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楽園の王に告ぐ.  作者: sajho
第一章『ゴールド・エッグ_Ⅰ/you(haven't)lost(yet)』
341/430

05.



 フランベルジュ。


 手揉みしたフェットチーネのような形の、クレイモア属の幅広剣である。

 その歪な形が波打つ(フラン)に見立てられるこの剣は、大剣でありながら在り方としては毒刀に近しい。


 つまり、殺すのではなく手傷を重症化する。

 波状の刃形によってモザイク調に刻まれる切り傷が、敵対者の身体をより複雑に蹂躙し、治癒不能に陥らせる。イメージとしては、切れ味の良い刃物で切った肉の断面の美しさをまずは思い浮かべるとよい。


 その上で、()()()()()()()()()()()()()()()と比較すれば、この武装の殺傷意図は明確になるだろう。

 この剣は大剣でありながら、何のつもりなのか一撃必殺を視野に入れていない。

 それどころか、装飾刀じみた複雑な造形によって耐久性すらも捨てたこの剣は、そうまでして()()()()()()()()()()()に特化している。


 使用者が意図的に刃の整備を怠れば、血に錆びついたフランベルジュはグチャグチャの切り傷に病疫を遺す『病の剣』に成り代わる。炎の名を冠しながらに、この剣は『浄化』の真逆にあると言っていい。


 ……それが、武器カテゴリーとしてのフランベルジュである。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「……!」


「ご挨拶ッ、だなァ!!」



 彼女。ツナミと名乗った少女は、声に想起された通りの幼い少女である。

 いや、背丈が低いだけで、成熟はしているのだろうか? 長い蒼髪と白い肌。あどけない顔立ちは剣を持つ人種には到底見えない。しかしながら彼女はその見てくれと細腕で以って、自分の体格とほとんど変わらない『蒼いフランベルジュ』を見事に操って見せた。


 冒険者として平均点そのものの服装。一見して未成熟に見える肢体と貌、『蒼いフランベルジュ』。全てがあべこべだ。しかしながら、そのあべこべな要素を繋げる『糸』に、リベットには一つ心当たりがあった。



「(……身体操作の自発魔力性補強(ギフテッド)。エイルとかと同じか!)」



 この世界において魔力は全ての大前提である。人体の血流一つ、大気の滞留一つにも魔力は要素として紐づいている。故に、逆説的にはその『一要素』を操作することで、波状式に他の要素に干渉するのは可能な事だ。例えるならそれは、ジェンガの塔を構成するパーツのどこか一つを弄ぶことで、塔そのものを揺るがすことが出来るように。


 その理論の延長に『ギフテッド』という概念はある。体内魔力(イド)を筋繊維のようにオートマチックかつ精密に操作することによる身体機能の補強。――元来ならば体系魔術によって()()として得るべきそのアドバンテージを、自らのセンスだけで用意できる天才。その才が極限に至れば、エイルのように、自らの身体を魔力の集変圧器として運用することで世界中の魔力(全てのオド)をほぼ無尽蔵に使用して()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()すら理論上では可能となる。


 つまり、ツナミと名乗った少女はその手の存在だ。ヒトが全ての人生を掛けて肉体を鍛え上げ、最適効率で栄養を摂取して到達しうる『理論上のヒトの肉体的限界』を容易に凌駕する生き物。或いは、修練と肉体構築に加えて魔力的な汎用身体強化をさえ踏まえた一つの到達地点を()()()()()()()とする存在。



 そんな少女が枝葉のように振り回した『蒼いフランベルジュ』は、

 ――リベットの『一部分とはいえ神域を間違いなく込めた蹴撃』を、真正面から受け止め、打ち払った!



