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楽園の王に告ぐ.  作者: sajho
第二章『ゴールド・エッグ_Ⅱ/You Lose.』
388/430

Part._B『 ゴールドエッグ_前編』

※ぼっちざろっく素敵でしたね。




 ――今日、ゴールドエッグ・クエストは始まるらしい。



 その報せを受けたのは今より一時間前。

 私、エイリィン・トーラスライトは指示された場所の門を潜る。


 領事館正門前。

 冬の日差しが溌溂と降りる午前10時。既に、それなりの数の冒険者がそこに集まっていた。






「……、……」






 そして、私たちの背後。

 門の外には、


 ――国一つ分の人間が、見物客として参加している。






「(……酷い騒音(おと)だ)」




 騎士を見送る声援なら幾らでも力になるが、これは少々居心地が悪い。

 だから、私は心を切った。



 ――周囲の、錚々たる冒険者。

 ()()()()()()()()()()()()()()の視線を避けるための処置という側面も、もちろんある。
















「――どうも、エイリィン・トーラスライトさん」


「……どうも」
















 参加者のうち一人が、私に声をかけてくる。

 私はそれに、熱量なく言葉を返す。


 ――声援。色とりどりの喝采。背後の歓声。

 これらがふと、摺りガラス越しのようにモザイクとなった感覚があった。壁も天井もない庭園の最中で、外気がふと遠くなる。



 慣れ親しんだ感覚だ。これは、()()()()()()()()()()()()()()()






「健在のようで何よりです。メターフィア・ガルルメシュ殿」


「殿? ……健在のよう? 思ってたよりずっとユーモアのある騎士様なんですね」






 亜麻色の髪と涼し気な瞳。

 戦いを行うモノではなく、戦いを止めるモノの顔をした少女。……ただしそれは()()()()だけだ。彼女は、私が本気で切り崩そうとして詰め切れなかった強者である。




「その節はどうも、騎士様。良ければこの縁に聞かせてください。私たちはあなたに、何か失礼をしてしまったのでしょうか」


「……」




 少女の清貧さで彼女は言った。

 ただし、その横顔は庇護欲を浮かべるべきものではない。


 先頭に立つ聖女のそれではなく、ヒトの行く先を占う巫女の立ち居姿。ゆえに、彼女に感じるべきなのは『正義』である。それも、暴力的な『執行される正義』ではなく、ヒトが皆求め、しかし壁は高く、時には諦め、それでも胸のうちには常にある『先天的な正義』。


 そんなにも透明(クリア)な表情をしながら、彼女は上手く敵意を弄んでいるようにも見えた。






「なにか、私かティッツが気に食わないことをしてしまいましたか?」


「いえ。貴方がたは、ただの競争相手でしょう?」






 私が言うと、彼女は笑った。モザイク調の背景と曖昧になった歓声の最中にて、彼女が喉を鳴らす鈴のような声だけはハッキリとしている。


 私は、……この時点で自分が陥っている状況の一端を理解した。




「(嗚呼、私は――)」






 ――どうやら、今回も。
















「(ハルにハメられたっぽいなぁ……(遠い目))」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。お覚悟を。ティッツの首輪は外しておきますので」















 聞いてた話と違うんだよなぁ。

 このメターフィアさんが競争相手を蹴落とすために暴れ回ってて大変だって話聞いたから私ゲリラ戦仕掛けてたんだけど多分これ違うよね。だって後ろの観客が全員私にブーイングしてるもんね。ほんとこれが心に来るんだよぅ……。




「……一応聞きます、謝ったら許してくれますか?」


「そこの地面に唾を吐いて差し上げるでしょうね」


「……………………聞いてみただけでよかったデス」




 さて、この場には彼女ことメターフィアを含めた錚々たるメンツが揃い踏んでいる。

『黄金』のエメラルダスと『超人』ティッツを始めとした有力冒険者。それと向こうの、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ……智典教の衣裳に見えるが、アイツら全員が本当にグルで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、冒険者アヤメの姿が確認できない今、あの群れこそが頭一つ飛びぬけてこのクエストの最有力候補となる。


 そして、そいつら全員が迷惑なヤツを見る目で私を見ている。

 ……いやでも、私は思うけどね。私が蹴落とし合いの口火を切ったってだけで私がやんなくても誰かがやってた。絶対にね。だから私は泥を被ったってだけなんだけどね。その事実にみんな気付いてないんだなぁ。可哀そうだなぁ。でも敢えて言ったりはしないけどなぁ。私ってば騎士だから泥を被ろうと誇りは燦然と輝くし、民のためを思えばむしろ泥は積極的に被っていくべきだし。あーあみんな私に救われているって事実に気付いてなくて気の毒だなぁ!!!!!




「(…………(泣))」




 さてと。


 ――今、最後の一人らしい人物が門を潜り抜けてきた。

 たった一時間そこらでよく1,000人規模の人間が集まったモノだが、私はそんなささやかな感動には目もくれずその最後の一人に中指を立てる。と、そいつはヘラヘラしながら私に向けて親指を突き下ろした。


 ……ちなみに、これだけの速度感でヒトが集まった理由の一端には「準備は無用」という奇妙なクエスト説明がある。それについての詳細は、これからクエストの依頼者が言及することになるだろう。




「――。」



 胸の裡の涙を拭いて、私は庭園の最奥を見る。

 ――耳鳴りのようなスピーカーノイズ。それに背後の観衆が、何かの訪れを待つ様に静寂を吐き出す。


 熱い息のように、青嵐前夜のように、稲妻の直前のように、――声を上げる寸前に、大きく息を吸い込むように。


 そして、






『――領民諸君』



「――――。」











『――これより、ゴールドエッグクエストの開催を宣言する』


「「「「「「――――――ッ!!!!!!!!!!」」」」」」











 人気あって羨ましいなぁ……。
















『クエスト/【ゴールドエッグ・クエスト】


 クエスト等級:Gold.


 制限時間  :なし

 参加条件  :選考済み(準備無用)

 報酬    :708,920,800ウィル

        及び ゴールドクエスト達成実績

 達成条件  :当該迷宮の攻略/要因エネミーの討伐



 ――クエスト・スタート』




※ということで更新再開です。

 次回更新は最長で一週間後となります。ただもうちょい刻みたいよなぁとも思っておりますので、ブクマしといて頂けると素敵なサプライズが通知される可能性がありますよ!

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