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ということでトランプの時間である。
ちなみにゲームで選んだのは、エイルの立っての希望でいつかと同じく大富豪だ。何やら彼女曰く、今日は負ける気がしないとのこと。負けるヤツは毎日それを言うんだ、と思っても言わない俺は半分優しさで出来ているに違いない。
さてと、ではその趨勢は……、
「ばぁーっはっはっはアガリだ雑魚が! 馬鹿めド腐れド貧民! 見せてみろよその負け犬手札をっ。……うっわーだっさ! だっさ!! エースとか2とか滅茶苦茶潤沢に残ってんじゃん!」
「ア、アガリぃ。……っていうかそれは、ハルくんが中盤終わりの絶妙なタイミングで革命起こすからじゃない。私も四苦八苦だったしさ。……エイル、あの、元気出してー?」
「…………。(うるうる)」
……みたいな感じである。
流石はスキル黄金律《Ⅷ》だ。これは今夜も酒が旨いぞう!
なお、コンテナ内に備え付けの時計を見る限り、出発して二時間程度は経っただろうか。エイル曰く到着は夜になるとのことで、先はまだまだ相当長い。
ゆえに、
「どーするエイルぅ? まだやる? まだやるのぉ? 今日は勝てるとか言ってたのにねえ、いつになったらその『今日』ってのは訪れるんだろうねえッ!」
「……。(号泣)」
「……。(クズを見る目)」
結局俺たちは大富豪から逃れることはできない。ぶっちゃけもうアレだね、ババ抜きだろうが七並べだろうが今日は負ける気がしないんだけどね!
「どーすんのー? ねえまだやんのー? ほぅらどーうすーんのーぅ?」
「……やり、やりますっ(震え声)」
「きっこえなーい! 年収カーストに高低差があり過ぎて下民の声が聞こえなーい!」
「うわあ、最低だ……」
「やりますっ、やりますよッ! 次は勝ちますよ! 見てなさい私はっ、いっぱいお金を稼いで、今度こそ胸を張って幸せに生きてやるんだッ!」
「じゃ、カード配ってね。チップはちゃんと払ってやるからほら早く?」
「くっそぉ……(ガチ泣き)」
ちなみに、今回はリベットの知っているハウスルールから、「大富豪と大貧民の間で、一番強いカードと一番弱いカードを二枚ずつ交換する」というルールが採用されている。それで言うと、さてと今回は、俺とエイルでの交換になる。
ということで、カードを取り終えて、各々手札の確認を終えて、
こちらは2と4とを二枚づつ伏せて卓上に置く、そして向こうも、そのように……、
「……、……」
「……………………っ。(本気泣き)」
向こうもそのように、「一番強いカード二枚」をこちらに向けて伏せながら、
……しかし乞うような視線でふるふると首を振り、その二指を離そうとしない。
俺は、
「もらうぞ(無慈悲)」
「あぁっ!?(はなみず)」
ひとまずそれをひったくって、強いのと弱いのの都合四枚をエイルに押し付けてから、改めて「戦利品」を確認する。
と、――まさかのジョーカー二枚だった。
「…………。(失笑)」
「う、うわうわあッわああああああああああああああああああッ!!???(乱心)」
エイルがこちらに飛び掛かる。それは割とガチの、テーブル代わりの箱とかベンチとか何から何まで弾き飛ばしての特効であった。
いや、というか公国騎士さまが暴れたら流石にコンテナの揺れも危険水域だ。ちょっとまじでホントにやめて欲しい。
「……っておい! マジで滅茶苦茶揺れ始めたぞやめろ!」
「返せ! 返せおまえぇ! それは私のだぁ!」
「ゲームでマジになってんじゃねえよおい! あっ、テメエ今噛みやがったな!」
「ちょっとエイル落ち着きなさいよ! ホント揺れてる! 滅茶苦茶揺れてるからぁ!」
そこに、
『トーラスライト様! 敵襲ですっ!』
――唐突に、第三者の声が響く。
音の先を見ると、その先には「スピーカーっぽく見えなくもない箱」が半ば野ざらしのように置いてあった。
そしてそれが、また叫びだす。
『正体不明の光魔術のようなもので狙撃されています! トーラスライト様! あぁッ!? また一機堕ちました!』
トーラスライトさま誰? と思ったがこの場で敬称を付けられるようなビップは一人しかいない。
「おいエイル! ヤベエっぽいぞ一回落ち着け!」
「おち、落ち着きましたっ! これはマズい!」
「どうすんだよこれ! っていうかなんで唐突に襲われてんの俺たち!?」
「知りませんよわかんない! 私さっきまで泣いてたんだもんっ!」
「ねえこれ落ちちゃったりしないよね!? 私いやだよっ? 綺麗なままで死にたいんだけど!?」
『コンテナを開きます! 皆さんどうか、ご無事で――』
そこで、耳障りに大きなノイズが響き、
――さらに、ひときわ強くコンテナが揺れた。
「直撃したの!?」
「このコンテナではありません! 恐らくは上の――」
「おい! そこ開いてんぞッ!?」
俺がたまらなく叫ぶ。自分の声の反響が、しかし不自然に消えていく。光が、風が流れ込み、暴風を起こし、
そして、
「……――、まじかよ」
一も二もなく俺たちは、虚空に投げ出された。
俺はその景色、
――どこまでも空が続く澄んだ「青」の最中に、
一筋のレーザーが劈くのを見た。
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私の話をしよう。
私ことエイリィン・トーラスライトは、正直に言えば先ほどまでマトモではなかった。
出来立ての友人に羽交い絞めにされながら、出来立ての「監視対象」に思いっきり噛みつくくらいの正気喪失である。尋常のことではない。
だから、であろう。
この光景が、……先ほどまでのマトモではない世界の、延長線上の幻覚だと思った。
「――――。」
大気中の水分が結露して、世界がきらめいている。
朝焼けの色の空が、視界の遥か彼方に広がっている。水平線が、橙色とも赤とも緋色とも取れない不可思議な色をしている。風が空っぽだ。星が見えていた。呼吸が出来なくて、風の匂いが分からないから、その光景がスローで私の脳内に焼き付いていく。
――高度四千メートル。
魔術保護によって生命維持のなされた環境から放り出されて、まず私は、火照った頬が結露するのを感じた。
「ってどぅわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!????」
本能が身体を水平に保つ。そうして投げ出した手足の先が加速度的に凍結していく。空気の打撃が冷たい激痛を呼び覚ます。水を浴びた身体で吹雪に当たるような激痛だ。思考が明滅する。しかしそれでも、
それでもなお、目前四千メートル下に迫る死の気配が、未だ濃密に私の自我をつかんで離さない。
ああ。
気絶できたなら、どんなに良かったか。
服の内側から『高所による機能不全、及び物理衝撃緩和』の小型スクロールを取り出すのがどこまでも億劫に感じられるほど、死の気配は甘美に、私の脳髄を愛撫しとろけさせる。
私は今、本能で以って、苦痛なき死の為に正気を手放そうとしていた!
「……ううぅッ!??? ?????? ??????」
そこへ、
「――エイルッ!!」
声が響く。
「 」
その声が、
私を、眠気のように甘美な狂気の世界から取り戻す。
そして、
――爆音が響き、重力が掻き消えた。
※次回投稿日は二話連続の投稿を予定しております。よろしくお願いいたします。




