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楽園の王に告ぐ.  作者: sajho
第二章『英雄の国』
32/430

prologue_(-01)

※あけましておめでとうございます。

 本年もどうぞ、当シリーズをよろしくお願いいたします。

Prologue_-01



01


「――あれ?」

 ……朝である。

 俺は例の、シアンから無償提供されている部屋にて目を覚ます。

 全く、寝なくてもいい身体だというのにそれを一向に活かせていない。毛布からもぞりと身体を起こすと、異様な寝汗が意識に障る。

 ……やっぱり、どう考えても朝だ。おかしい、飲み会だぜやったぜ以降の記憶がない。というかあの男女比のハーレム晩酌、実は俺滅茶苦茶楽しみにしてたのに。

「……、……」

 しかし、時は無常だ。

 残酷に過ぎていく。本当に畜生って感じてる。

「…………、起きるか」

 ひとまず俺は、

 顔を洗うべく、寝間着を着替えることにした。


 </break..>



 廊下に出てみると、おおよその時刻が雰囲気で掴めた。

 階下から聞こえる人気の音は、街がすでに活動を始めているときのニュアンスである。俺のような寝坊か、早めの昼食を取りに来ている連中が集まっているらしい。

 窓の向こうに視線を投げてみても、やはり日差しは天頂の際に至りつつあった。草原の揺れるシルエットで風が強そうには見えるが、今日もおおむね夏の兆しを思わせる日和だ。

 さてと、喉の渇きを思い出した俺は、見分を切り上げて階下へと下ることにした。

 その先、エントランスロビーを兼ねた食事スペースにて、

「……おはようございます、ハル」

「ういーハルくん」

「…………、うぇす」

 いつかと同じようにエイルと、今日はそれに加えてリベットが円卓についていた。

 その二人の挨拶に適当に返すと、俺の起床に気付いたシアンがこちらに笑顔を向ける。

「あ、おはようございます! というかもうこんにちはですよ! こんにちは!」

「ああ、こんにちは。顔洗ってくるから、食事をお願いしてもいいかな?」

「了解ですっ。遠出なさるって聞いていましたから、一番のベーコンを取っておきましたよ! 卵はどうします?」

「スクランブルで」

 というやり取りで以ってシアンが厨房に駆けこんだ。俺はその背中を見送ってから、改めて顔を洗いに行くことにする。

「……っていやいやハルくんっ? こっちにあなたのお客さんがいるよぉっ?」

「諦めてくださいリベット。大人しく待った方がいいこともある」

「え、ええー……?」

 さすがは公官、順応が早い。

 と、いうことで、

 外の水場で、朝日を浴びながら顔を洗い、伸びとあくびを一つしてから、

「……んで、なんなの?」

 そうして戻ってきた俺は、仕方なく二人の円卓に参加することにした。

「いやっ、なんなのではなくてですね? 今日のお昼に出発だと言ったでしょう!」

「ああそう、……なあ俺さ、昨日お前らと飲んだよな?」

「え、ええ(///)」

「(えっ? なんで赤面?)」

「というからハルくん、あの様子じゃ覚えてないんでしょう?」

「ああ、ものの見事に記憶がすっからかんだ」

「……、ラッキーだったわね(ぼそっ)」

「(マジで俺なの? 俺がなんかしたの?)」

 閑話休題。

 エイルがこほん、と息を吐いた。

「その、忘れているというのはあれでしょうか。昨日アルネにスクロールをオーダーしたことについてもですか?」

「うん? なんだそりゃ」

「ですか、じゃあ、……昨日()()言ってくれたのも、やっぱり(ぼそっ)」

「なあもうそこまで言うなら聞かせろよっ! 俺は昨日何をしでかしたんだ!」

 ずばっと二人に目を逸らされた。なんだろう、最悪俺昨日全部脱いだみたいな可能性すら考えておいた方がいいかもである。

「……。まあいい、それよりもだ、スクロールってのは何の話だ」

「…………本当に覚えてないんですねえ。まあいいでしょう」

 エイルが呆れたように言う。

「爆竜討伐にあたっての装備のご用意。もちろんこれには出費の肩代わりという一面もありますが、そもそもあなたには魔法という概念がない。この世界の兵法や、戦闘における基本的な大抵のほとんどを。ですから、あなたに代わってこちらが、適切な用意をして差し上げようということです。……しかし」

「……、……」

「スクロール製作者との直接のやり取りが出来るのであれば、そういった気回しは必要ない。あなたは昨日、アルネとの綿密な打ち合わせで以って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()をいくつか発注したのです」

 というか、それが目的で引き合わせたのですけれどね。と続けて、

「私の見立ては成功でしたよ。そもそも私たちにだって、不死身野郎の定石などは持ち合わせがありませんからね。昨日の勉強会は、それなりに有意義でした」

「……、どうして今俺を不死身野郎って言ったの?」

「ひとまずはこちらが、あなたへのスクロールです」

 ――発注分はしばらく時間をいただきますので、拠点についてから郵送で受け取りましょう、と続けて、エイルが円卓の上に巻物をいくつか乗せた。

「当面分の自爆スクロールの追加です」

「(どうあっても自爆させたいんだなあ俺を……)」

「それと、これは私から」

 加えて、手のひらから零すようにして何かを机に並べる。

 からからと音を立てるそれは、

「……小石?」

 いやがらせかな?

