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楽園の王に告ぐ.  作者: sajho
第二章『英雄の国』
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01


「ああ、おなかいっぱい!」

 という第一声と共に、エイルが帰ってきた。

 ちなみに先ほど、リベットとの話が終わったところである。俺は腹は減らないが、しかしながらこうも「食べ物食べてきたよ」感を出されると無いはずの空腹感がちろちろと燻られる。

 あと、なぜかシアンも一緒であった。

 聞いたところ、昼食のアテを探しているときに偶然出会ったらしい。

「凄かったんですよ! マッシュルームとチーズのピザ! アンチョビが隠し味でちょっと癖があって、ガーリックが効いててっ。それにね、マッシュルームのスライスがたくさん!」

「……さいでっか」

「おいしかったなあアレ! あと、あのマッシュルームは後乗せでね。透けて見えるくらいのスライスがどっさり! 噛むたびにあの、サクサクコリッとした歯ごたえがね! もうたまらないよ!」

「そうですか。すごいですね」

「あとこれ、見てください! あったんですアイスクリームフライ!」

「…………まじ? なんで?」

 俺の静かな驚きをよそに、エイルが何やらを包みから取り出した。

「露店にあったんです! ほんとにあるんだって思いましたよ!」

「俺も実は今そう思ってる」

「なんかね、名前はちょっと違くて、バターフライって書いてたんですけど……」

「……おっと?」

 これは、言語理解のエラーだろうか。今もしかしたら、バターフライって聞こえたんだけど。

 いやでもあれかな? アイスもバターも原材料一緒だし? まだ分かんないのかな?

「ハルの分もありますよ!」

「だいじょうぶでーす」

「じゃあ溶けちゃう前に、いっただっきまーす!? ッ???」

 バターフライ。

 それは彼の、ファストフードと動物性油脂の国アメリカが生み出した可食製兵器である。

 作り方は簡単。バターを揚げる。それだけだ。

 ――平日白昼の街路時に、少女の、どことなくもったりとした悲鳴が響いた。


 </break..>



「(うえっぷ)……、えっと、そちらは?」

「あ、どーもリベット・アルソンですー……」

「あーごめんちょっと待って吐きそう」

「人の名前聞いて吐きそうはやめなよエイルさん?」

 ということで春の昼半ば。

 暖かくも、少しだけ鋭さのある風が時折吹く。そんな、とある木陰にて。

 仕事に帰ったシアンを除いて都合四名。俺たちは改めての顔見せを済ませた。

 なお、その全員と面識があるのは俺一人であり、したがって各々の紹介は最低限とりあえずの範囲で俺が取り次ぐ。

 ……それで以って、ひとまず全員が、互いの名前までは周知した頃。

 まず初めに俺は、一つ話題を提示した。

「とりあえず。爆竜討伐の話をしようか」

 爆竜というフレーズに、リベットがやや硬直する。そういえば、依頼の具体的な内容については、まだ確認していなかったのであったか。

 ……というか爆竜討伐の話のせいで俺が『爆弾処理班』とかいう不名誉な通り名をゲットしたはずなんだけど、これはアレか、爆竜クダリをちゃんと知らない連中にも『爆弾処理班』の方だけが勝手に往来独り歩きしてるってことか。最悪である。

「え? えっと、とりあえずそれにあたって、アルネとスクロールの打ち合わせとかしてたんですけれど……」

「いやな、思い出したんだけど、そういえばそもそも俺は、決戦の日取りも、戦う場所も、依頼報酬も他のメンツも何も知らない。勝つための理論値を探るよりも先に、まずその辺の事務連絡を済ませるべきなんじゃねえのか」

「……一理ありますね」

「……、」

 聞かなかった俺も悪いけど、俺の言い分は一理どころかマナーのお話なのではなかろうか。

 依頼報酬については「それっぽい数字」を聞いた覚えもあるが、そもそも俺がこの話を受けたのは、この「他の異邦者メンツと会えるかも」の部分によるものである。彼女曰く、俺以外の異邦者に会うべきではないか、などと。

 そこについてはちゃんと、条件を確認しておきたい。

「ええとまず、……事態はそれなりに切迫しています。依頼を受けてくださったハルには、明日の昼には出ていただく必要がある」

「そりゃ急だな。爆竜が首都に出る頃合いみたいなもんも、ある程度予測がついてるってことか?」

「爆竜が、首都に???」

 口を挟んだのはリベットである。アルネさんの方は、一度したやり取りだからだろうか、コミュ障堂に入る我関せず顔だ。……いやコミュ障なのかは知らんけど。

さて、

「……(あれ? そういえば私は、この人にも事情を聞かせてもいいのか?)」

 ……という顔を全く手遅れなタイミングでしたエイルに、俺は改めて彼女を紹介することにした。

「ああ、リベットにも聞かせてくれ。彼女は、今回の爆竜討伐戦に同行することになった」

「えっと? ……まあそういうことだろうとは思っていましたけれどね。失礼ですが、等級を聞かせていただいても?」

「あ、えっと。準二級です、ケド」

「……なるほど。同行は構いません。ハルが見込んだのでしたら、私は特にいうこともありませんしね。ただ、その場合はハルと同格の依頼内容にはならないとだけ、この場で確認させていただきます」