「……、……」


「お、まえ。……なんだその威力。食らったことないぞ」



 戦慄とした声色を作りつつも、少女は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()くらいの気軽さで手のひらをヒラヒラとさせる。


 ……その状況にリベットは、0,2秒の思考を行う。



「(三割の蹴りがあの程度。救いがあるとすればしっかりビビってくれてることくらいか。じゃあ、分からないのはあの子の魔力の根源だ。()()の瞬間最大風速の三割を相殺する魔素出力性能ってなんなのよ……。少なくとも、絶対に先天的素養(さいのう)で片付けられるスペックじゃない。だってそんなの、準備無しの奇襲じゃエイルもカルティスだって受けきれないんだから)」



 ――故に。



「(どう見ても普通じゃないあの『フランベルジュ』。あれに何かがあると見る以外に妥当な選択肢はない。……それこそ、あの子自体に何か()()()()()()()()()()()()()があって、且つそれが私の目でさえ見通せないほどの隠蔽を施されているわけでもなければ)」



 ――故に、



「………………。


 オーケー。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」



「……、」



 彼女はそのように、全ての問題を先送りすることを最善策であると結論を出した。











/break..











 彼、冒険者オルハには、そのたった一合に込められた濃密な情報戦の意味が当然のこととして理解できなかった。

 理解。あるいはそもそも察知すらできなかっただろう。彼は無能だ。能ある者どもの不可視のやり取りなどを、彼に推察できるわけもない。


 だから、彼にはその一瞬が、数値通りの0,1秒にしか見えてはいなかった。


 ――その0,1秒の内に、次の災禍が地下空間を蹂躙した。











/break..











 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


()()()()()()()()? ()()()



 何が悪かったのかと言えば、彼女のフランベルジュに足を掛けながら停戦を持ちかけてしまったことなのだろう。彼女、――ツナミは、可視化できそうなほどの敵意を以って、(フランベルジュ)を袈裟に薙ぎ払った。



「あ、……っぶないなあ。何のつもり?」


「こっちのセリフだ! 喧嘩を売ったやつに矛を収める権利なんてないだろうが! ――オマエら! あの女に身の程を分からせてやれ!!」



 身を翻して距離を取り、あくまで平静を装う私の他方。

 ――ツナミの発破に、地下空洞を張って割るような威勢が返った。



「……、」


 驚くべきマネジメント力である。ついさっき投石一つで身内の一人を無力化した(あいて)に向かってけしかけたというのに、彼らにはいささかの士気の陰りも見て取れない。


 いや。

 ……あの表情は『勝てなくてもいいから一矢報いる』じゃない。そうじゃなくて、未だに『自分たちなら勝てる』と思っている顔だ。私はそれに気づいて、少し微妙な気持ちになる。



「(……、……)」



 だって、私の持つ制圧力は私の血反吐で得たものじゃない。

 ……まあカルティスとの修行パートで血反吐は死ぬほど吐いたけど、それでも普通と比べたら相当な近道をして得たものだ。


 考えてみたら私は、数か月前だったらあのうちの一人にすらマトモには勝てていないはずだったのか。



「――ッ!!」



『神意』の起動は敢えて選ばない。私は、ただ「本気を出そうかなと思う」だけで大抵の人間を無力化することが出来る。が、それはしない。


 それはせず、――まずは手ごろな一人の懐に半秒で潜り込み、『ショック・パルス』を起動する。


『ショック・パルス』は、魔術銘こそついてはいるが技術と呼ぶには大味な手札である。ただ単に、私が『邪神の巫女』として持つ過密度の魔力を発揮する。そうすればその魔力は、『真理』に接近するほどの情報密度を以って物量のように作用して、結果的には『斥力のように作用する情報量』によって相対者にショック状態を齎す。イメージとしては、1秒間流し続ければ相手を感電死させられる電圧を0,1秒間流し込む、みたいな感じだろうか。


 それで、まずは一人。それともさっきの投石を合わせれば二人目だろうか? その辺はひとまず捨てておいて、私は、今まさにこちらに倒れ込もうとしている『ショックパルスの被害者』の姿に隠れるようにして、次の一人へと掌で照準を作る。――そして、『ショックパルス』。二人目が倒れたなら三人目、四人目だ。一人目が地面への昏倒を完了させるまでに、私は6人の冒険者を『ショックパルスの銃撃』にて無力化して、


 ――続く『7人目』は、私の魔術を袈裟に切り捨てた!



