〈序〉-4
※ひとまず、これにて胸を張って書き溜めと言える部分は消化しまして、ここからはのんびり書いていこうと思います。
あくまで予定ですが、連続更新じゃなくて書き終わってみて先の展開との整合性に問題なさそうだなぁと思ったところから順次上げると思います。覚悟の準備をしておいてください。
(tale.)
冒険者の評価は、言い換えれば『人気』である。
グーグルのない世界におけるマジョリティは政府だ。逆説的に言えば、グーグルのない世界において最大手を入手した存在を『国主』と呼ぶとも出来るだろう。世界秩序は物々交換を高次元化することで金銭という概念を得て、煩雑な交換レートをシンプルにするために貨幣に依存する。ゆえに、貨幣が全ての競争の根幹を成すことは不可避であった。そして、競争はさらにシンプルになる。以上を資本主義の定義とする。
……よく資本主義の引き合いとして社会主義が引用されるが、ここで語る資本主義性はヒトの幸福を前提としていないことを了解してほしい。一個の国家が採択する主義を資本か社会かで語る場合には、国家内在の国民の最大幸福/効率運用をテーマに据えるが、ここではそれを度外視する。
ヒト種は利便性のために、全ての交換にカネを使用できるようにしたのだ。
そういう社会で「カネがすべてじゃない」などとは片腹が痛い。カネは全てだよ。諸君らは愛だなんだと不可視の概念をカネと交換できぬ物品として提案するが、それは視野が狭窄している。カネは、二次元的交換をヒトの領域に引きずり込むために存在する概念である。
一つの食をカネと交換する場合、諸君らは食材のみを買っているわけじゃない。調理の手間をカネで買い、調理時間をカネで買い、調理のスキルをカネで買い、食を享受するのに具合の良いテーブルの一時的な占有権をカネで買っている。ソレと同様だ。愛を市場に並べる概念を持たぬ程度にヒトは矮小であるだけで、愛を間接的にヒトは買える。少なくとも間接的に愛は売れる。諸君らはその愛を、カネを経ずにスタートさせることも維持することは出来ないだろう? 少なくとも食わねばヒトは死ぬのだから。
待った。自給自足する個人を引き合いに出すのは止してくれ。端から貨幣社会に喧嘩を売るつもりで生活形態をデザインしている奴らに大枠の概念が通じるわけがないんだから。だってそいつらは貨幣制度を否定しているために生きているんだろ? ビーガンが肉を食わないために生きているのと一緒だ。そういう手合いはそもそも社会の外に別の社会を築いているんだから、既存社会の枠組みで話をするのは不可能だ。今は、妥当性の話をしている。
妥当性、必然的にヒトはカネに依存する。カネを得たヤツはカネを得てないヤツよりも選べる選択肢が多い。だって諸君らは「カネを得たヤツがカネを得てないヤツよりも選べる選択肢が多いというルールに決めた社会」に住んでいるんだから。これは妥当だろう? その上で、それを極めたモノがあるコミュニティのトップに居座る。これを時代によっては、『政府』と呼ぶ。これも妥当だよな?
そして、やがて時代は変わる。カネと言うのは別にヒトの機能の一つじゃない。ただの後天的概念だ。これを勝ち負けの判断基準にしましょうと決めたのはヒトの意志であるからして、その意思が変われば多少状況は変わる。ただしヒト社会のカネ制度依存は永久不滅だ。アレが変えたのは、勝敗基準そのものではなく現行社会である。カネという勝敗結果に寄与する概念ではなく、情報という勝負経過に寄与する概念が社会に解放されたことで変わったのは、既存の勢力図のみだ。その世界において情報は占有出来るモノではなくなった。……実際には誰かが本気を出せば今からでも占有出来るのかもしれないが、重要なのはたった一度の爆発であった。
その生誕の火花が人々に第四の色を見せたのだ。
占有されていたらしい情報が一瞬きの間のみ露出したことで、ヒトは、情報は占有され得るものであると理解した。生まれてしまった概念/理解そのものを消すことはヒト風情には不可能である。かくして社会は再び混沌に墜ちた。
今、情報は生物と化した。
寿命が尽きるときとは情報が再び監禁されるその時である。それまで情報は吼えて回る。生ける非生命をコントロールできる者はいない。情報という「社会性生物を先天的に支配する概念」が解き放たれた時点で、後天的に生まれ落ちながら情報よりも価値を得たカネはただの交換ツールへと位置を正す。ヒトの自由はこれより産声を上げる。
……以上が、魔術なき社会の「情報」の価値であるとして、これは魔術のある社会でも変わらない。
魔術ある世界にもカネが生まれ落ちた時点で、全ての根源はカネである。カネの価値は「買えるコト」ではなく「混沌を一元化すること」であるからして、混沌の世界を抜け出し秩序の世界を見たヒト種がこれを放棄することは在り得ない。一度獣を脱した生物が再び獣となることはない。事実この世界では、太古のヒトは『カネ』を【悪魔/天使】に齎された/賜ったことで獣を脱出している。これは精神的な次元の推移であり、元の位置に戻ることは不可能だ。
