シャロ、弟子を持つ!
新章です。第二回目の夏休み。何話かはサブストーリー的な話を交えて、本編も進んでいきます。
時が経つのは、意外に早い。シオン達の旅行と言う名の戦いを終えてから。すでに、夏休みに入っている。
ある生徒は、クラスが昇格した事を喜び、ある生徒は帰省したり、またある生徒は、テストの結果が散々で嘆いていたりする。
「たまには、1人で歩くのも楽しいなぁ~」
シャロは、この休みを満喫していた。普段であれば双子の姉であるキャロや他の家族達と出かけることが多いのだが、気まぐれで、その日は1人行動をしていた。
「あれ~なんで私学園に来てるんだろ~?」
ただふらついている筈だったが、気が付けばシャロは学園の目のに立っていた。特に予定もなく、勢いでそのまま学園に入って行った。
夏休み中でも学園は開放されている。テストの成績が悪いものは夏休みを利用し補習を受けたり。サブメラ内でも最新の設備が整えられているこの学園で、研究や自己鍛錬に打ち込む者も少なくはない。
シャロは、学園内をフラフラ歩いていたら、知っている人物が見えた。
「フォルテ先生!」
「あら?シャロちゃん?こんにちは」
何かの作業で徹夜明けなのか、フォルテの目の下には若干クマが出来ている。だが疲れを感じさせないような笑顔で、シャロに挨拶した。
「先生はなにをしてるの~?」
「え~とね...しいて言うなら調整かな」
言葉に詰まりながら、最初の笑顔はどこに行ったのやら。フォルテは引きつった笑顔を見せる。
フォルテの言っている調整と言うのは、Sクラスの生徒の成績調整や、今後の授業の編集である。本来学園の先生はそこまで大変なものでなく、上のクラスに行けばいくほど、生徒が自主的に何かに取り組み先生が暇になることが多いのだが、フォルテが受け持っているのはある意味では問題児ばかりのクラス。常に監視をしてなければなにをしでかすか分からない生徒達で、暇になる事はないのだ。
一年の頃はまだ、バッカスがいたから何とかなったが一人でクラスを見ることが、これほどまでに辛いことなのかと、大変な目にあっているのだった。
調整と言うのも、本来ではありえない度の越えた、実技記録を出す化け物を一般にばれないようにするための物であり、これも本来ならする必要のない、むしろ学園としては誇れる所なのだが、生徒の1人、化け物代表のシオンは、半神でもあるためその事実を隠すのに学園の一部の人間も必死になるのだ。
「そうなんだ~。フォルテ先生頑張ってね!」
「うん、ありがとう」
フォルテが大変な理由が自分にあるとはしらず、無邪気にエールを送るシャロ。その気遣いにフォルテは少しだけ元気をもらって、仕事を再開した。
「〈火球〉、〈火球〉。ハァハァ」
「ん?あれは~」
フォルテと別れ、学園探索を続けたシャロ。普段は足を踏み入れない別の訓練場に来た時に、1人の生徒を見つけた。
ステラ学園は1クラスに1つの訓練場が設けられている。S~Fの7クラスさらに、3つの学年。例えばAクラスの1、2、3年は第2訓練場を使う。Sクラスは本来第1訓練場を使うのだが、2年Sクラスは違う。
いや1年の時は第1を使っていたのだが、2年になって急に変わったのだ。そして今Sクラスは新しく出来た第8訓練場を使っている。
シャロが訪れた第7訓練場には、1人の少年が10メートル先の的に必死に魔法を放っている。だが魔法は的に届く前に消えてしまった。
「ねぇ、君」
「うわぁ!び、ビックリした。ってシャロ先輩ではありませんか!?」
声をかけられ、驚きながら振り向く少年は、その声がシャロである事に気が付き感動したようで体が震えている。
一方シャロはこの少年を知らない。「先輩」と呼ばれている事から、1年生であるのは分かるのだが、それ以上は何も知らないのである。