「やっぱいい! 下がってろ! こいつは私がやる……!」


「そう。そりゃ助かるね!」



 先ほどの私は、()()()()()()()()()()()()()()()()()と結論して「こちらから投げつけた宣戦布告」を自らお茶に濁した。だけど、状況が変わった。こうなっては、敢えて選んだ初手の先手必勝さえ悔やまれる。


 ツナミ。彼女はついさっき私の『ショックパルス』を切り裂いた。無論、その術式に使用される魔力は私のモノであり、翻って言えば神様のモノだ。


 その時点で、彼女が持っているあの『蒼いフランベルジュ』は()()()()()()()()であると定義される。つまりは、神を殺せるだけの、同等の『格』を持つ武装であると。


 正直言えば、この戦闘は最悪『真理(まほう)術式』でも使えば何とかなると思っていたんだ。

 だけどこの状況だとそれも分からなくなった。『真理(まほう)』だろうが『ショック・パルス』だろうが使っている魔力の元は同じなのだ。切り捨てられる可能性がある時点で、この回数制限の奥の手は実質死に手札になったみたいなものである。


 ……畜生! なんでそんなモンをポッと出が持ってるんだ! おかしいじゃないか!



「どうっ、かな!? この辺でやめとかない!? これ以上はっ、死人が出ちゃうかもしれないよ……!」


「日和るなよ! そっちが始めたんだろ!」



 彼女は、身の丈ほどの大剣をレイピアでも扱うようにして、精密に操作している。

 やはり、特別性なのはあの剣だ。彼女の動きには「本当の本当に最低限の力み」さえない。仮に彼女があの小さな身体に見合わぬほどの膂力をため込んでいたのだとしても、重量のある物体を操作する時にはそれなりの重心移動や間があって然る。……それが無いのであれば、あの剣にはきっと本当に『重さ』がないのだろう。



「……、……」



 加えて考察する。彼女の動きには「あのフランベルジュを相手に当てる」ことへの特化が見て取れる。

 当然、一つ一つの武装には、それを運用するための体術(テーマ)が紐づいて存在する。細剣なら速度を、大剣なら一撃必殺を、短弓ならヒットアンドアウェーを、魔杖ならば魔術的物量を。逆に言えば、正体不明の何かを秘めた一つの武装に対しても、その操作者がどういった動き方をするかである程度の推察が出来る。

 羽のように軽いゴッドスレイヤー。その形状は手傷への特化。ただしフランベルジュとは、ソードブレイカーのように「相手に当てた後に1アクションあって、それがアドバンテージになる」わけでもなければ、シックルのように「相手の防具を掻い潜って一撃を加えられる」ような旨味があるのでもない。


 しいて言えば、ノコギリのように『引いて斬る』というのがあの剣の取り回しの特徴だろうか? 正直私は使ったことがないのではっきりとは分からないけれど、……本来なら重量級の一撃を、しかもムラのある刃筋で加えることによって初めて、フランベルジュはその役割を果たすのかもしれない。



「(斬られたら終わりにする、っていうのがフランベルジュのテーマだとすれば、そんなのただの()()()()()()でしょ。ヒトの身体で考えるならクレイモアで真っ二つにされてもナイフでサクッとされても終わりには違いないんだから)」



 しかしながら、それでもこの世界には『クレイモア』と『ナイフ』がある。

 同じ「当たれば終わりの刃」がそれでも形状を異にして存在するわけだが、それがどうしてかなど考えることですらない。ただ単に『取り回し方が違う』からだ。


 さて、そこまでのことを私は、枝葉を振るような気軽さで撒き散らされる刃の本流をいなしつつ考察して、――そして結論を出す。



「(駄目だ。わからん……)」



 私の一撃を耐えきる魔力量の出どころ。真理属性の魔術を切り払う存在強度。あれだけの軽さ。そして、当てることに特化した彼女の体術(ふるまい)。これだけの情報で『蒼いフランベルジュ』の正体を看破するには、たぶん、『直観』じみたルール無視の理論飛躍が必要になる。それか、実際に私があの一撃を受けて試してみるか、だ。