だけど、当然魔術の有無で世界は変わる。
魔術なき世界のヒト種は個体差に乏しい。差異があるとすれば身体と頭の出来か運かくらいだ。一方で魔術ある世界では、イマジネーションの練度がそのまま世界を覆す。ゆえに個と個には覆しようのない差異が発生するだろう。かくして魔術世界における「情報」は、如何に誰かが占有しようと別の誰かがイマジネーション一つで蓋を開ける【鍵のない部屋】となった。これが一つの、この世界が実力専制主義に至ったまでの経緯である。情報自体は究極的には誰にでもアクセス可能であるゆえに、この世界では「そういう可能性に思い至る思考」を縛る必要があったためだ。この世界では、だからこそ真の実力者のみが世界の頂に立つ。社会制度風情でヒトの思考を完全に縛ることは不可能だから、禁忌の最奥を守るものどもは「ルール」ではなく、全てのケースにアドリブで対処出来る「今を生きる有機生命体」となる。
さて、
以上を前提に改めて、――冒険者の格を決めるのは『人気』である。
人気。つまりは情報の海への露出力。
魔術ある世界では既に情報の統制が困難を極めるが、ここに「世界の支配者」が二種いるとすればいよいよ統制は不可能となる。
このスカイライナーには『国家』と呼ばれるヒト類の基本コミュニティと同じレイヤーに『ギルド』と呼ばれる別のコミュニティが横たわっている。これを以って【王権】は分割され、この世界には今、直接的な【王】はいない。統率概念が二別しているのだから、情報の占有は不完全となる。情報を占有するだけの『カネ』を同水準で持つ二つの勢力がいるのだから、発生するのは寡占ではなく競争だった。そしてそれは今も終わらない。情報は今も、「一定以上のパワーを持つモノらなら自由にその場で操作できる」という形で以って虚空に吊り下げられたままである。
ある国のある地域では、異邦者の情報は開示されていた。
ある地域では、魔術の学習そのものが制限されていた。ある国では既存魔術を全て放棄し、第二の魔術群のみが運用されていた。ある種は、とある別種を不倶戴天とすることで【ある一つの魔術】を隠していた。ある宗教は上層部にのみアカシックレコードの正体を開示していた。ある国主は、全部初見のフリをしながら、前世で見てきた社会制度をそのまま模倣して一つの国を最速で大国とした。ある神さまは、敢えて不明瞭な問題文を設定した上で【領域】を作った。これらすべては、『情報』の【支配者が不在】であるために発生している事態である。
そして、――だから、支配下にない『情報』は広く世界に解放されてもいる。
ある国に、英雄が生まれたらしい。ある国では凄惨な戦争を、たった一人の少女が終わらせたらしい。ある悪逆の支配者に、遂に反旗を翻した青年団があるらしい。とある不治の病に、チェックメイトを宣言した医師がいるのだとか。一方が絶滅するほかに無いと思われた生存競争を、ある男がただ論破したことで終わらせたらしい。ある少女が人類敵である神を、その身を賭けて討伐したらしい。その少女は実はまだ生きていて、ある酒場で楽しそうに食事をしているのを目撃されたとか。
ヒトは、英雄が好きだ。
自分を直接的に救ってくれるものでなくても構わない。英雄の実在は世界の可能性の証明である。カッコいいヤツが実際にこの世界にいたのだと思えるだけで、ヒトはピンと背筋が伸びる。そいつに出来て自分に出来ぬ道理はないと、一瞬だけなら本気で思える。……だけどその道は過酷で、いつかその道をきっと諦めるだろう。それでも、問題はない。背筋を伸ばして歩いた道までが消えたわけではないのだから。
さて、以上を以って冒険者の価値は人気であると定義する。
……ああ、その前に捕捉を足しておこうか。
先ほどは適当に引き合いに出したビーガンだけど、私視点で言えばアレは歓迎したい文化だ。
牛を一食分育てるのにどれだけの草と水が必要か諸君らは知っているだろうか? 国を治めるモノとしては、人には出来るだけ草を食っていてもらったほうが都合が良いのだ。
「…………。」
ある『谷』にて、とある超人が兆しを受け取った。
そして、疾走。彼が超人と呼ばれた所以は、その性能である。
彼はヒトを越えていた。その超えた先には、魔物の領域があった。
首輪を受け入れたつもりはなかった。ただ、その疾走には敵討ちのごとき激情の熱量をした、友愛があったらしい。
「――こんばんわ、エイリィン・トーラスライト」
「……、……」
ティッツ・バルトガラン。
地平の向こうほども離れていた『別の谷』から現れた男に、エイリィン・トーラスライトは視線を向けた。
/break..
