02..
オルハの脚が奔る。
前傾。涎が滴るような下品な表情。
白昼。
度重なる破壊が、部屋から見える景色をこれ以上なく良くしている。
もはや上階は骨組みと化し、見上げれば空が見える始末。
街を見下ろせば、このビルの足元には景気良くガラクタが撒かれていることだろう。火の手が無いのは、この街の中心が今は冒険者たちの方に移っているおかげか。
この建築物は、街で最も高い建物の一つであった。
なら、この街のどこからだって今の惨状は目に映る。
なら、――もはや人の目を避ける必要はない。
「――ッ!!!」
『ハーイ見えてるんだよなァソレ! バチコーンッ!!!!』
光が陰る。
空中から殺到するヴェンデッタ。
ただし、今のボストマンがそれに割く意識は最低限である。
「結局、貴様は――!!」
放つ炎を避けて笑うオルハ、――三城征士郎にボストマンは叫ぶ。
「この守りを抜けない! 殺して終いだ! 分からないか餓鬼!!!」
『んなもんww いいか? こっちは見に徹してたんだぞ? 攻略されてると思わないか?』
虚飾だ、とボストマンは切り捨てる。
ならこの武装の投擲は何だ? 何の意味もない攻撃を未だ続けている。それとも、『防御術式:帝国』がこの程度の処理の連続でエラーを起こすとでも考えているのか? ――いや、
「(何かある、のか?)」
『防御術式:帝国』の本質は速やかなる人員の派遣である。
被術者と契約した「真に信用の置けるモノ」を速やかに呼び出し、その者に圧倒的な加護を与える魔術。
故に、庇護下にあるモノは清廉潔白でなくてはならぬ。でなくては、まさしくこういう羽目になる。
故にこの術式は、誇りを以て『帝国』の名を冠した。
すなわち『防御術式:帝国』は、純粋な防御術式としては一級の域を出ない。
「(無限のリソース。それも信用できるのか!? 帝国から齎される術式処理が無限であるという確証もそうだ!)」
――なにせ、コイツの後ろにはクスノキと、北の魔王と、信用していいのであれば特級冒険者の全名がいる。
「(その名で超法規的な手順を踏んで俺の地位を奪えば、その時点でこの術式は意味消滅する!? いや、馬鹿馬鹿しい被害妄想だ! だが、しかし――ッ!?)」
『(っていう事になってるはずなんだよな、オルハ)』
一方、超過密戦闘を行うオルハの脳内では、三城征士郎が思念のみでオルハに伝達する。
「(こ、ど、これ――ッ!?)」
『(落ち着いてくれーい。いいか? 俺がお前の身体を操ってんの。今までは指示厨だったけど遂にコントローラーを奪ったって話。シンプルだろ?)』
「(なん、となく分かったが何をどうすればいい!?)」
『(助かるぜ! で、俺には出来ないことがある。俺の世界にはな、魔法ってのが無かったんだ)』
と、ゆったりとした対話を1F単位で殺到する炎弾を回避しながら三城征士郎は行う。
『(だから、お前が今日まで勉強してきたモンの使い方が俺には分からない。そっちをお前に担当して貰いたい。「第七工房」なら、あの防御をブチ抜けるよな?)』
「(でも、それはもう見せた! 用意してきた勝ち筋はこれで全部で――ッ)」
『(そのための俺だ。良いか、リベットちゃんの魔術を使ってくれ。俺が前衛、お前が後衛だ!)』
――勝ち筋。
それが息を吹き返すというのなら、
「(やりたいことは理解した! 出来るんだな!)」
『(当然!)』
それを以て思考の伝達が途切れる。
いや、常に三城征士郎の思考は曖昧にフィードバックされるが、それをオルハは意に返さない。
抽象的なアイディアが抽象的なまま共有されるというのなら、むしろそちらの方がコスパがいい。
……『防御術式:帝国』は緩衝により術式を相殺するが、「花弁」を介した『体系術式:バレット』であれば衝撃の伝播が発生する。ボストマンの思考を削ぐなら、この現象は有用である。というアイディアに、是が返る。
ならばそれで良い。
オルハは、自らの身体を以って為される神域の白兵戦を見、好機を待つ様に術式の並列処理を開始した。
さぁ、まずは一発!
