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楽園の王に告ぐ.  作者: sajho
第四章『夏の夜の(ry』
85/430

2-4



 宿屋での一通りを終えて。

 次に俺は、彼女から奴隷制度というモノを確認した。

 曰くそれは、先に俺がイメージした通りのものであるらしい。衣食住の保証で以って有機的な労働力を提供する契約関係。ここで言えば、俺は彼女に宿と食事と「最低限の健康」を提供し、彼女の方は俺に「ある程度までの()()()」を奉仕する。

 なおここにおいて、性的行為は範疇を逸れるとのこと。何やらこれは彼女の頭越しに、奴隷紹介所とダックとの間で交わされた契約らしい。

 ……と、そのようなことを聞きながら、昨晩俺は彼女との晩酌を行った。その「非倫理的な内容」はここに割愛するとして、ひとまず――。


「ご主人様、……朝です。起きてください」


 耳元の、吐息のかかるようなすぐ近くに、そんな呟き声が浮かぶ。

「なんだ、……誰だ貴様」

「ロリです。ロリはロリです」

 ……ちなみに彼女の一人称は昨晩の内にしっかりと定着したらしい。のも置いておいて。

 さてと、夏の訪れが足音を届かせ始めた今日この頃。

 今朝も、多少は暑くなりそうな予感がある。


「くぁあ、……ぁふ」


 欠伸を一つ、今日の予定を思い出す。

 確か、ダックから譲り受けた切符は、今日の、今しばらく後の便であったはずだ。

 ……ゆえに、あと少しくらいなら、

 まどろみと、朝日を厭う贅沢に身を浸していても構うまい。

「ご主人様、ご主人様?」

「……うるへぇ、…………あと五分」

「……はあ、遅刻しちまえクソ(ぼそっ)」

 聞こえないふりをしておこう、と俺は寝返りを打つ。

 すると彼女、隣のベットに寝ていたロリのほうも、そのままやがて静かな寝息を立て始めた……。



 </break..>




 ……さて、


「ってどぅわあ二度寝したァ!???」


 悪寒撒き散らしつつ「がばりっ」と身を起こす俺の、

 ――そのうなじの方向から「……おはようございます」という言葉が返った。

「ヤバい!? ヤバくない!? ヤバいかな! 今何時!?」

「言われた通り五分後です」

「あれっ!? ……あ、あれ? ……あ、そ、そっか」

「(失笑)」

「……、……」

 いやあ参った、朝から一笑い取っちゃったぜ! それとも一笑い失ったのかな! あんまり厳密に考えない方がいいのかな!(羞恥)

「……お、おはようでーす」

「シャワー浴びてきてください、汗臭いので」

「……、……」

 ということで身支度へ向かう。

 この世界でも温水シャワーは確立されているようだ。俺はそれで身体をほぐし、汗を流し、シャワーを止めて息を吐く。

 即座に湿気の立ち込めたシャワールームの窓を開けると、夏の朝の爽やかな風が寝起きの不快な粗熱をさらった。


「(すっきりしたぜぇ……)」


 お高い部屋だけあって、水回りのアメニティもやたらと充実している。

 しかしまあ、トニックだ乳液だなんかは基本的に縁がない。歯磨きと最低限の洗顔だけは済ませて、(……あとやっぱり一応香水だけ試してみて)、そして俺はシャワールームを後にした。

 はてさて、

「(おおぅ、……朝だ)」

 温水を浴びると、……まずは身体の血管が開く。

 そうして隆盛に乗った血流は瞬く間に身体の活動を再開させ、それが、俺の主観においては「爽快感」として反映される。

 ぱちりと覚めた目が、白く眩しい朝日を大いに摂取して、そしてその最中にいる彼女に留まった。

 ――髪が少しだけ湿っている風に見える。

 甘く華やぐような香りは、先ほど俺が試した香水のそれではないのだろう。

 アサガオが朝露を受けて冴えるようにシャキリとした美しさで以って、彼女は、ふわりとこちらを顧みた。


「……なんですか、一晩越しにロリコンになりましたか?」

「(もうこいつ、自分をロリ扱いする分には躊躇がなくなったなあ……)」


 いや全く、良い傾向である。このまま健やかに育ってほしい。

「とりあえず、朝ごはんのオーダーをしちゃおうか。何をたべr……」

「もうしました。ルームサービスの確認が来たので。ちなみに今朝はスコーンです」

「……あ、そう」

 気が利くし、スコーンいいなって思うけど、……あれだね、勝手に頼んじゃうんだね。

 いやまあ別にいいよ! 自主性、大切にしていこう!