空のない天蓋を見ていた。
空気は結局、湿ったままだった。少し違うのは、ここには光があることだ。
うじゃうじゃ。うじゃうじゃ。
生理的な嫌悪感を催す集合体が、天蓋に群れているのが見えた。羽を捥がれた羽虫みたいに、そいつらは壁を張って無意味な移動行為を繰り返している。
アレは、恐らく私が『地下』で見たのと同じ起源を持つ別種である。
ただ、地下の半魚人くずれとは違って、上のアレはこちらに興味はないらしい。うじゃうじゃと天井のスキマを探して、うじゃうじゃと空を目指し蠢く。
一応最初は警戒を放り投げてみて、特に反応がないことを確認してから、私は孔から身体を出した。
匂い。これが一段強くなる。
臭い。獣臭や血臭さや腐った細胞の匂いではない。むしろ、有機的細胞とは真逆の何かが発する匂いである。塩やインクやプラスチックみたいな腐りようのないモノが腐ったみたいな、そんな臭気。
無味乾燥として等間隔に並ぶ光源は、そのままの味気無さでこの『渓谷』を照らしている。
それにて理解される広大さ。いや、これは私が登攀した地下とは比べるべくもない。深海に至る海峡のような絶縁の壁。これに挟まれているという感覚は希薄だ。この階層の壁同士の距離は、私が走っても一息には辿りつけないほどに見える。
以上。
これがおおよその状況検分だ。私ことエイリィン・トーラスライトは今、かような箇所に到達している。
「……、」
上体を孔から這い出すにあたって、私は当然孔の縁に手を置くことになる。
この感触が、やや奇妙だ。少し押せば崩れる程度の天蓋だったはずだが、手のひらに返る感触は硬質に尽きる。ただ、私はこの違和感にはひとまず蓋をして、急ぎ孔から脱出した。
少し悩んだのが、孔から脱出すべきであるのかだ。或いは孔の奥に深く潜るという選択肢も私にはあった。だけど、きっとほんの10秒先の私には、この上層最低階層ですら手島に感じることになる。
だから私は、孔から抜け出て、地に足をかけ、剣の柄に手を置いた。
――謹聴。音。
私は既に、何かの制空権内にいる。
その拳も凶器も術式も届かぬ遠方から、感情のみは抜き身で届く。
そいつはその感情で大いに、私の敵を名乗っている。
「……、……」
考察の必要がある。
私は思考に埋没する。
私はこの迷宮の『地下二階層』に転移したらしい。これを一つ、ヒトの気配が流石になさ過ぎた理由と見ればどうだ。多くの参加者は地下の一階層に転移したとすれば。
地下での探索はそれなりの時間を用いた。競合他者のいない探索は自由気ままで、だからこそ私は速度感を重視しなかった。自分がゆっくり探索できるのだから、他人も同様だろう、と。
しかし対案が生まれた。多くの参加者はこの一階層で、既に熾烈な競争を開始していて、既に終わらせてもいる可能性はないか?
だから、この敵意の持ち主は、競争相手に遮られることもなくまっすぐにこちらへ向かってきてる。
だとすれば、――この『敵意の持ち主』になり得る存在には、何人かの心当たりがある。
「――こんばんわ、エイリィン・トーラスライト」
「……、……」
その声は、超速度による接近を思わせぬ素っ気なさであった。
ゆえに私は、その人物の感情を図り損ねて視線を向けた。その人物の表情は無色であった。しかしながら、ゆえにこそ分かることがある。
――アイツ、キマってる。
「早速だが質問する。メターフィアが見当たらない。心当たりは端から敵だったアンタくらいしかいないワケなんだけど、――あの子はどこだ? 何をした?」
「……試しに、聞かせて欲しいのですが」
「は?」
……既に臨戦態勢の彼に、私は敢えて聞く。
「知らないし私じゃないと言ったら、あなたはどう答えますか……?」
「…。」
返事はなく、
――その代わり、ティッツ・バルトガランは足元に唾を吐いた。
/break..
