ムーテでの思い出
ガヤガヤ、ガヤガヤ
お店の中は話し声で少し騒がしく。だけどその独特の雰囲気が俺の心を楽しませた。
ここはローガリアの首都ムーテ。そこにある1つのお店、地球でいう所の居酒屋だった。
俺を誘うように、先にこの店に入ったはカウンター席に座っていて、俺もその横に座る。
「来てくれたか、ここなら立場関係なく、話ができる」
「いいのかよ、あんたみたいな人が、こんな店に来て、なぁライオネルさんよ」
「気にするな」そう言ってライオネルは目の前のメニュー表を取った。
普段から来ているのか、獣王が来ているのに、客は反応しない、それどころか店員ですら普通の客のようにライオネルを扱っている。
ライオネルは、「いつもの、後焼き串1つ」と注文した。
「お待たせしました美異酒と焼き串です」
ライオネルの目の前に日本でも見た事あるようなビールと、おいしそうな香りがする焼き串が置かれる。だがそれに手をつけようとせず、俺のことをジッと見てくる。
「なんだよ?呑まないのか?」
「いや、シオンが頼むのを待っているのだが、何か呑まないのか?この美異酒はうまいぞ。何でも別の世界から来た人間が流行らせたらしい」
「いや、俺は未成年なんだけど...」
俺は、酒を勧められたが、それを断る。そんな俺を見てライオネルは一瞬目を点にしたが、すぐに笑い飛ばした。
「そうか、すまん忘れてた。お前はまだ子供だったな。だが気にするなこの国では子供酒を呑んではいけないなんてルールはないからな。せっかくだから呑んでいけ」
そう言うと、俺の了承なしにライオネルは同じ物を頼み、俺の前に置いた。日本にいた時は呑む気もなく、自然と遠ざけてきたのだが、出されたからには呑むのが礼儀だろう。そう決心した。
「シオンにもう1つ教えてやるよ、こういう店ではな、グラスを合わせて乾杯と言うんだ。そらグラスを持て」
言われるがままに、俺は酒の入ったグラスを持ち上げる。ライオネルはそんな俺を見ながらもう一度、笑って見せた。そのまま俺のほうにグラスを突き出し
「乾杯!」
俺も釣られて「乾杯」と言いながら、ライオネルのグラスに自分のグラスを当てた。
そのまま勢いで一口、ゴクゴクと心地良い音が聞こえる。半分ぐらい呑み終えた所で一旦グラスを置いた。
初めての味覚にちょっぴり戸惑いを覚えはしたが、それでも美味しいと感じた。日本では酒を呑んだら酔うって聞いたけど、俺の状態異常の耐性が高いせいか、全く酔うことはなかった。
俺とライオネルはお互い会話をする事無く、ただ酒を呑み、食べ物を食べる。ライオネルはすでに3杯飲み干しており、チラッと顔を見ればその顔がほんのり赤くなっていた。
「なぁ、シオン」
今まで何も語らなかったが、突如俺の名前を呼ぶ。俺は顔を向ける事無く、自分の酒を煽っている。
それでも話しは聞きながら。
「色々、すまなかったな。リアンの件と言い、利用しちまったり、お前の使い魔を危険な目に晒したり」
ライオネルも、俺の方を見る事無く、新しく来たグラスに口をつけながら俺に謝罪をした。俺の中で色んな感情が渦巻いている。何故事前に相談しなかったのか、リアンやレオーネさんの事をどう思っているのか、レオを傷つけた落とし前どう付けてくれるのか。だがそんな事、この場では関係ないことだった。
俺はおもむろに立ち上がり、金貨を2枚テーブルの上に置いた。
「今日は帰るよ、いい酒が呑めた。レオが起きたら城に向かう」
終った事はどうしようもない、だが諦めて言っているわけでもない。もう良いと感じているのだ。ライオネルにそれだけ言い残し、俺は居酒屋を後にした。
「シオンお帰り」
「ん?起きていたのか?」
「ん~ん、寝てたよ。でもシオンがいない事に気が付いて起きちゃった」
部屋に帰ると、ベットに腰をかけながら、ウトウトしているルリが待っていた。薄い寝巻き1枚で、ルリの肌がチラチラ見え隠れしている。酒が入っているせいか、ほんの些細な事に興奮を覚えてしまった。
「ねぇ、シオン外行かない?」
眠そうな目を擦りつつ、ルリはベットから立ち上がる。1度自分の部屋に戻ったかと思えば、すぐに俺の部屋に帰ってきた。どうやら、外に行く用の服に着替えてきたらしい。
俺は手を引かれ、また宿を出て行った。
「いいのかよ、こんな場所来て」
「ばれてないから、大丈夫だと思うよ」
ルリに連れられてやってきたのは、ムーテの壁の外。ただの平原だった。門は閉まっていたがルリの〈転移〉で今朝通ってきた場所に出て、それから少し歩いた場所にいる。
ムーテとも距離が離れていて、誰かの話し声などしない。聞こえるのは、風の音のみ。
2人で仰向けになりながら、空を眺めていた。
「ねぇ、シオン。空が綺麗だね」
「そうだな、今日は満月か。星も綺麗だし」
お互い手をしっかり握りながら、他愛ない会話を交わしていく。その時間がとても心地良かった。これだけのんびりとルリと2人で話す機会は最近少なかったから。
「シオン、これから先きっと大変になるだろうね」
「そうだな、やる事まだある。それまで付き合ってくれるか?」
「もちろん、私はいつまでもシオンに付いて行くわ」
顔を合わせ、ルリは慈愛に満ちた表情で微笑んでくれる。俺は体をルリの方に寄せ、ルリとの距離はほぼゼロ距離まで近づいていた。そのままルリの唇に俺の唇をそっと当てる。ルリは驚いた表情をしていたが、すぐに答えるようにルリの方から求めてくれた。
誰にも見られない事を良い事に、俺とルリは朝日が昇るギリギリまで、静かな平原でイチャイチャしつづけていた。
シオン「お酒は、二十歳になってから」
ルリ「この物語は、フィクションです。未成年飲酒はやめましょう」