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楽園の王に告ぐ.  作者: sajho
第三章『英雄誕生前夜』
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『英雄誕生前夜_/4』

『英雄誕生前夜_/4』



 朝の兆しが来る。

 リベット・アルソンとエイリィン・トーラスライトは、鬱蒼とした森の最中にて。


「……。」


 空気の瑞々しさが刻一刻と増していくのを、肌で感じていた。

 ひんやりとした冷たさが、うなじから、胸元から、服の下を撫でていく。寒いはずなのに、汗ばむ身体が熱を溜めていく。

 森が呼吸をし始めた。木々の吐く息が、大気に満ちていく。

 活動の兆しだ。これからこの世界は、加速度的に日向の領域となる。

「……、……」

 二人が往く道は、しかしどこまでの夜と区別がつかない。朝の香りが錯覚に思えるほどに、行く先にははっきりとした闇があった。

「エイル、拠点があるとすればこの辺りだと思うよ?」

「……しかし、それにしては静かですね」

 彼女らがこの森に這入って以来、『熾天の杜』による襲撃は一度としてない。鹿住ハルの囮が功を奏していることもあるだろうが、彼の働きだけであの地平まで続く狂者の列が一掃されるとは考えづらい。

 それに、何より、

……ここは「連中」の領域であるはずだ。

「……。」

 影の一つさえ見つけられないのは流石に在り得ない。森を一歩出れば連中など探さずとも目につくような状況下で、この光景が偶然と言うのは考えづらいはずだ。

「(誘われている、……のでしょうか?)」

 あまりにも露骨だが、敵方にすればそれでも構わなかったのだろう。なにせ、潜むのがどんな()()であっても、二人にはその最奥を目指す他に出来ることがない。

「どう考えますか、リベット?」

「……罠で間違いないと思うけど、そう言う所感を聞きたいんじゃないんでしょう?」

「……。」

 返答の代わりに、エイルは沈黙で以って肯定する。

 お互いに、ごく小さな声でやり取りをしながら、草の鳴る音、石の転がる気配に逐一意識を裂く。

「じゃあ、私の所感。拠点は多分、それなりのサイズの洞穴なんじゃないかな?」

「……その判断はどうして?」

「木を見てみて?」

 リベットに言われ、エイルはそのようにする。

「……。」

 言われてたエイルは、周囲に視線を振る。

気付けば、周りにある木々はどれも下手な家屋の背丈を軽く超えるような背丈のものばかりだ。

「大きな木が密集しているのよ。こういう場合、地面は木の根で頑丈になる。多分だけれど、この森にある洞穴は、大規模のものが片手で数えられる程度なんじゃないかな」

「……なるほど。しかしそれでは、隠れ家と言うには目立ちませんか?」

 ……五つやそこらの候補数なら、手当たり次第のしらみつぶしでも潰し切れる数になる。と彼女は言う。

「違うわ。そもそも、この場合、黒幕はそんな人海戦術があり得ないことを理解しているんじゃない? 拠点にどれだけの人数がそろっているかは分からないけど、五千やそこらの頭数じゃあ爆竜に充てる人数を減らすわけにはいかないでしょ?」

「……、……」

「それに何より、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「――、それは」

「私たちが黒幕の存在に気付けたの自体、向こうの見立てからしたら早すぎたはずなのよ。普通ならこうはならないし、私たちにしたって人海戦術に仕立てるほどの時間の猶予はなかった」

 ……この一件は、そもそも向こうの手番から始まっていた。と彼女は続けて。

「もともと劣勢だったんだ。始まった時からね。全く、向こうは相当な腹芸家だと思う。爆竜の実際の到達時間を見誤ったところから、私たちはそいつの手のひらの上だったってことね」

 そして、

結論を言う。

「私たちを一方通行の行き止まりに連れ込んで、そこで挟み撃ち。それが最善手だからこそ、連中はちゃんと罠のど真ん中に本陣を据えているはず。それ以外に本命を置いて、最善手わなが空振ったら本末転倒だしね。だから……、」

 ――()()が、たぶん連中の居場所わな。と、リベットはそう言って、一つの洞を指さした。


 </break..>



 木々が高く、遠い。

見上げる先の葉峰が外界を隔つ。

 その世界に昼夜はない。永遠に一定の静謐が、空気を密に堆積させていく。

 星か、日差しか、あるいはそれ以外の何かであろうか。正体の判然としない何かが降って、分厚い木陰を透いて落ち、天橋立を作っている。

 狂った者たちの領域とは思えないような、それは冷涼とした光景だった。リベットの指差す木の洞は、木の根の張る入り口こそ小さなものであったが、香る、密度の濃い空気が胎内の広大さを物語っている。

「……、……」

 相変わらず、周囲に『熾天の杜』の気配はない。

 それどころか、動物の気配は何もない。感じるのは、空気の堆積していく音と木々の呼吸と、それから光が降る気配だけである。

 二人はその最中にて、

「(エイルは一度待ってて)」

「(……レンジャーの本領ですね。お願いします)」

……視線で機を取って、まずはリベットが洞に侵入した。

「(……人の気配はない、か)」

 ただし、索敵の質は外よりも数段心もとない。四方八方が濡れた土の壁であるせいで音の反響が効いていないようだ。それどころか、多少の荒事でも崩れてきそうなほど、木の根で保たれた土壁は繊細に見えた……。

