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楽園の王に告ぐ.  作者: sajho
第四章『夏の夜の(ry』
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2-6



 この旅客飛行艇にて行われる『晩餐会』は、形態として、客を取る「商売」と身内を招く「パーティー」の折衷のようなものであるらしい。客もスタッフも出払っているとはいえこれだけ人の気配がないのは、そういった背景からくる乗客総数自体の少なさによるものか。

 そんなわけで俺たちの行く通路は、引き続き静謐の一途の最中にある。

 ともすれば、なにかしらのミステリ小説的展開で実は今この艇内には俺達しかいない、みたいな妄想さえ起きてくるような、不可思議な雰囲気だ。


「……、……」


 間違いなく不快ではないが、しかし不安も確かにあるような、そんな感覚である。

 うなじが「冷静になる」ようなその感覚を、一面に降り注ぐ日差しでぼやけさせながら、

 ……俺たちの遅々とした足取りは、それでも大した時間を要せず目的の場所、客室一角へとたどり着いた。

「こちらでございます、ご主人様」

「ういうい」


 なだらかに曲がるばかりだった通路に直角に刺さるようにして、別の通路が現れる。

 その先には、左右八つずつの扉がまっすぐに並ぶ十字路が見えた。


「あの十字路を左手に向かわれますと、最前部エントランスホールに直通いたします。右手には別の広間や、喫煙スペース等が設けられているようですね」

「喫煙スペース……、分煙してんのか、この世界」

「一応火器は制限されるべきでございましょう? 高空環境ですし」

 つーかそもそもタバコがあるのか。俺まだそれらしいものに出会ってないんだけど。……いやこれ、もしかして分煙の賜物なのかな。異世界でも喫煙者に楽園はないのかな。

「艇内の娯楽施設につきましても十字路左右の先に分布しているようです。とはいえ、そこまで種類がある風ではございませんが」

「うん、まあ、縁があったら顔を出してみよう」


 或いはここでの「娯楽」の如何によっては一つ、この世界の文化性水準を図る助けになるかもしれない。

 例えば、俺の世界における娯楽も当然時代ごとに変遷を経てきたものだが、これは何も技術水準の向上によるのみで姿を変えたわけではない。

 娯楽の時代的なトレンドは、法律ひとのりんりかんねんや、そもそもの大衆趣向や、それ以外の様々なもので以って変わる有機的な概念である。

 概ね、この世界の人の「意識もののかんがえかた」は俺の世界のそれとも大きく違わないようではあったが、しかし確認できる機会は積極的に活かして間違いないはずだ。

 ……貴族のたしなみだって言ってこの後の晩餐会で当たり前のように「おクスリ」処方されるとかも、何せ俺の世界の辿ってきた「歴史」の一つである。絶対にありえないこととは言えまい。


「…………まあ、とりあえずは落ち着いてからだな。ロリ、カギは持ってんの?」

「ええ、こちらに」

 綺麗な所作で以って、ロリが俺に小さな鍵を渡す。

 それもまた豪華な、金の棒に金の棒を継ぎ接いで作ったような見た目のものだ。

「(つーかこれ、ちょっとでも下手に回したら根元からぽっきり言っちゃいそうなんだけども)」

 などと思いつつ、そんな心配は杞憂であったらしい。

 鍵を差し込み回す感触は、見た目の頼りなさ以上に頑強なものであった。

 はてさて、ではその扉の先は……、

「……、おぉ」

 やっぱり豪華。

 直近二つの宿と比べても遜色のない広さであり、扉を引いて流れ出てきた空気には、不思議な花の香りがあった。

「……とか感動してみたりしつつ、なんだか慣れたよなぁ」

 公国手配、銀行手配のホテルをそれぞれ経験して来てみると、非常に申し訳ないことに有難みの方も薄れてくる。多分こういうのって半年に一回くらいで押さえておかないとダメなんだろうね、庶民的に。

「慣れたとは、成金も板についたようで感服いたします。では、参りましょう」

「……、まあ確かにな? 俺自身さっきのセリフを他人に言われたら相当腹立つなあって思うんだけどな?」

 でもだからって冷たい言葉を掛けていいってことにはならないと思うんだ俺、というのは胸の奥で主張するに留めて、

 先行するロリの背を追い、俺も豪華な室内へと足を踏み入れる。

「荷物は、……こちらですね」

 入り口からすぐのところにあるクローゼットの足元。そこにあったキャスターの上に、俺の持ち込んだ日用品小物がずらりと並び、またハンガーには王様からもらったローブが掛けてある。

