シオン妹の弟子と会う
もうまもなく、夏休み辺終了します。
「初めまして!1年Fクラスのユーテス・アレキサンダーです!」
「俺は2年Sクラス。シオン・フォールだ」
「3年Aクラスのカスミ・ネフリティスよ。よろしくね」
自己紹介からユーテスの目が気になる。なんと言うか初めて会ったはずなのに凄く尊敬されていると言うか。
「お2人共知ってますよ!なにせ学校の有名人ですから。去年の名誉ある戦い新人戦の優勝者の兄で準優勝であり、魔王の娘の婚約者シオン先輩。神出鬼没の情報部カスミ先輩2人を知らない人なんて学園にはいないですよ」
俺とカスミ先輩はお互いに顔を見合わせる。俺は他人の評価で知名度があるが、カスミ先輩は言い得て妙だ。学園内で起こるネタを必ず一番に収集して校内で伝える。その行動力はまさに神出鬼没だろう。
「ところで、気になったんだが。シャロとユーテス君はどういう関係なんだ?」
一応何となくは想像付いている。先ほどの会話を聞いていて。師匠と弟子の関係なのだろう。だが自分達の口でハッキリさせてほしいとも思っている。だから聞くのだ。
「僕とシャロ先輩は師匠と弟子の」
「ユーテス君は私の恋人だよ~」
「「「え!」」」
シャロのまさかの返答に、この場にいるシャロを除く全員が動揺した。そう全員なのだ。俺はユーテス君の顔を見るとユーテス君も俺のほうを見ていて、もう一度「え!」と言っていた。
「まぁ、まだ正確には恋人候補なんだけどね~」
その場を楽しむようにケラケラ笑いながら言うシャロに、俺達は付いていけなかった。
「い、一応聞くがどの辺が好きなんだ?からかって言ってるだけなら、ユーテス君にも失礼だぞ」
「う~ん、初めは顔がいいなぁ~って思ってたんだけど。ここ数週間ほぼ毎日一緒にいて、必死に努力してる所を見て素敵だな~って思って。気付いたら好きになってた感じ~」
(あぁ、こりゃ完全に好きになっているわ)
シャロの気持ちがライクでなくラブなのは間違いなかった。だが肝心のユーテス君はその気持ちに気付いていなかったようで、完全に混乱している。
「え、だって、いや、きき...でも」
ユーテス君はきょどりまくっている。青春してる感じがとても微笑ましい。この世界の年齢なら俺とユーテス君の年齢は1つの差しかないが、あっちの世界を含めば数十年ぐらい差があるから、そう思ってしまうのだろうか。
「ほら、ユーテス君。女の子が気持を伝えてくれたのに答えないのは、男らしくないぞ」
ユーテス君の方を叩きながら、すばやくフォローを入れるカスミ先輩。ハッとなったユーテス君は改めてシャロに向き合った。
「シャロ師匠。僕と付き合って...」
「ちょっと待った」
大事な告白途中で俺は会話に割り込む。せっかく勇気を出して言おうとしたのに俺に止められて、何で~と言う表情をしているユーテス君。
だがシャロとカスミ先輩は俺が止めるのを分かっていたようだった。
「ユーテス君、君の気持は分かったよ。でも君はシャロを守れるのか?」
「それは...」
「俺にとってシャロは大事な可愛い妹だ。全ての危機に君が立ち会うことは無いかもしれない。だけどシャロと君が行動していて何かに巻き込まれた時、君はシャロの事を守る、最低でも支えあう存在になれるのか?」
それを聞けばユーテス君は黙ってしまう。唇を噛み締めて少し震えている。決して苛めたい訳ではない。だがシャロを任せる相手ならそれなりの力は必要なのだ。
正直な話、シャロは普通に強い。それこそ学園内では、先輩たちを凌ぎ実力は上位と言っても問題はない程に。それでも、そんな相手に守られるだけと言うのは、男にとって恥になるのだ。
いつかそれが原因で喧嘩も起きてしまうかもしれない。
「兄さんは何をすればユーテス君を認めてくれるの?」
「そうだな、神級魔法の一つでも使えるなら。認めよう」
「そ、そんなの無理ですよ!」
俺の出した条件にユーテス君はうろたえる。当然だ神級魔法は、口にするのは容易いが魔法の最上級。使える人間なんて易々存在するわけがない。
