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※ネタバレ
マジでと突貫事でこの小説書いてるのであのキャラの台詞のルビが上手く行くかは天に祈って自分は寝ます。上手く行ってなくても知りません。
簡単にまとめてしまうと、どうやら昨日の騒動の発端であるところの、あのカルパッチョ氏が暴走したらしい。
……というのも彼、あの後本気でギルドに尻を拭いてもらおうとしたらしく、この騎士堂に向かう人垣をかき分け、一人深夜のギルドへ向かって、……そしてそこで、予定調和の如くして門前払いを食らったのだとか。
ギルドが治外法権であることなど、冒険者でなくても知っていることである。それがギルドの持つ、特有にして信頼がおけるほどに強固な自浄作用によることも然り。彼らは裁かれぬのではなく、勝手に裁かれるから裁かぬだけなのだ。
といった経緯で以って彼は、……助けを求めに行ったギルドの措置によって冒険者資格の剥奪と、この街からの退去命令が出た。
これが、考えてみればなかなかに外連味のある一手なのだが、つまりこれというのは、「この街に残っているならお前はギルドにも所属していない犯罪者だ。それでも警察組織である騎士堂に行って呪いを解いてもらう覚悟はあるか?」という沙汰である。またこの沙汰の怖いところが、あくまでもギルドのルールに則って、「この街に迷惑をかけたからこの街から追い出して、ギルドに迷惑をかけたからギルドからも追い出しただけ」という点である。どう考えても恣意的な制裁行為のはずなのに、どう解釈しようにも活字上では理にかなってしまうわけである。
ただし、それで納得するならクレーマーなんぞ名乗れない。彼はそこで、「自分は冒険者資格を剥奪されたのだからギルドの命令を聞く謂れはない」とドヤ顔で宣言したらしく、――それが今度は、その場にいた他冒険者たちの不興を買って窮地に立たされる。
……と、言ったところで、先に一点確認したいことがある。
俺が彼に使った術式は、時空体系術式の属性によって対象の人生に作用する魔術、人生の再定義である。
ではさてと、この魔術、結果としてはこれ以上なく強力なデバフであり、まあたまに一定以上の強者が魔力抵抗でなんなく弾いたりこそするが、基本的にはこれで以って、雑魚は一絡げに無力化でき、また『効果の解除』を盾に恭順も促せる。……のだが、
正確に言えばこの魔術は、単純なデバフではなく時間操作にあたるものだ。そんなものを彼は、窮地に立たされたパニックで以って無理矢理その場で自ら解呪しようとしたのだとか。
しかしながらもう一度言おう。あの術式の性質は時空の操作であり、呪いなどではない。
そして、時空を操るなんていうそもそもが不安定な術式に、適切ではない方法で以って介入した場合、それでは果たして、何が起きるというのか。
……いや実際、マジでなんの因果が捻じ切れてこうなったのかは不明なのだが、とりあえず結論から言おう。
――彼はどうやら、見た目だけキャッピキャピの魔法少女になったらしい。
/break..
