キャロの本気
「うう〜わっかんないわ!」
「キャロ、まだ始まったばっかですよ?」
「そうだよ、私とレオちゃんが付いているから。もう少し頑張ろ!」
髪を掻き毟りながら、目の前の教材と必死に睨めっこするキャロ。その後ろで応援してるのは、体が急成長したレオと、シオンの転生前からの義妹、ナツメの2人だ。
キャロは決して頭が悪いわけではない、むしろ一般人と比べると頭は良い方だと言える。だがなぜ、至福の夏休みまで勉強に費してるかというと、テストでの点数を伸ばす為であった。
確かに頭が悪いわけではない、だが仮にもキャロはサブメラの冒険者学園その最高クラス。選りすぐりのエリートたちの集まるクラスなのだ。
学園のテストは、実技試験と筆記試験この2つが存在して、実技ならキャロは満点以上の成績を叩き出す事ができる。
だが筆記では、100点満点のテストでその半分の50点をギリギリ取れるかどうかのラインなのだ。
Sクラスで2番目に点数が低い翔太でさえ、70点はキープするのだが、20点も差が開いてしまう。50点などA、Bのクラスのほとんどがとている点数だ。それどころか、Aクラスの上の者は余裕で90点を取っている。
Sクラスで、クラス順位3位のキャロも、これはまずいと感じ必死に勉強中なのだ。
余談だが、クラスで筆記の点数が低い将太は「僕は、勉強してないだけで、本気でやったら、すごいんすよ」とよく言っており、最初は皆負け惜しみと思っていたが、1年の最終テストで本気宣言をし、筆記満点を取っている。
冒険者学園のテストは基本的に項目は、職業の理解力、冒険者としての立ち回り、スキルと魔法、魔物の知識、常識の5つに分かれている。キャロはどれも平均的には取れているが、それ以上が取れてないのだ。
「ダメだわ、これじゃ効率が悪くて、うまく覚えることができないわ」
「そう言っても、キャロちゃん、地道にコツコツやって行くしかないよ」
「主の世界には、塵も積もれば山となる。という言葉もありますからね」
頭から煙が出そうな勢いで、うなっているルリを見ながら。レオとナツメは雑談をし続ける。
それから数時間後、必死に教材を見ていたがとうとう限界が来たようで、キャロはテーブル倒れこんだ。
夏の蒸し暑さから、とうとう頭がおかしくなったのか、キャロはしばらく倒れてると思ったら、いきなり立ち上がり
「これなら、何とかなるかも」
と言い残し、部屋を出て行った。
後に、この光景を見ていたレオとナツメは、キャロちゃんがおかしくなったと思った。と供述している。
「ごめんね、シオンにぃ急に付いて来てもらって」
「気にするな、俺もブラブラしていただけだし」
たまには1人でと王都を探索してから数時間、キャロを見つけ声をかけたら。付いて来てとだけ言われ、学園の第8訓練場に連れて来られた。まぁ勉強疲れで、体を動かしたいのだろうと。この時の俺は軽き考えていた。
「シオンにぃ、何も言わず私の話を聞いてほしいわ」
「お、いいよ」
「今から私は、シオンにぃを殺す気持ちで戦うわ、もしシオンにぃが私の事を認めたら、お願いを何でも聞いて」
「よくわからんが、戦えばいいんだな」
とりあえず、訓練用の木剣を持ち、その場で構える。すると、キャロから今まで感じたことがない凄まじい殺気を感じた。夏だというのに、冷や汗をかくほどには、俺の本能が危険だと告げていた。
1度持った木剣を上に投げ、すぐさま〈ディメンションバック〉から鬼神刀を取り出した。
俺達2人しかいない訓練場では、開始の合図はなく代わりに、さっき投げた木剣が落ちた時が合図になった。〔縮地〕で俺との距離を詰めたキャロは、鋭い槍の連撃を繰り出す。だが〔未来予知〕を使っている俺には一撃も当たらない。連撃に間が出来た瞬間、今度は俺が距離をつめ、回し蹴りをする。剣で来ると予想していたキャロは、一瞬動揺したがすぐにガードし、威力を殺すため横に跳んだ。
すぐに体勢をを建て直し、俺に向かってくるキャロ、当然俺もそれを捌こうと思ったが、真後ろからの気配に気が付き上に跳んだ。そのままキャロと距離を取り、俺も構え直す。目の前には2人のキャロが立っていた。
「分身、か」
スキル分身。格闘家を極めたものが使えるスキル。自分とそっくりな自分を作り出す事が出来る。
だがキャロは、それを否定する言葉を発した。
「シオンにぃ、これは分身じゃない。〈再現〉だわ」
「〈再現〉だと!」
〈再現〉は初級の無属性魔法。相手の能力などを真似する効果。だが自分と同格か、格下出なければ使う事ができない。
「まさか、自分自身を〈再現〉したのか?」
「流石シオンにぃだわ、理解が早い」
キャロは簡単に言っているが、今起こっている事は普通じゃない。仮に自分を〈再現〉出来たとしても、それは遥かに弱い自分。だが今のキャロは2人とも同じ力を持っているように見える。
「「いくよ」」
2人のキャロが様々な方向から槍で攻撃してくる。1人を捌くのはそこまで問題ないが、2人になると、かなり厳しい。神の力を解放しても避けるだけで精一杯だ。
あくまで近接戦闘をするならの話しだが
「悪いが、そこまで本気なら一撃で決めさせてもらう。〈光の審判〉」
〈瞬間移動〉でキャロの背後をとり、神級魔法を放つ、流石に〈神の審判〉はキャロを殺しかねないので撃つのを躊躇った。
目の前の光が消えキャロが倒れている事を確認しようと近づくと、後ろから風の音が聞こえた。
いや、正確にはそんな気がしただけなのだが。
「シオンにぃは本当に化け物だわ」
「いや、キャロも充分強いよ。ここで終わりにしていいかな?願い事は聞いてあげるから」
これ以上やれば、お互いにただでは済まない。下手をすればどちらかが死んでもおかしくないと思う。
まぁここまでキャロが必死な理由が未だにわからないのだが...
「シオンにぃ。私に〈瞬間記憶〉を覚えさせて欲しいわ」
「は?そんな事か?」
予想外のお願いに俺は座り込む、こう言っちゃいけないが余りにもくだらない。でもきっとキャロからすれば大事なことなのかもしれない。
俺は苦笑しながら
「そんな事で良ければ、全然いいよ」
それを聞くとぱぁ~と顔を喜ばせ、俺に飛びついてきた。俺は受け止めながら後ろに倒れた。さっきまでの殺気が嘘のようだ。
かなり疲労を感じたが、それでも久しぶりにキャロと本気でたたかえ戦えたのは、とても心地よく感じたのだった。
キャロ「私は頭が悪いわけではないわ(ドヤァ)」
ルリ「アハハ、そ、そうだね」
シオン「よければ下の、☆をつけてくださ~い」