「(ハル君を連れてくればよかったなぁ! 仕方ない!) ――起動(クリア・スプレッド)!!」


「――ッぉオ!?」



 クリア・スプレッド。これもまた、体系的な魔術と呼ぶには荒業過ぎる『魔力運用のタスク』である。

 私の持つ魔術は、それ時点が既に「真理属性」という色を持っている。元来ならヒトが持つ魔力は無色透明であり、それに色を付け、属性・指向性をデザインすることもまた魔術式の一環の内である。

 例えばカルティス。彼は既に魔王としての『宿命』を得ている。だからこそ彼が使う魔術は全てが「魔王体系」となるし、既に「魔王体系魔術」としての体裁を得ている彼の魔力は、ただ発露するだけで『現象』となり、つまりは『魔術として成立』する。

 そして、私の場合は「魔力が持つ情報量」を理由にして、同様のことが発生する。『質量を持たない質量』となった私の魔力は、私自身が感覚的にオン・オフを切り替えることで質量、――情報量を具現化する。

 ただ掌から吐き出すだけでさえ、それは斥力の発露になる。或いはこうやって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、質量を持つ情報は内圧の逃げ場を探して、辺り一帯を質量で蹂躙する。


 視覚的に表現すれば、発生した現象は無色の爆風の発生か、それか不可視の物体がいきなり巨大化でもして周囲の人間が張り飛ばされたか、或いはいっそ、その場の全員が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようにも見えただろう。それを私は、一つの時間稼ぎとする。



「(あーあ、……使いたくないなあ!)」



 稼げた数秒。ツナミと名乗る少女の小さな身体はひと際遠くまで吹っ飛んでいたが、既に彼女は空中で姿勢を取り戻している。逃げ場のない空中にいても打ち込めるスキはとても少なく見えるし、きっと彼女は、地面に着地した瞬間にこちらに飛んでくるのだろう。だから、それまでにすべきことがある。


 ――真理と、視線を合わせるコト。

 分からない事『全て』との答え合わせ。質量に疑似変換できるほどの存在密度を持った情報を、そのまま脳に摂取する行為。その感覚を例えるなら、目鼻口から直通で脳みそに氷の塊をぶち込まれるような致命的な不快感、がたぶん近い。


 ……まあ当然、やったことはないんだけどね!

 行くぞ! 行くぞ私! うおぉわああああああああああああああ!!!



「(起動:神域座視!! ――あだだだだだだだだだだだだだだ!!!!???)」



『alhfskj cm+e?ksd<mc+?sdlck>nfeipslclmvkl geufd>xkc>j<wsdl+cheuoctilhsk>jdk dgjotirhlschjgtevnulrikdjchvernulsdkjfngtevrlk>jcdgetnlrcoselhsckj<ngetlur>ckh g+oebtilrukdchg)' $#%$weurnh g$'ntpsci+ljd g'n$wcn#y)pj>tc#irxhgeo(yweuo+asj>hrgtf#+weulj>zhft #%y+weuljshgn(#yp*)uowe+jbfug$+y*uweo+?lsjfgy*#wipkxlsjt(y$)u%o$wie+sldmxhvd'w+ou$ymhmget*m)psowsxkjb$t(#+pwesxdg$y#wei

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u*o`)p(oy(+'r&frk&e%tku%esrye%dtyirfgup)*yih?+ijokpo=ipko

