再確認
今回は、ルリの回想話がメインです。たまにはこういうのもいいかなと思って。
ただすべての話をまとめたわけではありません。
「はぁ~」
私、ルリ・サタナスは大きく溜息をつく。そんな私を見て隣にいたキャロちゃんとシャロちゃんは私の顔を覗き込んだ。
「どうしたの?話なら聞くわ」
「いや、シオンとナツメちゃんが心配でね」
「兄さんは、意外と何も話さないで行動することが多いからね~」
私の溜息の理由は恋人であるシオンとシオンの別世界での義妹ナツメちゃんの事だった。今にして思えばシオンとナツメちゃん、シオンと私達、そしてナツメちゃんと私達はとても不思議な関係だと思う。
昔シオンは教えてくれた。この世界に転生するときドゥエサスさんに「まぁまぁ強い冒険者の夫婦の拾い子で長男」という条件でがあったから、フィンさんとミリアさんに拾ってもらったと。誰と言う条件がない以上あの2人に拾われたのは本当に偶然で、私が魔族学園でなくこっちに来て、ステラ学園でシオンと会えたのも本当に偶然。幾つもの偶然が重なって私達の関係があるのだと、改めて思う。
初めて会ったのはステラ学園で行われた試験の日。シオンを見た時、他の人からは感じない特別な何かを感じたのは今でも覚えている。今と比べるとまだなかった顔立ち、この世界で美形と言われる分類のシオンだったが、それを抜きにしても目が離せなかった。
試験の帰り道、初めて同年代の人間から遊びに誘われ嬉しさで寝るまで顔がにやけていたのはいい思い出だった。
初めてシオンの家にお邪魔させてもらった時、なぜかお母さんも来てシオンとお母さんが模擬戦をする流れになったのは衝撃的だった。この世界の生物の中で最強に近いお母さん相手に、攻防を繰り広げたシオンの顔は妙にかっこよく、もしかしたらこの時から意識していたのかもしれない。
そしてその気持ちが確信に変わったのは、たぶんシオンが私を助けに来てくれた時だった。油断して悪い人達に捕まった時、シオンが私の事を救い出してくれた。救い出してくれた時、恐怖心と安心感でシオンに思わず抱き着いたりもした。
そして夜空の下で私たちの関係は変わった。私から言った告白の言葉、種族の違いで断られるんじゃないかって、ものすごく怖かった。でもシオンも同じ気持ちだと知った時、私は幸せの絶頂にいた。そしてシオンが明かしてくれた転生者である秘密。その場は取り乱さなかったけど内心すごくドキドキしたのも覚えている、そして同じように他の人には言えない秘密をお互い持てるという共通点を見つけて嬉しかった。
それから一緒にエルフの里を救ったり、勇者と出会ったり、私を見守る組織の人達と会ったのも忘れてはいない。そしてシオンはどんな時でも冷静で強くてかっこよくて、私の恋人でまた憧れの人でもあった。
だけど決していい思い出だけではない。この世界ではほぼ最強に近いシオンだけど、今日学園であったように説明もなしに行動してしまうことがある。神の力も使えるシオンを私なんかが心配する必要はないのかもしれない。でも過去の事が今でもフラッシュバックする。ズイーゲルの森で起きたナフティカとの闘い。
あの時はまだシオンは神の力を使えなかった。それでもあの時の私が知る限り、お母さんに次ぐ強さを持ていたのは間違いなくシオンだった。そんなシオンが初めて敗北する瞬間を私はただ指を咥えて見ている事しかできなかった。
援護することも、隣に立って戦う事も出来ず私は悔しかった。そしてシオンの左胸が貫かれた時私は力のコントロールが出来ず、感情のままに動いた。
結果だけ見ればその後蘇ったシオンに私はまた救われ、私もシオンも新たな力を手に入れることが出来た。
でも現実は残酷だった、五大学園祭が行われる前に、お母さんにはっきりと言われる。私とシオンじゃ力が不釣り合いだと。私もそれは感じていた。お母さんには五大学園祭で優勝するといったが、私はあの戦いでキャロちゃんに負けた。そこでまた力に過信してた気が付かされる。キャロちゃんは私のために準備したのに私は普通の状態で臨んでしまった。シオンを取り巻く環境に弱い人なんかいない。わかっていたはずなのに、新たな力に過信していたことも事実だった。
大会の後、シオンが元居た世界のシオンの義妹、ナツメちゃんがこっちにやって来た。色々あったがナツメちゃんもフォール家に引き取られ家族同然の存在だった。
シオンは言っていた、「ナツメは天才だ。もしかすると俺より強いかもな」
その言葉を最初は疑った。でもシオンとナツメちゃんの模擬戦を見てシオンの言葉が嘘ではないと実感した。
私は私の存在意義を少しずつ失っていく感じがした。
でも私が神槍グングニルを持った時初めてシオンと対等になれた気がした。後ろを歩く存在ではなくシオンの横に並べる存在になれたと嬉しかった。
ローガリアでの問題が終わった日の夜シオンは私に言ってくれた。
「やる事はまだある。それまで付き合ってくれるか?」
その言葉で私はシオンのそばに居て良いんだと思えてうれしかった。
シオンは私の初めてで最高の恋人、そんな彼が1人で行動してしまう事は今でも寂しさがある。
実は頼られてないんじゃないかって不安になる事は今でもある。それが今の溜息に繋がった。
「ねぇ、何か変じゃないかしら?」
不意に言われるキャロちゃんの言葉に、私は首を傾げた。シャロちゃんは周りをキョロキョロ見回している。
「なにが変なの~」
「私達、学園の帰りでこの道を通ることがあるけど、この時間こんなに人通りがなかった事あったかしら?」
その言葉で、ようやく周囲の異様さに気が付く。周りに人がいない。今までこんな経験はなかった。キャロちゃんの言う通り明らかに不気味だった。
そんな中前から歩いてくる人影が見えた。その人を指さしシャロちゃんは「人がいるよ~。勘違いだったのかもね~」と言う。だがその人物が明らかに不穏な雰囲気をさらけ出していた。
「見つけた。魔王の娘」
姿がはっきり見えた時、その人物は私を指さしそう言った。狙いは私らしい。
「何の用かしら」
「貴女を攫いに来たの、シオンとかいう小僧にとって、貴女はいい餌になりそうだからね」
見た目女性のその人物は口元に手を置きクスクスと笑っている。そしてこの段階で私は気が付いている。この人が神の存在であると。だから私は躊躇いなく。〔魔王:覚醒状態〕に入った。
「いいわね、その気迫。ぞくぞくするわ。殺さないから私を楽しませてね」
こうしてシオンが居ない中で、私たちは神の存在と戦うことになるのだった。
キャロ「やるしかないわね」
シャロ「死ぬ気でやればなんとかなるよ~」