『おっしゃァ!!!』
「――ッ!!?」
ヴェンデッタを後ろ手にして、掌底でボストマンの腹を撃ち抜く。
正中を崩されたボストマンが一歩退く。ボストマンの背後、炎の色をした魔方陣が虚空に浮かび上がる。オルハの目がそれを見、追撃の姿勢を維持したまま重心を僅かに操作する。
――射出。
炎の線が同時に27本。それぞれがオルハの身体を擦過して同時に床に着弾する。炎線は消滅せず、元来ならば、仮に避けられたとしても移動を阻害されているオルハへと次の魔術が殺到したはずだった。しかし、オルハは既にそこにはいない。ボストマンは迫るオルハの姿、地面を擦る間際まで姿勢を低くしたオルハを見下ろしながら、既に案でいた術式を強引に転化して自身の機動力を補う。
爆炎を伴う跳躍。
本来なら攻勢に使用する術式を足元に展開し、そのまま後方へ。その最中にボストマンは、それすら読んでいたオルハが空中へ跳んで更にこちらとの距離を詰めているのを見た。もはや懐の内という距離ですらない。
オルハの跳躍は身を翻すように為されて、彼はそのまま空中にて下肢を操作。
距離を圧殺する移動手段でしかなかった跳躍が、蹴撃としてボストマンを撃ち抜く。
『おでこに入ったァ!!』
「ッオ!?!!」
わずかに思考が空転。
呼吸のリズムが崩れ、ボストマンは、並列展開していた術式の制御を軒並み失う。
――起動命令、とボストマンは反射的に叫ぶ。既にオルハは5歩後方に飛びぬけている。そして、あの前傾姿勢。見に徹するぞと、その姿勢が、視線が応用に語る。刹那、爆炎。前方に意識を集中していたオルハの立つ位置のわずかに後方。避けられるはずのない一撃だった。にもかかわらずオルハは、その場で半円を描くように爆炎の殺傷圏内を既に回避している。地に伏すような姿勢で、ヴェンデッタを持った手で床を掴んでいる。
投擲。
ではない。いや、投擲であった。
一つ目の挙動で剣を投擲するフリをして、その挙動の終点にて剣を上に放った。弧を描くような軌道で、直上より襲来する剣をボストマンは見る。回避を、いや、あの程度の速度であれば手を掛けずとも相殺が――
『行くぜオルハァ!!!』
たった1Fの意識外。そこを突かれた。
突進。オルハの全身がボストマンの腹部へ衝突し、ボストマンは姿勢を後方へ投げだす。その襟首が掴まれ、地面に引き倒される。ボストマンの思考が再び空転する。この威力は、四肢に何らかの魔術的な強化を――
『死ねオラァアアアアアア!!!!!!!!』
オルハの掌が輝くのが見えた。
マウントポジション。魔術師にとっては痛痒にすらならぬ状況だ。だがこの一撃に、これに間に合う迎撃は、起動命令できる仕込みの魔方陣は、並列処理魔術の完了は、あの一撃は、或いは、或いは――ッ!
「(マズいッ!!!???)」
衝突、刹那、ボストマンが先に地面へ術式を吐いた。
ボストマンの身体がオルハごと宙へ舞う。オルハの掌に込められた魔力が暴発し、白光となって中空へ放たれ、光の尾を引く。あの光の魔術は、或いは『防御術式:帝国』を抜き得る威力を――
「(しているだなんて、くだらないッ!)」
そう吐き捨てるには、あの一撃は自分の隙を突き過ぎていたのではないか?
奴にはこちらの防御を抜く手段があると仮定すべきでは?
自分には戦闘経験が足りないのだから、全ての最悪を想定すべきなのでは?
「クソッ!!! ――『咆炎晄々』ッ!!!!!!」
そして彼は、彼に可能な最高の魔術に手を掛けた。
なにせ敵は、認めよう。強大だ。『盾』で見たあの小僧と同様の存在とみなすべきではない何者かが、『王の魔力』を用いて自分に相対しているのだから、
故に、彼は、
「テンダー・バーストンッ!!!」
まずは、祈る。
「――街に、避難指示をッ!!」
「……。」
そして、光り輝くようなこの街への、
落下を、彼は選んだ。
/break..
『さぁて、良い出目じゃね?』
「(……。)」
ボストマンの落下を見ながら、俺こと三城征士郎は呟く。
当然、独り言じゃない。オルハに言ってる。
最初から分かってることがあった。
だけどそれは、この場じゃ重要な事じゃない。
だから要らないことを俺は言った。
茶化したと言ってもいい。
……だから俺は、この一言だけは付け加えた。
『行っていいよな?』
「……、」
この勝負の結末に悩んでるわけじゃない。
やることは決まってる。それはオルハ自身が一番分かってる。俺は分かったふりなんぞしない。
オルハは、
「ああ」
そう、呟いた。
――なら、もう休憩は十分だ!
『んじゃ飛び降りるぜ! お互い舌噛まないように気を付けような!!』
「(なに――ッ!?)」
当然だろ? 丁寧に階段なんて降りてられるか。
『俺たち』ってのは、当たり前のように壁を奔るんだよ!
『ヒャッフゥウウウウウウウウウウ――ッ!!!』
「(どわぁあああああああああああああ!!!????)」
視線の先。昼の日差しに真白くなった地面が見える。
そしてその最中央に、未だ落下の最中にあるボストマンの姿だ。
『的ォ!!!』
ヴェンデッタを投げる。
ただし牽制だ。ボストマンが選択した逃走という一手は、俺たちからすれば最高に厄介だからだ。
『花弁』
あの庇護を離れた。ここから先は、俺たちはマジでただの無力な一般人未満だ。
――と、思うだろ?
