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楽園の王に告ぐ.  作者: sajho
第一章『ゴールド・エッグ_Ⅰ/you(haven't)lost(yet)』
353/430

(intercept_03)

※あとがきに記載した4/1の更新分は、今章直前部分に乗せております。




 ナインヘル王国首都、貴族区。

 そこには『中世風の高層ビル』のような、ちぐはぐな印象の建造物がある。


 ――聖ルドルフ・ブラヴァツキー智典教。

 この世界において主要とされる宗教の一つであり、民衆よりも貴族に信仰される智教の一種。その大聖堂だ。



 場所は、その地下13階。

 教会上位の人間しか知らない、転移魔術の『駅』が置かれた区画にて。


 そこに人影が一つあった。

 その人物は、名をオルスター・ベロニカ・クレイルスタリオという。



「……、」



 聖衣に包まれた身体は痩せぎすだが非常に長身で、それが奇妙な、迫力の無い存在感を醸し出している。

 白髪交じりの短い頭髪と、()()()()()()。出来の良し悪しではなく、一目でユーモアが足りていなさそうだと人に思わせる覇気のなさ。


 彼こそが、この聖ルドルフ・ブラヴァツキー智典教におけるナインヘル国司教。この国の王侯貴族とも強く縁を結んだ国家レベルの有力者である。



「……、……」



 ――その空間を彼らは、『駅』と呼んでいる。


 地下13階とは思えない清浄な空気が、不可思議なことに()()をしている。ここを知らぬ人間ならば、どこかで窓が開いているようにすら感じるだろう。


 橙色の大理石質で形成された床が、一歩踏むごとに甲高い音を立てる。それは同様の石材質の壁や天井に反響して、どこかへと消えていく。燭台の火が壁に、床に、鏡を挿したように乱反射していて、その空間はいっそ春の真昼の空の下よりも明るく、そして光が柔らかい。


 ただし、その空間の最中央には、かようにも静謐と平和の調和に整えられた空間を台無しにする異物が落ちていた。


 ()()()()()

 否、それはよく見れば、まだ息をしていた。







「――()()()()


 オルスターは言う。その声は、静かに反響する。







『―――■■■■』


 名を呼ばれた肉塊は、血液と共に『言葉』を吐いて、























()()。……()()()()()()()()()


 そのように、()()()()()()言い直す。























「……こっちは息災だとも。そちらにも聞き返してやるべきかね?」


『悪い冗談だ。……貴様の言う通りだったが、貴様、情報不足も甚だしいぞ』



「見ればわかる。手ひどくやられたな。……しかし、どうしてまだ治っていないんだ?」


『……これで治っているのだよ。空から撃ち落とされて最後に残っていた身体は、貴様の頭ほどの大きさだった』



「……それで死なぬのは、便利な身体だ」


『いいや』



 ドラゴンはそう呟いて、巨大な上体を持ち上げる。

 大理石質の天井に擦るほどの巨体。その視線の高さで竜は、オルスターを見下して、






()()()()()()()()()()()使()()


「ふむ。どういった心境の変化だ? まあ、戻りたければいつでも戻れる術式だ、気軽に使ってはやるがね」






 オルスターの言葉が軽口ではなく「問い」であると気付いた竜は、

 ――恥じるわけでもなく、しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()奇妙な口調で、とつとつと言う。



