作戦
今回、話がいろいろ飛躍します。
「うぅ、俺は一体?」
「目が覚めたか」
気を失っていたトライドールがようやく目を覚ます。体を起こしながら辺りを見回し、現状を把握しようとしている。
「俺はどのくらい意識を失っていた?」
「数十分ぐらいよ」
「そうか...」
トライドールの質問にルリが答える。正直気絶してる間に誰も部屋に入ってこなくて助かった。あんな現場を見られたら、流石にいい訳が思いつかないから。
「トライドールさん、あなた国を変えたいんですよね?」
「そうだな、この腐った国をどうにかしたい。と言うか3日後には事を動かす予定だ」
「なら、俺達も手伝いますよ。直接的にじゃなく間接的になら」
「本当か!?」
驚いた表情で俺を見るトライドールさん。いきなりの気が変わった俺に警戒もしてるようだった。当然だろ1度は協力しないと言った人が急に協力すると言い出したのだから。しかも対価などがあるわけでもないのに。
「俺は、貴方の覚悟に心動かされたんですよ」
「俺の...覚悟?」
「普通しないでしょ、他国の王族に脅しをかけたり。関係を知らないとは言え、従者と思われる人物を人質に取ろうとするなんて。でも貴方はそれほど本気なんですよね?」
俺の質問に言葉では答えず、ただ首を縦に振るトライドール。
俺は誰かを無差別に助けるつもり、そんな事をするのは心優しい勇者みたいな人でいい。でも何か大きな事を成し遂げようとする人まで助けないと言う事はない。そこまで非情になるつもりはないのだ。
初めはルリに振られた話だったから、俺は関わらないつもりだった。だが俺に手を出した時点で俺も関わった事になる。と言うか俺がそう思ったからそれでいい。さっきトライドールが寝ている間にルリとも話して了承はもらった。
「本当にありがとう」
トライドールは深々と頭を下げた。この時点で先ほどの暴挙は水に流す事になった。
「作戦を話す前に聞いておきたい事が幾つかある」
「ん?なんだ?」
改めて、話し合いが始まろうとする。先ほどまでと違いこの場にはセレスさんも混じっている。レジスタンスの事を話すなら、呼んだ方がいいという事になったからだ。
「シオン君と、ルリさんはどういった関係なんだ?」
「恋人」
「今は恋人です」
「「え!?」」
俺もルリも同じ回答だった。何故かセレスさんとトライドールは驚いている。そんなに驚く事か?
「シオン君は実は王族だったりするのか?」
「いえ、違いますけど」
トライドールが追って質問してきたから、普通に答えたつもりだったが、さらに驚かれてしまった。まぁ確かにルリと付き合うのに、一般人だとおかしいかもしれない。まぁだからと言って俺が今から貴族になろうとは思わないけど。
「そ、そうなのか。すまないな関係ない話を持ち出して。コホン、次に重要な質問なのだが今回のドラゴン討伐は、実はシオン君がやったのではないのか?」
「何でそう思うのですか?」
「まぁ、理由はないのだが。殴られた時にそうではないのかなと」
「え!トライドール様殴られたんですか?!」
おっと予想外の所から食い付きがあった。服の襟をセレスさんに掴まれ思いっきり揺らされる。仕える人が殴られたとなったらこうなるのも当たり前だよな。
トライドールが「落ちるけ」と言って、手を離しセレスさんは落ち着きを取り戻した。
「まぁ、確かにドラゴンは俺が倒しました」
「やっぱりそうか、いやよかった。俺の首が飛ばなくて」
首をさすりながら心底安心したような表情のトライドール。まぁいくらなんでも他国の王族を殺す事はしない。そんな事したら戦争になりかねないからな。
「それで、トライドールさん。作戦と言うのは?」
「あぁそうだったな」
思い出したように、手を打って話を始めるトライドール。
「3日後に、あの城で会議がおこなわれる。全ての貴族とかの集まる大事な会議でそこを襲撃する。その前日の夜にすでに用意されている、新しい国に民を移動させる。これがおもな作戦の内容だ」
とてもシンプルな作戦で、特別指摘するような所もない。それに戦力的にもトライドールとセレスさんが揃った時点で、失敗する可能性は殆どないだろう。だがひとつ気になったことがある。
「民の一斉移動させるほどの場所がこの付近にあるのか?」
「あぁ、実はすぐ近くにある。今は隠蔽魔法で認識されないようになっているから、誰も近寄ってないけどな」
なるほど、俺は納得した。この周囲を散策したわけでもないし知らないのも当然だが。
きっとレジスタンスは数十年も計画を練っていたんだろう、影ながらだが応援はしている。
俺とルリは民の護衛をするという事で、話しはまとまった。ほぼ全ての戦力を城に向けるため民の護衛が少なく。もし貴族達が民を人質に取ったらレジスタンスもお手上げらしい。
あの話から2日後、辺りは静寂に包まれている。だが数多くの龍人の民達が集まっている。全員がどこか寂しそうな顔をしているが、この国を1度は放棄する事に何かしら感じてはいるんだろう。
「では、移動する。なるべく大きな音は出さないように」
リーダー格と思える龍神が静かな声で合図を出す。こうして民の移動は始まった。
「ルリ、俺達も行くぞ」
「えぇ、今日は何も起こらないといいわね」
俺とルリは何が起きてもいいように、周囲を警戒している。だが何事も起こらなかった。
こうして、民の大移動は問題なく終わることができたのだった。
シオン「セリフ文と心情文で、さん、がついてないのと付いてるのがありますが俺は多少尊敬してる人物には話すときに、さん、をつけます」