intro.(C)
※ 前節最終章の A_Scene Of The Most Amazing In Paradise.にて、内容を一部変更いたしました。
キメラプラン → ニライカナイ提言
変更理由は、こっちの方がかっこいいからです。
よろしくお願いいたします。
冒険者。
それは、ヒトの身で遥か彼方を思い、いずれ到達する魂の呼び名である。
「……、……」
『母体』を打倒した『谷』に私たちの行く先を阻む者はいなかった。
私、エイリィン・トーラスライトは天蓋を目指す。
階層一つ一つを這うように登って、見果てぬように思えた天井へはすぐに到達できた。
天蓋。
掌で押せば、感触は曖昧だ。ボロボロと崩れて、道が開ける。
……傍らではメターフィアが私の戦闘行為を褒めたたえていた。
それに意識を割けないのは、私の冒険が悪路を選んだという自覚があるからだろう。
冒険者の勝利とは、はたしてこうだっただろうか?
私の知る冒険者各位の勝利はこうだったか? いや、騎士としての勝ちですら、これよりマシだったのではないか?
私は今、何かを守ったわけではない。何を挫いたかなら明白だ。それは、意図の芽吹きである。
さぁ、天蓋の先へ。
空は、――今、晴れる。
「……。」
におい。
これまでにも感じてきたにおいを、まずは思った。
天蓋を押した掌が、そのまま空を暴いた。
今や見返る必要もない地の底に、天蓋の構成物がガラゴロと落ちる。ソレと共に、液体が滑り落ちてきた。
その液体が、この匂いの正体だった。
油が腐ったような、風が朽ちたような、空が止まったようなむせ返るにおい。それは、奇妙な粘度を持つ液体の揮発である。天蓋に穴を開けると、それがズルズルと零れ落ちてきて、私の足元を濡らし、そのまま地の底に滑り落ちる。見れば、別の谷の天蓋を覆っていたうじゃうじゃが地の底に溜まっていて、滑り落ちた粘液に群がっていた。
そして、空。
――塗りたくったような曇天だ。
だけど、不思議と煌びやかで、その理由は私が地表に立った時に分かった。
においを放つ粘液が、地平までを満たしている。地は浅瀬のように透明である。塩の湖のように、遠く地平はそのまま空の模様を写し取っている。
地上と、地に空がある。もし今日が晴天なら、そこには抜けるような蒼があったはずだった。
だけど今日は、日和が違う。
粘土みたいな黄昏だった。日差しは不思議と、緑色を帯びているように見えた。
「ようこそ、トーラスライト」
「……、……」
その言葉を私は受け取った。
【冒険者】の極地たる『黄金』。
私が、彼の前に立つ資格を持っていないことは、すぐに分かった。
エイリィン・トーラスライト
――22/90
メタ―フィア・ガルルメシュ
――12/25
※次回更新までは少々お時間を頂きます。
よろしくお願いいたします。