驚け、オラ!!
「『噴塵』!!」
『読みは良いな! 素晴らしい二流っぷりだ!!』
噴炎。
投擲されたヴェンデッタごと俺を捲く火炎放射だ。功を焦ったな。実に掌の上だ。俺はお前と違って自由落下なんぞしていない。ほら、足元にちゃんと地面があるのが見えないか?
跳躍。オルハが下肢へ魔力を送る。良く分かってる。空中を翻り、俺はボストマンを追い抜く。
さぁ、問題は着地だと思うだろう? だろうから二流だ。このビルの向かいには、実に美味いいちごミルクを出すって噂の別の建物があるよな?
――ガラスを割る快音。
上がる悲鳴。謝る俺。ただし視線は光の最中へ。
落下するボストマンと、件の建物内に不時着した俺の視線が交錯する。ボストマンの瞳孔の奥が見える。素晴らしい、こんなゾーンは久しぶりだ。俺は、ポケットに指先を突っ込んで、
「――――ッ!!!」
『wwww』
そこに突っ込んでいた『水色タンポポ』を一つ、良く見えるように咀嚼して飲み込んだ。
さぁ、ブラフだと思うかな?
それとも直観に従って脳みそを支配するアラートの言うことを聞くか? 俺はどっちでも構わない。オルハが次に選ぶ一撃は、ああ、確信がある。
故に奔る。俺たちに重力はない。いや、都合が悪ければ無力化できるし欲しければ追い風代わりの味方でしかない。見ろよ、小洒落たカフェだから少々薄暗い。というか、今日の天気が良すぎるんだ。
まぁ、どちらにせよだ。
明るい場所にアイツがいて、暗いところに俺らがいるのは間違ってる。
じゃあ、もっかいブッチ切ればいいわけだ!!
『「――『灼けっ蜂』ッ!!!!!!」』
篝火を手に白昼へ躍り出る。
ボストマンが何某かの防御魔術を展開したが、関係ない。殴れりゃガード上からでも気分がいい。
白昼へ、俺たちの身体は暴露する。
こんな時期に肌を焼くほど強い日差し。それを豪勢に浴びるボストマンの身体に、俺たちの跳び蹴りが突き刺さる。いつか見たリベットちゃんの術式の応用らしい。あのエイルってトンデモ騎士がビビってたのと同質の斥力が今の俺たちの身体には備わってる。ゆえに、緩衝をぶち抜く手応えが爪先にはっきりと返っていた。
でも、これで終わりじゃないわけよ。
見えるだろ、この灯が。怯えた目の奥が照らされてよく見えてるぜ。
握りしめる力で拳がぶっ壊れそうだ。
強けりゃ強いほどいい。火だろうが何だろうが握れば縮こまって、濃くなってくれそうな気がするからな。
さぁ、これをブチ込むぜボストマン。
――存分にッ!!
『死ねぇえああああああああああああああああああああ!!!!!!!!』
「ッ! ッ!!?? ッ!!!!!!!!!!!!」
俺たちの耳元で空が割れたみたいな音がした。
灼熱が脳を焼く。掻いた端から汗が蒸発する。思考が空転する。ブラックアウト。コンマ以下だろうが俺の意識が完全にショートしてた。ただ、こういう時に本能でコマンドを選べるのは当然のことだ。気付けば俺は、地上数階からの自由落下を成功させていた。では、一方のボストマンは。
「――――。」
ああ、見える。
なんて情けない姿だ。仰向けに両手両足をだらりと放り出して、昼休みに河川敷に出たみたいにボケッと空を眺めてる。石畳の派手な割れ方を見るに、あっちは受け身なんて取れちゃいない。ただ、それでも無傷ではあった。
『……、……』
観察する。
次の一挙手一投足、その一言目が俺たちの次の手を変える。
さぁ、どう感じている?
今を――
「……、……」
ボストマンが首を振った。
いや、周囲の観察だろうな。それで俺たちも気付く。俺たちの回りには、見事にヒトがいない。
わずかな人気は、騎士堂の人間か?
確かあんなコスプレ集団だったはずだ。アニメに出てくるエリート騎士が戦場に赴いてないときに着てるヤツな。そいつらが、ごく少数の一般人共を誘導しているらしいのが見える。スゲェな、俺たちが降ってくるのより指示系統に命令が降ってきた方が早かったってこと? ……まぁ、関係ねぇんだが。
関係ねぇんだが、これならもっと派手にやれるな?