=ip`=ipkio*pik+ylgulrtddtstkd%sejeaWESRDYGUJOK:O mlo*uj)pyhgut'fy&resryw$』



「(ひぃい!! 中止中止中止中止!!!!)」



 起動時間は0,1秒にも満たなかっただろうが、そんなのは関係ない。

 たった一瞬ですべての情報が頭に流れ込んできて、しかもそれが、どれもこれも圧倒的な理論の整合性で以って全て強引に()()()()()()()。元来なら脳が不要だとシャットダウンするはずの情報さえ、理解できてしまうのだから捨てられない。それら全ては真理であり、不要なものなど何一つないのだから。いや、むしろ逆だ。たった一つの真理が齎された時点で世界は帰結まで結論する。ヒトが、一つ一つ理論を紐解いてゆっくり解明していくはずの全てが唐突に全部わかるのだ。……ただし、スキルの起動を停止した時点で、『脳』は改めて無能に戻る。分かったはずの全てを、或いは、全てが分かるはずのたった一つの『真理』の意味が分からなくなる。


 過去に、私がポーラと死闘をしたあの舞台に満ち満ちていたのが、この『真理』という因素である。ずっと見えていれば確かに便利なんだろうが、今の私には残念ながらこの程度の運用しかできない。……ちなみにそれっていうのは、真理を全部あの舞台(世界)に置いてきたからこそポーラは私の友人としてこの世界に残ることが出来た、というのが理由らしい。今使えている真理属性の術式も、「原理は分からないけどマッチを擦ったら火が熾きることだけは分かる」みたいな感じで、本当はもっととんでもない効果が見込めるはずなのだとか。



 というのは一旦おいておこう。私は、脳裏に疼痛として残る『すべてが理解された世界の映像』を改めて思い出し、その中から必要な情報をピックアップする。



「(あのフランベルジュの名前は、……『ザ・アニバーサリー/ライト』? 素材由来の存在強度が、私の術式を切り払った根拠か。じゃあこっちが用意する術式の強度によっては対抗できるんだね。で、あの羽根みたいな軽さと身体能力強化の理由は、……げ! アレ儀式剣だからフランベルジュの形してるだけなのか! ただの酔狂じゃん! 悩んでて損した!)」



 さて、

 ――今この瞬間、ツナミは地面に着地し、こちらへの一歩を踏み出した。


 接触まではあと二歩。距離にすれば6メートル程度。そのうちに私は、あのフランベルジュの正体を全て『理解』する必要がある。のだが……、



「(くっ! 情報が錯綜してる! 知りたくないよあの子のスリーサイズなんて! ……あれ? なんかあの子の苗字聞いたことあるなぁ? じゃなくてフランベルジュ! って、うわあの子! 今朝のご飯で生イノシシ食べたの!? 正気とは思えない! あ、……あの子、さっきの地元の有名人(オールスターズ)の中に好きな人いるんだ。えー誰なんだろ? え! この人なの!? うわーどうかと思うなぁ。いやヒトの好きな人に文句言いたくないんだけど、えー? 奥さんいるじゃん……)」



 ということでタイムリミット。ツナミちゃん(なんとなく愛着湧いちゃった)の振るうフランベルジュ、――改め『ザ・アニバーサリー/ライト』は、既に私の懐まで迫っていた。



「くっ!? も、もうやめようよツナミちゃん!!」


「ちゃ、ちゃんだぁ!? オマエ舐めるなよ! ぶっ飛ばしてやる!!」



「駄目だよツナミちゃん! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


「―――ッ!?!???」



 ……いやあ、いいネタをゲットした。

 これで彼女ことツナミちゃんは、今後私のパシリである。



「今日出会ったばっかりの私じゃ頼りないかもだけど、でもきっと私、相談に乗れると思うんだよね! えっと、あそこにいる――」


「ぉワァアアアアアアアアアアアア!!?」



「――さん? に思いを伝えてもきっとあなたが傷つくだけだから……! ……え? どうしたの? うるさいよ?」


「おわーーーーーー!!! わーーーーーーー!! しゃーーーーーべーーーーーんーーーーーなーーーーーーーーー!!!!」



()()()()()? え?」


「オマエ! オマエぇ!! 何のつもりだ!?」



()()()()()()()()()()()? ()()()()()()()()()()()()()()?」


「え、……あ」



 ということで、戦闘終了。

 後はこのランクB相当アイテム、乙女の恋心をネタに強請るだけでゴールドエッグ選考はクリアだ! 楽勝じゃんやったね!



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