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楽園の王に告ぐ.  作者: sajho
第二章『ゴールド・エッグ_Ⅱ/You Lose.』
400/430

〈破〉-5


※物語的にはキリがいい一方で文量が少ないです。


 ですのでぜひ一言一句味わいながら、登場人物は何言ってんだろうなぁと気軽に考察しつつよく噛んで読んでいただきたく。今章で鹿住ハルが説明していない「説明されないと分かんないコト」は、この時点を以ってたった一つだけとなりました。






 ロビン・レイトリル氏の書置き。

 それは瓦礫の影に添えられるようにあったらしい。


 冒険者が同盟を組む際には、冒険者という粗野な印象の職業からは想像もできないような複雑な取り決めが付随する。一例としては、()()()()()()()。ヒトの領域外において伝言を残す場合には、「味方に見つけてもらうコト」と「敵に見つからないように隠すコト」を両立させる必要がある。この内の後者はヒトの敵対存在、――人種類として認められていない魔物属亜人のような知的敵対生物との知識のイタチごっこで、「見つけられ難い伝言/伝言を見つけるための方法論」が常に更新され続けているために基本的には最新の方法が常に採択される。


 一方で前者の、「味方に見つけてもらう」という目的においては事情が変わる。こちらについては、現在では『同盟の中央位置に近い人物』が()()()()()を以って決定してしまうのが主流である。


 大まかに言えば、地表の高さに隠すのか地上位置に隠すのか。

 色の暗い箇所に隠すのか明るい箇所に隠すのか。一つの空間の導線をいかに避けるのか。こういった幾つかの要素を組み合わせることで、冒険者の組む同盟は『書置きの隠し方』においてオリジナリティを得る。……逆に言えば、常に変えているということだ。これは曰く、昨日の友が今日も友軍であるとは限らないためらしい。


 私、エイリィン・トーラスライトは元来『冒険者同盟』には参加していなかったため、彼女らが如何にして書置きを隠していたのかは知らない。


 ゆえに私が見たのは、回収されて抜き身となった「伝言」である。




「……さて」




 場所は更に変わって、G-9箇所にもほど近い個室。

 部屋の雰囲気は先ほどの仮説セーフエリアと全く変わらない。『直観』的にこのダンジョンが凄絶な戦争と絶滅と共にあったと確信している今なら、この無機質な室内の意味もよく分かる。

 資源と、そもそもの文化自体の枯渇だ。ここの住人はきっと、部屋を飾るだけの物資が無くて、如何に部屋を飾るかのアイディアからして枯渇していたのだ。だから、この部屋のシンプルさはこんなにも寒々しい。




「状況が変わりました。提案した『智典教への接触』に再考の余地が生まれました」



 率直に言って頂きたい、とメターフィア。

 私はそれを、感情を伴わずに聞く。



「どう考えますか? 魔術の復権をあくまで重視すべきだと私は考えています。その上で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と私は考えます」


「……、……」



 やはり、私と彼女には考え方の違いがある。

 鹿住ハルをどれだけ重視するか。こういう風に状況が変わった場合、正直言って私には次の足が選びきれない。


 ……智典教にはアイツがいる。

 ドヤ顔で智典教の群れの殿から私に向かって親指を下げて見せたアイツは、たぶんあの時点で私に何かを隠す必要がなくなったのだ。だから勝利宣言(ブーサイン)をした。


 だからこそ思う。

 ――()()()()()()()()()()()()()()



「まず、……率直に答えるのは難しい。一度腰を据えましょう。お互いの考察を卓上に出すべきだ」


「……、」


「順を追ってになります。まず、現段階でのG-9について。この言伝を信用するなら、G-9は今『智典教』によって天蓋までの道が開通された、この迷宮で最も安全な轍になっている可能性が考慮されます。根拠は、智典教が()()()()()()という表現です。そのロビンさんを含めた同盟参加者の斥候は皆『智典教』の統率力に第一印象を覚えている。ならば、狩りにも人頭を消費しているでしょう。『智典教』がどれだけ()()()()()()()を重く見ているかによって正確な数字は変わるでしょうが、恐らくG-9には現在籠城人員以下の人数しか配置されていない。……戦術論として考慮されるのは、足止めに十分な人員のみの配置です。その上で狩りを行う本体は人海戦術的な拡散で以って周囲の『智典教』以外を索敵、発見した敵は拡散した『智典教』を都度で集合させて撃破する、というモノです。敢えてこれ以外の戦術を執ることはないでしょう。彼らが、天蓋への到達というアドバンテージを完全に捨てるのでないのなら」


「続けてください」


「ええ。……逆説的に、狩りを始めた最勢力はそういう自衛が可能なのです。敵を見つけたら近くにいる人員をその場で収集して圧し潰せるように、敵に()()()()()としても同じ手順で圧し潰せる。ここで考察すべきコトの一つとして、『智典教』が狩りを始めた理由を提案します」


「……、」


「手柄の独占か、混沌とした勢力図の整理かは不明ですが、この迷宮の真打的存在が確認されていない段階で競合勢力の削除を行う一手はない。もし討伐対象を確認したなら彼らはこのクエストで最も早く()()()()()()()()()ですから、つまり彼らはもう討伐対象への挑戦権を得て、その決戦場に立ってもいる。なら、いまさら火の粉を払うのではなく真打をさっさと討つべきでしょう。或いは、戦って勝てぬと踏んだなら他勢力を飲み込むべきだ。このクエストにおいては、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして、『智典教』はその悪手を行っている。なら、彼らには私たちには見えていない何らかの()()()()()()()がある。

 ――結論を言います。私は、先を急ぐべきであると考えます」



 さあ、意見が衝突した。

 結局のところ、私の考察は鹿住ハルに囚われている。アイツが私の考察のド真ん中にいるせいで、『智典教』の悪手を()()()()()と一笑に伏すことが出来ない。アイツが敵なせいで、全部の全部が伏線に見える。


 だけど、メターフィアは違う。私がこの狩りの非効率性を如何に解いたところで「判断ミスだ」と捉えられたらそこまでだ。さて、どう返してくる?