「あれ? 一応いつもの服も持ってきてたよな? シャツとかどこ行った?」

「あちらは、ロリの方でスタッフに洗濯をお願いしました。部屋着を貰う際に一緒に受け取る予定です」

「あ、部屋着この部屋にないんだ?」

 なんだろう、洗い立てを使ってほしいみたいなおもてなしの心なのだろうか。

「……まあいいや。とりあえず、ぱっと見で荷物の確認はこんなもんかね」

「足りないものがある場合は、スタッフに言えば用意できるようです」

「りょーかい。とりあえずは思いつかないかな」

 ちなみにキャリーケースとかは用意していない。今回の旅路は本当に最低限だけの持ち込みであって、貨物室に行ったらしいもの(たぶん剣とスクロール)を除けば俺の荷物はこれで全部だ。

「そちらのキャスターは、荷物の整理を終えたら部屋から出しておけば良いらしいです。近くに控えたスタッフが回収するとのことでございます」

「ふーん? まあ多分、見回りの人とかがいたんだろうな。会わなかっただけで。それじゃ、荷物を纏めようかな?」

「了解いたしました。では、ロリの荷物はございませんのでご主人様待ちの時間でござますね。どうぞごゆるりとお荷物を広げてくださいませ」

「完全に急かしてるね。まあ、とにかく貴重品だけ回収できりゃいいや。キャスター返すのはあとだな」

「そうですか。では、この後はどちらに?」

 その問いに俺は、

 ……キャスターの上を回収しつつの考え事しつつで、緩慢に返事をする。

「まー、ひとまず地理の把握だな」

 まずは財布を掬い取る。これはこの世界に来てから用意したもので、見た目の印象で言えば俺の世界のそれとも大差ない。

 ちなみにこれは蛇足だが、この世界ってば実は滅茶苦茶キャッスレス決済が成熟してたりする。最初は俺もすげえって思ったけど、よく考えたらス〇カの中の磁気パターンだって魔法陣みたいなもんだし、もしかしたら割と違和感はないのかもしれない。わかんないけど。

「地理、っていうか造りの把握だけど。ぶっちゃけ俺、ここでどう振舞うかも決めてないんだよな」

「振舞う?」

「ああ、存在感を出していいモノなのか決めかねてるんだよ。縁を作るには一級品の機会なんだろうけどさ」

 冒険者登録証などは財布の中にまとめてある。こいつはどっかのポケットにでも突っ込んでおくとして、

「おっと、爆発石は貨物室に回収されてなかったんだ?」

「爆発石? もしかして高楼石のことでございますか?」

「ああ、これは危険物扱いじゃねえのかね」

「大抵の人間はただの小石と区別もつかないでしょう。ただの石だと見落とされたか、爆発することはないと見逃されたかですね」

「……前者だったら外聞がちょっと気になるな」

 アイツホルスターいっぱいに小石詰め込んでるよヤベエ奴だよっつって。

 ……外聞気にするのとかからして今更かもしれないけど。

「しかし、縁を作るわけでもなく社交界に参加でございますか? 食事狙い?」

「まあそりゃあ食べ物の方は楽しみにしてるよ。それに縁を作らないって言ったって、別に皆無にするつもりはない。バーカウンターで隣に座ったやつくらいには話しかけるさ」

「では、何をお悩みで?」

「……、……」

 率直な表現で言えば、「この世界での身の振り方そのもの」って言う返答が妥当な気がする。

 例えば、全力で金を稼ぐとすれば、当然俺は「全力を出す」必要がある。英雄になるにしても、国王でも目指すにしても、スローライフを確立するにしても、どれにしたってそこには「目的への注力」が必要なのだ。

 ……なんというか、こう、

 どの程度「本気で過ごす」べきなのか、決めかねている俺がいるようで。

「――まあ、空気読みながら過ごして行こうか」

「さようでございますか。了解いたしました」

 なにせ、もうすでに俺には「やるべきこと」があるのだ。

「目的」のための「手段」に主軸を置くようなミスは、鹿住ハルのすることではない。俺が「カネを稼ぐことにどれだけの意識を割くべきか」については、もう少しだけ時間をかけて考えてみるべきことに違いあるまい。





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