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楽園の王に告ぐ.  作者: sajho
第三章『英雄誕生前夜』
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1-3

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 俺こと鹿住ハルは、先の電話でのやり取りを受けて街を走っていた。

「……、……」

 こういう場合、この身体は便利だ。全力で走るのにも悪路に足を取られるのにも疲労がなく、思考が散漫にもならない。

 そうしているうちに俺は、灰の上での効率的な足運びを覚え、殆ど平路とも変わらない速度で走れるようになった――。


 ――実績をクリアしました。悪路〈Ⅰ〉を獲得、ステータスに反映します。


「なんだ?」


 脳内に響いた声に、俺は足を止めそうになる。

 ただし、それは一瞬のことだ。トップスピードに乗ってしまった状態で足を止めれば、この悪路である、すってんころりんは免れない。

 そもそも息切れで頭が回らなくなることなどない俺は、そのまま全力の速度を維持しつつ思考も行う。

 さてと、

 ……さっきの「実績クリア、悪路〈Ⅰ〉を獲得しました」ってのはなんだ?

「……。」

 いや、わざわざ問題提起をする必要などもない。俺はこれと全く同じ音声を幾度と無く聞いている。

 初めにはあの、ウォルガンの拠点が襲撃された夜。その後に確か、爆竜討伐を受諾した夜の泥酔時にも聞いた気がするし、直近には先ほどの、楠木との戦闘では彼が()()()()()()()()を「スターゲイザー」というスキルに昇華させたらしい。……それから、俺がこの世界に来る直前にも、こんな声を聴いた気がする。

 恐らくは、これらが全て楠木の言っていた「世界の声」なのだろう。

 ……なんというか、

「(ふうむ)」

 人意を感じるシステムだ。

 或いはそう、「システム」と言う言葉が最初に浮かんでくる時点で、この世界の声という概念は()()()()()なのかもしれない。

「(……()()()()()()()()()())」

 先を急ぐ。

 街の灰路から、大通りらしい雰囲気を探り、そこを目指す。

 なにせここは「国」だ。つまりは対外国との国交はあったはずであり、そもそもヒトのコミュニティはどれだけ大きなものであっても他コミュニティとのやり取りを求めるものである。

 海が遠い街なら他所に魚介を求めるだろうし、鉱山資源に縁遠い立地なら鉄鋼は他所に求める。そう言った()()()()()()()は、この国にもあったとみて良いはずで、

 ならばつまり、「他所」との「経路」だってあるわけだ。

 ……という予測で以って俺は、灰まみれの道中から「大通りの雰囲気」を探す。

 街を走る主要な路がそのまま街道につながるというのは、俺の世界にも共通の「妥当な都市のシルエット」である。

 ゆえに、敢えて王道を外すような成長をした都市でもなければ、大抵に共通するはずだが。

 はてさて、

「……。」

 ……不思議な感覚だ。

 全力疾走で走っているにもかかわらず、呼吸が一定だ。

 試しに息を止めてみると、それでも身体に不調は起きない。ただ、もう一度呼吸をし始めたときには、これまた不可解な気持ちよさのようなものが感じられた。

 身体の方に、意識を回す。

 ――無呼吸運動。

 大味に言えば、呼吸を止めることで瞬発的に身体機能を向上させるという人体既存の機能である。これを俺は、どうやら永遠に持続できるらしい。

 息を止めたままでどこまで行っても、思考に濁りはないし、身体は加速し続ける。

 しかし、

「――――。」

 再度呼吸をした際に、例の気持ちよさのようなものが、もっと分厚い感覚で以って俺を襲う。これはそう、深呼吸をした時の爽快感だ。

 身体の酸素が全て無くなって、しぼんだ袋のようになった俺の身体に、一息で冷涼な空気が満ちる。()()()()()()。身体に溜まった熱が冷たい空気に洗われる感覚と言うのは、まるで俺が「身体に熱を溜めているのだ」と突きつけられているようで気に食わない。

