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楽園の王に告ぐ.  作者: sajho
第二章『英雄の国』
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1-4

04


「じゃあ飯だね」

「絶対うそ! さっきのエグめの推理パートは何だったんですか! さっさとなんとかしに行きましょうよ!」

「……なんとかってなんだ」

 ということで昼食である。

 今日も見事な春うらら、俺の懐具合と同じくらい街の雰囲気が温かい。

 また、そんな中でぎゃあぎゃあうるさいこの小娘のなんと無粋なことか……。

「いや、そもそもな? 俺たちじゃあ何にも出来ないよ。結局あれだろ、現状じゃ爆竜ってのを討伐するのが最初の目標で変わってないんだし」

「うぅ、ぐぬぬ……」

「見てみろよアルネさんをさあ。あの安らかな表情。見習っていきたいね俺は」

「(日差しだ、溶けちゃう。私溶けちゃう)」

「違いますね。あれはまた別カテゴリーの昇天顔ですからね……」

 ……みたいな感じで、俺たちは三人そろって街を散策していた。

 エイルの方も、なんだかんだでこの日差しは心地いいと感じているようで。

「――ふぁ、あふ」

「ずびし(エイルの大口に人差し指を突っ込む俺)」

「おうぇ!? な、なにすんだっ!」

 先ほどのような緊張は、今ではもう名残すらなく氷解していた。

「っていうかなんだそのデカいあくびは、寝てないのかね?」

「そりゃあ、昨日はあのお祭り騒ぎでしたでしょ? 昨晩はもう、寝たというよりは気絶でしたね。疲れだって取れません」

「景気が悪いなあ、そんなんじゃ国も傾いちゃうんじゃないの?」

「公国的には景気経済よりもひっ迫した問題がすぐそこに迫ってるんですけどね。……ああもうだめ、ねみゅい」

「また喉ちんこ触ったげようか?」

「そんな最低な眠気覚ましある? 今私文字面のエゲつなさだけで目が覚めましたね」

 というかギリギリスウェーで避けましたからノーカンです、とジトッと睨まれる。

 いや、喉ちんこのスウェーってなんだ。それ慣性に従って揺れただけなんじゃないの?

「まあ確かに? 目が覚めたら今度はおなかがすきました。春の風は冷たくて、妙に温かいものが恋しくなりますね」

「だねー」

 ってことでどうやら、昼飯のアテ探しに上手いこと話がズレてくれたようである。こいつのことだから「テロリスト潜伏の可能性がっ!」とか勇んで騎士堂支部に駆け込むくらいはあるかと思ったのだが、察するに眠気のせいか、そこまで頭が回らなかったらしい。

 ちなみに、仮に公国首都が「持っている手札を打てない板挟み」という状況にあるとすれば、なにせあまりにも出来過ぎた状況である、板挟みが恣意的なものであることは公国にしたって即座に理解するはずであるからして、そんなわけでただの民草たる俺も基本的にはノータッチで行く。

 ……いや、だってこれ個人の管轄超えてるでしょ。俺なんて立候補したところで雑兵一兵卒だって思うし。出来ることないよ。

「……そういえば、アルネさんこの辺に店構えてるってことは、食事事情にも詳しいんじゃないの? どっか良い店ないかね?」

「ああ、私というアイスクリームを食べて……」

「何言ってんの?」

「あー、この子出不精なんですよ。士官学校のころから日差しに当たるとこうなっちゃって」

「ああ、溶けていく。ラクトアイスが溶けていく。腕を伝って垂れていくわぁ……」

「頭おかしい」

「引かないであげてください。これでも腕利きで通ってるんです……」

 是非もなし。エイルのしたためる表情は、ちょっとやそっとの苦労では至れない境地に見えた。縁切りゃいいんじゃねえのか。

「……まあいいや。それで、俺は当然この辺には詳しくないんだけど。そっちはどうなのエイルさん?」

「私もこの辺は初めてですね。一応、地理は頭に入っているんですけれど」

「あいすぷふぅ」

「頭おかしいね」

「あっ! 違います今のは、アイス食べたいっていう真っ当な意思表示のやつでしたね!」

「きみも頭おかしいな」

「別に『これ』に片足突っ込んでるから意思疎通が出来たわけじゃないですから……。実は割と付き合い長いんですよ」

 縁を切りゃいいんじゃねえのかなあ。ダメなのかな、のっぴきならない事情があるのかな。

「……実はすげえ友達少ないの?」

「やむなしで友達になったんじゃねえよっ! この子これで凄いんですよっ? 優しいし? 頭いいし? それにほら、優しい!」

 二個しかない。信号の色の数だってもっと多いと思うんだけどこいつらの友情って信号機以下なの?