この不詳世界の話をしよう。
ここはその名を、『ゴールドエッグケース.214』というらしい。
この世界の霊長は『液』であった。
それらは生命を種として謳歌し、完成を為して【問】に挑んだ。
そして、その果てがこれだった。敗因は一つ、この世界は平穏にして美しかった。
それゆえ、【領域】などを予期する暇もないほどに満ち足りていたらしい。
「……、……」
先に言っておくが、俺はこれ以上この世界について調べるつもりはない。
どうせ夢想。どうせ夢だ。実物主義たる俺たち人類は、今朝までに見た夢がどれだけ美しく波乱万丈だったとしてもそこに意味は見出さない。ソレと同様である。
俺としては、既にこのクエストの参加意義は断たれている。ハナからほんの小遣い稼ぎのつもりだったのだ。俺は別に【領域】の攻略に興味はないし、【世界】の方も俺に興味はないらしい。或いは、稲妻を暴かれたことを根に持っているのかもしれないがそれはそれ。
俺には今、この世界が雑誌巻末のクロスワードパズルに見えている。
コーヒーのアテになる甘味が底をついた時に気まぐれで触る脳のビタミン。或いは、解いても特別意味はないが、解く過程は楽しい数式の類だ。初めは、トーラスライトのガキかハワードのガキかがアクションを起こしてきたらそれに乗ってやるつもりだった。それ以下は神輿として脆弱すぎるので斬り捨てるとして、あの二人は親に縁がある。成長を眺めてやるのは吝かではなかった。
しかし、今はどうだ。
俺はすっかり、この舞台の中心である。
「…。」
どうせ夢想。どうせ夢だ。
暴君として振る舞って問題はあるまい。既にこの夢に、成立は在り得ない。
ここが夢でも幻でもなかったなら、俺は今すぐにでもカズミハルを潰しに行ったことだろう。
だけどここでなら、アイツのすることに少々の興味を覚える。そのために俺は舞台装置の役を買って出るわけだ。
さて、
「……。」
返事はなく、
――その代わり、ティッツ・バルトガランは足元に唾を吐いた。
既に一触即発に見える。
トーラスライトからは決定的な敵意は見出せないが、問題はバルトガランだ。あの様子でどうしてまだ戦闘が始まっていないのが分からない。
……いや、分かるか。
既に戦闘行為自体は始まっているのだ。考えてみれば、魔術さえ使えたならあの両者は共に同格である。超人ティッツが十分な警戒を用意するのは当然だ。
連中はこの場所の分析をどの程度進めているだろうか。
魔術が使えないということ自体は把握しているんだろうが、使える魔術もあるという部分は果たして?
それが仮に済んでいたなら、バルトガランがトーラスライトに警戒を向ける必要はないはずだ。彼らの分析は恐らく相当な手前段階にある。
さて、この迷宮内では基本的に世界魔力との接続が出来ない。
それゆえに既存の魔術が成立しない。つまり体内魔力を用いる魔術であれば問題なく成立するわけだが、翻って世界魔力そのものについて。
まず、俺たちには先天的に魔力を見る視野が備わっている。と言ってもこれらは目視そのものというよりも認知に近い。見えるのではなく『見えたのに近い感覚を伴って認識が出来る』というモノである。
だからこのクエストの参加者らは、初めはこの空間が魔術を使用できないことに気付けなかったはずだ。無論俺も含めて。ちゃんを見えているわけじゃないから、なんだかいつもとは違ってもそうだと断じるまでにはいかない。そもそもこの迷宮内にも『魔力に類するもの』はあるのだ。だから最初は、どうして魔術が使えないのかが分からない。
そしてそれは、魔術未満の『魔力技術』においても同様だ。
魔術師同士の間合いには特殊なメモリが存在する。剣を手にせず行う戦闘には不可視の制空権があって然る。魔術師には、それを第六感的に認識する機能がある。……俺からすれば、そんなものを第六感なんてスピリチュアルに収めたままで平気な魔術史自体に言いたいことがあるが、俺もその参加者の一人なので不平を吐く権利はあるまい。とかく、魔力・魔素とはこの世界における実在を証明されたダークマターである。
……だから、あの戦闘は膠着する。
根拠が不明瞭な『第六感』は世界が前提を違えた時点でエラーを起こす。しかもそのエラーをエラーだと認識することすら難しい。理性を使えば即座に解決出来る問題だろうに、シシオのガキは相当甘やかしてあのガキを育てたと見える。バルトガランの方は……、相方のガキにその辺を頼っていたのだろう。メターフィア・ガルルメシュはそれなりに有能なガキだったしな。
さぁ、分析は十分だろう。連中はどう出るか。
俺の見立てじゃ、先に出るのはトーラスライトだ。アレがシシオの血を継いでるなら、自分が酷い窮地にあることくらいは第六感抜きで理解してもらわないとな。
「バルトガラン氏。聞いてほしい」
「待てよ? アンタもしかして、隙だらけなんじゃないの?」
「っ! ……。」
トーラスライトが何かするつもりだったらしい。対話か懐柔か時間稼ぎかは不明だが、その目論見はひとまず失敗したようだ。
しかし、一方でバルトガランだ。アイツの目的が分からない。隙だらけだと理解しているのならそのまま攻め込めばいいだろうに。まさかトーラスライトが日和っているのを見てなお戦力差を図り損ねているのか?
にじり、とバルトガランが動いた。それに合わせてトーラスライトも移動する。結果、両者の距離に変化はない。
「……では」
「…、」
言って、トーラスライトが再度動いた。
……俺からはどう見ても悪手なんだが、アレでもシシオの孫でレオンのガキだ。あの行動にも俺のような老害には見通せない何かがあるのかもしれない。
ガキが、剣を抜いて、置いた。
置いたというよりは、地面に刺したが正しいかもしれないが、とかくそうした。……そのクセ視線が肉食獣を見るそれだ。俺がバルトガランなら、今度こそ必勝を嗅ぎ付けて踏み込むが、どうかな?