「……。」

 呼吸は、しておこう。

 そう思って、意識を「外」に向けると、

 まるで当然のように、俺の身体は勝手に呼吸をし始めた。


 </break..>



 さてと、夜はまだ続く。

「大通りの雰囲気」のある路を往くと、予想通り俺は道なりに街を抜け、森に這入り、そして森を抜けることが出来た。

「……、……」

 街道の鋪装は森を抜けた先までも続いている。或いはいっそ、国の災禍から離れれば離れるほど鋪装が綺麗になっているような印象さえある。「はじまりの平原」の街で見た馬車で言えば二台がちょうど行違っても車輪が路をはみ出さない程度の、広い街路鋪装である。

 また、木立の向こうには、途端に平坦な景色が広がっていた。

 例の「はじまりの平原」ほどではないが、それでもそれなりに広大な風景がここから地平線までを繋いでいる。時折には小規模な木立や、水場などもありそうな風景だ。

「(……悪くないな)」

 この世界には、魔物がいるという。

 俺は未だそう言った存在と、RPGよろしくランダムエンカウントしたことなどは無いが、一人旅において魔物と言う存在はそれなりの脅威になるだろう。俺自身は連中が歯牙にかかるような立場ではないが、それでも鬱陶しいのは間違いない。

 そう言う意味で言えばこの地形は幸運だ。休憩が必要な手合いであればこうも遮蔽物のない地形は厄介極まりないだろうが、しかしながら俺の身の上であれば遮蔽物が無ければ無いだけ直線距離を進めるし索敵の難易度も下がる。

「(暗闇に薪火が立ってる様子はない。誰かいれば、コンタクトの一つでも取ってみたかったんだけど)」

 いやなにせ、この街道の行く先が俺の目指す()()()()平原である保証などは無い。と言うかむしろ違うと考えた方が妥当である。

 ひとまず俺は、先ほど爆竜の飛ぶのを見た方向に走っているつもりなのだが、正直なところそれも怪しい。

できれば誰かに、方向の一つでも聞きたいところなのだが……、

「……、……」

 夜の平原は、

 ……本当に静かだ。

「……。」

 そこに俺の奔る足音が等間隔に響き、耳元には呼気の上る音が聞こえる。それだけだ。

 星の煌めく音さえも聞こえてきそうだ。風鳴りは、先ほどと変わらず遠くからかすかに聞こえるのみ。

 ――これが、散歩だ。

 ふと俺は思う。

 いや、走っているのでは散歩とは言えないかもしれないが、それでもこれは極上だ。

 或いは、ここに酒でもあれば、極上を超えて天上にさえ至ったに違いない。

 夜空に晒されて、歩いていて、そこで一流のウィスキーを呷る。酒精に頬が火照ってきたら、夜風を感じてそれを冷ます。ふと思いついた何かに思いを馳せて、いつしか思考に埋没する。