「紅茶も付きます」

「お? ふざけんなよなんで朝からそんな色付きの白湯なんだよ俺はおじいちゃんかコラ? 速やかに訂正してこいクソ無能奴隷」

「……は? スコーンなら紅茶でしょ? 銘柄もアテもなんにも考えず常にブラックのコーヒーのクソ下らねえ中二ならともかく、ご主人様のような一流のお方にならお分かりですね?」

「くっ、クソ下らねえ中二だと……?」

「それとも、エスプレッソをそのままブラックで行きますか? 店員さんに裏で爆笑されるってご存知ない?」

「ぐ、ぐぬぬ」

 爆笑はしねえよ、宗教上の理由で砂糖摂取できないのかもしれないだろ笑うんじゃねえぞ……っ!

「……畜生分かった。わかったよ。いい、今朝は紅茶を飲む」

「ええ、ではそのように。……ロリは安心しましたよ。ご主人様が食事(TPO)に合わせて紅茶とコーヒーを使い分けられるお方で本当に良かったデス」

「……。……俺はな、『紅茶派コーヒー派とか下らないわぁどっちもおいしいじゃん(笑)』とか言っちゃうクソ上から目線でなんちゃってグルメな信念の無え腰抜けが一番嫌いなんだ。いいか貴様、ここではっきりさせておくぞ、――やっぱりコーヒーだ。訂正してこいクソ奴隷」


 ということで……、


「――お待たせいたしました。カズミ様」

「ああ、よきにはからえスタッフ君。ただし間違えるな、俺がコーヒー、あっちが紅茶だ」

「あ、はい……。えー、かしこまりました」

 ルームサービスが、滞りなく運ばれてきた。

 俺たちの目前にはスコーンと果実ジャム付きのヨーグルト、……それからベーコン、スクランブルエッグ、サラダの乗ったプレートと、――そしてコーヒーと紅茶が、それぞれ並べられる。


「それじゃあよお? いただきますだコラ」

「ええどうも、いただきますデスご主人様 (にこにこにこ)」

 

 カチャカチャもしゃもしゃクソッタレと、咀嚼に適宜罵詈雑言を混ぜ込みつつ。

 俺たちは夜越しに乾いた喉に、まずはサラダの瑞々しさで以って活力を浸透させた。



 </break..>




 ちなみに、朝の一悶着が何のために挟まれたものだったのかは誰にもわからない。その後も無意味にバチバチと視線をかわしつつ滞りなく身支度を終えた俺たちは、そのまま公国首都の空港へ向かった。

 ……なお、無論ながらこれから行く場はいわゆる社交界である。当然ドレスコードはしっかりとあって、俺はそれにあたり首元がうっとうしい感じのスーツをダックから借りていた。

「(冒険者だってことで、ある程度マナーは甘く見てくれるって話だったけど。……なんかそれはそれでちょっと癪だよな)」

 他方ロリについては昨日と同じドレスである。昨晩は酔った勢いで盛大にお酒こぼしたりしたけど手洗いしてたみたいだしダイジョブだろう。閑話休題。

 さてと、


「(外はやっぱり、日差しが強い。……そう言えばこの国って、四季はどういう風に回るんだ?)」


 街の風景はやはり、夏を控えたそれである。

 俺は昨晩まとめたスクロールだのローブだのをもったりと抱えながら、服の下に日差しがたまるような暑さを想起する。

 ……俺の知る四季は、緯度経度と気象のサイクルによって変遷する。俺の世界であれば今は梅雨の見えてくる時頃であるはずだが、ここで日々感じる空気感は、湿気が抜けて、からりとしていく一方であった。

 はてさて、

「(おー、流石に立派だ)」

 そうしてたどり着いた空港は、例のはじまりの平原の街で見たそれとは大いに印象が違った。

 まず、ぱっと見でも分かるほどに、それは公に解放されたものであった。以前見た物は行政向けの至極味気ない建物だったが、ここはしっかりとした活気がある。建物のデザインにも華やかさへの気遣いが分かるし、広い敷地内を見渡せば、地平線の間際には「一目でわかる感じに」旅客機なシルエットが幾つも数えられた。

「(そう言えば、あの街は『敢えて』アクセスを悪くしてるんだったっけ? これは、実はこの世界、鉄道なんかも探せば普通にあるのかもしれないな)」

 俺的にはもうすっかり、この世界の交通は空路が主流なのだと考えていたのだが、実はその辺りってちゃんと誰かに確認を取ったことはなかったりする。なにせせんなに気になるわけでもないし。

 ……まあ、とにかく、見分は良きところで切り上げておこうか。


「あちらですね、行きましょうご主人様」

「うん? ああ」


 ということで、

 俺たちはそのまま、空港ロビーへ向かう人込みへと紛れ込んだ。





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