眺めて俺とも目を合わさなかった。どうしようかと、俺がタジタジ担っていると、ようやくルリは俺の方を見てくれた。
夕焼けに照らされたルリの顔はいつも以上に美しく、それに見とれてしまう。
「私ね、ずっと不安だったの」
ルリは静かに語りだす。美しい表情とは裏腹にどこか悲しそうな表情。どうしてそんな顔をするのか俺にはわからなかった。
「シオンは、優しい人だから、困っている人が居ればすぐ助けて、気が付けばシオンの周りにはいつも人がいる。私もシオンに助けられて、そして好きって言ってもらえてうれしかった。でも私とシオンじゃ釣り合わないって薄々気づき始めたの。でも我儘な私はシオンとの関係を終わらせたくなかった」
「ルリ...」
気が付かなかった。俺の行動がルリを不安にさせていたなんて。ここまで彼女がいなかった事が裏目に出てしまうなんて。
気が付けばルリは涙を流していた。でも必死に笑顔を作ろうとしている。そんなルリを見て俺は胸を締め付けられる様な苦しみを感じる。
「私嬉しかった。最後にこんな素敵な思い出を作らせてくれて、だからねシオン私は」
「ルリ!」
ルリが最後まで言葉を言う前に、俺はルリを抱きしめた。いきなりの事でルリは動揺しているのがわかる。このままルリの言葉を聞いていたら、俺にとって最悪の結末になる予感がした。だからそれだけはルリに言わせたくなかった。
少しして、ルリから離れる。そして改めてルリと向き合い。ルリの手を取った。
本当はもっと別の形で言おうとも思っていた。ゼウスとの戦いが終わった後でも、時間はあると思った、だけどそれじゃ遅い、今この場でいう事が最善だと直感で察した。
俺の素直な気持ち、ルリに不安を抱かせてしまったからこそ、安心させられるような一言。
「ルリ...俺と結婚してくれ」
「え...」
「ルリの言う通り、今の俺には色んな人が周りにいる。でもその中で一番好きで、一番思っているのは、ルリ。お前だけなんだ。だから...もう一度だけ言う。結婚してくれ」
「...はい」
ルリは泣いていて、掠れた声で返事をする。そんなルリを俺は改めて抱きしめた。ゆっくりと優しく。そしたらルリもそれに応えた抱き返してくれた。
その後ルリが落ち着くのを待って、2人で家に帰った。特に会話をした訳ではないがしっかりと手は握られている。家を出た時と違うのはルリと俺の左手の薬指には、同じ形状で色違いの指輪がはめられている事だった。
こうして俺とルリはまだ正式にとは言えないが、夫婦になるのだった。
フィン「若いっていいね」
ミリア「お似合いの2人じゃない。祝ってあげないとね」