 どれをとっても「生前」には叶えられなかった贅沢である。

 それで言えば、そう。

 思考に埋没すると言えば、

 ……楠木は、何をこの世界に願ったのであったか。

スターゲイザー(ほしをみるもの)、ねえ」

 静かな場所で、大切な友人のことを思いながら、月を浴びて星を眺める。

 彼の願いはきっと、俺の願いにとても似ている。彼もきっと生前は、多少の絶望があって、ある程度は自分の為に生きられない生涯であったのだろう。

 そう、思えば、

 ……なるほど、


()()()()()――、」


 そこでふと、

 異音を聞いた。


 </break..>



 静寂の平原に馬車の蹄鉄が響く。

 さらに、幾つもの人の足音が響いている。それから或いは、耳をすませば人の群れの、粘つく呼吸音さえ聞こえるかもしれない。

 その馬車は、

 ()()()()に追われていた。

 ……馬車が、追いすがる異様に馬車は一つ矢を射る。

 それが一群の一か所に突き立ち、一人が倒れて複数人が巻き込まれ転倒する。

 それでも、一群は止まらない。

 そもそも人の足が馬車に追いすがること自体が異常なのだ。彼らは、転倒を起こせばその時点で重篤な怪我を免れないほどの速度で以って馬車を追う。

 ――みすぼらしい象牙色の外套で身を包み、それらが闇夜にたなびいている。夜の空虚な空間に塊となって馬車を追う姿は、うぞうぞと群れを成す暗雲か蟲のようでさえある。

 もう一度、矢が射られた。

 一人が倒れ、数人が転倒して、しかし一群は止まらない。

 客観的に見れば、その「違和感のある牽制のしかた」に誰も彼もが気付くだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 具体的な危害を与えられたわけではない。ただ、気付けば連中は馬車を追い、馬車が牽制に地面を撃っても、或いは人を撃っても止まらない。

 だから馬車の内部では躊躇が起きていた。

 話せばわかるのではないか?

 殺してしまったのは間違いだったのではないか?

 ――ヤツら『熾天の杜』は、何を考えているのだ!? と。

 そこへ……、


「――あの? 席って空いてます?」


 おカネはあるんですケドー? と、

 妙に気の抜けた一声が投げ込まれた。




――スキル。


悪路《-》


移動に制限のかかる地形に対して、この悪影響を緩和する。

《-》‐(なし)。


付属効果:所持練度から二つ下位程度の効果の常時発動。

使用条件:意識による行使。

備考:足元の悪い地形(急な山道、ぬかるんだ泥の道など)による移動制限や体力の過剰な消費を軽減するスキル。下位練度では軽微な積雪下にある地形の不便を中和する程度だが、上位練度では六十度程度の傾斜を持つ礫砂の上り坂を歩行することも可能。

 またこれについてはスキル所持者の技術による、「最適な足運び」で以って「使用」と定義される。

 スキルと呼ばれる概念には、上記のように、「スキル所持者が持つ技術を《Ⅰ~Ⅵ》の練度に定義したもの」のほかに、魔力(或いはその他のスキル所持者の持つリソース)を消費して「現象化」させるもの(例:スキル・武器生成)や、魔術学などを体系的に学び、これを統括的にスキルと名義したもの(例:スキル・火属性魔術)などがある。総じて、スキルとは所持者が「これが可能である」とする称号のようなもので、ステータス項目におけるスキル、称号の二つの項目において、持ちうる性能としての垣根は存在しない。

 なお、この悪路スキルについて、魔術的処置による「取得」や、近い性質の補助スキル(及び魔術)による疑似的な効果の発現も可能。概ね、獲得のハードルが低いモノである。


エイル「これ便利なんですよ、足の踏み場もないような汚部屋でもさくっと踏破出来ちゃいます」

ハル「なんだお前、部屋汚いのか」

エイル「あーいや、違くて、……アルネの話なんですよ」

ハル「……なるほど、あの人初対面から汚部屋顔だと思ってたけどやっぱりか」

エイル「たった一言でここまで失礼になることってある? まあ、……でも確かに自堕落滲み出てるってのは分からないでもないですねぇ」

ハル「……うん? あれ、でもさ、いつかあの人の店に行ったときは結構綺麗だった気がするけど」

エイル「いやね、あの子あれで、騎士学校時代には方々借りを作ってるんですよ。レポートの手伝いだとかそう言った方面で」

ハル「……なんか思いのほか自由な校風なんだな」

エイル「楽単とかもありましたしね。あと代返しやすい授業とか人気でした」

ハル「……あー、お前それアレじゃね? 入った時より出ていくときのがアホになってるってタイプの学校だったりしない?」

エイル「はっはは馬鹿な。入るの凄い大変ですし、みんな卒業するころには滅茶苦茶意識高くなってるって評判ですよ」

ハル「…………。(国の将来を憂う目)」



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