呼び方
あと、何話かで次の章に入ります。
それまではほのぼのして行ってください
「将太様、お菓子ができましたよ」
「ありがとうっす」
とある1日、学園もお休みで。転移者、蒼井将太とリティス・シスネはのんびりとした時間を、2人で過ごしていた。
将太の姉、花蓮は冒険者生活をやり直し、今では朝と夜以外家にいる事も少なくなっていた。
「将太様、こちら紅茶です」
「リティスさんも、動いてばっかじゃなくて、一緒に食べるっすよ」
将太は、せっせと動いてるリティスをお菓子片手に手招きしながら、自分のもとに呼んだ。
リティスが来てから、蒼井家の生活は一変した。今まで将太と花蓮の2人でやってた家事も、リティスが全てをこなしている。初めは遠慮していたのだが、だんだん当たり前のようになっていってしまった。
リティス自身、この状況を望んでいた事もあり、一切苦に思っていない。
リティスにとって、いやフェータの精霊族にとって惚れた相手に尽くすのは、当然の事だった。そしてその行為をする事で喜びを感じられるのだ。
「将太様、最近は平和ですね」
「そうっすね、まぁいつもトラブルばかりなのも疲れるっすからね」
2人は、向かい合う様にして机に座りながら、リティスの手作りお菓子と、紅茶を飲み一息つく。
今日のお菓子は紅茶とよく合う、クッキーだった。
「それにしてもリティスさん。家の中だからもう少し服装はラフでもいいんすよ」
「??私はこれでも充分ラフな服装ですよ」
将太に指摘され、自分の服装を確認するが、リティスにとって今の服装は充分ラフなものだった。
将太は、まさに男子学生の休日を連想させるような、Tシャツ一枚と、短パン。対してリティスは、白いワンピース。一般的は充分ラフだが、将太にとって姉の普段着しか知らないので、リティスの服装がラフには見えなかった。
ちなみに、花蓮の普段着は、ノースリーブとハーフパンツだったりする。
「リティスさん。僕前から言いたかった事があるんすよ」
「な、なんですか将太様?」
ほのぼのした雰囲気の中、急に将太は真剣な表情で、リティスに話しかける。いきなりの事でリティスは若干声が上擦ってしまった。
「僕の呼び方...どうにかならないっすかね」
「・・・え?」
まさに静寂、一瞬で場が凍ったような空気になった。リティスからしてみれば、この状況2人っきり、どんな事をされてもおかしくない、と思っていたのに。将太は予想の斜め上をいった。いやこの場合は斜め下のほうが正解かもしれないが。
「ずっと、思ってたんすよ。僕を呼ぶ時に様って付けるの、やめてもらえないかなって」
「何故ですか?私にとっての様呼びは、旦那様と認めた方の特別な呼び方なのですが」
「その、まだ僕は旦那じゃないっすけど。恋人ではあるじゃないっすか。だからもっと対等な呼び方がいいなって」
リティスは少し考える。自分にとって特別な人だけの呼び方だが、その特別な人が、対等な呼び方が良いと言うなら、そちらを優先させるべきではないのかと。
そして、1つの呼び方を思いつく。
「では、ご主人様?」
「なんでっすか!!」
将太から綺麗なツッコミが入る。対等とは一体何なのか?間違いなく将太様呼びよりも、主従関係がハッキリ見える呼び方になってしまった。
「なら、主?」
「対等!リティスさん対等っすよ!」
将太のツッコミはますます激しくなる。ちなみにリティスはわざとやってるわけではない、普段しっかりしているが、こういう所で少し天然を発動してしまうのだ。
いろんな案は出てくるが、全て将太のツッコミが入ってしまう。リティスはもう一度考え、閃く。今度は自信があるのか、手を叩き、しっかり将太を見つめる。
「お兄ちゃん」
「はい、アウトっす!」
一瞬でも期待した僕が馬鹿だった。といわんばかりに、頭を抱え込む将太。その様子を見ても何故ダメなのかわからないリティス。
「いいっすか、一部では需要があるっすけど、本来は妹が兄を呼ぶ時の呼び方なんすよ。僕達は恋人で対等がいいんすよ」
「では、将太様はどのように呼んで欲しいですか?」
「うっ、それは」
まさか、リクエストが来ると思ってもなかった将太は一瞬たじろいでしまう。おそらくはどんな呼び方でも、呼んでくれるだろうリティスを見ながら、まともな呼び方を望む将太と、少しエッチな呼び方を望む将太がいた。
「じゃ、じゃあ。将太君とかはどうっすか?こっちの方が僕も呼ばれ慣れてるっすから」
まともな呼び方を望む将太が勝ち。いかにも普通の呼び方を提案する。今までの呼び方が出来るのだから、これも大丈夫だろうと思い、リティスの方を見ると。顔を真っ赤にしていた。
「どうしたんっすか?リティスさん!」
「な、なんでしょうね物凄く恥ずかしいです。しょ、将太君」
顔を赤らめながら名前を呼んでくれるリティスに将太は興奮を覚えた。席を立ちリティスを抱きしめようとした瞬間
「ただい、ま?あら、お邪魔だったみたいね。ごゆっくり~」
「ちょ、姉さん!」
「花蓮さん。これは」
タイミング悪く帰ってきた花蓮は、そっと扉を閉じて部屋を家を出て行こうとした。その誤解を解くために将太達は必死になって花蓮に話をした。
結果、花蓮は夜の遅い時間まで2人のノロケ話を聞かされる事になった。
花蓮「将太もいい彼女を作ったんだね、お姉ちゃん嬉しい」
将太「姉さんも彼氏とか作ればいいんすよ」
花蓮「いい人がいればね~」