「マジカルリリカル☆シューティングスター! ぎゃっははは!! 燃えろ燃えろ全部燃えちまえぇ!!」
――この世界を呪うような絶叫(内容は不問とする)と共に、大地が割れて火炎を噴く。
生物的強者であるはずのこの街の住人が、何の抵抗も出来ずにただ、一様に戦きその様を見ていた。
「ハートフル♡桃色ブルーム! ああ、力が! 力が漲るぅ!!」
衆目は悲嘆する。この街はきっと、今日終わるのだと。
嗚呼、世界は今、
――ラブリーなハートのエフェクトでいっぱいになっていた。
「(……俺は何を見せられているんだ)」
ということで現地。
……ドヤ顔で「お前失敗したな? 俺が部下向かわせてケツ拭いといたぞ」とか言うつもりだったらしい無能上司ことニーロにケツを蹴られた俺は、まあ確かに俺のせいではあるのかもしれないこの死地に一人降り立つ。
目前は焔とハートが燃え立つ瓦礫の集積。
冬空の高さと青さがただすら空虚で、この災禍の仕立て人たる魔法少女氏の狂笑と、ラブリーなサウンドエフェクトのみが存在感を放つ。
彼女(彼かもしれない)は虚空にて、この街を一様に虫けらの如く眺めていた。
……しかしながら、シリアスとハートフルの差し引きであんまりこの光景に緊張感自体はない点も一応付け加えておく。
「――おい! 俺は騎士堂のものだ! 武器を捨てて投降しろ!」
とりあえず形式的なセリフを、俺は彼女に投げてみる。
……ちなみにこのハート模様で蹂躙された廃墟は、位置で思い出す限りどうやら元々はギルド施設であったらしい。現状は焦土と化したサンリオランドにしか見えないけど。
ってのは置いておいて、さてと、
「っは! 騎士がまた来たのか! おい武器ってのはこのチューリップスター☆ロッドの事か!? 馬鹿め! 見てみろよこれが凶器に見えるか!?」
「(見えない)」
……3980円くらいでトイザらスに売ってて子どもがケガしないように徹底的に配慮された玩具にしか見えなかった。ということで納得してしまった俺は二の句を告げなくなり、そして他方では――、
「って! お前は昨日のクソ騎士野郎! 見てみろテメエ! テメエのせいでこんなふざけた姿になっちまったよ俺の人生おしまいだよ!!」
「……何言ってんの?」
「だぁああああああああ!!! 俺の自我に侵食してくるんじゃねえハッピー成分! くそ! 頭の中で声が囁きやがる! 世界をお花でいっぱいにしろって囁いてきやがるゥ!!!」
……業が深すぎる。とりあえずで殺してやったほうが良いのかもしれないまである。
「と、とりあえずそのティンクルラブリーなんとかってったロッドを捨てて投降しろ! 抵抗しても無駄だぞ!」
「チューリップスター☆ロッドだよ! 愛の力を集めてみんなを守るパワーに変えるんだ!」
「知らねえよ訂正してくんな! そんなもんなんでもいいんだよ!」
「うるさいうるさいうるさーい! 私はこの力で世界を守るじゃねえやぶっ壊してやるんだもん! 邪魔しないでよお兄ちゃん!」
「おい浸食されてるぞハッピー成分に! 気を強く持て!」
「ぬがぁああああああああああああああああああああああ♡☆(;^ω^)」
いや怖いんだけど。こんなシュールな人格汚染見たことないよ俺。
「ふ、くふふ……☆ ああ、俺はもうおしまいだ……。だったらいいさ。もうなんにでもなーれっ☆ってやつだ。……この街もお前ら騎士もまとめて始末して、世界と一緒に心中してやる!!」
「何言ってるか分かんねえ!」
完全にどうしていいか分からず叫ぶ俺に、魔法少女まじかる☆パッチョはなんとかステッキを向けて叫ぶ。
「――これでっ、おしまいだよっ♡ ラブリー・キュート! ハッピーシャワー!」
びゅびゅびゅんびゅびゅんみたいな効果音と共に、幾つものハートがパッチョちゃんの背後に広がり、――そして、墜ちる。
それは質量による絨毯爆撃となって俺へと、ここら一帯ごと巻き込む規模で襲い掛かり……、
「――き、起動! 時空魔法体系魔術!」
しかし、時空を固定する魔術によって進む意義を失くす。
――時空魔術とは、この世界における最高位の魔術体系の一つである。……なんて解説を思い出すことによって俺はこの悪夢みてぇな光景から現実逃避しようと思う。
時空魔術。
それは最高位の魔術であり、位の高さはそのまま、この世界の根幹への近しさを示すものでもある。
火の魔術なら火を熾し、風の魔術なら風を興す。それら元素魔術は人に自覚できる自然現象を司るモノだが、魔術とは、深淵に至れば至るほど表層から遠のいていく。
ある魔法は剣を媒介として神話を呼び覚ます。神話とは、人の想像する形而下の世界であり、この世界に直接的に存在するモノではない。また、とある魔法は、魔王や英雄や半英雄と呼ぶべき有り様を現象として体現するが、人の有り様など概念と呼ばずして何と呼ぶ?
