表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
楽園の王に告ぐ.  作者: sajho
第二章『英雄の国』
30/430

2-3

03


 高く、広く、そして「空白」の木造りの一室。

 天窓から差す日差しは白く、頬に感じる風もまた、純白のそれだ。

 沈黙が降りる。時折、木床の軋む音が響く。

 部屋の中央。

 にらみ合う二人が、――今、


「――ってりゃあ!」

「……、」


 攻勢はリベット。その手には長短二つの刀がある。長いものは牽制に、その隙間に短いものをねじ込む乱暴な接近。刺突メインで間合いを潰す、突進型での乱撃だ。

 対し防勢はエイル。その手には長剣が一つ。

 しかし、

「――っくう?」

 リベットの突進が、また一つ空を切る。エイルは彼女の猛攻を、バックステップで間合いを抑えながら軽く「いなして」いる。猛攻の内にリベットが少しでも力めば、エイルは見事にそれを捕まえ、流して、払い飛ばす。

 俺は、それを、

「……凄いねえ、エイルさん」

「でしょー? 士官学校の時からあんな鬼みたいだったんだよ」

 アルネ氏の隣で、体育座りをしながら見学しているのであった。


 </break..>



 私ことエイリィン・トーラスライトは、腹中で拍手を打つ。

 まず初めに彼女、リベットの実力の内に拍手を打つべきなのは、彼女の武器選びの視線であろう。彼女は、幾つかの武器に視線を落として、そしてあの二刀を選んだ。それはつまり、他の武器も使えるということだ。それも、恐らくはこのレベルの練度で。

「……、」

 短槍と、長剣と、それと手斧も確認していただろうか。

 どれも、対人戦闘においては効果的な武器である。その上で、それらを全てどかせて、彼女はあの二刀を選んだ。

 また、扱いの慣れについても決して付け焼刃ではない。間合いを潰す前進突攻。間合いが潰れれば一手一手の応酬も加速するし、そうすれば思考に避ける時間が目減りする。

 これは、対人戦闘にこそ特化した戦い方だ。

 ……察するに彼女の考えているのは、最速最短の短期決戦なのだろう。

 例えば槍での中レンジ戦闘で、私との技術対決を行うのは間違いなく愚策だ。それに、長剣などの「応用力で以って戦争の花形を勝ち取った」武器でも、やはり私とは五分の勝負に持ち込めない。

 ――「私」という強者の、

 彼女はまず、その思考を刈り取るべきだと考えたわけだ。

「(しかし、甘い。これではどちらが先にガス欠を起こしますかね?)」

 今もまた、彼女は不用意に力んだ。それを見逃すことはできない。

 彼女の実力を半ば以上まで認めながらも、私はしかしもう一度彼女の突進をいなす。

 ――そろそろ、降参を促そう。

 そう、私は思う。

 なにせ今度の倒れ方は、今までのそれよりもずっと激しい。

 リベットは、突進の勢いそのままで向こうの……、

「――――()()()

 向こうの、()()()()()()()()()()()()()()()。それで脳内にアラームが鳴ったが既に遅い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……っ!

 ――がいぃん! と音が響く。それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして、そこに()()()()()()()()()()

「(……風切り音っ?)」

 ただ物を投げただけでは、こうも風を切る音はしない。左右二つの投擲物は、私に向かって見事な弧の軌道を描いていた。

「なめっ、るなァ!」

 一刀一閃。それで以って二つの放物線を弾き落とす。その投擲物は、リベットが先ほどまで使っていた長短二つの刀だ。ならば、――()()()()()()()使()()()()()!?


「――ちゃーんす?」

「っ!」


 それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。成程確かに、私は、彼女の猛攻で思考を削られていた!

 ――目前に迫るのは、短槍と長剣の二つ分の切っ先だ。

 それを、私は、


()()()()()


 ……仕方がなかったので、ちょっとだけ本気で止めることにした。


 </break..>



 ()()()()()()()()()()()()()宿()()()()()

 そのために、まずはこの忌々しい準級という身分を脱出せねばならない。

「――――。」

()()()()()

 ここが、私の決着だった。

 まず私は、そう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。確実にそうなるだけの力量差が、ここにはある。だからこそ転ばされることまでを作戦に入れる。

 そのうちに、彼女はきっと思考を手放すだろう。考えているフリだけをする。或いは何か、別のことを考え始めるというのもあり得るかもしれない。なにせ彼女には、「この模擬戦の勝利条件がない」のだ。

 彼女は私を下に見ている。ゆえに彼女は、私の降参をこの戦闘の終了にしようと考えているはずだ。

 そもそも私と彼女では、勝利条件の明確さが段違いだ。

 それが、……思考密度の決定的な差になる。

 彼女とは違い、私には、――思考を尽くして目指すべき「一合」があった。

「    」

 ――そして、無様に倒れて、あの武器の山に近付いて、

 あらかじめ()()()()()()()()()投擲武器で不意を打つ。双剣もここで消費する。そしてそれらを牽制として、出来る限り間合いの長い武器を取り直し、それで以って最速最短の直線でエイリィンに一撃を入れる。()()()()()()()()()


「――降参を、なさいますか?」


 私が選んだとどめの武器は、長剣と短槍であった。

 長剣で頭を、短槍で腹を狙う。刃抜きをしてあっても、本気で打ち込めば小さなケガでは済まないだろう一手だ。

 それを、彼女は、

「……、」

 長剣を打ち払い、短槍を踏みつけにして、

 ――まるで戦乙女のように、美しく私を睥睨した。

「……、……」

 息が切れる。

 汗が頬を伝う。

 私は、みすぼらしい中腰の姿勢で以って、彼女を見上げることしか出来ずにいる。

 ()()()()()()()()()()()()()