「……なんのつもりだ」
「見ていただいている通りです。私たちは競争相手ですが、不倶戴天というわけではない」
「街のほうじゃ喧嘩を売ったのはアンタだよな……?」
「それを承知で申しております。望むのならクエストの終了以後に正式に謝罪をします。この場で認めます。間違っていたのは私でした。……その上で申します。協力を、致しませんか?」
「……、……」
……は?
泣き落としだと? ふざけんなよつまんねぇな……。
「あなたは、この下を既に見ていますか?」
「……なに?」
「(……。)」
いや待て、まだ何かあるか?
「私は見ました。このクエストは、協力が不可欠です。私の行いはそういった意味でも間違いでした」
「……下? 上じゃなくて?」
「ええ。下ですよ。――この世界の最奥が在る場所は」
へぇ? ほぉ? ふうん……。
悪くないな。悪くない悪意だ。外連味があっていいじゃないか。あのガキがこの下にあるモンなんて何も見てないってのは、俺みたいに外側から見てないと分からないだろうな。どうせあいつはシシオの血筋だ。まっすぐ目を見られたら嘘偽りなんてまるでないように見えるんだろ? 馬鹿が。
トーラスライトの騎士ってのは、傍から見るとああ見えるんだな。胸を張って、後ろに回した手は強く握ってる。全身の血液がそこに回ってるみたいに強く握りしめていて、その分ってわけではないんだろうが頬は白く、瞳は透明になる。
あれこそが騎士だよな。自分の虚勢を、自分が最初に信じてやる。するとそれは事実になる。
それで、バルトガランはひとまず揺らいでいた。何を言うべきかをためらったような態度を取って、一拍の逡巡。そして口を開こうとする。
次に言う言葉が、その趣旨が俺には分かる。俺たち人類は言葉を発するときに大抵はその言葉のオチまでを何となく脳裏に描いているものであるからだ。そして、それは俺視点で言うとやや面倒な内容でもあった。
――では、さてと。
そろそろ、茶化しに出ようか。
「どうも」
それで理解した。バルトガランが動かなかった理由の一部は俺だ。
評価を修正しておこう。気付かれてるとは思わなかった。バルトガランが、挨拶をしただけの俺に向かって敵意を込めた一歩を踏み込んだ。
超人ティッツ。その本領は魔物の領域に在る。
ヤツの心臓は『獅子』のモノであるらしい。内臓が人外である結果、アイツは理論上人類魔術以下であるべきはずの魔物魔術を以てして、人類の先端に立つ一人となった。
……らしいんだが、概ね俺の想定通りだった。
バルトガランの本領と本気を、俺の本領は問題なく真正面から打ち砕くのだった。
「――起動。」
/break..
私が傍観者となるのは、思えば、久しぶりの事だった。
「――。」
『黄金』
あるいはエメラルダス。
後者が本名であるのかすら不明。しかしその名は、特に騎士において広く知られている。
理由は簡単だ。その名が騎士の教科書に載っているためである。
彼は、稲妻を開闢した魔術師である。
『九頭龍』のような夢想の雷ではなく、真に解剖された電気として彼は落雷を説明した。
ヒトが神意を見出すソレが、彼には天候の一つにしか見えなかったらしい。そして、その証明は『神』がかようにありふれてなどいないことの証左でもあった。彼の数式は、稲妻の存在証明であると同時に『空』に神は不在であることの証明だった。ただし、彼自身の感情は人類史においては蛇足の類だ。
重要なのは、彼が齎した魔術。
『雷魔術/雷属性魔術/雷体系魔術』と呼ばれるその魔術は、現代では全ての騎士の基本術式となっている。ゆえに彼を騎士は「始祖の騎士」の一人に数えることもある。ただ、そのままその言葉で呼ぶことはない。彼を現す言葉は『黄金』である。
老獪。いや、老いてなお若々しいというべきか。
狡猾なのではなく、執拗なのだ。1の仇には10を返すという粘着質な熱量が彼にはあった。だけどそれは、人格が歪んでいるからじゃない。
――きっと、舐められるのが心の底から気に食わないだけだ。
社会を知らぬ青年のごとき激情。許す必要がない敵意を心の底から許さぬことのできる青春。憎しむのは疲れるからなんてつまらない理由で抗戦をやめたりなんて絶対にしない瑞々しさ。これをヒトは『黄金』と名付けた。
……或いは精神性なんて関係なく、彼が使う魔術が絢爛豪奢であることが由来なのかもしれないけれど、それは個人の判断だ。とかく、『黄金』たる騎士エメラルダスという男がこの世界にいて、
「どうも」
