Q-2
まず彼、「フィード」は、俺にこう言った。
――こう言えば一言で伝わる、などとわざわざ前置きをして、「自分が本物だ」と。
それはつまり、
「……、……」
「……、……」
……今俺が知っている事だけで、この事件の「前略」は判明する、ということだろう。
ゆえに俺は、一つ「所感」を言う。
「まず」
「……、……」
「あんたが本物で、『そっち』はゴーレムだ。そこまでは良いな」
「ええ、その通りです」
「じゃあアレだ、犯人は、私怨で動いてるわけじゃない。少なくとも犯人はあんたが本物だなんて考えもせずに、とりあえずで乗り合わせた『甲冑』を襲った」
「ええ」
「つまりだ。犯人の目的で最も『有力』なのはこの飛空艇のジャックだ。そうじゃなきゃ、強者の排除の一手は打たない。まあまず、私怨かなんかで『この飛空艇にいるたった一人を殺すのが目的』ってのはあり得ないよな。強い奴一人殺すよりも、弱い奴一人殺す方が絶対に楽なわけで」
「……、……」
「じゃあ、犯人がここまでにやってるのは、本命の犯行までの下ごしらえだ。それも、『飛空艇内にいる強者を排除しなけりゃいけない』くらいの、それなりに規模のあるヤツだろうな。そこまでを理解してるアンタらは、こうやって敢えて俺との接触を図った」
「……、」
「信じてよかったって、そう言ったよな。つまりアンタらには協力者が必要だった。それがなぜかって言ったら、――敵対者が『そいつ』よりも強いからだ」
言って俺は、『ゴーレム』を名乗った甲冑を指す。
『いやー、面目ねえ』
「……、」
「ただな、これだけは俺には分からない。なあアンタ、……えっと、フィード、でいいのか?」
首肯が返る。
……性ではなく名で呼んでいただければ幸いです、と。
彼はそう答えた。
「じゃ、聞くぞ、……もしかしたらって話だ。この案件、犯人の目的はジャックじゃないのか?」
「……。」
「ジャックじゃなくて、――ただただこの飛空艇を落とすこと自体が目的である可能性。これだけは、俺の手持ちの情報だけじゃ分からない」
――なあ、
と、俺は言う。
「この飛空艇にいるのは大抵がビップだ。だからさ、ジャックで身代金を取るって方がずっと分かりやすいんだよ。でも可能性が排除しきれない。この船が行く先ってのは、あまりにもキナ臭すぎるんだよ」
「……、……」
なるほど、と小さくフィードが言う。それを俺は、「相槌未満」のものであると切り捨てて、
――そして結論を言う。
「この船が向かうバスコ共和国は紛争の間際にある。そうだろ? 裏ギルド何某か、北の魔族か、そのどっちかが他方に『ビップの乗った船が墜落した事件』の罪を擦り付けたとすれば、冷戦が決壊する。……もしかしたらって思うんだよな。この飛空艇の中で起きてるモメ事が、そのまんま国一個のモメ事になるんじゃねえかって」
「……」
俺が「結論」を言うと、
フィードが一つ、溜息を吐いた。
「……、……」
「……もう一度言います。あなたを信じて本当に良かった」
それから、もう一度、
彼は、大きく息を吐く。
「ははは、ごめんなさい。……こういうのには慣れなくて」
いや、慣れてはいるのかな。わかんないや。と彼。
「気張るための理屈は知ってても、苦手なのはどうしようもなくて。……やっぱり僕は、もっと泥臭いんじゃないとうまくできないや」
「そうですか。……何の話?」
「……いえ、すみません。こっちの話です。――それより」
その言葉を契機に、
ノックが一つ、不意に鳴った。
「?」
いえ、とフィードが俺を遮る。レントン氏もゴーレム何某も、未だ静観を保ったままだ。
「はい」
「失礼いたします。……ろ、ロリ氏(?)をお連れいたしました」
「あ、……はいどうぞ」
ふらりと扉が開き、
……そんなわけで俺は、晴れてロリとの再会を果たしたのであった。
「(……付ける名前を間違ったのかもしれないぜぇ)」
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「では改めて、こちらの話をさせてもらいますよ」
合流したロリも交えて、場所は変わらず客間兼尋問室にて。
まずは彼、フィードが改めて自己紹介をする。
「フィードです。性は偽名なんで、よかったら気軽にフィードでお願いします」
「はあ……」
「まあその辺は置いておいてください。それよりもまずは、僕の身の上だ」
言って彼が一つ、指をふらりと持ち上げた。
すると、……どこからか「機械(?)」が浮かび上がり、狭い室内に舞い上がる。
「(……ちょっと待て。どこからか、だと?)」
その「機械」は、概ね俺の世界における初期型のドローンの形をしていた。円形のシルエットで以ってふわりと、重さをなくしたように浮かんでいる。違いがあるとすれば、駆動音の類が聞こえないことくらいだろうか。
「これは、僕が今回プレゼンに出した機体で、名前はひとまずドローン1023ってことにしてます。……憎きゴブリンに攫われた女性を助けるためのもので、隠密性に重きを置いたうえで人一人分の体重を抱えられるだけの馬力も確保している画期的な商品です。……いや、まあ、そうか。これは蛇足ですね」
