悩める護衛
今回は一応前回の続きになります。
一人称と三人称がちょっとごっちゃになってるかもしれません。読みにくかったらごめんなさい。
「どうしよう、どうしよう」
昂る気持ちを、押さえ込むようにハナは廊下を駆ける。
時間も遅く、誰にも見られないのは幸いだった。
きっと鏡を見れば、耳まで真っ赤になっている、そんな姿は誰にも見られたくなかった。
「僕は、君の事が好きなんだ」
彼にそう言われた時、言葉に表せないように気持ちになった。
私の主で、尊敬している人で、暗い場所にいた私を救い出してくれた彼。
ハナはあの言葉を言われた瞬間、アレスの事で頭がいっぱいになっていた。
だが、アレスの気持ちには、ハナはこたえられなかった。なぜならハナは自分の立場をしっかり理解していたから。彼とは、対等じゃないから。そう自分に言い聞かせた。
部屋に戻った時、即座にベットに潜り込み。これ以上何も考えないようにと毛布をい深くかぶり。その夜を過ごした。
夢を見た。とある少年と少女の夢。少年と少女の関係は主とその護衛。だがある時少年は少女に恋心を抱き、告白をする。それを受け入れた少女は、はれて恋人同士になった。その夢では幸せそうにしていたが、悲劇は起きた、少女の身分を気に入らなかった。人間がその少女を襲った。結果少女を庇った少年は死んだのだった。
目が覚めたときハナはその夢を完璧に覚えていた。夢である事は確かだが、この夢は普通の夢ではない事をハナは知っていた。
「これ...予知夢だ。久しぶりに見たなぁ」
そう言葉に出した時には涙が流れていた。
ハナの見る予知夢は、普通の人が見る夢とは違う。スキルの1つだ。発動条件は完全なランダム。いつ見れるのか、何が見れるのか本人ですらわからない。だが夢で起こった事は、ほぼ確実に現実で起こる。
つまり、ハナとアレスが付き合うと、どこかのタイミングでアレスは殺される。
「こんなのって、あんまりだよ」
アレスの恋心が本心である事を知れても、絶対に付き合う事は許されない。それは護衛として、主を命の危険に晒させない為にも、大好きな人に死んで欲しくない為にも。
この現実に、例え絶望しようと、アレスに例え嫌われようとも。ハナは自分の本心を偽る続ける事を選んだ。
「おはようございます。アレス様」
「?あぁおはよう」
その日、学園に行く前の朝食の席でアレスは、何となく違和感に気が付いた。だが昨晩の事もあって、アレスは深く追求はしてこない。
ハナはなるべくいつも通り、振る舞いを心がけた。
学園までの登校時間、同じ護衛のアリンが隣に並ぶ。
「ハナ、何かあったの。様子がおかしい様に見えるけど」
「え?大丈夫だよ!私は元気」
「...そう。でも無理はしないでね。何かあったらすぐに言って」
「うん。ありがとうアリンちゃん」
アリンは感情を出す事は滅多にないが。それでもハナに対しては心配そうにしている。同じ護衛で長い付き合いの、アリンとハンスも、ハナの様子がおかしい事には気が付いていた。それでも心情を悟られないように、ハナはいつも通りの振る舞いを見せた。
学園に付いてからも、ハナはクラスメイトに挨拶をし。自分の席に着く。そしていつも通りの授業を受け、気が付けば学園は終っていた。
自分の荷物を整理して。アレス達と帰ろうとするハナを、クラスメイトの1人が呼び止める。
「ハナちょっといいか?」
「え?シ、シオン君」
「聞きたい事がある。アレスちょっとハナを借りるぞ」
「あぁ、ハナが大丈夫なら、構わない」
主人であるアレスが良いと言うなら、ハナに否定する選択はなかった。帰り道もアレスには他の護衛もいるし、自分がいなくても何とかなると思い。ハナはシオンに付いて行った。
移動した所は、学園でも滅多に使われない空き教室。中に入ると同じクラスメイトの、ルリの姿もあった。
「シオン君、それにルリちゃんまで。一体どうしたの?」
「逆に俺らが聞きたいね」
「ハナちゃん。どうしたの精神が凄く不安定だよ」
「な、何の事?」
ハナが聞き返すが、2人の視線はまるで全てを見透かすようなものだった。改めてハナは思う。この2人はやっぱり凄いのだと。
だから、正直に全てを打ち明けた。昨日のアレスの告白も、夢の内容も、スキルの事も。
「そんな事が、あったんだ」
「ルリちゃん、私どうすればいいのかな?」
ハナの声は凄く苦しそうだった。自分が大好きな人が、同じように自分の事を好きでいてくれているのに、その気持ちには絶対に答えられないのだから。
「ハナ、お前はアレスの事を好きなのか?」
「そ、それはもちろん!」
「なら、付き合えばいいじゃん」
「え?」
呆然とした。今までの話を聞いても、付き合えばいいと言ったシオンに対して、信じられないと思った。当然ルリも「ちょっとシオン?」と少し低い声で、咎めるように言う。
だがシオンは、そんなこと気にせずに話を続けた。
「所詮、ハナが見たのは夢であって、現実じゃない。未来の事がわかるなら、対処の仕方はいくらでもある。それに俺とルリがどんな存在かは知ってるだろ?安心して自分の気持ちを伝えろよ」
「シオン君...」
「それに、アレスを焚きつけたのは俺だしな。その責任ぐらいは取らないとな」
この時、まるで背中を押されるような感覚だった。仮に一国の王子とその護衛が恋人同士になればどんな困難が起こるかわからない。だがそんな未来の事よりも、初めて、今の幸せを掴みたいと思えた。
「シオン君、ルリちゃんありがとう。私行ってくる。この先何が起こるかわからないけど。この気持ちしっかりと伝えるから」
そう言い残し、ハナは勢いよく飛び出して行った。
王城に戻り、直ぐにアレスの部屋を訪ねる。
「アレス様、ハナです。今戻りました」
「お帰り、ずいぶんご機嫌だね」
「はい!私伝えたいことがあって...」
こうして、また1つ新たな恋人は生まれていった。
ハナがいなくなって、俺とルリは教室で2人きりになった。
「シオンよかったの?あんな事言って」
ルリは微笑みながら、俺に質問してくる。あんな事と言うのは、きっとハナを安心させるために言った発言の事なのだろう。
「俺は、全ての人を幸せにする事はできない。けど、目の前に困ってる人がいるなら助けようとは思う。どうせ力があるんだから、それを使うだけだよ」
「そっか、シオンは優しいね」
そう言いながら、ルリはその華奢な体を俺に預けるようにくっつけて来た。ルリの体温を感じながら、この甘い時間がずっと続くようにと俺は祈った。
アレス「これから、よろしくなハナ」
ハナ「私の方こそ、よろしくお願いします」