『私は、人間どもの生存戦略を認めることにした』


「それはまた、どうして」



『二度も負けたのだ。これで認めぬのは愚か者だけだろ』


「……キミは、勤勉だね」



 既にドラゴンの身体は完治している。雑に潰したトカゲの死骸のようだった彼には、もはや口元の吐血の痕さえ存在しない。


 その様を確認したオルスターは、ドラゴンに掌を向け、そこに魔力を篭める。



「食うなよ?」


『笑えば良いのか、私がバカに見えているのかどっちだ』



 前者だ、とオルスターは喉の奥で笑って、




「さて、完了だ」


『オイ。何も変わっていないぞ』



「それはそうだろう。お前はいちいち、ヒトとドラゴンを行き来するごとに私に会いに来るつもりか? 術式を与えたのだ、それを使え」


『なるほどな』




 感覚に頼って、既にインストールされているらしい術式に魔力を篭める。

 すると、……肢体の伸縮などがあるわけでもなく、コマ送りを挟んだかのように一瞬で、ドラゴンは既にヒトへと変容していた。



『鏡はあるか?』


「そこの床に映ってるだろ。それでどうだ」



 ドラゴンは、

 ……初めて表情を作ったとは思えぬほど流暢に、オルスターの言葉にげんなりとして、



『……、』



 ――面影があるのかと考えてみて、しかし『彼』にはそれに明確な答えを出すことは出来なかった。


 一般的なヒト種より半回り大きな身体。スマートさではなく、強固さを思わせる肢体。

 肌の色には節々に濃淡が見られ、その貌は、「存在もしないかつての洗練」をかすかに残したようでもあって、亀のように強かにも見える。


 それを例えるならば、「老獪なる猿の王」だ。彼は『ブレインフォグ』の使用によって、今の姿にふさわしい衣装を作り、身を包む。



「驚いたな。ヒトのファッションに造詣があったのか?」


「ファフニールという若造の竜を覚えているか? そいつの言っていたことにも一理あると考えてみたら、案外興が乗る」



 ……魔法は使えるな、と彼はつぶやいて、



「脚は治らぬのか。忌々しいオブリヴィヨンめが」


「松葉杖というのをヒトは使う。それか四足で歩く者もいるな」



「……いないよな? 見たことがないが?」


「……騙されたら相当面白かったのは本当だぞ」



 そのジョークにドラゴンは、辟易とした表情を返答に代えて投げ返し、



「名がいる。ヒトは何を以って名を決める?」


「ふぅむ。……しいて言えば、インスピレーションかな?」



「……それもジョークだよな?」


「いいや? ヒトは本当に、生まれた日の日和や季節で名を決めるよ。或いは願いを託すこともあるか。強くなってほしいだの、優しく人に囲まれるように育ってほしいだのと言った風に」



「……それは、さすがに模倣しかねるな。良い、私のことはドラゴンと呼べ」


「こちらは構わぬが、悪目立ちしそうだぞ?」



「ならその時に、改めて名を考えるとも。今はこれでよい」


「ふむ、そうか?」



「ああ。第一この名でなくては、あの忌々しいオブリヴィヨンの落胤と取り巻きの盗人どもに後悔をさせられぬだろ。誰に喧嘩を売り、ふざけた真似をしたのか。報復の大義として私は敢えてこの名を掲げ続けよう。……そうだな、名前を変えるというのは無しだ。オルスター、私は生涯、この名をヒトとして関し続けることにするぞ」


「まあ、好きにしたまえ」



「他人事ではないぞ貴様。貴様のせいで私は一時貴様の頭部サイズの肉塊にまで落ちぶれたのだ。協力しろ。貴様があの盗人どもの侵入を私に伝えたのだ、貴様なら、彼奴らの素性も調べられるのではないか?」



「…………。どうかな、さて。しばらく私も忙しいからなぁ。

 まあ、暇ならお前は、自分の住処にでも戻っておけ。どうせすぐにリベンジを申し込んでも、さっきのザマになるだけなんだろ?」


「まあ、そのとおりだな。……貴様は、私が戻るまでのその口の悪さを直しておけよ」






「莫迦め。数世紀言い続けてきて、まだ飽きずに言っているのか?」


「……せめてまだ諦めないのかと言えよ貴様は。そんな風だから私以外の友人がいないのだ」


「心得ているとも。もう行け、次の転移が届く時間だ」





※続きの更新日は未定です。


 しかし、来たる4月1日には何か簡単なものをご用意できるかもしれません。あくまで予定ですので、期待はせずにゆるりと思た頂ければ幸いです。ブクマをしておくと便利な模様ですよ!!



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