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楽園の王に告ぐ.  作者: sajho
第二章『英雄の国』
36/430

3-5

※本日この後、もう一話投稿する予定です。

 あまりお待たせはしないつもりですので、どうぞよろしくお願いいたします。

05


 ずちゃんっ! と、

 響いているのか乾いているのかも判然としない音が響く。

 俺はその、自分の身体から響く音を、しかししっかりと聴覚に捉える。

「……、……」

 これが「高度四千メートルから落ちた肉の塊が出す音」なのかーと俺は、恐らくは一生役には立たないであろう知識をそれでも一応脳髄に仕舞いこんで、

そして改めて周囲を確認した。

 ――森、である。

 それしか分からない。

「……。ここ、どこだ?」

 俺はどうしようもなく、俺が今しがた来た空を仰いで、そう呟いた。


 ……まず初めに、

エイルはあの「輸送手段」のことを()()()()()()()()と言った。

 それで分かるのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということである。そこについては、以降のやり取りで確信に変わる。なにせあの態度、「常世の地獄」と言い放ったあの表情には、一種染みついたようなニュアンスがあった。

 ゆえに、「このこと」が明白となる。

 つまり、――あのシステムは真に、公国騎士にとって日常的なものであるということが、だ。

「……。」

 俺の世界の飛行機をイメージしよう。マーフィーの法則ではないが、墜ちる可能性のあるものは必ず墜ちる。ゆえに俺の世界において、飛行機という乗り物には必ずパラシュートがあった。

 しかしながら、あのコンテナにはそのような物はない。ならばそこには、パラシュート「は」置いていない、というこの世界なりの事情があるに違いない。

 なにせ、どんな法則を敷いた世界にだってマーフィーの法則は存在する。どのような物理法則においても必ず在るべき真理こそは、「一〇〇パーセントは存在しない」という概念であろう。

 ゆえに、この世界においても前提は変わらない。

 パラシュートがないなら、「その他の事前準備」で以って墜落を予想しているだけのことだ。

 以上を以って俺は、エイルには緊急回避の手段があると「仮定」する。

 ――問題は、彼女が半ばまで生存を諦めていたという一点であった。

「……、……」

 確かに、

 あの情景は美しかった。

 抽象的な暖色に染まる地平線。見上げれば彼方まで濃度を上げていく空の「青」。魂を刻むほどに冷たい風に、身体の芯までを圧迫するような、強い沈黙みみなり

 死ぬには最高のロケーションだ。俺だって、生と死を秤にかける役に当たれば気の迷いを起こす。

 しかしながら、なにせそう、()()()()()()

 彼女らがいなくなっても、俺は生き延びる。ならば、協力者がいなくなるのは困る。エイルにせよリベットにせよ、彼女らを無為に失うというのは悪手でしかない。だから助ける他にない。

 それゆえに、俺は、

 以上の前提条件で以って利害を図り、結論としては彼女らを助けることにして、そして、()()()()()()()

 ――行ったのは、自爆の温度高化による上昇気流の発生である。俺は高空落下を速めるため姿勢を正し、彼女らよりも(計算上だが)一、五倍から二倍程度の速度で地上に接近した。そうして、彼女らが爆発の効果範囲を抜けた辺りで自爆を行った。

 無論ながら、これはただの延命措置である。上昇気流で多少降下速度の緩和があったとしても、以前この一手では彼女らを救う確信までには至らない。まあ少なくとも、速度が多少緩和したからと言って、ゆえにちょっとやそっとのケガで済んだってのは確実にない。

 しかしながら、


「……、さてと」


 リベットは、あの異常事態でもエイルにしがみつこうとする意志があった。

 ならばあとは、エイルの頬を、爆風でも何でもいいから叩いて、それで目を覚まさせてやればいいだけだ。

 問題はない。……そのはずだ。


「ってことで、おう。――改めてここどこだ?」


 そんなわけで向こうはいったん置いておく。さしあたっての問題は俺である。

なんかこれたぶん、完全に人の領域の外にリスポーンしてしまったっぽい。

「……、(っていうかこわい)」

 先ほどあの高度で見た景色で言えば、日差しはまだ十分に残っていたはずである。

 そのはずなのだが、滅茶苦茶暗い。どうやら鬱蒼と茂った木々が、日差しを殆ど遮っているらしい。馬鹿なんじゃないの? 光合成できなくなっちゃうよ?

「……、……」

 いや、そういえば確かこういう木々の生え方も生存戦略の一つだったはずだ。確かそう、こうやって足元に日差しを届かなくさせることで雑草が生える余地をなくすのだ。そうやってこいつらは大地の恵みを占領しているんだ。中世貴族のやり方じゃないか最低だ!


 ――うぉーん……。

「(ひいぃ!?)」


 獣の遠吠えに滅茶苦茶ビビる俺。

 どうやら「関係ないこと考えて恐怖をまぎれさせる作戦」は失敗した様子である。

というか俺、別に死んだりとかしないはずなんだけど、この辺はどうしても前までのクセが抜けてくれない。

「……、……」

 怖くなんてないさ。狼なんてウソさ。と。

 俺はどうしようもなく、大空を仰ぐ。

 すると、

「……?」

 葉切れの向こう、

 視界の先に、何か、狼煙のようなものが見えた。


 </break..>



 森を歩く際に気を付けるべきは、一にも二にも方向感覚なのだという。

 そもそも森歩くこととかないしー? と前の世界では思っていた俺は、そんなわけで非常に四苦八苦していた。

「……、……」

 人は、目を閉じたままではまともにまっすぐ歩くことも出来ないらしい。ならばこれは、そのケースのスケールアップにあたるだろうか。

 目を開けて、まっすぐ歩いて、進行方向に木があればそれを避けて、その度自分なりの方向感覚の調整も行って、

 それでも俺は、ちゃんと道に迷うのであった。

 はてさてと、

「……――、ああ、着いた」

 概算の所要時間の(体感的に)実に五倍を要して、そして俺は、ようやくあの「狼煙のような煙」の足音に至る。

 ……ただし、

「……、」

 そもそも、「アレ」はどうやら「狼煙」ではなかったらしい。

 ならばさて、それは「ナニ」かといえば、

「    」


 ――街の燃え残りが燻ったもの、と表現する他にはあるまい。


 唐突な木々の切れ目。あまりにも広大な森の空白地帯には、街一つ分の火事の痕があった。

「……、……」

ふと、

 先ほどの、空を裂くレーザーの光を思い出し、そして既視感を得る。

 それから、この惨状を目の当たりにして、やはり既視感を得る。

 ……思い出すのは、

 どうしようもなく、()()()()()()()姿()ばかりであった。


「…………。いこう」


 森の空白へと、足を踏み入れる。

 すると、木々の胎内とは別種の静けさが、即座に俺を包みこむ。

 火の燻る音が、やけに煩く感じられる。

 俺は、

 ()()()()()()()を、即座に看破することが出来た。




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