「……、……」

 静かに進んでいく状況に、遠くからエイルが声を投げかけた。

「リベットーぅ、私これ、ちょっと嫌な予見がしてきたんですケドー……」

「……生き埋め的な?」

「うん……」

「………………。」

 一応は、ここは敵の「本拠地」である。そんな後先考えない真似はしないものと高をくくっていたからこそ「挟撃」を敵のプランと予想していたリベットだが、この様子を見るにそれも五分五分に思える。

 彼女としては、ここが敵方の本拠地であり「あの狂信者ごーれむの群れ」の生産拠点であると予想していた。そう言った意味では、敵の主目的しゅとしゅうげきが完遂していないこの段階で、黒幕がここを捨てるというのは考えづらいが、

「(問題はここが拠点でも何でもなかった可能性なのよねぇ……。その場合、向こうはただ勝手に袋小路に這入り込んだ私たちの出口を崩せばお終いだし)」

 ……悩んでいても仕方がない、と彼女は不穏な思考に蓋をする。そもそも、()()()()()()()()を視野に入れていたからこそ、ここではレンジャースキルのあるリベットが自ら機制を取ったのである。

 ひとまずは、ここが本命か否かの兆しを見つけるまでとして、彼女は更に木の洞の奥へと慎重に歩く。

「(暗くなってきたけど、ここまでは一本道と見ていいみたい?)」

 洞穴と言う視野の悪い環境の地理を生かすなら、何よりもまず挟み撃ちのための分かり辛い脇道があるべきだ。それにしたって、入り口と声でやり取りが出来るような浅い場所には無かろうが。

 さて――、

「(私たちを分断するなら、……そろそろなんじゃないの?)」

 なにせ、いい加減エイルの声が聞こえづらくなってきた。これ以上離れて意思の疎通が出来なくなるのはリベットからして全くの悪手であって、その前に立ち戻り向こうと合流するというのは至極当然のことである。

 果たして、

「リベット! リベット!!」

「ッ! ……。」

 ……当然のことのように、爆破音が響いた。

「――――。」

 がらがらと、何かが崩れる音がする。そして、その音が消えるのさえ待たずに洞穴の全てが暗闇に包まれる。

彼女は、その展開に、


「……、灯火トーチ


 小さく、そう呟く。

 その「意味ある言葉」が、ささやかな光となって彼女の視界を照らす。

 彼女、リベット・アルソンは、

「……、……」



 ――まさに、この展開を求めていたと言っていい。




 </break..>





「リベット! リベット!!」

 私ことエイリィン・トーラスライトは、立ち上る土煙にどうしようもなく悲鳴を上げた。


 目の前に突如として現れた『熾天の杜』。

なんの兆しもなく始まった緊迫を前に、私の絶叫はいっそ裏返る。

 連中は、

 ……どこまでも意思なく、私を睥睨していた。


「……、……」


 洞を作る木の峰に、彼らは群れを成している。

 数は、先ほどのものと比べればずっと少ない。数を数えれば三十にも及ばないだろう。私であれば、問題なく即座に全て無力化が可能な数だ。

 ただし――、


「……。」


 あの真ん中の「男」だけは分からない。

 あの男だけが、前傾し涎をたらし眼孔を晒す他の連中とは違う。強者の風格で以って、こちらを見下ろしている。

「貴様」

 私は言う。

「名を、名乗れるか?」

 そう聞かざるを得ない。その男はそれほどにまで他を画一していたゆえに。

「……、……」

「答えろ、男。貴様に名はあるのか?」

「……。」


 男は、私の問いに、――少し哂った。









――スキル。


灯火《-》


 魔力を明りに変える。

 スキル起動時の使用魔力の総量に応じて、ある程度光量及び持続時間の操作が可能

《-》‐(なし)。


付属効果:なし

使用条件:スキルの起動及び魔力の消費変換

備考:魔力消費によって明かりを得るスキル。特に冒険者業界において広く普及されるものであり、翻ってその他一般的な層(人のコミュニティに定住する人間)には縁遠い。またこれについて、松明などの物理的手段による照明とは「攻撃手段に転用できるか否か」で差別化されており今日までに共存してきている。

 単独での活動を主とする冒険者にとっては必須のスキル。これは、平野等の開けた地形での活動効率において集団の冒険者に劣ること、逆に洞窟や地下迷宮などの狭い空間での活動は彼らに優位であることが理由として上がり、単独冒険者の多くは松明などの物理的な手段とこのスキルを同時に用意し、使い分けるのが一般である。

 なお、このスキルについては比較的取得が容易で、冒険者ギルドにおいては初心者向けの講習でこれを獲得させる講義があるほか、魔術学系統を持つ学院においては初等部での最初の取得魔法としてこれを一般的に取り入れている。これは、灯火のスキルが、外魔力を捉え、また収束し任意属性に変換するという基本的な動作のみを必要とするものであることに起因する。



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