「見えるか?」
俺たちへの言葉だった。
俺はそれを素直に受け取って、ボストマンと同様の方向へ視線を向けた。
つまり、この街の空。
そこに産まれ墜ちつつある、天上の焔を。
「『咆炎晄々』」
――ボストマンは言う。
あれが、この国の灯であると。
「ダニー・エルシアトル・カリフォルニア帝国を照らした明かりは、帝王が齎した【日】であった。
今はまだ小さい。俺では十全にも使えない。未だ、目を灼くには程遠い」
がらりと、瓦礫が音を立てる。
ボストマンが立ち上がる。服の汚れを、払って清めて、
「焦ってくれ、餓鬼。お前の命はあと3分だ」
『(イケるな、オルハ)』
「(ああ、イケる)」
そうか。
なら、最高だ。
『3分も生きてられると思ってんのかバァァァアアアアアアアアアアカッ!!!!!!!』
「もう終わりだ、何もかもッ!!」
3分、
つまり180秒。
さぁ、脳を燃やそう。
火が酸素を食らうようにドーパミンを飲み込もう。カフェインがあれば最高なんだが、アレも要は飲み溜めだ。何のために俺は文字通り死ぬまでエナドリを飲んでたんだ? 今日のこの今のためだろ? 俺の魂のよ、どっかに在庫あんだろ? それ全部搔き集めようぜ。見えるモン全部が遅くなるまで。全部を置き去りにできるようになるまで。だけどな、思考はクールにな。焦っちゃいけない。勝ちの目の裏にはいつも奈落があるって覚えてるよな? そこにズドンで何度勝ちを逃したか覚えてるか? 指折り数えてみろ。あの経験も全部、この日のためだ。
ああ、ブラフも、煽りも、ブチ切れたフリも、先天的に得意だったらしい高笑いも、中指立てて涎垂らしながらやった死体蹴りも、ブン投げてぶっ壊した数え切れないほどのマウスとキーボードも、生まれてこの方ついぞ治らなかった下品な語彙も、最初に出会った時の憧れも、全部今日のためだ。今日が終わったら全部無意味だ。良いか、オルハ?
お前と同じくらい、俺も覚悟がガン極まってる。
得意なんだ、俺もこういうのが。負けたら全部失うつもりで勝ち続けてきた生粋の復讐者がお前の味方に付いてる。だから、お前はツイてるんだぜ? これまでの人生全部クソだっただろうが、それでも余裕で黒字ってくらいに最高にな!
『――ッ!!!!』
無呼吸一つで世界が止まる。
ボストマンはあれだけの名乗りを上げておいて、逃走の一手を選択した。いや、当然だな? 溜め技撃ってんだから可能なら距離を取る。で、だ。アイツは残念なことにバカじゃない。なら分かるよな? 見えるところに設置技が無いなら、見えない罠で俺の接触を阻んでくる。
来た。
街路一面が白熱する。魔方陣が四方八方だ。地面だけじゃない。建物の壁面にも確認できるな。どれも同じ模様だ。なら予想できるよな。街の防衛のために用意する魔術なら個人のこだわりだのロマンだのは全部無視してコスパ重視。絨毯爆撃に使うミサイルが同じ銘柄のを滅茶苦茶な量で用意するみたいに、特別にエグいのを一種類だけなんじゃねえのか?
光。
太陽発炎じみたマグマの尾。それが数え切れない魔方陣から生え始める。俺の踏み込みの一歩目は、俺があまりにもクールにゾーンぶち決めてるもんだから、まだ着かない。
見える。顔にガソリンが掛かって無事着火までした蛇みたいにトチ狂った軌道。ただし、この手の魔術の最適効率はもっと物理的に制圧面がデカいモンのはずだ。つまり、この期に及んでこの街は街への被害を恐れた。辺り一帯焼き尽くすんじゃなくて、敵を捕らえる類の手段を使った。
なら、術者はお前だなボストマン?
お前はこの量の手足を持つ鬼役で、俺が逃げる役ってわけだ? くだらないね。最初からさっきのカリフォルニアみてぇな名前の魔術を仕込んでおけよ。どいつもこいつもリソースの消耗に怯えすぎてるね。いや、分かるぜ?
次があるって発想の人間の、考え方だよな?
この街の中心で敵に対応しなくちゃいけない状況になっても、明日も街は回る。だから綺麗に残してやらないとな? クソ下らない。んなボケに負けるヴィジョンが浮かばない。ああ、いいね。こういう時なんだよ勝つ時ってのは。
こういうな、――負けるヴィジョンがよ、浮かばねえ時に俺勝っちまうんだよなァ!!!
『プレイヤースキルで喧嘩を売ろうとは豪気だ! 雑魚のクセに前が見えてないとァ恐れ入った!!!』
「――ッ!!」
脚が着く。
と共に奔る。それぞれの触手の幅は2メートルはない。今の俺なら跳ねれば避けられるが、そこを二本目が待ち構えてたら終わりだ。ブチ当たってもワンチャン耐えられるかもってのは、考えなくていい。なんせ当たらねぇからな!
