悩める王子
今回はアレスのお話です。
高評価、ブクマ、感想、是非是非。
「...朝か」
王都サブメラ、その中央に存在する王城。中には王族や貴族その護衛達が暮らしている。当然王子であるアレス・サブメラもこの中で暮らしていた。
王子専用の広い部屋、無駄な物は置かれてなく、しっかりと整理がされている。そのせいで部屋が少し寂しく感じる事もあるのだが。
アレスは、寝起きが良いほうで、起きた瞬間、即座に今日の予定を頭の中で確認し直す。
この日は学園がなく、寝巻きから、着替えている時に、コンコンと扉の叩く音がした。
「アレス様、起きてますかー」
扉の外で元気のいい女の子の声がする。その声に気が付き直ぐに返事をした。
「今日はハナの日だったか、開いてるぞ」
「失礼しまって、何で上裸なんですか?!」
「ん?あぁ着替え中だったんだ」
「外出るので、着替え終わったら呼んで下さい」
アレスの上裸を見たハナは、顔を赤くして、扉を勢いよく閉めて、出て行ってしまった。
アレスの護衛は、ハンス、ハナ、アリンの3人が勤めている。普段学園などがある日は3人でアレスの護衛をしているが、休日は誰か1人がアレスに仕える事になっている。
幼少の頃から仕えている、ハンスやアリンは、アレスの着替え程度で動じたりはしないが、その2人より後に仕えているハナは、些細な事でも恥ずかしがってしまう女の子だった。
「ハナ、もういいぞ」
「では、改めて。失礼します」
律儀に部屋の前で待っていたのか、アレスの声に直ぐ反応して、ハナは部屋に入る。動きやすそうな服装なのに、どこか気品を感じるのは、流石王子の護衛と言うべきだろうか。
「アレス様、おはようございます」
「あぁ、おはよう」
満面の笑みで言われる朝の挨拶に、ふとアレスは過去の記憶がよみがえる。
それは、ハナがアレスに仕えるきっかけとなった出来事。
昔のアレスは、今では考えられないぐらいのやんちゃな少年だった。護衛のハンスやアリン、王城の使用人などの目を盗み、1人で勝手に王都内を歩き回るのが日課にだった。
その日も、うまく護衛達を騙し1人で行動するアレス。特に行く場所も決まってなく、フラフラしていたら、ある場所が目に止まった。
スラム街と呼ばれる場所。本来であれば王族や貴族は関わらない場所。だがアレスの体は自然と吸い寄せられるようにして、スラム街に向かっていった。
お昼だというのに人の気配が殆どなく、アレスにとって味わう事のできない雰囲気を楽しみながら歩いていると、前方不注意で1人の少女にぶつかった。
「あ、ごめんね。大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ!」
少女は満面の笑みで答える。
この時の少女は、ボロイ布みたいな物をまとっているだけの、およそ服とは言えない服装。あまり清潔感のない髪、体つきも栄養がしっかり取れてないのがよくわかる。
アレスから見ても、この少女が普通の生活を送ってないのはよくわかる。だが少女は常に曇りのない笑みをアレスに向けていた。
アレスはこの少女に凄く興味が湧いた。見た目からして殆ど同じ年齢。不遇とも言える生活を送ってきただろうに、ここまで曇りのない笑顔を作れる少女。
「なぁ、名前教えてよ」
「名前?私はハナ。ハナだよ!」
「そうか、僕はアレス。アレス・サブメラだ。よかったら一緒に別の場所に行かないか?」
「一緒に?うん付いてく!」
これがハナがアレスに仕えるようになったきっかけだった。
当然、貴族たちの中にはハナの事をよくないと思った連中もいたが、アレスが必死に父ウロノスに頼み込み、ウロノスもそれを了承した事で、大きな騒ぎになる事もなかった。
「アレス様?どうしたんですかボーっとして。具合悪かったりしますか?」
過去の記憶に浸っていたが、ハナの声で現実に引き戻される。
「大丈夫だ、ちょっと過去の事を思い出していただけだから」
「???」
アレスの言った事が伝わらなかったようで、ハナは首を傾げつつ、深く考えないようにした。
「今回の件だが、あまり良い返答は期待しないでくれ」
「そ、そんな。どうにか我が娘を...」
「話しは以上だ」
アレスは今14歳来年には成人をむかえる。当然王子という事もあり。縁談の話しが数え切れないほどある。
「我が娘を」と言ってくる、貴族と直接話し、その結果をその場で伝える。すでに3桁を越すほど縁談をしてきたが、どの相手もアレスを惹き付ける者はいなかった。
「ふぅ、やっぱり疲れるな」
「お疲れ様です、アレス様。紅茶置いておきますね」
「ありがとうハナ」
今日の縁談を終え、自室に戻り、深く息をしながら椅子に座る。縁談は苦ではないがやはり精神的疲れは、出てしまう。そんな時、ハナの笑顔と紅茶はアレスにとっての1番の癒しだった。
アレスは自分の中に、ハナに対する特別な感情を抱いているのは分かっていた。だがこれが一体何なのか、今のアレスは知る由もなかった。だが知らない事をアレスは放置しない。自分なりに考え聞ける人間を探して聞き出す。その結果...
「それは、好きなんじゃね」
「僕もそう思うっすけどね」
「そうなのかな?」
あれから数日、学園でシオンと将太を昼ご飯に誘って、話を聞いてもらった。アレスより一応長い時間生きていて、そこそこ歳も近い2人が適任だと思った。
そして今この場には、アレスたち3人しかいない。
「ロマンチックだな。王子と護衛の恋とか。将太も思うだろ?」
「そうっすね。まるで漫画みたいっす」
「...」
アレスの事置いてけぼりで、やけにテンションの高いシオンと将太を見ながら、改めて気持ちの整理をつける。
最近気が付けば、自然とハナを視線で追ってる事がある。昔は貧相だったが、今はかなり成長して女の子らしい体つきになった事に興味がある。疲れている時にハナの笑顔を見ると癒される。
「そうか...この気持ちが」
「どうやら、アレスの方でも決まったらしいな」
「でもアレス様。ニヤニヤするのはどうかと思うっすよ」
「そうか、僕はニヤニヤしてたか」
注意されても、そのニヤ二ヤを止める事はできず。気持ちに気が付いてからのアレスの行動は、まさに神速と言っても過言ではなかった。
その日の夜。学園が終り、寝る準備をし終えた時に、ハナを部屋に呼び出した。
「アレス様、なんでしょうか?」
ハナはお風呂上りだったようで、まだ髪が少し濡れているのが分かる。そんなハナを見て鼓動が早くなるが、表情には一切出さない。
「ハナ聞いて欲しい、僕の気持ちを」
「?はい、なんでしょうか?」
「僕は、君の事が好きなんだ」
アレスの突然の告白にハナは唖然とする事しか出来なかった。だが直ぐに切り替えて、必死に笑顔を作る。
「ア、アレス様!何を言ってるんですか」
「いや、僕の気持ちを」
「またまた、私をからかってるんでしょ。いくらアレス様でも感心しませんよ」
「いや、だから」
「きっと、アレス様は疲れてるんです。今日はゆっくり寝てください。それではおやすみなさい」
「あ、ちょっと」
アレスが引き止める前に、ハナは部屋を出て行ってしまった。この瞬間アレスは、ハナにふられたのだと、思ってしまう。
こうして、アレスは人生で始めての失恋を経験するのであった。
シオン「青春っていいな」
将太「青春っていいっすね」