そもそも、あまり他人と関わってこなかった筈のキャロ事を何故この少年が知っているのかと言うと、前に行われた名誉ある戦い新人戦がその答えである。惜しくもキャロに破れ3位ではあったものの、その知名度はサブメラで知らない者はいないほどになった。
「ねぇ君、名前は~?」
「僕は1年Fクラスの、ユーテス・アレキサンダーと言います」
ユーテスと名乗った少年をまじまじ見つめ、時にはペタペタと体を触りながら、シャロは何かを感じ取っていた。
一方ユーテスは普段女性に体を触られることがないのか、シャロが近づいただけでも体を硬直させ、触られた時には、「ひゃ」と女の子みたいな声を出した。
「ユーテス君、キミ魔法が発動しなくて困ってたでしょ?」
「ひゃ、ひゃい。僕自身どうすればいいのか分からなくて」
嚙み嚙みながらも、ユーテスは自分の現状に困っている事をシャロに伝える。それどころか、休み明けの実技で成績を残さなければ、落第してしまう事を伝えた。
「理由しりたい~?」
「わかるんですか?!知りたいです!」
「キミ、魔力の過剰所持だよ」
「え?魔力の過剰所持ですか?」
魔力の過剰所持とは、状態異常の1つ。極稀にしか起こらず、医師などでもある程度のレベルでない限り、その症状に気がつくことができないのだ。その症状に陥れば体内の魔力をうまく循環させる事ができず、魔法を正常に使うことができなくなる。極稀にしか起こらないのは、普通の生き物なら多すぎる魔力は、勝手に外に漏れ出し、最適な魔力量に勝手に調整されるからなのだ。
「でも、僕は...」
ユーテスはその症状を信じれなかった。その症状が起きるのは、大量の魔力を持てる魔法使いか、魔法を使った事がない生き物ぐらいで、ユーテスは魔法自体は発動するのだ。それがうまくいってないだけなのだから、自分にセンスがないのだと思っている。
「信じれないのも、しょうがないね~とりあえず超級魔法を使ってみよう」
「む、無理ですよ。そんな魔法僕には、まだ初級すらまともに発動しないのに」
「いいからいいから~、私がサポートしてあげるから。全力で撃ってみてね」
そう言いながら、シャロは後ろから抱きつくような形でユーテスの体に触れる。そのままユーテスの右手首を掴み、ユーテスがしっかり的に杖を向けるように指示を出した。
ユーテスも密着された緊張感と、憧れの先輩からの言葉に吹っ切れて意識を集中させる。
「いきます。〈爆炎〉!!」
ユーテスの杖から一直線に、火炎放射の様な勢いで炎が噴出す。その炎は普通の炎よりも明らかに温度の高い、青い炎。5秒間ほど放出された魔法は次第に弱くなり炎が消えた。
初めて撃てた魔法に驚きつつも、体内の魔力が枯渇し、ユーテスは体の力が抜ける。倒れそうになるが、シャロに支えてもらい何とか、その場に踏みとどまった。
「おめでとう。今は魔力が枯渇して辛いけど~、そのうち回復するし、きっと凄い魔法使いになれるよ」
「ありがとうございます。あの今後魔法を教えてもらえませんか?」
「う~ん。いいよ~ここで会ったのも何かの縁かもしれないしね~」
「ありがとうございます。師匠」
そう言って、ユーテスは意識を失った。「師匠なんてはずかしいな~」と若干照れつつ、ユーテスを1度その場で寝かし、背負うように持ち直す。そのまま先ほどまで的のあったほうを、見つめた。
そこは、的が完全に消滅しており、奥の地面がえぐれ、焦げ跡の様なものまで付いている。確かにシャロはサポートしたが、これはほぼ全てユーテスの魔力がおこなった事なのだ。その光景を見て少しだけ口角が上がるシャロ。
「面白い子を見つけたな~。男の子だけど顔は可愛いし、私が色々教えてあげよ~」
誰にも聞かれない独り言を呟き、シャロは背負っているユーテスの家を目指して学園を出て行くのだった。
ユーテス「師匠、むにゃむにゃ」
シャロ「可愛いな~」
シオン「嫌な気配が、妹に虫がまとわりついたか!」
ルリ「シオンも大概シスコンよね」