『――っしゃぁ!!!』
狙うは左方、そこには垂直でこそあるがしっかり道がある。
すなわち壁な。異世界ってのはスゲェな。ほんの3歩で地上三階まで一気に駆け上がっちまった。俯瞰風景。これは助かるね。ステージの全景が見える。炎触手の位置からボストマンが逃げるのに使う予定の動線、後は、壁をないモノとした場合の俺の動線も。その間も炎は俺へ殺到する。俺が踏んだ直後の壁を炎が叩いて赤熱させる。と、そろそろ重力判定だ。
「(トンでもない無茶を――ッ!!)」
俺が足に力を込めた一瞬で、オルハがそこに魔術を篭める。ボストマンとはずっと目が合ってる。じゃあ、飛ぶと思うよな。そっちにしかエリアが無いって。俺は、――手が空いてたのでボストマンに振ってやる。つまり、一旦バイバイってやつだ。
「なにッ!?」
足元が割れて、俺たちは建物の中に墜ちる。
この辺をぶっ壊すつもりまではなかったらしい炎触手が壁の表面を撫でて消えるのが見た。それも一瞬だ。一応逃げ場の自由はさっきより効かないって状況である。本能的に対処するなら、即座にこの部屋いっぱいに炎触手を注ぎ込んで圧殺する。そうすりゃ壁に阻まれて俺たちはオシマイだよな? 分かってるよな? そうしてくれよな格下の雑魚ならよ???
『(キッターーーーーーーー!!!!)』
馬鹿だよなぁオイ!
こんなことしたら俺たちがどこに逃げるか見えねえんじゃねえのかwww!?
『(よろしくオルハァ!!)』
直上、ぶち抜いて直で階移動だ。ワンジャンプでイケるんだからすげえ機動力だぜ。
さあ、どれだけの速度で追って来るかね? これで即対応ならたぶん異世界インチキ魔力察知とかそんなんで壁関係なく俺たちの位置がモロバレってことで俺の予定が一旦白紙なんだが?
『(――こない!!)』
やっぱりだ。っつーか普通はそうだよな?
異世界だし魔法あるしで忘れがちだが、ヒトの人生って限られてるよな? 出来るコトだけじゃなくて、出来ないことも普通はあるよな? じゃあ、ボストマン。お前よ、
――『第七工房』のこと、実際どこまで知ってるよ???
『(追撃が遅い。まだ驚いたままでいんのかアイツ。さっさと目視でもインチキ魔力察知でもいいから確認しに来いっての!)』
目視で良いぞ? 目視で良いからな? 目視で――
『(キタ! キタッ! きったああああああああああああ!!!!)』
目視だ。
炎尾の一つの先端に乗ってボストマンが浮上しているのが見える。しかし多少はクレバーなんだな。当然俺が四方どの部屋に逃げたかは分からないんだろうが、次の手で俺に上を取られないように一番上のこの部屋から見に来たってわけだ?
さて、窓の向こうのアイツと目が合う。
直後には炎の殺到。同じ炎触手だ。じゃあたぶん今のアイツに別の魔術は使えないんだよな? 使えるんだったら速度的にそっち優先だもんな? わざわざ地面から触手を持ち上げたぶんの時間で俺に次の動きを許してるんだから。
……あと、ちなみに俺ならな? そもそも目視確認なんてダサい真似はしないで炎の触手でそのまんま四方八方の部屋もズドンだぜ? その出目も見てるからよ、見ろよ、最ッ高に決まったクラウチングスタートのポーズが出来てると思わねぇか!?
『はいドーンッ!!!!!!!!!!』
「――ォ、オ!????」
目で見て触手でねぶって終わりのつもりだっただろうボストマンは、このカウンターを全く考えてなかった。さっきと同じ要領の跳び蹴りじゃつまらない。次は膝で行く。もっと体重を乗せてやるって寸法だな?
再度、光の下へ。
今度はボストマンが溜まらず何かを吐いた。バッチぃぜ。しかし、これはワンチャンマジでぶん殴ってるだけでも防御抜けたりしないもんかね? ……勝ち筋の軸がぶれたら負け一直線? いやそりゃ分かってるんだが、しかしだね?
