未知なる場所
ここから、本編が少し進みます。
この話はその序章。
大自然の中に身を置けば、それだけで心が満たされることがある。
普段人が多い場所にいると。森の中の空気は何倍も美味しく感じられる。
ここは古代森林。滅多に人は立ち寄らず、自然を実感するには適していると言える。森の中にいるだけで綺麗な景色が見れて、貴重な素材も手に入ったりする。
こんな良い場所に人が立ち寄らないのは、幾つかの理由がある。
それは、はじめて来る様な人からすれば、ここはある意味不気味に感じ取れるのだ。さらに言えば、奥に行くほど強力な魔物が出るのだが、一部が消え、古代森林は強力な魔物が出るから危険だ。という風に思われているからである。
数日前だった。「森に見知らぬ物があったから、調べて欲しいです」という手紙が届き、俺はルリと2人で古代森林に向かった。当然妹達が、付いて行きたいと言っていたが。デートをすると言ったら渋々来るのを諦めてくれた。
「わざわざ来てくださって、ありがとうございます」
「いえ、用事のついでみたいなものだったので」
ドリアーナさんが出してくれたお茶を飲みながら、俺とルリは一息ついた。
古代森林までは一瞬だが、エルフの里に来るまでが長い。さらに森の奥地にあるから、多少強い魔物とも戦わなければいけないのだ。
この場にいるのは、俺とルリとドリアーナさんとリーランさんの4人だけで、シイナちゃん、ヒマリちゃんは里の中で遊んでいるらしい。
それにしても、ドリアーナさんが美しすぎる。余り見すぎるとルリとリーランさんに何されるのかわからないから、見れないが、しっかり手入れされた金髪、整った顔立ち、ゆったりとした服のうえからでも分かる、大きい果実。
俺の周りの女性はここまで、大きい人がいないから正直、目を奪われてしまう。だって男ですから!
「シオン、何考えているの?」
「い、いえ何も」
俺の耳元で囁くように、ルリが言葉を放つ。その言葉には確かに「二度目はないから」という意志がこめられていたと思う。
だが、何を勘違いしたのかリーランさんが「お熱いですな」と囃し立ててきた。
「ンンッ。そろそろお話を聞いてもいいですか?」
「そうですね、お話しましょうか」
お茶やお菓子を準備していた。ドリアーナさんも1度座り、少し緊張感が走る。ドリアーナさんは少しずつ語り始めた。
「先日の事です。私が1人で森を歩いていたのですが、妙な違和感に気が付いたのです。この古代森林には魔物が多く、当然里の結界の外であれば魔物がいない場所の方が少ないほど、ですがその場所は結界があるわけでも、強力な魔物が支配しているわけでもなかったのです。なのに魔物の気配が無かったのです。とりあえず様子見でそこに行ったら、機械のような物がありました。今までそこには何度か訪れたことがあるのですが、はじめて見る物でした。私達エルフは、基本里の外に出ないので機械について知識がありません。ですのでその調査をお願いしたいのです」
ここまで話すと、ドリアーナさんは一息つく。同時に俺も頭を悩ませていた。こんな森の奥地にいきなり現れた物が何なのか。皆目検討は付かなかった。ルリのほうを見てもさっぱりらしく、現状では何も分からないお手上げ状態だった。
「とりあえず、その場所まで案内してもらってもいいですか?」
「分かりました」
ここにいても始まらないので、とりあえず仕度をして、すぐに里を出る。途中ヒマリちゃん達に会い「付いていく」と言っていたが、危険なので里に残ってもらった。
「シオン殿とルリ殿は相変わらずですな」
「凄いですね。私は、はじめて見ましたが、お2人がこれほどまでに強いとは」
ドリアーナさんが道案内をしてくれている道中、何回か魔物と戦闘する。生で見るのはリーランさんが2回目、ドリアーナさんは初めてで、2人とも絶賛していた。
「気が付いてるかルリ」
「えぇ。確かにおかしいね」
この道中ですでに、俺とルリは違和感を感じている。エルフの2人は首を傾げているが、実際に戦った俺達だけが気が付いたことがあった。
目的地までの道中、魔物達がどんどん強くなっているのだ。
初めはAランクの魔物が出てくる程度だったのだが、今戦った魔物はSSランクの魔物。実質【混沌の龍】と同格の魔物が現れたのだ。まるで俺達の行く道を阻止するように。
だが、それ以降は魔物が現れなかった。
「これは移動装置か?」
「そうだね。でも魔力は流れてないし。使われた痕跡も無い」
目的地に在ったのは、俺やルリは学園で目にする移動装置だった。ルリが言った様に魔力は流れておらず、このままで何所に行くのかもわからない。ドリアーナさん達は知識だけはあるようで「これが移動装置だったんだ!」と驚いている。
「ドリアーナさん。とりあえずこれだけなら、里に危険はありません」
「それが分かって安心です。でも一体どこに繋がっているのでしょうか?」
「それは俺達にもわかりません。ですので行って来ます」
「え!今からですか!?」
俺はそう言いながら、魔力を流してみる。すると息をするように移動装置は光り始めた。とりあえず正常に起動はしたらしい。
どこに繋がるかもわからないような移動装置は正直ワクワクする。まるで冒険者みたいになったみたいで。
俺の意志を察したのかルリは苦笑していた。
「では、行って来ます。シイナちゃんと、ヒマリちゃんによろしく言っておいてください」
「えェ。2人には言っておきます。お気をつけてください」
「シオン殿、ルリ殿。お2人は強いですが、油断だけは禁物ですよ」
「ご忠告、ありがとうございます。行こうルリ」
俺はルリの手を取り、2人で移動装置に乗る。もう1度魔力を流すと2人の姿は消え。俺とルリだけになってしまった。
「とりあえず、行けたみたいだな」
「そうね、でも...」
ルリは言葉を続ける事無く周りを見渡す。辺りには木がたくさん生えていた。
そう、古代森林とは違うが別の森に跳んでいたのだ。しかもかなり奥地だと予想できる。幸い辺りには魔物がいないので、戦闘になる事はないが。
「ねぇシオン。何か遠くで音がしない?」
「ん?あぁ言われてみれば何か爆発するような音がするな」
何かと思い〈索敵〉の範囲を広げると。何十人もの人の気配と、強力な魔物の気配が分かるこの時点で、戦闘が行われてるのは理解できた。
「ルリ、どうやら遠くで魔物と戦っている。人達がいるっぽい」
「ほんと!助けに行かなきゃ」
「そうだな!」
こうして、俺とルリは森を抜け、まだ誰かも知らない人達を助けに行くのであった。
シオン「本編でAランク程度って言ってるけど。相当強いんだよな」
ルリ「私達がどんどん化け物になっていくね」