――魔法は、深に迫るごとに輪郭を失くし、定義をすることが難しくなり、そして、世界の懐へと波及していく。
その果ての極致として、――時と空間は、世界の深、或いは『芯』そのものと言っていい。
ゆえに、……良く分からないキュンキュンしたハートなんてものに負ける道理などはない。
概念を司る魔法に太刀打ちするのなら、せめて概念そのものでも持ってくるのでなくては、役不足以前に土俵が違う。
――音の停止。
そして、それに伴う作用の停止が、目前にて発生した。
鼓動するようにキュンキュンして降りしきるハートの雨が、まさしく『写真』のように切り取られて、時空から置き去りにされている。
「な、なんですって!?」
「やりづらいなあその口調!」
彼女は更に、驟雨を操るが如くして夥しくハートを打ちだす。それはもはやハート一色の悪夢でさえあり、四方八方、360度から襲うハート爆撃は、三次元的な津波の様相である。
ただし、――それらもまた、俺に到達することはない。
俺の使う時空魔法、……いわゆる時空体系魔術式は、時空を観測し、それに作用するモノだ。
しかしながらそもそも、魔術を『体系』と呼ぶ理由を考えれば、正確に言えば俺の『コレ』を表現するべき言葉は時空体系魔術式では不足がある。
体系とはつまり、順序だっているという意味だ。一があり、十がある。或いは始点があり、終わりがある。|ならばどうして、順序だてる必要などがあるのか《》。
――答えは簡単。そうせねば『学べない』からである。
「だったら! これならどう!?」
パッチョちゃんが、虚空に浮いたままこれまでとは別格のタメを行う。それに対して俺が、あの手の女の子に使っても角が立たなそうな攻撃魔術ってあったかなと思い出している間に、無情にもその術式は成立したらしい。
果たして彼女は、俺の防壁魔術に対して更なる火力で押し通すことを選んだようだが、……そもそも、彼女の使う魔術(?)自体が非常に物理的な作用を持っている。
ハート属性の魔術とでも呼ぶべき見た目でこそあるが、アレの本質は「質量」だ。
小さなハートの絨毯爆撃はそのまま重火器の掃射と同じ作用であり、この質量を上げた場合には、火器の口径が上がったのと同様の効果が予想される。
ハートの形をしているから分かりづらいだけで、アレはまさしく『弾丸』である。
それが、――時空の壁を超えることなどあり得ぬのは、説明する必要もないことだろう?
「……、……」
……さて。
魔術とは、学ぶものである。体系化され、学ばれ、汎用化されていくものだ。
それゆえにありとあらゆる『魔法』は体系魔術と呼ばれる。火の魔術を学んだ人間は、極端に言えば、火という自然現象を見知らずとも適切な手順さえ踏めば火属性魔術を行使できる。
例えば自動車。その内部機構を知らずとも人は、アクセルを踏めば車を前に進めることは出来る。この例において『魔術式』とは、車を設計することであり、組み立てることであり、そして一般に流通する事でもある。そして『魔術』が、車を得ただけの一般層が「車を使うこと」そのものだ。
ゆえに、俺の使う魔術を『時空体系術式』と呼ぶことは最適とは言えない。
なにせ俺は、――時空を観測し、それに作用を為す方法論を確立して、そして魔術式を創った側であるからして。
「いっくよー!! マキシマムっ、ラブリーキャノン!!」
エビのように、彼女は背筋で反り返る。――すると、その背後に現出したのは空を覆い隠すような特大のハートであった。それを彼女は、膂力一杯で上段から振り抜く。
と、その起動と共に、滑り出すようにハートが奔り、地上への墜落を始めた。
それは確かに予期された火器の口径の巨大化でこそあったが、規模があまりにも桁違いだ。この光景の様相はいっそ、人の力では無しえぬ自然災害規模の質量攻撃である。
