『英雄誕生前夜_/3』
『英雄誕生前夜_/3』
「そうだ、アンタに最後に聞かなきゃいけないことがある」
「なんだ? 場合によっては答えるよ?」
「…………アンタはなんだ、まじめにしたら死ぬ手合いなのか?」
「それが質問?」
「いいや失礼。――そもそも俺たちの馬車は、直行でミクス平野の交戦拠点に向かってるんだけど、……あー、そういえば。ちなみにそれは、話したんだっけか?」
「それが質問?」
「ぶっ壊れてんのかアンタ? いいから答えてくれよ」
「あん? いや、聞いてないよ。聞かなくたって分かることだろ?」
「そうか。じゃあ改めて聞いておくけど、拠点はここから三〇キロ程度の距離だったはずだ。それでアンタ、拾いに来た方がいいか?」
「それが質問?」
「……そうだよ。アンタまでプログラム野郎になったみたいでちょっと怖えからやめろ」
「失礼。――じゃあ答えるけど」
――いらないよ。と、俺はそう言って、
馬車を降りて、戦場にて。
傍らのレクスから視線を切り、左右後方の三方から馬車へ追いすがる狂信者を見た。
</break..>
まず、レクスの言った「じゃんけんで囮決めようぜ作戦」について、
これはそもそも『熾天の杜』の狂信者どもが、プログラム的な専守防衛指示で以って行動していることを予測しての戦術である。
内容はシンプルに、じゃんけんで負けたやつが連中に喧嘩を売って、囮役を引き受ける。その間に馬車が逃げる。
ここについては、端から「公国交戦拠点のブリーフィングで目立ってエース抜擢」など全く求めてない俺こそが適任だった。一応レクスは、曰く「依頼者に身柄の紹介を済まさないのでは手柄を認められる保証もない」として、先ほども含め再三に俺の馬車でのサルベージ、つまりブリーフィングへの参加を求めてきたのだが、……いやなにせ、俺ってば大富豪なのである。地位も名誉も別にいらないってくらいの富があるのだ。
それに加えて、ここで離脱できるというのは俺自身の「とある意図」にも都合がよく、加えて言えばデメリットが皆無だった。
散歩《EX》の本領、ここにきてまさかのフル活用である。
どんな状況下に放り込まれても「身を損なうことのない」俺とはまさしく囮の申し子。もしかしたら俺は囮になるためにこの世界に生まれたのかもしれない。なんてこと言うんだ俺は。
「……、……」
しかしさてと、
かっこよく囮を買って出た俺なのだが、なぜだろうかレクスもノコノコついてきてしまった。俺的には自爆撒き散らすだけの簡単なお仕事のつもりなんだけど、こいつは妙に(或いは馬鹿に)義理堅いようで、途中までの共闘を申し出てきたのである。
まあ実際、俺にとってみればこの申し出にもデメリットはない。
それどころか、この男の戦力を知る良い機会に違いない。
ただし、
「なあお前、馬車に追い付けんの?」
そこだけは心配だ。というかそもそも『爆竜』にしたって俺たちよりもずっと先行してるんじゃないのか。交戦拠点まではあと三〇キロとか言っていたが、そんなもんチャリでもちょっと気合い入れたら二時間ちょいの距離である。
「俺のことは心配すんなよ」
「俺が心配してんのはお前じゃなくて公国の民草の方だよ。拠点についてみたら『爆竜ならさっき通りすぎましたケド』って羽目だったら俺はその場で帰るからな」
「……うん? なんだ、知らなかったのか? 爆竜の時速は一〇キロそこらだよ」
「…………お? なんだそりゃ、そんなんじゃ推力の確保も出来ねえんじゃねえの?」
「…………、俺勉強苦手なのよ」
これはしたり。
ちなみに飛行機でイメージしてもらえれば分かりやすいと思うんだが、十キロそこらで飛んでるんじゃどう考えても落ちるって話である。
はてさて、
「そろそろ、――歓談の宴もたけなわだな」
俺は、彼にそう言う。
「盛り上がってきたってハナシ?」
「……いや、そう言う意味の言葉なんだけどさ?」
これは、言語翻訳でそのまんま「宴もたけなわ」って誤訳されて伝わったのかコイツが馬鹿なのかどっちだ……?