「……聞かせてください」


「ええ。無論です」


「私たちには見えていない前提条件が『智典教』には見えているとして、どうして先を急ぐべきであるとなるのです?」


「……、」



 ナイス質問である。

 そう聞いてほしくて、私はさっきの長口上を吐いていたのだ。



「答えとしては、――私たちが知らない前提条件を、彼らが知っているためです」


「……、」


「つまり、情報のフィールドに立てていない。『智典教』が参加者母数の削減行動を妥当性を以って選択したと言うのなら、……その妥当性が私たちには論理的に解釈できないと言うのなら、私たちには見えておらず彼らには言えているその『前提条件』は、一つの選択行動の妥当性を左右するほどの重要な要素だったと読めることになる。私たちが白だと思っていることが彼らにとっては黒であったとして、情報アド的に彼らの方が正しい可能性が高いなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ここから先なら、()()()()()()()。――今ここで行っている考察の全てが、天蓋に到達したという情報アドを手に入れた瞬間に無意味化する可能性があるのです。それほどのコペルニクス的転換を無くしては私たちと『智典教』の行動趣旨の違いは説明できないように私には思えます」


「では、……『智典教』がただ欲におぼれて悪手を選んだという可能性はありませんか?」


「断固、皆無()()()()しょう。貴方がたは、自分たちが上振れたという前提で行動を選択するのですか?」


「…………おっしゃる通りです。愚問でした」



 そこでメターフィアが、眉間を揉みこんで苦渋を作る。

 あの痛恨とした表情の奥には、数え切れぬ桁を以って行う四則演算があるはずだ。そうしてそれを積み重ねて、妥当と思われる未来予想図を書き上げる。どう見ても先走ったとしか思えない『智典教』の行動の、別軸での証明可能性を。


 そして、





「……………………はぁ。分かりました、理はあなたにある」



 と、彼女は言った。





「『智典教』のコントローラーが無能である可能性は常に視野に入れて、今は()()()()()()()()()()()()を重視すべきだと了解しました。しかし……」



 と、メターフィア。

 私はそれに視線のみで答えて、






()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「……、」






 その問いにだけは、私には答えることが出来なかった。

 ……あいつがこれだけ几帳面で偏執な理由は、私がこの場で紹介できるものではあるまい。


 ゆえに私は、「運が悪ければ」と、そのように答えるにとどめておくのだった。





















/break..





















『    。』


「あ、そう。じゃあ他の紙片は廃棄な」



 と、青年は気軽に虚空に話しかけた。

 据えた匂いの地下。それはとある密室である。


 寝具はなく、家具は最低限で、ドアはシルエットからしてマトモじゃない。おおよそ人が住む空間ではない箇所に、腰を落ち着けるのに適当な位置は存在しない。


 ゆえに彼は、立ったままその報告を聞いていた。

 ()()()()、それは音ではなかった。だから、彼は虚空に話しかけているように見えている。



「で、確認したか? どんな反応だった?」


『    。』


「へえ……?」



 その表情は些細な嗜虐と、旺盛なる知識欲によって構成されていた。

 しかしながら、その問いをした人物は嗜虐のみで表情を形作るべきでもあった。彼の貌に知識欲が介在したのは、()()()()()()()()()()()()()()


 その魂は、『青年』を全て理解しているわけではなかった。

 こういう時、『青年』は嫌味なき笑顔を作る。……本質的に言うのであれば、『青年』の笑みに嫌味が無いのは全ての生命を格下と確信しているためである。


 格下と()()()()()のなら、その表情には灰汁が混ざる。表情一つを切っ先として、それを一つの、敵対者に対するマウントの砲撃に変えるためである。つまり、砲撃の必要が無いのなら、表情は素直になる。


 敵が既に格下であるのなら、『青年』は率直に敵対者の挙動に賞賛を送る。それが敵対者の全身全霊の一手なら、自らの態度/反応から外連味は削除する。()()()()()()()()

 だけど、その魂はそこまで深く『青年』を理解してはいない。故に彼女は知識欲をベースに表情を作った。


 結果として、――彼女は殆ど『本物』と同じ返答を選び取るに至った。






()()()()()()()()()()()()()()()()()()()






『彼』がその言葉を選ぶとき、そこには圧倒的なる【主人公】への信頼がある。

【主人公】とは、馬鹿で利発で愚かで賢い。だから『青年』は、誇らしそうにそう呟くだろう。



 しかして、彼女もまた誇らしそうにそう呟いた。

『彼』とは違う彼女への敬愛が、『彼女』にはあるためだ。











()()











 彼、或いは彼女は言う。











「紙片の発見を幸運と飲み込むかな? それとも、もう一つ向こうの思惑に気付けるか? 

 ――待っているぞエイル。お前の大いなる遠回りに、俺は期待している」






 ズルは無しだ、と彼は言う。

 この物語の答え合わせは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


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