ラプラス
今回は普通の訓練回。
「行くよシオンにぃ」
「手加減はしないよ~」
「いつでも来てくれ2人とも」
俺、キャロ、シャロは向かい合いお互いに戦闘の構えを取る。少し違うのは俺は武器を持たず2人は武器を持ってる事。
これは俺の特訓でもあり、2人の特訓でもあるのだ。
「〔疾風〕〔一閃突き〕」
「〈雷〉」
激しい攻撃が一斉に俺を襲う。少し違えばシャロの魔法は、キャロも受けてしまうがさすがは双子、そんな危険な状況には一再ならずむしろ、キャロの攻撃を回避した俺の場所に、シャロの魔法が確実に向かってくる。
その攻撃を俺は何とか躱し体勢を立て直す。
この訓練は2人のコンビネーションを実践で通用するのが目的であり、2人が持つ武器も訓練用の木の武器などではない。
キャロの持つ槍は、トリシュと言い刃の部分は風が纏ってある。刺されれば内臓から抉られ、常人なら即死、鍛えてる者でも果てしない苦痛を受けるだろう代物。
シャロは2つの武器を持っている。1つはメインで使う両手杖、スペクタルロッド。自身の魔力量を底上げしすべての魔法に効果上昇のバフが付いている。もともとシャロは詠唱なしでも強力な魔法が使えたがその効果がさらに強力になる。
もう1つは懐に隠してある短剣、ライキリ。普通の魔法使いは1対1を苦手とし近接に持ち込まれればまず勝ち目はないが、シャロは違う。過去にドュエルグランツでキャロと互角に渡り合えるほどの近接能力を持っている、ライキリの力は素早さは格段に上げ、剣を主軸に雷を飛ばすこともできる。
普通に相手をすれば俺もかなり苦戦するほどこの2人は強くなっている。
そんな戦いの中、なぜ俺は鬼神刀を持っていないのか。それは俺の新たな能力〈全能の眼〉を発動させるためである。
〈全能の眼〉とは、〈未来予知〉と全能神の力を合わせた、オリジナル魔法の1つ。
未来を読む〈未来予知〉とは違い、〈全能の眼〉は未来を作る能力。攻撃の当たらない未来を作る事によって。どんな攻撃も完全に無力化することが出来る。
〈全能の眼〉は防御面で役立つ魔法に思えるが実際にはそれ以上の魔法。
完全に使いこなせるようになれば、確実に攻撃が当たる未来すら作ることが出来る。
イメージも固まって、魔法の効果も決まっているのに、〈全能の眼〉は完全には発動しなかった。今は自身の動体視力と直感で、2人の攻撃を凌いでいるが時間の問題でもあった。
徐々に増してく攻撃速度と、手数によって、とうとうキャロの槍が俺の体を捉えた。
直撃は何とか避けたが槍が掠った腕から出血している。〈痛覚遮断〉を使っているから、痛みはないが、俺は内心かなり焦っていた。
「シオンにぃ、まだ続ける?」
「もう終わりにしてもいいよ~」
2人はコンビネーションで俺を傷つけられたのが嬉しかったのか、続きをやるかニコニコしながら聞いてくる。だがここで止めるのは、俺のプライド、お兄ちゃんとしての意地が許してくれない。
傷ついた腕を〈ヒール〉して体勢を立て直す。
俺の様子を見た2人も、改めて構えを取った。
俺は一度目を閉じ、深呼吸をする。自分の中にある意識の海に、どんどん沈むように。キャロが地を蹴る音がした。その衝撃で来る風を肌で感じる。全神経を集中させ、どうなって欲しいのか想像する。
次に目を開けた瞬間、俺が立っていた位置にキャロがいた。キャロは自分の今いる位置と俺を交互に見て不思議そうにしていた。
「あれ?今完全に捉えたと思ったのだけど」
「兄さん目の色が」
そう言うと、シャロはゆっくり近づき、手鏡を見してくれる。そこに移った俺は赤い瞳をした俺。どうやら〈全能の眼〉がうまく発動したようだ。
シャロは手鏡をしまうと同時に、不意を突く形で懐からライキリを取り俺の心臓を狙った。だけどその一突きは見当違いの方向に行き、シャロの攻撃は不発に終わった。
「すごいね~兄さんに当たったと思ったのに、どこを攻撃してるんだろう私」
「これが〈全能の眼〉の能力だな」
「シオンにぃが本当の意味で人外になっていくわね」
キャロの言葉に「失礼な」とツッコミの1つでも入れてやりたかったが、あながち間違いではなかったのでやめた。
最強を目指してたから、いいのだが。このままだと俺はどこに行ってしまうんだろう。
結局〈全能の眼〉を発動させる最後のカギは自分の気持ちだったのかと、少し思うところはあったが、無事兄妹そろって達成感を得れたから有意義なものではあった。
そしてこの時の俺は知らなかった。ルリが抱えている問題に。そしてその事が俺とルリの関係を大きく変える事になるなんて思いもしなかった。
シオン「ルリ...俺と」
ルリ「私は...」