しかしながら、そもそも時空の範疇に大将の質量は関係がない。
無力な子どもだろうが世界を滅ぼせる魔王だろうが、取るに足らぬ小石だろうが世界を終わらせる終末の剣だろうが、それら全ては「この世界に存在しているという劣位性」を持っている時点で時間と空間に支配されている。
ゆえに、――惑星衝突じみたその一撃もまた、実にあっけなく「この世界のルール」に阻まれた。
分かり切ったことを敢えて言おう。
世界が止まっている状況で、動けるものなど存在するはずがないのだ。
「……、……」
――ああ。体系に内包された魔術を、俺が使うのではない。俺が使った魔法が、体系化されてこの世界に名を刻むのだ。それこそが、俺がこの世界において『最高峰の人間』の称号を冠する根拠であった。
戴く称号は、『時空観測者』。
俺は、
――この世界で唯一存在する、時空魔術の使い手である。
「――起動」
俺は、そう呟いた。
なにせ、そう。思い出してしまったのである。
俺はそういえば、このあともう一仕事残っているのだ。こんな、この街に住んでいれば三日に一回は起きるような規模の騒動にこれ以上拘泥している暇などなく、俺は、可及的速やかにこの場を収め、そしてマイエンジェルニーナのためにサンタクロースを探さなくてはならぬ。それは、今しがた思い出した。
ゆえに、選ぶ魔法は致命的なモノを。――殺すほどもない程度の暴徒が相手なら、ならば俺は致命的なほどの敗北を彼女に付きつけるだけでよい。
「時空体系術式第二層:二時間の否定」
戦闘技術を持ち込む必要さえないほどに、この戦場は児戯であった。
だったらそんなもの、なかったことにしても同じだろう。
俺は術式の一詠唱で以って、彼女がこの街に振りまいた災禍を全て否定し、なかったことにした。
「……えっ?☆」
彼女がキラキラしたまま呆然とする。
呆然とし、――滅茶苦茶にしたはずのギルド施設が、今この瞬間に何事もなかったかのように運営されている様を、眺めている。
「……………………。」
時空を司るとは、まさしく世界を司ることである。
ゆえに俺はこの魔術を完全に使うことを禁じられている。俺は、時空を観測した時点で、この世界の始まりと帰結を目視する権利を得ているために。
何かを間違ったなら、それをなかったことにすればいい。誰かが気に食わないなら、そいつが生まれぬよう過去で手を打てばいい。この世界が気に入らないとして、パラレルワールドの選択権はそもそも俺のこの手にある。
時間を司った時点で、俺にとって世界は意味をなしていない。時間とは空間であり、空間とは世界であり、世界とは選択肢の集積であり、選択肢とは、文字通りの全てだ。
それゆえに俺は、最高峰を名乗ることを許された。だけれど、人の身で全知全能であることなどに面白みなどありえなかった。
――ゆえに俺には、決して破れぬ誓いが刻まれた。世界を操る場合は、範囲を限ると。
だから、この『隔離世界』の外側は今も、崩壊したはずのギルドが元通りに修復されていることを疑問に思いながらも、ひとまずはこの戦いの趨勢を見守っているはずだ。時間に置いて行かれて、或いは別の選択肢を辿って、その戦いを知らぬのは、俺が範囲を限ったこのギルドの敷地内の人間のみである。
「な、……何をした?」
「なかったことにした。それじゃ、俺は仕事があるから」
――朝の喧騒に包まれたギルド支部にて。
俺は、そのように呻きながら周囲の奇異の目を一身に浴びる魔法少女に、
そのように言って、背を向けた。
※ひとまず、更新はここまで。
続きは明日、みなさまの素敵なクリスマスの朝にお送りいたします。
おやすみなさい。良い夢を!