「……。まあいいや」
閑話休題。
なにせ宴もたけなわだ。
後方から追いすがる『熾天の杜』、そのおびただしく群れる白い人影のシルエットが、刻々と鮮明になっていく。左右二方の連中はつかず離れずそのままの距離感だが、三つどの群れをとっても、目を凝らせば星に暴かれた昏い眼孔さえ分かるほどの距離だ。
「それじゃあ、合図を」
「オーケー」
俺の振りにレクスが答えて、後方の馬車の――その屋根に立つベアトリクスに片手を挙げる。
……ちなみにその「合図」ってのについては別に俺がやってもよかったんだけど、なんとなくこいつにやってもらった方が向こうのやる気が出そうだと思っての采配である。なんて他所様のベタ惚れ報告もこれまた蛇足として、
――ベアトリクスが、
馬車の頂上にて、矢番えた弓を天空に向け、放つ。
「……。」
放った矢は三つ。それらは正確に分かれ、それぞれが三方の敵の群れのド真ん中に落ちて、閃光と爆炎に変わる――。
「おお、すごいな」
レクスが、小さくそう呟く。
俺がベアトリクスに頼んだのは、彼女の矢に俺のスクロールを結び付けての爆撃であった。連中のプログラムが誰をどう敵と判別するのかは不明だが、矢を射ったベアトリクスを敵とみなしても、スクロールを起動した俺を敵とみなすのでもどちらでも構わない。
なにせ、どちらにせよ連中は全て俺がここで止めるわけで。
「――さあ、行こうか」
「おう」
――その一言で以って、彼が甲冑のフルフェイスを脱ぎ去る。
その下から現れたのは、……いやはや憎たらしいほどの金髪碧眼美青年であった。多分これから戦うのにわざわざ装甲脱ぎ捨てたのはイケメンの自慢に違いない。いやそれも一旦置いておこう。
俺たちが撃号を合図に左右に分かれ走り出したのを見て、馬車が一つ強く嘶いた。作戦通り発車してくれたらしい。
また、他方『熾天の杜』どもは、馬車が走り出したのを見て左右二群が馬車に狙いをつける。
「……。」
とはいえ、その左右二群は先の爆撃で風前の灯火だ。大抵が戦闘不能、未だ追いすがろうと進む薄い群れも、先ほどのような速度を出せないでいる。
俺は更にそちらの左翼、群れと馬車の一直線上へと向かい奔る。そしてそのままスクロールを起爆、非常に呆気なく左翼連中の足止めに成功する。
さてと、では右翼の方はどうだろうか。
「……、うわー」
――塵殺であった。
ちぎっては投げって言うのはこういうのを言うのだろう。見間違いでなければ、ヤツのアッパーで今人影が一つフライボールかボレーショットみたいに飛んだ。
「(……まってよ。これ俺いらないんじゃないの?)」
とか言いつつも、この囮の本当の目的は、馬車を無事に行かせることではなく「交戦拠点に連中を連れてこないこと」だ。ゲームで言えばモンスタートレインの対処と言ったところだろうか。できればここで少しでも足止めして、交戦拠点の方には『熾天の杜』への対応準備をしてもらいたい。
有象無象の群れとはいえ、こうも数が多いのでは馬鹿にならない。
なにせそう、左右の群れこそ潰したが、後方から追いすがる方の一群にはどこまでも切れ目が見えない。地平の先からずっと行列が続いているんじゃないかみたいな惨憺たる有様である。
と言うかぶっちゃけこれ、交戦拠点の戦力でどうにかなる問題じゃないんじゃないかな。(他人事)
「……、……」
そのへんはまあ拠点のブレイン方々に任せるとして、この囮役のもう一つの目的であった「レクスの戦力分析」。こちらは非常に順調であった。
ただ、一つだけ問題があるとすれば、それは、
――彼の底が一向に見えないことだろうか。
「……。」
短い剣を使うらしい。それも、決め手と言うよりは牽制的な運用だ。手甲足甲をフルに活かしたその戦い方は、遠目にも教育に悪そうな感じのラフファイトであった。