「(だ、誰と喋ってる!?)」
『(脳内にギャルを人生の顧問として飼ってるんだよ。タルパたんだ。日々が潤うぜ)』
「(??????)」
顔が良すぎるお前には見えなくていい世界か、失敬。
とにかくボストマンの腹に着地した俺は、そこを蹴って適当な壁に足を付ける。
さて、下腹部から脱力しそうな高さを見下ろす。
ボストマンは、流石この国謹製の防御術式だな。意識を手放したりはしていない。こちらに掌を向けて、
『(――ッ!?!?!!!!!)』
杖だ。
杖を握ってる。
考える。思い出すべきはこれまでの全部だ。
ここまで、アイツの手にあんなものはなかった。その上で、アイツがこっちに向けてきてるのは杖じゃなくて掌だ。どこからだ、どこからアイツは杖を装備していた。
思い出す。この世界ってのは、魔法の世界だってのにどいつもこいつも杖を装備していなかった。してた一人がレオリア・ストラトスちゃん。でも、あの子はオルハに杖の装備を勧めたりはしなかった。つまり、杖が無くても魔法は使える。だけどあったら便利なわけだ。
想像してみろ。これまでのアイツは必死だった。本気でちゃんと俺たちを殺そうとしていた。だから、杖を出してようやく本気なんてことはない。
オーケー、理解した。
あの杖は魔導の外付け制御装置だ。で、そのツール自体はこれまでの死闘には不要だったわけだ。
なら、あの杖が『咆炎晄々』の制御をしてる。で、俺はこれまでにこいつを好き勝手に翻弄し過ぎた。
あの杖を狙わないのはおかしいんだ。
で、あの杖を弾き飛ばせないようなマネは、絶対に欺瞞だともバレる。
じゃあ、すべきことが決まったな?
俺は、何分日差しを背にしてる。はっきりとやってやらないと陰になって見えないかもしれない。
だから全力で、胃の腑から、涎の代わりに口の端からエンドルフィンの余りを分泌させながら、
『破壊行ォオオオオオオオオ為!!!!!』
可能な限り嗤って、そう叫ぶ。
そして跳ぶ。光を背にして、全力且つ経験能力直観センス全部をブチ込んだ本気の逃避行だ。
オルハ、分かるな?
ちょうど良い局面に、良いブラフの餌があったんだ。理解してくれるよな? 今から俺は全力でお前の仇敵から尻尾捲いて逃げるが、その先にある勝機が見えてくれているな!?
「(――乗った!!)」
『ヨッシャアアアアアアアアアアア!!!!!』
壁を蹴ってどこか彼方へ。
そのための羽には俺がなれる。詩的な言い回しだがマジでそう思ってんだから止められるわけがない。
オルハには、羽が足りなかったんだよ。
地に足ついてたんじゃ見えない世界がある。一旦全部見降ろしてやんないと、自分が如何に全能かなんて分からない。夢を見るなって何度も言われたぜ俺も。その度によ、死ねよテメェってバカをバカにしてたんだ。雑魚が俺と同じ生物のつもりでモノ語ってんじゃねえぞって。俺はよ、何かを成し遂げられる生きモンなんだよ、手前らと違ってなって。そういうモンを俺なら見せられる――
さぁ、ビル群の背丈より高く駆け上る。そんでトぶ。
そうして見ようぜ。ここが、俺たちがずっと生きてきたこの街のテッペンだ。
冬晴れた空。
輝く石畳共の黄白色。
雲が無いのが実に良い。俺たちは今、地平線と視線を交わしている。
『見えるか、オルハ』
「(――ああ、見える)」
『立派な街だよなあ。こういうの壊すのって、マジ気持ちいいぜ!!!』
「(そうかよ。……仕方ないか)」
――起動。
と、オルハが言った。俺はそれに口を揃える。
『「――ショックパルス」ッ!!!』
バキン! とまずは音。
そして静寂。然る後、
――バッキャァン!!! と、文明が崩壊する実に景気の良い音だ。
タンポポ食ったオルハの魔術は目に見える端まで行き届いたように見えた。
つまり、ビル群の背丈を超えた。天頂から世界へ。そりゃ渋谷の摩天楼と比べたら鳥取みてぇな規模の建物ばっかだが、密度は一級だ。地平に微かな湾曲が見えるような気がするくらいの高みから、師匠ちゃん謹製の無色爆発が地上へ殺到した。あの景気の良い破砕音は、端から全部窓だの何だののガラスが割れる音だ。
『オォイ領主ゥ!! ただ逃げんのは癪だから目についたもん全部ぶっ壊していくね!! アデュー!!!』
「貴、ッ様――!??」
さぁ、追いかけて来いよ雑魚。
テメェの切り札に俺たちには成す術がないように見えるだろ? それ以外の選択肢なんてなくなって、可及的速やかに俺たちを追いかけてきてくれるよな? そんじゃ鬼ごっこだ。目にモノ見せてやるから俺の背中から目を放すんじゃねぇぞボケ。
『――ロード・オブ・ピルグリム!!』
術式のイメージに沿って俺は掌を街に向ける。
とんでもないフィードバックで俺の身体が虚空で跳ねる。撃ったことはねぇがバズーカ撃ったみてぇだと思った。オルハの術式で、適当なビルの1/5が灰燼になる。ヒュー! 中身にヒトがいねぇことを祈るばかりだぜ!!