そんなわけでね、と彼は一つ言葉を置く。
「僕は、ドローンゴーレム技術を冒険者の補助に充てることを、……場合によっては活動をすべて肩代わりすることまでを目的に活動してます。『彼』もその成果の一つ」
『俺?』
差された『彼』が、とても人工物とは思えない態度で返す。
「こいつには、僕の代わりに世間に露出してもらってる。だから、僕が本物だって知ってる冒険者も結構少ないと思う。……昔は、依頼には僕が出張ってたんだけど」
「(知ってる。ゴブリンにバーチャルレ〇プされて闇落ちしたんですよね知ってます)」
「僕の話は、このくらいで大丈夫だと思う。カズミさんの話は聞いてるけど、そっちは?」
「ロリのこと、でございますか」
「あの、……ごめんなさい、なんというか、……ロリというのが名前なんですか?」
「い、いや違うっ。あー違うのよこいつね? こいつは俺の妻で鹿住ロリって言うんだ。ホントの名前はローリングストーンズなんだけど愛称がロリなの」
「……どうもローリングストーンです(こいつこの野郎適当ばっかり吹かしやがって……ッ!!)」
閑話休題。
ひとまずの自己紹介合戦を踏まえて、俺とロリ、そしてフィードは現状の確認を行う。
「犯人の最終的な意図は、飛空艇のジャックか、或いはそれ以上。これがこちらサイドの最終的な予測だ」
「……、……」
その表現に俺が彼の目を見ると、フィードはこちらに向き直る。
「カズミさん。はっきり言うけど、僕たちが想像していたのは飛空艇のジャックまでなんだ」
言われて、
――俺は、
「……、(ああ、そうか)」
「それ以降の懸念については、どうかな。視野から外せば確かに脅威にすぎる暗殺だけど、それでも、……危険視するには机上の空論過ぎる」
「ああ、だろうな。別にいいさ、それで」
適当に答えながら、一人納得をする。
確かに先の仮説は、あくまで「俺が飛空艇を襲うとすればどんな動機があるか」という発想だ。そこに絡め、進路の国の国家情勢を踏まえて、そして結論を出した。
そもそも、ジャック犯にせよ工作犯にせよ、向こうが一手打つ前にこちらが先んじなければどうしようもないのである。相手の犯行声明を待つか、或いは相手が犯行声明を打たずに最速で飛空艇を落としに来るか。それについては、はっきり言ってしまえばどちらであっても構わない。
――なるほど、
「フィード。アンタの言うので一つ思うことがある」
「……なんでしょう」
「仮想敵は、そもそもどうやってこの飛空艇を落とすつもりだと思う?」
「――――。」
仮想犯人が強者を先に狙った。それこそが「犯人の目的がジャックであること」を補強する証明となる。しかしながら他方俺の所感で言えば、そもそも大抵の理由で以って「ジャック」という手段はコスパが悪い。
ジャックとは、元来「交換」の手段ではなく「宣伝」の手段である。如何な身代金を用意させることに成功したとしても、そのあとに飛空艇が向かう地点が放物線落下地点を予測する程度の計算式で予想できる時点で、実行犯が無事に逃げられる可能性は限りなく低い。身代金と人質の身柄の交換という意味で言えばジャックという手段は下の下だろう。しかしながら、「広告性」で言えばどうだ、あまりにも効能が多大に過ぎる。
なに、失敗したってかまわないのだ。当たり前の移動機関に「悪意の介在」を印象付ける。それだけで、仮想犯が「行おうとしている宣伝が仮にあるなら」、それはもう成功と言っていい。
「そっちが俺を信じるのは勝手だけど、俺は俺で動かせてもらう。……なに、安心しろよ。こっちもそっちも殆ど競合しないと思うぜ? 違いがあるのは、相手が事を起こす前に名乗りを上げるか、それとも事を起こしてから名乗りを上げるかだろ?」
「…………どちらにせよ、こちらが先手を打つしかないのには変わりがない、と。そう言うことですね。でしたら聞かせてください。あなたはどうして、実行犯がこの船を落とす方法について、僕に聞いたんだ?」
「……わからねえかな」
俺は、一つそう言葉を挟む。
「そっちは相手がジャック犯だって体で動く。なら冒険者を先に排除しようとした理由に違和感はないよな? 乗客を拘束するのに、単純な腕力だけでイレギュラーになれるような奴がいるのは問題だ。でも、翻って、俺の考察のサイドに立ったらどうだ?」
「……、」
「俺の考えで言ったら、犯人が騒ぎを起こすってのがそもそも悪手なんだよ。シレっと誰にもバレないうちに船を落とせばいいんだから」
「……だからこそ、あなたが言うのは難しい可能性だと――」
「でも、こっちはそれで行かせてもらう。……今から俺が、作戦を説明するぞ。その作戦趣旨でそっちの意図に競合するか、或いは損もないけど利益もないなんてもんがあった場合には、俺のことを拘束してくれていいよ。だけどな」
「……はい」
「…………そうだな、お前」
言って俺は、フィードを指す。
熱を内包し始めた議論の最中にも、『彼』とレントン氏は未だ静観を保つ。ゆえに俺は、遠慮なく「言う」。
「――俺が賭けに勝ったら、お前、一つ何でも言うことを聞いてくれよ」
「………………、はっ?」