「……まーいいや。それはそれとして、どうするよ? 温かいものかアイスかってことになってくるけど」

「見事に真逆ですね。ちなみにハルは、なにか食べたいものはありませんか?」

「うん? じゃあ間を取って、常温のものかねぇ」

「……常温のものってなんだ?」

「抜身のチーズとかどうよ」

「いやかなあっ。せっかくのお昼ごはんに三人そろってチーズだけをもしゃもしゃ齧るのは嫌だなあ!」

「ならあれはどうだ、間を取ってアイスクリームの天ぷら」

「え? なにそれちょっとおいしそう???」

「でも出してくれるお店がないね。諦めよう」

「うそ!? 私凄く気になるなあ! ねえ、探すだけ探してみませんかっ?」

「というか昼飯にアイスはねえよ」

「うあ率直……っ! いやまあ、私もぶっちゃけその通りなんですけども……」

 さてと、

 俺のアイディアは冗談として、アイスと温かいものを一緒に出してくれる食事屋というのはどう探すべきだろう。一応この世界の文明水準は概ね俺の世界のそれとも大差ないようであって、デザートにアイスの用意がある店というのは探せばすぐに見つかりそうだが、なんだかそれでは味気ない。

 と、そんな状況に、

 俺はふと、この街を始めて散策したときのことを思い出した。


 </break..>



「なるほど、バザールですか!」

 と、エイルが納得した様子で言った。

「ここなら割と何でもそろうんじゃない?」

「アイスクリームの天ぷらはありますかねっ?」

「……、探してみたら?」

 ねえだろーなーとは思うけど。

 さて、

 この街の一角には、このように露天の並ぶ通りがある。人通りも特に活発で、客寄せの声や、行きかう人々の上気したやり取りなどは絶え間ない。

「アルネさんは、どうすんの?」

「私は、木陰に住むよ……」

「住居探しの進捗を聞いてるんじゃねえんだけどなあ。まあいいや、休んでたらアイス探してきますよ」

「私はっ、あの、揚げ物のお店を回ってみます! そこの木陰で待ち合わせってことで!」

 それだけ言って、エイルがぴゅーっと走って行った。

 いやしかし、ここが江戸前だったらてんぷらはファストフードの花形だが、こういう感じの中世ヨーロッパストリートにてんぷら屋さんってあんの?

