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「いやあ、楽しかったですねえ!(でれでれ)」
「ああ、そう……(ドン引き)」
「器用で、武器色々使えますもんねえリベットは! どうします? ハルと一緒に武器全部揃えちゃいますっ? 私の蔵品でよかったら何でもあげちゃうんだから!」
「……ねえ、ハルくん」
といった感じの決戦後。
……何故かエイルは、滅茶苦茶リベットに懐いているのであった。
「ちなみに、ぶっちゃけどうなんですかリベット! 対人戦闘以外を想定したら、他の武器も結構使える感じですかっ? だったら私、そういうコレクションも……」
「ハ、ハルくんっ! この子あげる! 好きにしていいから持ってって!」
「……結構でーす」
マジでモメた直後とは思えない風景である。眼福。合掌。
ちなみに場所は、先ほどそのままで木造りの小屋だ。その一角で俺たちは、「汗かいたと思って」とアルネ氏が用意してくれた飲み物を手に輪を作っている。
……それと、これは蛇足だが、用意してくれた飲み水はまさかのポ〇リの味がした。妙に俺の世界と食文化が似てると思っていたがこれは流石にダウトだ。見えざる大きな力が働いているとしか思えない。或いは異世界転移者の方にヘビーなポ〇リユーザーがいたかどちらかだ。
「そ、そうだよエイル? ハルくんの武器を見繕うって言うのが今回のメインじゃないっ? それも考えておかないと!」
「うん? ああ、別に短剣でいいよ。適当なやつ」
「ドライだなぁ! あなただって男でしょ! 今ならコレ引き受けてくれたらくんずほぐれつできるかもしれないのにっ!」
「おっかないよそんなんしたら殺されちゃうもん」
「くっそがぁ……ッ!(力の限りエイルを引きはがしながら)」
さてと、
そもそも今日は、爆竜討伐の色々についてをまとめて片付けるのが当座の目的である。
それにあたって、討伐依頼の詳細は聞いたし、今の用事で依頼条件の、「装備と消耗品の負担」についての最初の打ち合わせも済んだと思っていいだろう。多分この後、俺には「装備」として短刀が支給される手筈のはずだ。
というわけで、あとに残っているのが爆竜討伐の具体的なプランとなる。
よくよく考えれば、その用事でアルネ氏の店に来たはずなのに、結論らしいものは殆ど出ていないままであった。
「……、……」
エイル曰く、この依頼では「担当者」の招致で以ってエースの頭数をそろえる。エイルの身分が「異邦者監査官」であることを思えば、他に集まってくる連中も異邦者と見るべきか。或いはそこに、「エイルとは別の身分の人間」による招致も混ざってくるのか。
「なあ、エイル?」
「うへへへ、リベットぉ」
「こいつっ! 離せ! どこを触ってる馬鹿!?」
エイルはダメだ。あとにしよう。
とにかく、ひとまずは自分の考えをまとめておく方が先決である。
「……。」
……では、それにあたって、
まず初めに、なぜエイルはそもそも、招致された連中との顔合わせを待たずに爆竜討伐のプランをまとめようと思ったのか。
なにせ、依頼の他の同行人は誰にしたって曰く、「化け物」であるという。なら、ここで一人難攻不落の壁を前に頭を悩ませるよりも、その人物たちと一緒に意見を出し合った方が手札が多くて建設的だろう。
さて、
そう考えると、俺には一つ心当たりがある。
――つまり、もし仮にこれが、「コンペのような在り方で提示された依頼」だとしたらどうだろうか。
より建設的な意見を提示できた招致者グループが主導権を勝ち取るだとか、そこまで露骨ではなくとも、裏政治的な優位を得るだとか。そういったアドバンテージが用意されている可能性をここで考える。
「……、……」
そもそも、公国は今(推定ではあるが)転移者秘匿の瀬戸際にある。
そんな条件下で、「より素晴らしい転移者を見定めるような依頼」を出す公国には……、
「……うん?」
――否。
なのだろう。そうではない。
そうではなく、公国にスポンサーとして付くことで遠隔的に依頼を出した国家連合には、やはり、ある程度の意図があるとみるべきではなかろうか。
例えば、――転移者秘匿の崩壊を経た次の世界で、転移者側の頭に立つ人物を占う、だとか。
「……。」
なるほど?
「――エイル? 一度正気に戻ってくれ」
「え、はい? なんですか、正気ですケド」
「今回の依頼、俺は他のサポートに回るって言ったら、どうする?」
「えっ? ちょっと待ってよ! 私の都合は!?」
……と立身出世に息巻くリベットは一旦封殺として、だ。
「なあ、どうするよ?」
「ええと、私は構いませんけれど」
「……、……」
「そもそも爆竜討伐の具体的なプランを持ち帰るのは、向こうから意見を募りたいというお達しがあったからですからね」
「……。……じゃあ、現段階で俺の同行者は、誰がいるか分かるか?」
「同行者? 依頼の、ですか? いいえ、不明です」
――決まりだ。
この、「どう考えても建設的ではないやり方」を求めてきたのは、この依頼者である国家連合だ。
なにせ依頼に集まるのは、どれをとっても「化け物ぞろい」である。本当に相互作用を求めるのであれば、メンツ、同行人の手札を開示してからであるべきだし、逆にそんな連中に「それぞれでプランを固めてこい」などとは、会議が紛糾せずにどうする。
それが仮に、それでも取り決めの手続きが円滑に進むとすれば、そこには依頼の受注者よりも頭一つ分権力のとびぬけた「司会進行役」がいる。これがコンペと言わず、――招致者に対する比較検討と言わずになんというか。
ゆえに、確定である。物証などなくとも、おれにはそもそも他人に証拠能力を提示する必要などは無い。これは全て、俺の頭の中の理屈である。
だから、
少なくともこのテロリスト騒動は、率直に政治対民間の図式は描いていない、と。俺はそう断じることにして、
「……。」
そしてそれを、口には出さぬことにした。
……まあ実際、口に出せば「陰謀論者かな?」でお終いだし、本当にただの疑いすぎだって可能性も全然残ってるって思うし。
なので、心は特に痛まなかった。
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そのあと俺は、上手いこと「ふっふっふ秘策がある」みたいな感じでリベット向けにお茶を濁して、そしてそのまま夜を迎える。
宿へ戻ると、当然のようにシアンが迎えてくれて、そこで俺は「明日は出掛けになる」と伝える。手続きが口頭オンリーの潤滑なもので済んだのは、そもそも俺がここをただで借りているからであったのだろう。
……それが申し訳なかったので、次に返ってきた時はちゃんとお金を払うことにしようと思った俺であるが、――それはそれ。
「四名様でーっす!」
「「「「うぇーーーーーーーい!」」」」
俺、エイル、アルネ氏、リベットの計四名は、シアンの快活な言葉に声を上げた。
日は既に夕食時。
今夜も宴だぜ! やったね!
※次回投稿は一日の朝七時を予定しております。
次は来年。よいお年のおともに、どうぞよろしくお願いいたします。




