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楽園の王に告ぐ.  作者: sajho
第四章『夏の夜の(ry』
83/430

2-2



 あのやり取りの後、俺の求めた「資料」は滞りなく運ばれてきた。

 更についでの「お土産」として、……察するにダック的にもあの空気のまま俺を返すのははばかられたのだろう。俺は一つ、彼から「旅券」を受け取っていた。


「……、……」


 それは、どうやら飛空艇の乗車券であるらしい。

 曰くこの「旅券」で以って入場を許される飛空艇には、一定階級以上の人間しかいないとのこと。そしてそこで行われるのは、空の景色を肴に進む貴族の晩餐だ。

 ……コネづくりの一環としては、確かに一級品の機会だろう。しかしながら貴族かねもち社会というのは大抵がマウント合戦の紛争地帯である。労使階級の「使」に当たる彼らが、さらに集まって切磋琢磨と「労使」を決めあう。より秀でたモノを持つ人間が上に立つのは、彼らがそもそも「上に立つ者」であるからこそある意味では「義務」とさえ言えよう。競争社会においてトップが勝ち馬に乗りこむ努力は、下の人間を守るための切実な生理欲求に違いない。

 さてと、では翻って俺であるが、

 ……かような場に参戦したとして「掲げられる功績」は、二件の討伐依頼の成功実績だけだ。

 これが果たして強い価値を持つ物なのかは判断が分かれるところだし、また、これに加えて俺の実績が仮に「弱い」とすれば、続く結末は「労使戦争マウントがっせんの敗北」である。負け戦が今後に及ぼす影響など考えるまでもなく、敢えてここでワンチャン狙って戦に名乗りを上げる必要などはあるまい。

 ということで、「あまり興味が惹かれない」と俺がそれを突き返そうとすると、

 しかしダックは、まるでとっておきを見せびらかすようにして、俺に続きを言った。

 ――曰く、あなたの見たいものが、ここで見られる。などと。

「……、」

 何やらその飛空艇では、催しの一環として「貴族のガキの事業紹介」があるらしい。

 確かにそれは俺が求めた「融資依頼者のデータ」のある意味では一種なのかもしれない。この世界の教育普及がどの程度かは不明だが、「確実に教育を受けているだろう人間」の事業計画インスピレーションは、この世界の「思い付きの水準」のお勉強という意味でも、見ておいて損はない。

 それに、加えて言えば、

「……。」

 ――その旅券の行き先が「東」であったために、俺は、結局はそれを受け取ったのであった。






 さて、


「…」

「(にこにこにこにこ)」


 ということで、俺とロリ(さっきのガキ奴隷の真名)は、ダックに紹介してもらったとある宿にいた。

 なお、公国の方から手配された宿については未だ宿泊が残っていたが、あそこにいたままではエイルにつかまる可能性があっての移動である。

 あとちなみに、公国に貰ったのとも遜色ないほどの立派な宿である。というのは関係ないとして、

 とかく俺は今まさに、彼女との時間を持て余しているのであった。

「……、」

「……(にこにこ)」

「……、……」

「……、……(にこにこにこにこ)」

 ――表情こそ、

 確かに彼女は、綺麗に取り繕っていた。しかしその下から揮発する敵意の濃度がヤバい。なんなんだこいつ、さっきのまだ怒ってんの? めちゃくちゃ心が狭いのか? 俺別にさ、好きに名前決めてくれって言われたから好きに名前決めただけなのに。


「……(ちらっ)」

「……(にこっ)」


 ……ジョークはひとまず置いておこう。このままの関係性なのはマジでマズい。

 ということで、

「あー、そう言えば『ロリ』よ」

「(に()っ)」

 ……濁点付きのヤベエ笑顔も一旦置いといて、

 俺は一つ思い付きの話題を放り投げてみる。

「さっきダックが、『調教がどうした』とか言ってたんだよな。何のこと?」

「……。ええ、私は出身の奴隷紹介所によって教育を施されています。ダック様がおっしゃっていたのはそのことかと」

「……、……」

 奴隷紹介所、とは。中々にキナ臭い名前である。

 だからだろうか、その「教育」という言葉も素直に受け取ることが出来ない俺がいた。


「…………ちなみに、教育って?」

「――暗算で三ケタいけます」

「うっそなにそれすごい!」


 俺よりすごい!


「じゃあさじゃあさっ、二〇八割る六十二はっ?」

「………………。大体三」

「……は?」

「大体三です。ご主人様」


 聞いた事ねえ。数式に大体って概念ねえよ。いや、あるけどもね。


「あの、何キミ文系?」

「……文系です。ご主人様」

「…………筆者おれの気持ちを三〇文字以内で答えてもらえたりする?」

「『聞いた事ねえ。数式に大体って概念ねえよ。いや、あるけどもね』でしょうか」


 うわ凄い! きっかり三〇文字!


「じゃねえや。……まあえっと、そしたらもう文系なのは信じるわ」

「ありがとうございます、ご主人様」

「……それさ、ご主人様ってのやめない?」

「?」

「なんかこう、……慣れないんだよね」


 なにせ俺自身、ほぼ四半世紀生きてきているがそれまで一度も「ご主人様」であったことなどはない。そんなわけで、どうにも今更新たな代名詞を使われるのは違和感があった。特に『爆弾処理班』とかまさにそれだし。未だにしっくり来てないもんねあの呼び名。


「でも、ご主人様はご主人様でしょう?」

「……じゃああれだ。なんかこう、一人称同士でぶつかり合ってる感がある」

「はっ?」

「(……奴隷に『はっ?』って言われた。)…………あのね、なんていうかこう、君の一人称は『私』じゃん?」

「ええ、そうですね」

「なんかそれが大人っぽすぎてさ、なんか『大人にご主人様呼ばわりされてる感』みたいなところに問題があるのかもしれない」

「……はぁ?」

 ただでさえ気品あふれる女の子だし、なんというかこう、率直に言えば「お姫様にご主人様って呼ばせてる」みたいな倒錯的エッチな感覚なのである。口に出したらキモいから全力で表現は濁すけれども。

「んでな? 逆に言えばほら、相手が小動物的なら『ご主人様呼ばわり』もちまっこくて可愛い感じするじゃん? ちっこい魔法生物マスコットキャラが一生懸命にやってる感みたいな」

 大人にご主人様って呼ばれるとちょっとイケない感じだけど、一人称が謎擬音(ペロとかポフとか)ぬいぐるみキャラ(プ〇キュア風ペット)に呼ばれるなら微笑ましい的な。

「ちょっと分かんないですね」

「とにかく『私』って一人称がいけない! これがいけないんだよなあ!」

「…………どうしたらいいんですかね?」

「自分のことを名前で呼んでいこう! そう言う方向で幼さっつーかさ、マスコット感を出していこう!」

「……………………………………。」

 ちなみに、ではあるが、

 敢えて確認しておくと、彼女の名前は「ロリ」である。

「ほら、やって! ご主人様の命令じゃん!」

「(にこにこにこにこ)」

「命令だってば! やるんだ頑張れ!」

「……………………。ロリ(ぼそっ)」

「ロリがなんだって!? ロリは誰の何なのかなあっ!」

「ロ、ロリは、……ご主人様の、…………奴隷です(震え声)」

「ん? なんだって?」

「ロリ、っロリ、はぁ……ッ!」

「もっとー! 大きなー! 声でぇー!」

「ロリはご主人様の奴隷です! 奴隷です! うわあああああああああああっ!」

 ――というわけで、

 ロリ(人名)はご主人様の奴隷である。めでたしめでたし。




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