「――いいえ、まだよ。あなたのお墨付きをもらわないと」

「……。そうですか。お好きに」

 短槍から彼女が足を離した。

 そのまま、二歩三歩と距離を取る。

「――では、どうぞ」

「っ!」

 もう、ワザとらしい発破などは上げない。彼女は私を、既に警戒している。

 ……短槍を放つ。

 それが空を切り、床を穿つ。

 それでもいい、少しでも体勢が崩れているうちに、長剣で更に彼女を狙う。

 警戒されているなら、もう小手先では戦えない。それでもいい。()()()()()()()()()()()()()()

 ……長剣による刺突、それは「到達速度が速いだけの点の攻撃」だ。彼女ほどの手合いが見切るのに苦労はないだろう。重要なのは、彼女の姿勢が未だ崩れたままであるところへ、更に無理な体勢を誘うことにある。

 次だ。

 そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「    」


 ……私の、頭を狙った刺突を、エイリィンは難なく避ける。

 それでいい、私は殆ど致命的に体勢を崩した彼女へ、今度は短槍による薙ぎ払いを放つ。私にしてもこれは、体幹を振り回しての無茶な一撃だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ――さあ。


「ほら、もういいだろ」


 ……衝撃音が、響くはずだった。

 しかしそれは、もっと曖昧な手応えに変わる。()()()()()()()

 私の短槍をその身で受けたカズミ・ハルが、そのまま私をエイリィンから引き離した。

 ……何してんだこいつは!

「ちょ、ちょっと、何するのよ! もう少しで私勝って――」

「勝って、なんだ? お墨付きがもらえるって? ()()()()()()()()()()()()()?」

 私は、

 どうしようもなく沈黙で返す。彼は彼で、なにやら「その鉄砲玉面ヅラはめちゃくちゃ見覚えあるんだよ」と独り言のようなことを言って、

「なあ」

「な、なによ?」

「試験ってのは、勝ち方まで合わせて採点基準だろ? 何するつもりだったかまでは分かんないけどな、無茶は良しとこーぜ?」

「……、……」

 返す言葉がない。

 だから、

 私は俯いて……、


「――な、なにすんだーッ!」


 ちょうどカズミ・ハルの頭があった辺りの位置で、ぱっこーんと綺麗な音が響いた。

「(……ええっ)」

「……エイルさん? なにすんの?」

「あんたそれは、こっちの台詞でしょうが! 滅茶苦茶いいところだったのに! 見ましたかさっきの彼女の表情を! アレはもうね、きっとすごかった! なのに貴様が止めたんだ!」

「……。」

 全く以って納得のいってない表情のカズミ・ハルを、彼女、エイリィン・トーラスライトは押しのけて、

「素晴らしかったですよ! まあ一つも貰う気はしませんがね、ぜひ同行していただけますかっ? それから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「……、……」

 私は、


「……、なんだそりゃ」


 それだけは根性で言い返して、後はどうしようもなく、その場に座り込むことしかできなかった。




 ――スキル


 武器生成《-》


 外魔力を術者魔力による干渉で成形するスキルの派生形。武器を作る場合に限り、スキル成立速度及び魔力効率の判定が強化されている。


付属効果:無し

使用条件:思念、或いは口頭による起動

備考:エイルの持つものの練度は《EX》。これは、上記判定の強化に加えて「武器の顕現可能半径の拡大化」、「顕現パターンをある程度操作できる」などの特異性があるため。これについて、エイルはこの特異性を「魔術詠唱的なシステムで以ってのパターン制御」という形で活用している。(例:指定範囲に、鳥かごのように槍を作り出すパターン、「ケイジ・シフト」など)


ハル「なんだ、ケイジ・シフト?」

アルネ「そう、槍で敵を閉じ込めるパターンだね。カッコいいよ、『武器生成ケイジ・シフト!』って叫んで出すの」

ハル「技名設定してんの? そう言う概念この世界にあるんだ……」

アルネ「技名? いやいや詠唱だよ。思念起動だけじゃ制御しきれない複雑な魔力の運用は、言葉で指向性イメージを補強するんだ」

ハル「ほーん、例えば?」

アルネ「例えば? あーっとね……。そうだな、こうやって火を起こすじゃない?(ボっ)」

ハル「すげえ!」

アルネ「これに、例えば『スピル(ちれ)』っていうと(ぱちぱちぱち)」

ハル「火花になった凄い! なんかもっとカッコいいの無いの!?」

アルネ「ふふん(得意げ)……見ててね、『大嵐火腕フレイム・ハンド!』」

ハル「でっかい手になった!」

アルネ「『炎上するスネイク・ブレイズ!』」

ハル「細長くなった!」

アルネ「『悪魔付与デーモン・フェイス!』」

ハル「ヒト型になった! しかもお話しできる(コンニチワ!!)」

アルネ「そうなの凄いの! それで、指を鳴らすと……(かすっ、かすっかすっ)」

ハル「……アルネさん?」

アルネ「消え、消えるんだけど……(かすっかすっ)」

ハル「ア、アルネさん? 早く消さないと危ない、火だもの」

アルネ「や、やばい、やばばばば(かすかすかすっ)」

ハル「うおおおおおおバケツと蛇口どこだ畜生ッ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