「爆発石。ざっくり説明すると爆発する石です」

「ひゃあおっかねえ! なんてもん食卓に並べやがる!」

「そこは問題ないのでシアンさん走ってこないでくださいッ! ……いえね、特殊条件下で以って爆発する可能性がある、というだけです。しかしながら、その威力はそれなりのものだ。――あなたの称号、『爆弾処理班』なら、これはそれなりに有用ではありませんか?」

「……、……何言ってんの?」

「あれー? そっか、これも昨日のクダリかー……」

 ドヤ顔をしまい込んだエイルは、その代わりにすごく微妙そうな表情を作る。

「これ、ステータス照合用の魔道具です。これで、あなたの『爆弾処理班』を確認してみてください」

「?」

 それは、執事とかが掛けてそうな感じのモノクルであった。

 ……いやアニメとかで見たことあるけどさ、これそもそもどうやって装着するものなの?

「……かしてください。しょうがないですね」

 ってことで取り返される。それから彼女は席を立ちあがり、そのまま俺の後ろに回って、

「動かないでください」

「……、」

 俺の頭に手を回して、なにやらカチャカチャとそれを付けてきた。

「…………。(なんだかなぁ)」

 そもそも人間、後ろから人に手を回されるような機会などそうない。

 ……後頭部に感じるエイルの存在感が、なぜだか奇妙にこっぱずかしいのだが、

「ほら、それで自分の、右手でも見てみてください?」

「うん? ……おー、そういうことか」

 言われたとおりに注視してみると、右手の上に、いつか羊皮紙で見たのと概ね同じ内容の文字列が浮かび上がってきた。

 ただ、その「いつか」と少しだけ違ったのは、ステータス項のところにマジで『爆弾処理班』が追加されているという点である。そこをジトッと見ていると、……驚いたことに、その『爆弾処理班』についての補足説明が浮かび上がった。

 曰く、


 ――ユニークスキル。

称号・『爆弾処理班』

爆発属性の敵性を退け、英雄となった者に送られる称号。

付属効果・爆発属性の非敵対性物質に対する任意の起爆。

使用条件・一度触れたもの。思念による起爆命令で発動。


「……、……」

「低位アイテムですので簡易表現になっていますが、概ね十分な確認ができるはずですね?」

 ということらしい。なにこれマジで昨日も見たの? 全然覚えてないんだけど?

「というか称号ってなんなんだよ。フレーバーテキストは多少盛ってるけど、これ殆どスキルなんじゃねえの?」

「そういうものなんですよ。称号って言うのは」

 そういうものらしい。納得しておこう。

「――というか! これあったらスキルの最後のやつも分かるんじゃねえの!? この謎の、『結界(酒)〈EX〉』ってやつ」

「ちなみにそれも、昨日試したんですけどね……」

 というエイルの一言が不穏ではありつつも、俺は、好奇心の誘うままに『結界(酒)〈EX〉』の項目へと視線を注ぐ。

 これについては曰く、


 ――ユニークスキル。

『結界(酒)〈EX〉』

 効果・「結界(酒)」の使用権限を得る。


「……これだけ?」

「みたいですね。この、『結界(酒)』が何なのかは注釈が浮かばないようです」

「なんだそりゃ……」

 肩透かしに呆れつつ、俺はモノクルを外して、

「……、おっと?」

「? どうしましたか?」

「エイル?」

「はい」

「………………、外してくんない?」

「…………。」


 彼女はまた微妙そうな顔をして、そしてもう一度席を立った。





――アイテム。


爆発石


純度の低い魔力が砂礫を含みつつ凝固した小石。割るとほのかな桃色をしている。また、特定の魔力パターンを浸透させることにより凝固安定化した魔力の結合が崩れ、小規模なエネルギー放射を起こす。


付属効果:爆発属性

使用条件:特定パターンによる魔力照射

 備考:上記は通称であり、正式名称は高楼石。基本的にはありふれたものであり、またこの世界の一部では「石炭」や「電池」のような使用の模索をされていたこともある。使用後は砂に戻るため非常にクリーンだが、内包する魔力エネルギーは非常に低純度であるため変換効率は粗悪である。


ハル「小石めっちゃ貰ったわ」

シアン「『爆発する石』とかキナ臭いワードが聞こえてきたときは焦りましたよ。しかしまあ、高楼石のことなら心配ないですね」

ハル「お? 知ってんの?」

シアン「ええ、二つに割ると綺麗な石です。高楼石の名前の由来は、断面の桜色だそうですね」

ハル「ふうん? でも爆発する余地があるって言うんじゃ気軽に持ってもいられないだろ?」

シアン「いえいえ、基本的には爆発することなんて皆無みたいなものでしてね? たしか、国家資格持ちレベルの魔術師が丁寧に魔力結合を解いてあげないといけないとか」

ハル「(よくわからんが凄そうなのは分かる)……ふうん? じゃあダイジョブなのかな」

シアン「結構ありふれた石ですので、私も小さい頃は集めてたりしましたね。仲間内でたくさん集めていくうちに、ちょっとした通貨みたいになって」

ハル「あー、分かる。俺も瓶の蓋とかでやってたっけ」

シアン「ええ、このあたりの子供たちは高楼石で資本主義を学びましたねぇ」

ハル「資本主義って言うか、まあ『より持ってるやつが偉い』みたいなのは分かるけども」

シアン「労使階級も学びましたね」

ハル「何が起きたの? 拾って集める現場係以外必要なくない?」

シアン「投資利益の概念も学びました」

ハル「小石をどこに投げれば二つになって返ってくるんだ」

シアン「資源をめぐる経済戦争を経験しまして……」

ハル「小石巡り合ってぽかぽか喧嘩したって話だよね?」

シアン「理想的なベーシックインカムを成立させるに至りました」

ハル「ベーシックインカムと来た! その頃のデータさっ、実験資料として国に提出したら表彰されるんじゃねえかな!?」


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