今は、私たちの目前にいる。
私とティッツ・バルトガランの立つ舞台を一望出来て、私たちと同様の目線でもある箇所だ。
歪な円状をしたこのフロアの適当な縁に腰掛けて、脚を組み、膝に肘を立てて顎を置いていた。手元にポップコーンを幻視できそうなほどの観戦のポーズである。ジジイとは思えぬほど感情に潤ったニヤつき顔で、その老人は私たちを見ていた。
……つまり、私は呆けていたわけだ。
第三者の介入を以って、私はまず状況の再分析を始めた。これ自体はどうしようもないが、これでは遅いのも同時に事実である。現時点というモノが分からなくなった私は状況を改めるほかに無いけれど、その私をして正しい行動を選んだのはティッツだと確信する。
つまり、――疾走。
いや、あれはもはや跳躍だ。たった三歩でティッツは『黄金』の目前へ踊り出した。その手には既に武装、『大小二対の片刃剣』が現出している。武装を魔術で作り出した名残が魔力残滓となって、彼の轍を虚空に残す。『黄金』は、顎を置いていた手の甲を、
――ティッツに向けて、人差し指を差した。
「起動。『竜条紫槍.imt』」
雷撃。
この世界では起こり得るはずのない現象が起きた。
老人の指先から、雷が熾きた。それは大気を飲み、膨張して、龍となった。
交錯は一瞬きのうちに完結した。ただし、その一瞬きには世界が一つ終わるほどの情報量があったと思う。ティッツが何かを理解した。『黄金』は笑んでいた。その表情には何かを試すような嗜虐があった。ゆえにティッツには理解できた。先の詠唱はなんのブラフでもなく、出来ることを出来ると宣言する行為に他ならぬと。だからティッツは、それが成立する前に成立した前提で動いていた。『竜条紫槍』は数瞬のみ成立する龍の生命を生み出す魔術である。その魔術は、生命であるために自律する。思考し、その生涯の意味を為すために動く。あるモノを穿つための生命を為すために龍は産声を上げるのだ。それが鳴り響いた頃、既にティッツは二手先の盤面に干渉するための行動を行っていた。
魔術が成立する意味は分からない。だけど、きっとこれは成立する。なら前提が変わる。迎える魔術に対する対処を、ティッツは魔術を抜きにして行う必要がある。
ここで、彼の通り名だ。超人ティッツはヒトを超える。彼は、その身の裡に魔力を循環した。加速。加速加速。回る輪廻はそのたび強度を更新する。存在価値を、理由を、その証明を。この世界に魔術は確かに成立しないのだろうが、こちらの世界ではどうか?
竜が迫る。咢を開く。ティッツの接近は既にトップスピードで搦め手を介入させる余力はない。その状況にて思考のみが浮き上がる。コンマ1秒ごとに状況は変わるが、思考の速度はその先を行っていた。傍観者たる私は、その速度に追いついてはいなかった。
原因の直後に結果があった。
間違いなくティッツは何かの一手を打ったはずだった。だけど、結果的にティッツは竜の咢に空中にて捕食された。
「――――――ッ!!!!!????????」
数十メートルを一気にゼロにするはずだった跳躍の推力が虚空にて対消滅した。
然る後、稲妻。ピシャリと短い轟音。瞬きは刹那であった。然してその音が、光が脳裏に焼き付いている。そのスパークに眩暈を覚えながら私が戦場を再度見ると、そこには黒焦げになったティッツがいた。
四肢から火が燻っている。肌が炭化している。竜の牙の形に身体が穿たれている。
ただ、その目だけは輝いているように見えた。ティッツの身体が、蛇の脱皮みたいに炭化した表皮を新陳代謝てた。
サラサラと彼の身体のカケラが空気に舞っていた。それらは未だ熱を帯びていて、空に紛れる端から炎上する。結果彼は、火の粉を帯びながら地に墜落して、そこにて足を撓んだ。
その視線にはギラギラの敵意。それを受け止める『黄金』の表情は変わらない。ティッツが、その後ろ足に溜めた力を弾き出す。疾走の一歩目が地を放射状に割って、『黄金』は「破花.imt」と唱えた。
――ガインッ!!!! と、衝突音の桁に収まりきらないような轟音が響いた。気付いた時点でティッツは、その稲妻の槌の着弾を受けて姿を消していた。目眩くほどの光と質量がティッツの姿を失わせたのだ。光が名残に代わる刹那、その災害の中心地点から何かが飛び出す。ティッツだ。その四肢には先の雷が未だ纏わりついていて、鮮血が散った先から燃えて灰になっている。これだけの損傷を受けてなお、ティッツの視線に陰りはない。その刃は今、『黄金』の首元に届く――!
