愚王
投稿が1日遅れてすいません。
木曜日はしっかり投稿します。
「英雄達の凱旋だ!!」
周りを見れば凄い数の龍人達が集まっている。
皆戦いに勝った、同胞達を喜んで迎え入れているようだ。
「俺達が混ざってもいいのかな?」
「ハハ、ちょっと居づらいね」
苦笑い気味に答えるルリ。流石に俺も居心地が良いとはいえなかった。この10数年間いろんな事をしてきたが、全て公に出る事は無く。祝い事でも知り合いと家族以外で盛り上がった事はない。そんな俺達が目立ってないとは言え、密集地帯の真ん中にいるのだ。
「何を言ってるんだ!2人がいなければ私達は死んでいたかもしれないんだぞ」
俺達の声が聞こえていたのか、セレスさんが必死にフォローしてくれる。だが、セレスさんが声をかけるだけで周囲の目が俺達に向いてしまうから、ちょっぴり気まずかった。
ドラグーン国の城は、サブメラやムーテの城と同じぐらい大きく、中も装飾も物凄く豪華だった。城に入ったに関わらず、外では今だ歓声が聞こえてくる。
城の奥に進み、玉座が在る広い一室に俺達は案内された。
中央正面に龍人王と思われる人が座っており、その付近に王族関係。その龍人王の前に膝を着いているのは、貴族のリディオ1人だった。
セレスさんや部隊の人、俺とルリは例外なく端で立たされている。
「我の王、リューゲ様。ただいま戻りました」
「我が国の英雄、リディオよ良くぞ無事に戻った」
「有難きお言葉」
龍人王は道端に立っている1人の男に合図し、その男は小走りに部屋から出て行った。
程なくして、その男は大きな布袋を抱えて戻ってきた。その布袋を龍人王の前に置き、元の位置に戻っていった。
「これが、今回の報酬だ。金貨800枚入っている、他の者には追って報酬を渡すとする」
「リューゲ様の心遣い誠に感謝します」
「ところでリディオよ。お主たちと一緒に入ってきたあの人間と魔族はなんだ?」
そう言いながら、龍人王は俺とルリを凝視する。ここで、始めて俺は龍人王リューゲの顔をはっきり見ることができた。シワが多くすでに老いた顔立ち。覇気の感じない目。何よりその気配が本当に龍人の王なのか疑いを持つものだった。
「あの者達は、戦いの終わった後に偶然遭遇した者です」
「待ってください、この2人は!」
「セレスティア、お主には聞いてない。黙っておれ」
「...はい」
リディオの虚言を撤回しようと、たまらず声を上げるセレスさん。しかし龍人王によってその発言権を失ってしまった。それと同時にリディオが俺とルリの事を睨んでくる。どうやら「余計な事は言うなよ」と伝えたいようだ。
「リューゲ様話を続けますね。この者達は疲労しきった我々に、回復薬などを提供してくださいました。それなので、リューゲ様のその広いお心でこの者達にも報美を取らせてやってくれないでしょうか」
「ふむ、そこの2人、我の前に来い」
俺とルリは龍人王の前に移動する。俺達と入れ違うように移動したリディオがニヤっと口角をあげるのを俺は見逃さなかった。
リディオの話を聞き終えたリューゲは右手で自分の顎を触り、思案するような素振りを少し見せた後、服の内側から金貨を2枚取り出し俺とルリの前に投げる。その金貨は俺達に届く前に地面に落下し、丁度俺達の前に落ちる事になった。
「褒美だ、取れ」
「有難く頂戴します」
俺達は目の前の金貨を膝を着いてで拾い上げる。その見た龍人王は高笑いをし始めた。
「群れる事しか能のない種族と、プライドだけ高い弱き種族が我の前で膝を着きおった。これは愉快だ」
そう言うと、この場に居る一部の龍人達もクスクスと笑い始めた。その中にはリューゲも混じっている。
一頻り笑った。龍人王は満足したのか立ち上がり、俺とルリの間を通って部屋から出て行こうとする。これでこの茶番も終わりになるのだと思った。
「リューゲ様。少々お待ちになってもらえます」
「あ?」
俺達の間を通り過ぎた後、ルリがくるっと振り向き、龍人王を呼び止める。呼ばれた龍人王は不機嫌そうに、振り向きルリの事を見た。
「私は、これの金貨を貰うほどの働きをしていないのでこれは、返します」
そう言って、手に持っていた金貨をリューゲの足元に投げる。さっきの俺達と同じような状況になっていた。
「拾ってください」
「クッ」
若干苦悶の声を上げた龍人王は、壊れかけの機械のような動きで、膝を着き金貨を拾い上げる。立ち上がる時には動くが元に戻っており、ルリを怒り狂いそうな表情で睨んでいた。
「たかが、普通の魔族の分際で貴様!我に何をした」
「さて、何のことでしょう?」
ルリは道化のように龍人王の質問にとぼけてみせる。その言動に腹が立ったのか、龍人王はルリ目の前までにじり寄った。
ルリはとぼけていたが、俺には、はっきり分かる。ルリが秘かに魔法を使っていたことが。まぁこの中で気付ける人が居るとは思ってもいないが。
ルリが使ったのは声に魔力を含め、相手の体を支配する闇魔法〈肉体支配〉だ。さらのより気付かれにくくするため、同時に隠蔽魔法も使っていた。
「おい、この者を捕らえて牢にぶち込んでおけ」
「あら、そんな事していいと思っているの?」
「何?」
不敵な笑みを浮かべ、一瞬にしてルリは黒い霧に包まれる。その霧が晴れるとルリの服装が真っ白いドレスに変わっていた。
「自己紹介が、遅れて申し訳ないわね。私はルリ・サタナス魔王の娘よ」
「魔王の...娘だと!?」
ルリの覚醒状態にリューゲは唖然としていた。だがすぐ正気を取り戻し、ルリを捉えるように命じる。
「本当にいいの?証拠ない状態で私を捕縛する事は最悪。私達魔族と、あなた達龍人の戦争に繋がるかもしれないのよ」
戦争という単語を聞いて、龍人王は顔をしかめる。確かに証拠も無い状態で捕らえるはリスクが大きいと判断したのか。捕らえるのを止めるように命令した。
その後不機嫌な状態で、龍人王はこの部屋から1人早々に出て行った。
未だこの空間に居る者の大半は唖然としている。中にはルリに恐怖する者さえいた。だがそんな事は関係無いとばかりに俺はルリの手を引きこの城から出て行くのだった。
シオン「ルリ、相変わらずあの姿も綺麗だよ」
ルリ「えぇ!あ、ありがとう」