甲冑の動き辛さを感じさせないハイキックが一人の首を打ち据える。そのまま彼は、空中で身体を回転させるように軸足を入れ替えて、そして弾き出される二段蹴りが左右の二人を飛ばす。蹴り飛ばされた都合三名が砲弾のように後方一列をドミノ倒しにする。更には手ごろな一人を殴り飛ばし、別の一人にゼロ距離ショルダータックルを決める。
それは全く、行儀のよさなど一つもなく次と見定めた相手に一番近い身体のパーツをそのまま武器にするような戦闘スタイルだ。場合によっては軸の入っていない一撃であっても、彼はそのまま強引な腕力で以ってそれを致命打に変えている。
これが前世なら、ぶっちゃけただの不良である。俺の言えた義理じゃないけど何して生きればああなるんだろうか。
「(とか言ってる場合じゃねーや、とりあえず頭数減らさないと)」
なにせ俺ってばあの馬車の用心棒である。
残りの担当分を片付けるべく俺は、二度の爆撃で致命的に破綻した狂信者どもへのとどめを、まずは始めることにした。
</break..>
とある戦場にて。
「(……最悪だ)」
そう、彼女ことリベット・アルソンは思わざるを得ない。なにせ、
「(エイルがぶち壊れた……っ!)」
リベットの奔る後方。地平から森までを繋ぐ広大な平原には、
先ほどの血河が雨の一滴にさえ見えてきそうなエグい地獄が広がっていたのだから。
「おーーらーーらーーらーーらぁーーーーぁあああああアアアアアッ!」
アマゾネスかな? と思ってリベットが振り向くと、予想通りそこにはアマゾネスがいた。いや、よく見ればそれはエイルだったが殆ど相違ないので訂正の必要はないだろう。
先ほどリベットは、あの「世界の声」を聴き、エイルの至ってしまった「どこか」に、いっそ禁忌に触れたような忌避感を覚えた。……のだが、その「どこか」が「これ」なら安心だ。多分彼女が至ったのは人類最後の陸の秘境的な、なにかしらの限界集落だったに違いない。それなら笑って見ていられるというものである。
「……い、いや笑えない! やっぱ笑えないよねこれ! エイル! エイルぅッ!! 人の首を斬り飛ばすときに高笑いしちゃダメだ!!!!」
「私は剣聖! 私は剣聖! ならばこれは聖なる行為! 薄汚い異教徒がよォもがいて死ねよォギャッハハハハァ!!」
「やめて! やめてよエイル! 力に振り回されちゃダメ……ッ! あなたの高潔さが、そんなことで失われて良いはずがないッ!」
「ぶぁっはははははは剣聖の私が力に溺れるはずがない! むしろ私が正義! 私が力! マイネームイズパワーってなあ死ねぇえええええええいッ!」
「ひゃあああああエイルが馬鹿になっちゃったぁああああ!!??」
そこへ、
――壊れたテレビを叩いて直すような衝撃的な福音。もとい爆発音が立ち上がる。
それで、
エイルが絶叫をやめ、音の方向を見た!
「(や、やった! ぶっ壊れたのかと思ってたけどまだ最低ラインの危機察知くらいはできるんだ!)」
リベットは、イカれたデスボイスをやめてくれた(けど捕まえた狂信者はしっかりサバ折りにする)エイルに、一つの希望を見出す。
「そう! そうだよエイル! 向こうで爆発が起きた! 危ない! ここ危ないよ! 早く離れよう!」
しかし、
……これはそもそも、彼女ことリベットには知り得ないことであるが。
鹿住ハルの物騒な通り名に吸い寄せられ、彼を頼ったリベットはしかし、彼の十八番とも呼ぶべきメインウェポンを、まだ一度としてまともに見たことがない。
だから、
「……――はる?」
懐かしい大音量に、エイルはそう呟くことが出来て、
そしてしかし、
――その名を聞いたリベットは、
「(……えっ! なにこれハルが死んだの!?)」
当たり前の感性で以って、胸中で悲鳴を上げた。
※これ以降、毎月一日も投稿していこうと思います。ということで、次回は3月1日の更新となります。
小説情報も更新いたしまして、投稿は『毎月一日と3の倍数日』といたします。よろしくお願いします。