否。
「『雷の掌.imt』」
それは、バケツ一杯の水を一気にひっくり返したような落雷であった。
ぴしゃりと地面に落ちて、跳ねて、飛沫が周囲に撒き散らされる。そういった質の落雷だ。それをティッツが頭から浴びた。今度こそティッツの姿が、一片も残さず落雷によって塗りつぶされた。
あの術式は知っている。あの術式は、神の裁きの再現である。
通り過ぎるのみの風も桁を違えば『壁』を為すように、その雷は天上から降りて地を握る掌となる。雷撃による熱傷ではない。その術式は質量を以って墜落地点を圧して、潰す。
光の間際にティッツの姿が見えた。彼の姿が潰れる光景が一瞬だけ。そして、これまでとは桁違いの光が暗がりの地下空間を地平の先まで埋め尽くす。
――余韻。
耳を真っ白に塗りつぶしていたナニカが、その質量を摩耗したことで「音量」へと立ち戻る。結果この空間には、鳴ったはずの音の残響のみがあった。世界が太陽を失った一日目の日のように、灼けた網膜が空間を一層暗く描写する。ティッツが、その消失跡ド真ん中にて今、膝から崩れ落ちた。
……そして、
代謝のような回復反応は、今度は確認できない。
「……、」
燻るように動いているのは分かる。だけど、その姿はどう見ても焼死体だ。捲り返しの芽があるようには見えない。『黄金』が今、その指を降ろす。
それを、
――待っていた、なんて訳がない。
回復反応。鮮血を撒き散らしながらティッツは、既に疾走を再開していた。
ゾンビみたいな姿だった。半身のみが肉体の体裁を取り戻していて、もう半身は炭のままだ。肌を失ったままの口角を彼は上げていて、その笑みは実に壮絶で、魔物の王のようであった。
とかく、敵は武器を降ろした。
ならば契機である。このスキに殺そう。そういった質の表情に私には見えた。
「…。」
ティッツ・バルトガラン。
騎士を捨てるつもりのない半端モノの冒険者でも知っている有力者の一人だ。
その本質は『冒険』にて発揮される本領。彼はその性質を好ましく思っているわけではないらしいが、彼は本質として『魔物』である。
『魔物』の定義は実にシンプルだ。その「個」が世界魔力と対話すべきかしないべきか。この内で「対話を絶対条件とはしないモノ」を『魔物』と呼ぶ。翻って魔物にも『ヒト魔術』は使えるし、つまるところ『魔物』は、『魔物以外』よりも出来ること自体は多いのだ。
ティッツは頭のいい人間だ。ヒトとのコミュニケーション自体は快いと思っていないらしい風だが、それはそれとして最善策を思いつくことは出来る。その証左、ないし功績として彼は冒険者を先導する『一級冒険者という立場』に就いている。それでも、彼の本領は『冒険』の最中にある。
『冒険』
つまり、『ヒト』の領域外への遠征である。
そこに巣食うものどもは世界との対話を必要とせず、体内を世界に見立てることで魔術/願望を現実に再現する。ヒトは、見知らぬ環境とも対話をせねば魔術を為せない。
……そんな前提で、ヒトの身で世界と対話せずに環境を蹂躙する王がいたなら、それを評価できるのは、それを実際に見て見惚れた冒険者たちだけである。
嗚呼、『王』である。
普段の彼からは想像も出来ぬ。相方の冒険者少女にコミュニケーションの舵を明け渡し、見るからに陰気でヒトの中心に立つ質には見えぬ彼とは似ても似つかぬ。
――超人、王として異環境を蹂躙するには、可視化するほどのエゴが要る。
「――――ッッッ!!!!!!!!!!!!」
身体の回復は間に合っていない。
彼の拳は、未だ届く距離じゃない。ゆえに彼は滴るほどの闘争心を込めたその視線で、
――私を見た。
「――。」
その視線の意味が、私にはすぐに分かった。
だから、剣を取ろうとした。だけど戦場は、私が動くよりも早く完結した。
/break..
……その戦闘には刹那一つ一つに黄金ほどの価値があったのだろうが、起きた事象自体はシンプルだ。
まず、エメラルダスが名乗った。それに超反応を返したティッツはエメラルダスに向かって跳躍し、その一跳びのうちにティッツは三度、雷撃の直撃に見舞われた。
ティッツの身体はそのたびに燃えて、回復し、燃えて、回復し、燃えた。三度目の回復は、これまでの勢いでとは行かなかったらしい。これが、一つの跳躍から着地までに起きた出来事である。
ゆえに、『黄金』は未だ岩縁のような段差に腰を据えたままである。脚を組み、その膝に肘を置いて、シネマをフランクに注視するような格好で状況を見ている。スクリーン越しの悲劇に、カタルシスを覚え切れなかった観客のような表情で。
つまりは、
「……、」
――冷笑。
三文芝居のクライマックスに、大根役者同士が空前絶後のつもりらしい大恋愛を叶えるその瞬間を、悪意を以って見るようにして、彼はティッツを見ている。
つまらない止まりなら、彼はただ席を離れただろう。
その視線には、嗜虐があった。
「『虎々虎.imt』」
ティッツの視線が後ろに向いたのを黄金は見ていた。無論、その思惑は即座に理解できた。だからこその一手である。つまり、嬲るという行為には大別して二つの手法がある。
――今、魔術が成立した。
黄金の使用した魔術は、まず地に墜ちた。