「シャロ、お前は師匠なんだろ。弟子に一つだけアドバイスする事は認めてやるよ。ユーテス君、俺はこの条件を最大の譲歩だと思っている。欲を言うならシャロを圧倒するぐらいの実力を持っていて欲しい。だけどそれは、今は厳しいと思う。だからこの場で神級魔法を使ってくれ」
ユーテス君はまだ少し体が震えている。だが、右手に持ってる杖をしっかり握り締め、訓練場の的に狙い定めた。
シャロは、そんなユーテス君を後ろから抱きしめるにして、震えを止めようとしている。
「ユーテス君。私の教えた事を思い出して。今の君なら集中すれば必ず出来るから」
「分かりました。〈爆炎の星屑〉!!」
ユーテス君が魔法を放った瞬間、青かった空は一瞬にして赤に染まった。空からは大量の隕石が降り注ぎ、周囲に落ちれば被害は少なくないだろう。
「〈魔法解除〉」
指をパチンと鳴らし、俺が魔法を発動させる。すると空の色は戻り、隕石はなくなった。
「カスミ先輩、よかったらカフェに行きませんおいしい場所を知っているんですよ」
「それはいいね、話でもしながら昼食をいただこう」
いきなりの態度の変わりように、シャロもユーテス君も付いてこれない。だがそんな2人をお構いなしに俺たちは訓練場を後にした。
神級魔法を本当に成功させたユーテスはその場に座り込んだ。魔力の使い過ぎだ。だがシャロと会った頃のユーテスなら間違いなく気絶していた。でも今は意識ははっきりしている。成長している証拠だった。
「シャロ師匠。僕やりましたよ」
「うん。しっかり見ていたよ~。兄さんも認めてくれたと思うし。ユーテス君は私の恋人ね」
少し頬を赤らめ恥ずかしそうに話すシャロ。だが恥ずかしそうな反面とても嬉しい気持でいっぱいだった。もちろん恋人になれたことも。だがそれとは別に尊敬する兄であるシオンの条件をしっかりクリアし認めてもらえた事。
シャロは気づいていたのだシオンなら何かしらの条件を出してくる事を。
「僕はまだ未熟ですけど、いつかシオン先輩のきちんと認めてもらいます。師匠、いえ先輩これからも宜しくお願いします」
「うん!」
2人は抱きしめあい。シュテルクスとに新たなカップルが生まれた瞬間だった。
「シオン君、どこまでが君の想定通りだったの?」
俺の行きつけのカフェに向かう途中。横に並んだカスミ先輩はこんな事を聞いてきた。どこか楽しそうな先輩俺の顔を覗き込むようにして笑う。
「いったい何の話ですか?」
そんな俺はカスミ先輩の質問にとぼけて見せた。
「確かにあの条件は鬼畜だった。でも君はあの後輩の魔力量を見て出来ると確信していた。違う?」
「カスミ先輩も分かっていたんですか」
「まぁ、私も神様と契約しているからね。あの子の魔力量はなんとなく分かったよ」
ニシシ、と笑うカスミ先輩はやっぱり楽しそうだった。
俺は分かっていたあのユーテス君は、魔法に関してなら俺の条件などクリアできる事。だが勇気がなかった。だから俺が少し煽りやる気を出させた。それだけなのだ。
「正直、条件なんて何でもよかったんです。いくら兄とは言えシャロが本当に好きなら、俺に止める権利なんてありませんから」
「じゃあどうして、条件なんて出したの?」
「だって...」
そこまで言って俺は言葉が詰まってしまう。本心は分かっているのだ。だがそれを認めたくはなかった。
「悔しいじゃないですか。いきなり現れた少年に妹を奪われるのは、だから条件を出したまでですよ」
「シオン君はやっぱり、シスコンさんだね」
「俺は!いやそうかもしれませんね」
俺の感情は嫉妬なのだ。だがそんな俺の事など気にせず、今度は前を歩くカスミ先輩。そして俺のいる後ろに振り返った。
「今日は私が奢ってあげよう。なに、面白いところに立ち合わせてくれたお礼も兼ねてね」
人は成長する。そして考え方も変わってくる何時しか小さかったはずのシャロも恋を知ったのだ、本人はいないがそれのお祝いをかねてとことんまで食べてやろう。
そう胸に思い、先輩と2人でカフェの中に入って行ったのだった。
作者「パソコンが壊れてしばらく木曜更新はないです。ご了承下さい」
シオン「いつも見て頂き、ありがとうございます。これからもこの作品の応援を宜しくお願いします」