「――ッ!!」
直下。炎の触手に乗ってボストマンがこっちのステージにようやく追いついてきた。
ただ、やみくもに走ってたら追いつかれそうな速度には見える。俺はビルの後頭部に着地して、しっかり振り返ってからヴェンデッタをブン投げる。
振り返ったのには当然訳がある。
俺が投擲で狙ったのはあのマグマ触手の根元だ。予定通りそこが斬り飛ばされて、ボストマンが姿勢の制御を喪う。落下する。落ちる向こうはビルの谷間。だから、その無様な姿をちゃんと正面から見てやるってのが目的の一つ。
んで、もう一つが、
『www』
手を振ってやりたかったんだ。
雑魚のボストマンじゃ残念ながら俺の背中から目を離さずってのは難しいらしくてな。
俺も一旦下に消えるから、お前は俺のことさっさと見つけないとこの街ズタボロになるからちゃんとそこんとこ理解して必死に追いかけて来いって意図が、俺の笑顔で伝わってくれりゃ嬉しいがどうかな。
「――ッ!!」
良い悲鳴だ。
それと共に、ビルの側面から炎の触手が幾つも殺到する。巨人の掌が建物ごと握りつぶそうとしてるみたいな格好だ。ただまぁ、浅撫で程度なんだろ? 速度が足りてない。落ちながら炎ブン回せる胆力は褒めてやってもいいが、相手の位置も補足してない牽制射撃を本命にされてちゃ相手が気の毒過ぎて見てらんない。
『(オルハ! さっきのロードオブっての便利だった! また使えるか!?)』
「(悪いが無理だ! 花一噛み分全部使って不発だった!)」
『(アレでか!? 北の魔王ってのは名前にマジで恥じないんだな!)』
しゃーない。オルハには定期的に街のガラスを叩き壊す作業に没頭してもらおう。
ってことで疾走。俺の背を炙るマグマを感じる。振り返るまでもなく影が触手の位置を教えてくれる。俺の位置は音で割れてる。ただ正確な捕捉ってわけでもないもんだからねったんぬったんと手当たり次第だ。
『(なぁ置き爆弾ってあるっけ!?)』
「(良いのがある! 師匠から、ジャイアントキリングに実績があるって太鼓判されたヤツ!)」
『(いいね! んじゃそれ使おうか!!!)』
ってことで90度ターン。俺みたいなスーパープレイヤーは指先で地面を掴んで速度ロス一切ゼロでギュリっと方向転換だって出来ちゃうワケ。曲がる角はどこでもよかったが、ちょうど見栄えのいい道が見えた。スパイダーマンが糸使って縦横無尽するのにも十分そうなデカい街路だ。で、ここまで移動してくると流石に人気が復帰する。
『おーい死ぬぞー! 逃げろ逃げろォー!!』
って俺の言葉を証明するように、俺の来たトコからマグマの触手がぬったんぬったん追って来る。
腰の抜けたガキが居たんで襟首掴んで近くの騎士堂のヤツに投げ飛ばす。……が、そういった気遣いは今後は無用っぽいな。騎士堂連中が一応で個人規模の防御魔術(っぽいクリアブルー色したシールド)を展開してるのもあるが、そもそもあの触手、巻き込む相手を滅茶苦茶選んでやがる。
『(俺のことは見えてないのに俺じゃないやつに触れそうになったらそっと通り過ぎるわけだ。自動の挙動っぽいな。なんかに使えねぇかなあの仕様……)』
「(そこの老女背負って逃げてみるか!? 絶対やめてくれよ!?)」
『(……。)』
どうやらオルハはまだ多少俺を誤解してるな。
そういう本気のスゴみが今の発言にはあった。
『(――さて)』
ショックはあとで解せばいいな。誤解と一緒にな。
俺は、ポケットのタンポポを一つその辺のビルの足元にぶん投げて再度90度のターンを行う。
……が、
『(参ったね。これ使うとヒト死ぬわ)』
「(――音を出すのが目的なら)」
『(……、)』
「(派手にブチかましさえすれば、目的は達成できないか?)」
『(……なるほどね?)』
そう。
目的は音で、ボストマンに俺たちのいる位置を誤認させることだ。
そのためのガラス破壊でもある。
俺が行く先から景気の良い音がするからこそ、アイツは俺をザックリ捕捉出来ているに過ぎない。或いは、騎士堂の連中がリアルタイムで無線通信し始めたりマジカルチートでサーモスサーチでもされたら多少今よりも面倒になる。
じゃあ、今がタイムリミットってことにしてもいい。
見ろ、焔は今にも滴り落ちそうなほどに育ってる。俺の正確無比なる体内時計から換算したところ、アイツの行ってた『3分』まで、あと70秒くらい。
「(正確無比な時計にくらいって語彙はないんだよ! あと52秒!)」
『嘘だろそんなにズレてる!? まぁいいや! んじゃあと50秒!!』
ビルを駆け上がり、対面へ跳ぶ。
と、目端に嫌な光景が見えた。
騎士道のヤツが一人、耳元に手を当ててこっちを見ながら独り言を言ってる。
ボケがオルハが目を離した隙に殺すぞテメェ!!
