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楽園の王に告ぐ.  作者: sajho
第二章『英雄の国』
34/430

3-3

03


 それから俺たちは、エイルの案内で街を、騎士堂支部の方向へ向かっていた。

 なるほど、この街を見て回った際には空港っぽい施設どころか鉄道さえ見なかったのだが、灯台下暗しというか。こっちの方の見分は確かに疎かであった。

「(……灯台云々ってよりか発想の問題かもだけどな。『人の多い方』に公共交通の用意がないってのは、そもそも民間に開かれたようなもんじゃないってハナシか?)」

 とにもかくにも、街を往くにつれて、その様相は変わっていく。

 昼間の喧騒はもっと落ち着いたものに変わり、行きかう人々の歩む速さも一段ゆったりとしたものになる。区画一つ分が役人向けに設えられているからだろう。平日のにぎやかさのようなものが、ここには殆ど見受けられない。

 夏の兆しがある今日の日和でも、街の稼働が落ち着いてくると、雰囲気は途端に春寄りのそれに変わった。

「……、……」

「……、……」

「では、到着です」

 さて、

 俺たちが案内されたのは、そんな区画のとある場所であった。

 街並みが忽然と切れて、その先にはどこまでも広い空白の空が広がっている。足下には石畳の鋪装があるが、一面を見渡しても空港っぽい感じの施設の影は見当たらない。

 というか、この辺にあるのは積み上げられたコンテナと、一応飛行機格納庫に見えなくもない簡素な施設のみである。

 そこで、エイルが、

 ――コンテナの一つを、指さして言った。

()()()()()()()

「はっ?」

「アレが公国騎士の専用機です。私たち軍人が、貴族のように丁寧に運んでもらえるわけないじゃないですか」

「な、なんだって……?」

 と、加速度的にしんなりしていくリベット。

 なるほど確かに、公国騎士といえど軍人か。或いは、なにせ『赤林檎』の一件では全て彼女一人の権限で事が運んだくらいである。恐らくはそれなりの地位にいる彼女だからこそ、むやみにその辺を行軍させて「不必要な示威行為」に遊ばせておくような余裕もないのかもしれない。

 ……という理屈は、まあ分かるんだけども。

「なあ? ……軍人って言うのはアレか、法律的には『貨物』なのか?」

「ボヤいていてもビジネスクラスはありませんよ。さあ、行きましょう」


 </break..>



「……、……」

「売られるー、羊のー、物語ぃ…………(マイナーコード)」

 体育座りで歌うリベット。

 やめて欲しいなあと思う俺。

 という感じでコンテナ内部。そこには最低限のベンチと灯りだけの、留置場の一歩向こう側みたいな光景があった。


 ……ちなみに先ほど、ここでの手続きは全てエイルに任せて完了したところだ。例の「飛行機格納庫っぽく見えなくもない施設」に彼女は一人向かって、その間俺たちは入り口付近で待機である。

 そうして五分後、彼女が戻ってくると、

()()()()()()()()()()()()

「……ドリンクって、これなの?」

 水である。どう見ても水。水筒入りの水である。

「……なあ」

「ハル、ウェルカム?」

「それやめろ! なんて情緒がないんだ! 俺のファーストトラベルだぞッ?」

「最初っからいいもの経験しちゃいますと後が辛いですからね。まずは常世の地獄から始めるのがいいでしょう」

「うわあ、地獄なんだなあ。だよなあ、コンテナ内とか姿勢制御管理の『しの字』もねえんだろうなあ……」

 といった感じで、職員さん同伴のもと俺たちは「搬入」され、今に至る。

「……、……」

 ごうんごうん、と重低音が響き、

「発車ですね。体幹に力を入れてください」

「……シートベルトないんだ」

 初めて言われたよ。そんな機内アナウンス。

 というのは置いておいて、それなりの揺れで以ってコンテナが宙に飛び立った。

「……(わりと怖え)」

 なにせ外の様子とか全くうかがえない。

 洞窟の最中のような暗がりの中で、誰もが一様に斜め下を見て沈黙していた。

「るーるる……」

「やめろ」

「……はい」

 ……空気が重すぎる。

 なにこれ俺たち死ぬの?

「な、なあエイルっ?」

「はい?」

「これさ、この飛空艇? どうやって飛んでんの? まさかコンテナに羽が生えてーとか言わねえよな?」

 俺の意図を察してくれたのだろう。エイルが、敢えて間延びしたような口調で、……つまりは出来るだけ話題が長持ちするようなゆっくりとした調子で以って話し始めた。

「なんですか、それ……。まあ、ざっくりで説明すると、このコンテナを小型の飛行艇が『吊っている』ような感覚ですね。概ねは、民間航空輸送の体裁と同様の物です」

「……民間航空輸送って、さっきも言ってたけどさ? ぶっちゃけよくわからん。どういうシステムで回ってるんだ、それは?」

「るーるる」

「やめろ」

「…………。まず、公国では概ね、日用品や調味料などは錬金術師が、雑貨資材、食材などはそれらの調達職が確保しています。ここまではいいですか?」

「……錬金術師ねえ」

 ぶっちゃけ俺がガ〇トのアトリエ知らなかったら全然イメージ湧かなかったかもしれない。

錬金術師の一般的なイメージは、もっとこう賢者の石とかエーテルがどうしたとか高尚な感じであろう。

 まあまずぐーるぐーるではない。

「それを、いったん卸に出します。そこからが例の民間航空輸送なのですが、概ねで言うとこれは、()()()()ゴーレムによる輸送です」

「うん?」

 俺が呑み込めなかったのを理解したのだろう。彼女が、一度、間を置いた。

 しかし、「ドローン」とは。

 これも或いは、例の言語翻訳による類語引用の類だろうか。

「ドローンって言うのはアレか? 無人飛行とか、遠隔操作的な?」

「ええ、ドローンゴーレムの技術は異邦、……冒険者によってもたらされたものです。現一級冒険者クラン『ニア=ウィングス』。彼らの開発によってドローンゴーレムと、それを活用する流通システムの定義がなされました」

