そうだ、獣人国に行こう
動物って擬人化難しい...
「...え?」
家に着いた俺は、あまりにも衝撃的な光景に立ち尽くすことしか出来なかった。
「お兄ちゃん、いきなりどうしたの?って、えぇぇ!!」
遅れてきたナツメも目の前の光景に声を上げた。
「あ、2人共お帰り」
「あら、もう帰ってきたの?」
玄関で呑気な声で俺達を向かえる父さんと母さんの前には、数多くの獣人達が倒れていた。
中にはぶつぶつと「化け物過ぎる」とか「もうおうち帰りたい」とか言ってる奴もいる。
おそらく俺とナツメがエイプと接触してた時には家にも獣人達が押し寄せていて、母さん達に完敗したのだろう。
「おい、獣人どもとりあえず、話が聞きたいから偉い奴だけ残して、他は帰れ」
そう言いながら、俺は全体に回復魔法をかける。傷が癒え動けるようになった獣人達は一目散に逃げ出した。
この場に残った4人いや、4匹の獣人たちとエイプを連れてきて家の中に入ってもらった。
「とりあえず、エイプ以外の奴、自己紹介してくれ」
「人間如きが、上から物言うんじゃ」
「黙れ」
俺の言葉に突っかかってきた、カバがベースの獣人に対し俺は、スキル[威圧]で黙らせる。こういうタイプは1度恐怖心を植えつけないと立場がわからないから。
「私から、自己紹介させてもらいますね。私はカルガ、この中では一番偉い6番隊の隊長です」
さっきのカバとは違い、おそらくはカンガルーがベースのカルガは、丁寧に頭を下げる。日本に居た時のカンガルーと共通しているのは特徴的な尻尾と耳だけで、それ以外は完璧にお姉さんのような見た目をしている。
「チッ、俺はヒッポム。7番隊の隊長だ」
ぶっきらぼうに、そして不機嫌そうに名乗ったのは先ほどのカバだった。ヒッポムは身長がそこまで高くないが、あきらかに異常といえるほどの筋肉を持っている。見た目だけならカルガより強そう。
「はいはーい、僕は8番隊の隊長で、隊長の中で最年少のフォックだよ。実は僕こう見えて女の子なんだ。よろしくー」
手をぶんぶん振りながら、自分の存在をアピールしてるのが、キツネがベースのフォック。幼い顔立ちにちょっと垂れてるキツネ耳。さらには僕っ子の女の子。先ほど父さん達にボコボコにされたのにかなり元気だった。
「9番隊の隊長、シープだ。見ての通り羊だ」
あまり感情が表に出ないタイプなのだろうか。無表情のままシープは自己紹介をした。見た目の特徴はアフロと、立派な角だけだった。羊毛のない羊とはこれいかに。
こうして、家のリビングにフォール家の人間と獣人の6から10の隊長が集まった。実は一言も喋ってはいないが、キャロとシャロとルリもいる。
「改めて聞かせて欲しい、目的はなんだ?」
世間話などせずに、本題に直接入ると、この場の空気が一気に引き締まる。隊長たちは顔を見合わせて、この中の代表であるカルガが言葉を発し始めた。
「私達の目的は、獣人国ローガリアにスキル[獣人の姫]を持つ同胞でもあり、姫でもある獣人を連れて行く事。それとリアン様を連れ戻す事です」
「リアンを連れ戻すだと」
俺は、今まで自分の出した事のないような声の低さで言葉を発していた。[威圧]を使ったわけでもないのに、隊長達が震えているのが分かる。
勝手な理由で幼いリアンを捨て、どんな心変わりがあったか知らんが、部下を使い、捨てた子供を捜させる。そんな事をするローガリアの王に怒りを覚えるのは当然だった。
「シオン、落ち着いて。話が進まないから」
ルリが、諭すように、俺の怒りを静めようとするが、ルリもかなり頭に来ているのだろう。声は完全に冷え切っていて、獣人たちを見る目も完全に冷え切っていた。
「もう我慢できねぇ、さっきから聞いていたらお前らみたいなガキが仕切りやがっ...は?」
いきなり立ち上がり、ヒッポムは声を荒げながら、俺に近づこうとする、しかし言葉と共に動きも止まる。
ヒッポムは今自分の置かれた状況に付いていけてなかった。一歩足を踏み出した瞬間に、背後にキャロが回り、横にシャロ、目の前にはナツメがいて、道を塞いでいる。
「3人とも、もういい充分だろ」
3人とも何事もなかったように元の場所に戻る。きっと俺が止めていなければ、ここでヒッポムは死んでいたかもしれない。そう思わせるぐらい三人から殺気が漏れていた。
ヒッポムも命の危機が去ったと気が付き、おとなしく自分の席に戻った。
「あ、僕良い事思いついた」
「奇遇ね、私も思いついたわ」
父さんと母さんは、この空気に全く呑まれてない様で、凄く楽しそうにしていた。
「「獣人国に旅行に行こう」」
声を合わせ、仲良し夫婦のように提案する。だが予想外の提案に獣人、そして俺達は誰も付いていくことができなかった。
「何で獣人の国に?」
「だって、旅行も出来て、問題も解決できる。それに家族で出かければ何があっても対処できるしね」
「ミリアの言う通りだね。それに、場合によっては獣人達と全面戦争になるかもしれないから。そうなったら時にみんなでいた方が良いからね」
楽しそうに語ってはいるが、流石は一流の冒険者と言うべきか。どんな事態でも想定しつつ、あえて獣人達の目の前で、戦争になっても勝てると思わせるような言葉を放ち、そうなる事を避けようとしている。気がする。
「そうだな、この問題は解決しないわけにもいかないし、行くとしますか獣人の国」
こうして、なし崩し的に旅行に行き事が確定した。
だが、そこで待っているのは、俺達が思っている以上の複雑な問題が絡み合っていたのだった。
レオ「我達の話しなのに、我出ていないんだけど」
リアン「しゅやく!」