「別にいいよ。私はこの、準級ってのが取れればそれでいいんだ」

 そうですか。と短くエイルは言う。その視線はリベットを何の気なしに眺めるようであって、その実装備や身体つきから、抜け目なく実力を検分しているものであった。

「エイルったら目がえっちだね」

「は、はぁ!? もういいですよバカっ、続けます! ええと、決戦は十日後、その日取りでの爆竜の到達予測位置であるミクス平野にて行われます。依頼条件としては、ハルには装備消耗品の全負担を。達成条件は爆竜の討伐、もしくは撃退。お支払いは七億ウィルを提示いたします」

「……うわー七億、すごいなあ」

「残念ながら、リベットさんに提示できる額ではありません。あなたには、公国が出す大規模クエストの受注をお願いします」

 それで少し、リベットがしんなりとする。

 七億ウィルというと、ざっくり日本円では五十億くらいだろうか。

「……しかしそれは、破格に聞こえるな。俺以外にも冒険者を呼んでるんだろ? そいつら全員に、この値段を払うのか?」

「いいえ。まず一つ目に、この依頼は一律の内容ではありません。あなたに出したものは、私があなたの状況を鑑みて提示したものです。報酬金についても、そこで多少の目減りがあると考えてください」

「ふうん?」

 ならばやはり、相当な出費だろう。

『赤林檎』や『爆竜』の襲撃でキナ臭い状況にあるような国が、こんなところで大枚をはたいていいものか。

「そして二つ目に。――この依頼には出資者がいます」

「出資者? 公国以外で?」

「ええ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「んなっ!?」

 と、リベットがびっくりしている横で、俺は少し考える。

 国家連合とは先に聞いた通り、「転移者秘匿を維持する」役割を担った組織である。そいつらがスポンサーだということは、やはり「テロリスト」の存在は既に予期されていたということだろうか。

 しかし、特級冒険者とは。

 ……国家連合体と並べられて語られるほどに、強大な存在であるというのか?

「この事情は、調べれば誰にでも確認が出来るものです。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ――うん?

「……、なるほどね。とりあえずは分かった。エイル裏に行こう」

「え? なんで???」

「いいからいいから」

 ずりずりと肩を押す。あたふたし始めたエイルを逃がさないようにするのは、なんとなく抱っこを嫌がる猫を捕まえておく気分であった。


 </break..>



「なんなんですかっ、もう!」

 ということで木陰を逸れる。行きかう群衆を壁代わりに、その更に向こうへ。

 そうして見繕った軒先まで彼女を押し込んでから、俺もふうと息を吐く。

 人混みは、そこまで分厚いものではなく、ここからでも木陰の様子は確認できる。そしてそれは、向こうにしたってそうだろう。

 リベットが、少しだけ心細そうにこちらを眺めているのが確認できた。

「なあ、エイルよ」

「はい、なんですかってば」

「俺、リベットにも身の上の説明はしない方がいいんだよな?」

「え? ああ、それは、その方が賢明ですね。お願いします」

「でもさ、あんまり活躍したらバレるんじゃね?」

 これは、俺なりに言外に含むものを用意した一言であった。なにせそれだけ、この推測アイディアがマジだったらやばい。語彙吹っ飛ぶくらい凄くヤバい。

 しかし、

「いえ、それには及びません」

 と、彼女は涼しげに答える。

「転移者に限らず、上級冒険者というのはどれをとっても怪物の集まりですよ」

 以前、クランという言葉を紹介しましたね? と続けて、

「アレは、トップの一人から数名までが実働部隊であって、それ以下はエースのフォロワーです。場合によっては冒険に出ない鍛冶師が、名を連ねているという可能性もあります」

「……、……」

「一級冒険者は、千人で当たるべき依頼を達成できることが概ねの水準です。()()()()()()()()なのですよ。クランという概念は、その一騎を更に磨き上げるための制度です」

 ――だから、悪目立ちの心配は無用だと彼女は言う。

 ()()()()()()

「……、……」

 そもそも、秘匿すべき存在を大舞台に立たせることからして間違っているのだ。強さの区別がつかないから、では弱い。その計算に異邦者本人たちの感情は乗せられていないのではないか? 例えば、英雄と呼ばれることに、そいつらが味を占めたらどうする?

……いや。


「まあでも、関係ないか、俺は」


 彼女に軽く謝って、

俺たちは再び木陰を目指す。


 ーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

これは、仮説にしたって本当に、状況証拠で選べる無数の推察可能性ルートのほんの一条でしかない。

 それに、だ。


 何よりも俺は異邦人である。

 この世界の、その先の趨勢を占う権利など、端から俺にはないモノだろう。




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