「……『ニア=ウィングス』、知ってるわ。ニア=ウィングス商会って言えば、冒険者なら大抵お世話になってるもんね。魔物の素材を買い取ってもらう用事で」

 ここでリベット復帰である。るーるるにはもう飽きたらしい。

「実は私も、ギルドの依頼で一度ドローンゴーレムの実物を見たことがあるわ。斥候としての使い方を研究している奴がいたの」

「おー、それは割と便利なんじゃないか?」

「…………。いやね、そいつ実家が商会の坊ちゃんで、『斥候事情にも新しい可能性を模索する!』とか言って嬉々としてドローンを洞窟に放り投げたんだけどね?」

「おう? なんだよ」

「……ドローン、ゴブリンにレ〇プされて戻ってきたわ」

「……、……」

 ゴブリン怖いなあ。

 っていうかドローンの形状って俺の世界のUFOみたいなあの感じなんじゃないの? ゴブリンはそのどこに性的興奮を覚えたの? とりあえずドローンでも穴があればいいのだろうか。洞窟にち〇ぽ突っ込んでろよって思う。

「それで、その坊ちゃんがまた悲惨でね? ドローンの見てる情報をリアルタイムで確認するために『感覚共有』の術式を使ってたのよ。そんなわけで、今じゃアイツ、『俺はゴブリンスレイヤーだ』とか……」

「やめろ。それはやめろ」

「な、なによ……?」

 危ないところである。

 いや全くこの世界の野蛮人には言っていいことと悪いことも分からないというのか。

「……と、とにかく、そんなわけで『ドローンで冒険者のフォローをしよう』って発想は振り出しに戻ったって事情みたいね。なにせ戦場じゃ物は壊れて当然で、ドローンなんて高級品を消耗品扱いする余裕なんてないし」

「そっか」

「そうなの」

「……、……」

「……、……」

「…………………。」

「……るーるる」

「やめろ」

「はい」

 ……空気が死んだ!

 なにこれもう二時間くらい経ってんじゃないの? まだ着かないの? 実はもう着いてるんじゃねえの!?

「――ハル」

「……なんだよ」

「…………トランプ、あります」

「…………、でかした」




――用語解説。


 飛空艇


備考:この世界における主な空路の交通手段。浮遊属性の魔力気体を気球に注入し、「魔力ジェット」と呼ばれる推進属性魔力の放射機構で以って進む。民間機の平均時速は七〇キロメートルだが、各国騎士堂の運用する機体などはその三倍程度の速度が平均となる。

元来はとある冒険者によって発掘された「前神代遺跡」の産物だが、この技術枠組みは一級冒険者「ニア=ウィングス」によって大幅な革新がされており、現在では「ドローンゴーレム」と呼ばれる飛行自立機動と共に広くモノ流通に使用されている。またこれについて、上記冒険者が技術水準及び量産性の大幅な向上を行ったのは有名だが、「飛行する魔物」への対応策についてのアイディア提供が「公国国王アダム・メル・ストーリア」によって行われたことを知る者は少ない。


リベット「でもさエイル、言っても公国騎士さまなんだし、立派な飛行艇に乗ったことだってあるんでしょう?」

エイル「ええ、まあ。確かに悪いモノではないのかもしれませんが、私は気が抜けませんでしたので、あまり楽しめませんでしたね」

リベット「それはあれ? 騎士の品位を落とさないような振る舞いを、ってやつ?」

エイル「そんなところです。高空環境ですから外に出られるわけもなく、そんな状況で周りにいるのは『公国用意の船に呼ばれるようなビップ』ばかり。……いや、思い出すだけでも首回りが苦しくなる思い出ですね」

リベット「そっか。結構な密室空間だし、格式高過ぎるのも息が詰まるのか」

エイル「一般層に解放されているような飛空艇の方が、結局は快適でしたよ。船内販売のホットドックがやたらと旨いんです。物見スペースに併設されてるやつ」

リベット「へぇー。ロマンのある造りだ」

エイル「走り回ってすっころんで展望ガラスにおもっきしぶつかって以来しばらく高所恐怖症になったのはいい思い出です」

リベット「……小さい頃の話なの?」

エイル「士官学校の卒業旅行の話ですね。半年前くらい?」

リベット「クソ学生じゃねえか! なんならそれ小さい子でも遠慮するはしゃぎ方なんじゃないの!?」

エイル「いやでも、身を以って子供たちに、『飛行艇で走ってはいけない』って危険性を教えて差し上げたって見方もできますよね。ある意味では公国騎士として人民を守ったともとれる」

リベット「『あーなっちゃいけないね』の具体例を素で見せつける国家の誇りって何なの……?」


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