第三の敵
ローガリアの国王、ライオネル。彼は生まれたときから王族だった。父は当時の獣人王、幼い頃から素晴らしい教育を受け、また彼自身にも素晴らしい才能があった。
力をつけ、賢く神童と呼ばれるには、時間も掛からなかった
そんな彼だが、ある少女との出会いが人生に大きな影響を与えた。その少女はレオーネ、始めてあったのは獣人達の通う学園。
授業でたまたま、手合わせする事になり、見てるものは、ライオネルが圧勝すると思っていた。だが結果は引き分け、ここで始めてライオネルは他人に興味を示した。
レオーネが同じ実力だったからではない。
レオーネはただの平民だったのだ。その平民が同じ実力を持っていたからこそ、興味を示したのだ。
王族として生まれ、神童と呼ばれた彼は、その年齢には不釣合いの期待を背負い、いつしか生物として当たり前の感情が抜け落ちていた。だがレオーネと過ごし、様々な感情を貰った。
後には、平民のレオーネと結婚するために、父である獣人王と戦ったりもした。少年時代のライオネルからは、こんな事、誰も想像しなかった。
こうしてローガリアでは誰が認める最強の獣人、ライオネルが誕生した。
だが、その最強の獣人は、幾つもの傷を負い、自らの体を支えられなくなり方膝をついている。圧倒的な力を見せられ、疲労と精神的なダメージで心が折れそうになる。それでも
「まだ、まだ終われないのだ、こんな所では」
自らを鼓舞するように、その意志を言葉に出し、大剣を杖代わりに地面に刺し、立ち上がろうとする。目の前の少年を睨みながら。
(あれ、俺完全に悪役じゃない)
俺は心の中でそんな事を考えながら、目の前で必死に立ち上がろうとするライオネルを見ている。
まだ戦い始めて数分しか経っていないが、完全に俺が優勢であった。いや、むしろ俺の勝ちと言ってもおかしくはないだろう。
俺の後ろで見ているトゥーは若干引き気味で、リアンはキャッキャと喜んでいる。正直、教育的によろしくない光景ではあるが喜んでいるなら、それでいいと思う。
「主...」
「嘘...でしょ?」
扉が開かれ、一番に戻ってきたのは、レオと、ワンだった。どちらが勝ったのか、それは2人を見れば一瞬で、明らかにワンだけボロボロだった。
「お帰り、もうちょっと待ててな、そろそろ俺も決着が」
「あれ、レオちゃんもう帰って来てたんだ」
「ライオネル、貴方...」
俺の言葉を遮り、レオ達の後ろから現れたのは、妹のナツメと、始めてみる獣人だった。だがナツメと一緒に来たという事は、この人がレオーネさんなのだろう。
俺はこの城に来る前、ナツメに1つ頼み事をしていた。それが王女の奪還。幾つか理由はあるのだが、一番は人質に取られるのが面倒だったから。仮にもリオンの母親、この戦いでライオネルを殺したとして、肉親であるレオーネさんまで死んだら、リアンが将来悲しむだろうし。
そのあと、次々にここから離れたメンバー達が戻ってくる、疲労しきった獣人達を見ればこちらが勝利したのは、目に見えて分った。
俺は、立ち上がったライオネルの前まで、ゆっくりと歩いていく。自慢の隊長達が負けたからなのか、剣すら構えず、棒立ちだった。
「獣人王、あなた方の負けです。大人しく降参してください。そしてこの国で何が起こったのか説明をしてください」
「分かった。俺の知る全てを話そう。お互い生きていればな」
「え?」
「主、危ない!」
一瞬の出来事だった。ライオネルのおかしな言動に。立ち止まり疑問を抱いた瞬間、今までいなかった筈の何者かが横から現れた。短剣を持ち俺を刺そうとする人物から俺を庇うように、両腕を広げレオが刺されたのだった。
「直前まで、完璧に気配を消していたのに、気配に気付くなんて、流石獣ね。神の力を借りた化け物かしら」
身に付けていた、フードを取り、その顔があらわになる。見た目は俺よりも年上の女性で、おそらくは人間。この女性を俺は知らないが、その気配は知っている。
「神の気配」
「ご名答、流石は半神ね。姿を見せて一瞬で気がつくなんて」
その女性はレオから離れ、クスクスッと悪戯な笑みを浮かべた。すぐに動いたのはルリ。グングニルで彼女の頭を狙い横薙ぎ一閃。だが体を後ろに反らし、悠々と回避して見せた。
「私はジェシカ、見て分かると思うけど邪神の使いよ。本来は生贄を貰うつもりだったんだけど、流石獣の王ね、まんまと私を嵌めたってわけ。いいわ、そのずる賢いて策略に免じて今日は引いて上げましょう。それに獣よりいい生贄が見付かったわ」
「逃げれると思ってるのか!」
「ええ。それじゃあ御機嫌よう〈転移〉」
ルリの繰り出す、攻撃を避けつつ。自己紹介だけしてジェシカと名乗った女性は、消えて行った。
生贄と言うのはおそらく俺達の誰かの事なのだろう。だがそんな事気にする余裕は俺にはなかった。
「レオ!」
俺の腕でぐったりしている。レオに呼びかける。先ほどから回復魔法を使っているが、息が弱々しくなる一方だった。
「主、我はもう...」
「喋るな!まだ死んでない。まだ死んでない!」
俺は頭をフル回転させる。どうすればいいのか、レオを死なせない方法は何かないのか。これがただの致命傷ならどれだけよかったか。神の力を使う者の一撃、普通の者であれば即死は免れない。レオにまだ息があるのは、レオも同じく神の力を使えるからだろう。
「主、短い間でしたがありがとうございました。我は楽しかったです、だから主...」
「黙ってろレオ!必ず助ける。意識をしっかり保て」
「笑って。シオン・フォール」
俺の名前を呼び、レオは微笑んだ。そしてそのまま静かに目を閉じた。
もう間に合わない、必死に〈魔法創作〉で何とかできる魔法を作ろうとしたが、出来上がらなかった。
もうダメだ、俺はそう感じていた。
「〈破壊〉」
誰かの言葉が聞こえる。すると、レオの体が光、傷口が塞がっていた。静まり返ったこの部屋で、魔法を使ったである人物が俺とレオの元まで歩いてくる。
「なぁ、何をしたんだナツメ?」
肩越しに振り返れば、ナツメが笑顔でこちらに向かってきていた。
「傷とか、神の力とか、レオちゃんにとってよくない物を概念ごと消しただけだよ」
その言葉に俺は唖然とする、獣人や俺の家族ですら、若干引いてるのが伝わってきた。
「シオンにぃも大概だけど、妹のナツメちゃんも何でもありね」
その言葉に俺の家族が頷いていた。
こうして、フォール家と獣人達の戦いは、幕を閉じたのだった。
シオン「ナツメのほうが、完全になろう主人公っぽいよな」
ナツメ「あれ、私なにかやっちゃいました。」