底に溜まり形を成す。それは疑似の生命である。
竜条紫槍を連ねる体系の一節。
或るアルケミストは、稲妻を生命に見立てた。
『――ru.rororo..』
それは、稲妻の虎である。
虎は創造主の元に墜ちて、創造主に恭しく首を垂れた。ティッツ・バルトガランは、半焼死体のままで黄金へと奔っている。――ティッツの拳の内部が、白く朱く光を放つ。
「――必ッ殺ッ!!!」
「……嘘だろ。今『必殺』って言ったのかお前?」
虎が、ティッツを組み伏せた。
ティッツの拳の内熱は、行き場を失い硝煙を吐いた。
……さて、嬲るという行為には二つの手法がある。
つまりは、彼我の力差を明確にする前に行うのか、明確にした後に行うのか。
エメラルダスが選んだのは後者である。
既に戦闘は終了していて、残りは捕食行為であった。
「――――ッ!! ッ!!!!!! ッ!!!???????!!!!!」
「……ははは」
黄金は笑う。
脚を組み、片肘を顎に付いたまま、死ぬと思っていたヤツが予想通り死ぬ脚本に失笑するように。
「ティッツ・バルなんとか。……お前は勉強不足だ。どうして人類が世界魔力を発見したのかを理解していないらしい。魔物風情の魔術をな、脱出したのだ、人類は。どうしてまだ頼っている?」
「ぉ、ぉおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
「無理だよ。止せ。怒鳴って捲り返せる盤面だと思うか? それとも苦痛を受け入れてでも延命したいのか、後ろのトーラスライトのために」
と彼は少女の名を出して、それで思い出して少女を見た。
……さすがはトーラスライトだ、と彼は思う。この光景を見てなお、彼女は臆さずにこちらに接近している。虎を斬るための彼女の武装は、シシオが使っていた剣の型落ちの型落ちみたいな粗悪な剣だ。黄金はその剣に指を差し、雷を撃って弾き飛ばした。
……ただし、それ風情で少女が気後れするわけもなかった。彼女は空き手のままで虎に奔っている。雷を以って、黄金は彼女自身の胎を撃ち抜いた。
「下がってろトーラスライト。……待てよ? 俺が分かるか? お前のジジイには世話になったが、そういえばお前とは初見だな? どうだ、分かるか?」
その問いに彼女は、黄金の名を答えた。
「分かるならいい。そこで蹲ってろ雑魚。そういえばお前、トーラスライト。上は見たか? まだだろ。見てくると良い。面白いぞ」
黄金の軽い口調に、トーラスライトは威勢を伴った口上を返したらしい。が、彼女の呻き声はティッツ・バルトガランの悲鳴に埋もれて判然としない。
捕食されるモノの声。生きたまま内臓を食われるモノの悲鳴だ。
ただし、未だそれは英雄と呼ばれるべきモノの矜持を帯びていた。
まだ戦闘が終わっていないと思っているヤツの声だ。敵を斬る前の威勢にも似ている。それが少しずつ、変わる。
抜き身になる。本能となる。悲壮となる。
かくして声は、絶叫となる。
「ァぁァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……」
「はははは」
向こうでトーラスライトが何かを言っていた。残念ながらよく聞こえないが。
ただ、表情を見れば大体内容に察しはつく。十中八九で倫理ベースのディベートの誘いだろう。黄金はそれに失笑を返しておく。
「さて、トーラスライト。お前を殺さないのはな」
トーラスライトは何かを答えた。が、よく聞き取れなかった。
ゆえに何も答えていないものとして黄金は続けた。
「俺が、トーラスライトに借りがあるからだ。分かるかガキ」
絶叫が小さくなる。萎んでいく。
ただ、それで興味が生まれるわけでもない。黄金はティッツから意識を切った。
「さっきの虚勢は良かったぞ。確かに俺たちは誰もここに下があるなんて知らなかった。一人の探索でよく見つけたもんだ。教えてくれよ、本当は何を見た?」
返答はない。
ゆえに黄金は、意に返さず続ける。
「何もなかったんじゃないのか? あったらブラフよりも良いマネが出来るはずだよな。まぁ、応えなくていい。この目で確かめてくるからな」
膝に置いていた肘を、彼は下げた。
やや前傾がちだった姿勢を正し、腰をほぐすように少し後ろに身体を倒して、
――そのまま、彼はトーラスライトを見下して言う。
「どうせこのクエストはもう終わりだ。お前の連れのカズミとかいうバカのせいでな。お前も楽しむ方に切り替えたほうが利口だぞトーラスライト。どうせ、ホラ、それだ」
と、黄金は虎の足元を顎で指した。
否。そこには既に虎も、その捕食対象もいない。
――全くが、痕跡から消滅している。
「ほらな? ま、分からなかったら考えろ。
それじゃ、少ししたら潰しに来るから、それまで冒険を愉しんでくれ。
――それではクエストスタートだ。張り切って頑張れ」
そう言って彼は組んだ脚を解いた。
そして、術式を一つ。彼の姿はそれを以って、光の名残のみを残して消えた。
※ちなみに順次更新予定としているのは、当初準備していた展開が膨れ上がって予定文字数の推定三倍くらいになったからです。不思議な事ってあるモノですね。急いで書きます。