「(やめろよな!!)」
『(やんねぇよ! 殺すぞってのは馬鹿とかアホのもっと強い言葉でしかねぇから!)』
でもこれが普通の反応だよな。
殺すぞってあんま思っても言わない方いいね……。と、これで二つ目だ。タンポポをグーで建物の壁に埋め込んでやって、もう一度ターン。
つっても流石に重力を無視しきりってわけにもいかない。
ターンした方向、――日差しの眩しい東方向への推力を多少維持したまま、俺の身体が浮遊感に包まれる。と共に、いや今回ばかりはちょっとだけ出目が悪い。
「小僧――ッ!!!!」
無線タレコミを受け取ったか、或いは騎士道の相方に見限られてたっぽいし傍受の類か、はどうでもいいな。
ボストマンだ。マグマの津波みたいな触手どもを牽引するようにヤツが現れた。さて、位置の補足はこれでされたわけだが、
『ちょーっと遅かったな?』
「(――起動!!)」
……その術式は、師匠ちゃん太鼓判のジャイアントキリング実績があるってシロモノらしい。
なんで彼女、北の魔王に修行を付けてもらってたんだとか。あのタマネギ炒めがそんな立派な生命には見えなかったんだが、でも師匠の師匠ってんだからきっと凄いんだろうな。
ある国の一つの腫瘍。
国家に喧嘩を売った8人。逆条八席。その順列に意味はなく、円卓は長を決めずに循環の形を取る。――けれど、それでも一番は居る。
ヒトが魔王と呼んだ男。
ソイツを、我らが師匠ちゃんがまだ弱いときにブッ倒した一撃だ。そりゃもう派手に違いない。
「無属性体系術式:第二層、――三天乖離」
三天が裂けて、世界が解れる。
それぞれ置いてきたタンポポを起点に、一瞬の世界的余白。
板を殴って割った時みたいに、世界が四次元に割れた。
ただ、この術式はそれだけじゃない。どうせ空砲なら、派手であればあるほど良い。
『「――ブレイクッ!!」』
仕込んだタンポポ共にオルハが、主人としての命令を下す。
タンポポがそれぞれ花弁を散らして、三天は無数天へと拡散する。そうして世界を襲うのは、ガラス瓶を握りつぶしたみたいな無茶苦茶な破壊、――その波及だ。
ボストマンが従える炎どもの胎を、破壊された四次元が通り過ぎた。
そして、――バギンッ!!!! と何かが壊れる音がした。
それが何かは分からない。ただ、不可逆の破壊が起きた音だった。
この世界にとっても致命的かもしれない四次元の顕現れ。それだけの行為を以て俺たちは、――ボストマンの炎の足場を吹き消した。
……分かるだろ? ド級の一撃だ。
最初に使ってればそれで勝ちってヤツだ。こういうのをオルハは幾つも持ってきてはいたんだよ。でも、使わなかった。
理由は分かるよな?
まず、こんなもん使っても俺がぶん殴ったって気がしない。それが0.2%くらいで、残りはオルハだ。
やりたいことがあるって言ってたよな。最初から。
それのチャンスが、ようやく来た。
『――っしゃァアアアアッ!!!!』
ボストマンが無様に地面に墜落した。馬鹿め、カッコつけて触手に高めに持ち上げてもらってるからこうなるんだ。
で、一方の俺たちはその落下地点に奔る。ヴェンデッタを振り抜く。今の超絶スッゲー魔術を見たよな? お前の予想通りだ。俺たちにはお前の防御をぶち抜く術がある。
じゃあどうする? なぁ、カッコつけるなよ。素面にやろうぜ?
見ろよ。まだあと数秒だ。今から――
「『咆炎晄々』――ッ!!!!!!!!!!!!!!」
『は?』
待て。
待て待て待てそれはおかしいだろ? 時間はまだあるよな?
灼熱。
俺は勘違いしてた。あの天上の焔は墜ちてくるんだと思ってた。
3分がブラフだった? それとも途中で切り上げた? どう切り抜ける?
――今目の前にある灼熱を。
炎球。いや、真に太陽。
かの帝王がこの大陸を開闢した【日】
この日差しが闇を暴き、ヒトはこの地を国とした。かの【日】は大地に豊穣を齎すのではなく、まずは敵の坩堝を灼き払った。その再現までにボストマンは到達してはおらず、焔は目を灼く程ではない。
だけど、それでもあの焔は、――この国の仇敵を灼き払うためにあることは違わず……、
っていう顔をしてから、俺はにゅるッと表情を変えた。
『じゃ、バトンタッチだ。オルハ』
「ああ。ありがとう、セイシロウ。――『第七工房』」
俺がやりたいことはやり切った。
良かったよホント、コイツに拒絶されなくて。
ああ、そうなんだ。
俺は三城征士郎って言うんだよ。
ずっと友達ヅラしてたちっぽけな相乗り野郎を、認めてくれてありがとう。本当に。