「……。まあ、いいかぁ」

 アルネ氏に手を振って、俺も露店の通りへと繰り出す。……一応、さっさとアイスの一つでも見繕ったら一度様子見に戻ってこよう。なんていらぬ世話も思いつつ足を速める。

 さてと、

 昼食時真っ盛りだけあって、通りはどこもごった返しである。流石に日本都内の往来ほどの人口密度ではないが、気を付けなくては行きかう連中と肩がぶつかりそうな光景だ。

 露店に並んでいるのは、雑貨が七、食事が三というイメージだろうか。歩く方向を間違えたのか、妙に専門色の強い店ばかりに思える。

 ……先日の下見で俺は、この辺りの見分を適当なところで切り上げていた。

 今日は、改めてしっかりと見て回ってみようか。

 と、


「――あれ? あなた……?」

「?」


 呼ばれた気がして、俺は振り向く。

 そうして見つけたのは、――これだけの人混みでも埋没しないほど、はっきりと俺を射止める一つの視線であった。

「ああ、あなた! やっぱり昨日の!」

「えっと、はい?」

 まず、

 それは少女であった。

 小柄で、淡い色の髪をしていて、面持ちの印象はネコかきつねか。人懐っこそうだが、第一印象で以ってお転婆がにじみ出ている感じである。

 そして何より、俺の見知った顔ではない。

「……。」

 彼女の服装は、そのあたりに歩いている連中とは意匠が少し違うものであった。

 軽装で、実用性重視。というかぶっちゃけ、これがゲームならそのまんま「シーフ」って感じだが……、

「――『爆弾処理班』!」

「……、……。」

 まるで「英雄だ!」とでも叫ぶような表情で彼女は、例のちょっとまだ納得のいってない称号で以って俺を呼んだ。

「……、ハルだよ。鹿住ハルだ。ハルって呼んでいいからさ……」

「なるほどー、流石噂に名高い『爆弾処理班』サマは懐も広いってことだ?」

「次そのあだ名で呼んだらぶっ飛ばすぞ」

「あれ? やっぱ懐狭いのか?? どっちだ???」

 閑話休題。

「名乗り遅れました。私冒険者やってます、リベット・アルソンって言います。リベットでいいよ。……うーん、やっぱり警戒してる?」

「いやしてないよ。警戒なんてしてない。してないから両手を頭の後ろに着けて跪いてもらえるかな」

「警戒しまくってるね。現行犯に対する態度だよソレ」

 ……ひょっこり、という擬音が聞こえてきそうな感じの動きで、

 彼女は遠慮なく、俺との距離を詰めてきた。

「聞いたよー。ニュールーキーが『赤林檎』討伐したんでしょ? すごいよねえっ」

「賞金が目的だろ? かかってこい返り打ちだバカ野郎」

「胡散臭いのは認めるけどもうちょっと敵意の方なんとかなんないかなー」

 別に賞金が目的ってわけじゃないからっ。とさらに彼女は距離を詰める。

「(ずいずい)」

「……。」

 彼我の距離は、既に三十センチを切っただろうか。

 俺よりも頭一つ分低い目線から、彼女はこちらを見上げるようにする。あざとい。胸元がとてもきわどい。これ絶対賞金が目的だよ。つつをもたせられてしまうよ。まんざらでもないよ。

「いやー、賞金が目的ってわけじゃないんだけどー。……でもほら、大型新人には今から粉かけておこうかなー?」

「……、……」

「この辺詳しくないんでしょう? 私と一緒に、()()()いこうよ?」

 俺は、

「……。()()()()()()()()

 と、答えることにした。

 すると彼女が、「やったー」と笑う。語尾にハートが付きそうなゲロ甘のイントネーションである。

「じゃあ、お兄さんにイイトコ――」

「俺も、この辺に詳しい訳じゃないんだけどね。でも一つだけ、いい場所を知ってるよ。そこでいいかな?」

「え? ……えーどこだろー楽しみー(ゲロ甘)」


 </break..>



 ということで、

「ただいまアルネさん」

「ああ、おかえりぃ……」

 道中でアイスクリーム(驚くべきことに日本東北地方の「ババヘラ」そのまんま)を見繕った俺は、アルネ氏が待つ木陰に戻ってきた。

「これ、アイスあったから」

「あぅ、どうも申し訳ないよぅ」

「……おっと? ハルさん? ハルのお兄さん?」

「ああリベット、この人はアルネさん。そんでアルネさん? こっちがリベットだ。お互い仲良くしてね」

「あぁ、はい? えっと、よろしく?」

「はいですぅ(ぺろぺろ)」

「それじゃ俺、行くところあるからさ。またな」

「なんで!? え? なんでっ? あれ? おかしいな? イイトコ行くんでしょっ?」

「いや何言ってんの。ここすげえいいじゃん。涼しいし、アルネさんもいるし。何よりもほら、こんなに涼しい! じゃあな!」

「待て! 待て待て待って! おかしくないおかしくない!? 指折り三つ数えてプレゼンしてくれたはずなのにプレゼン要素二つしかなくなかったっ? 計算おかしくない!?」

「じゃあな!」

「行くなっ! 行かないでちょっと待って! っていうかこの人は誰!? あなたは私にどうしろって言うの!?」

「じゃ、俺行くから!」

「待てぇー……っ!(俺の服の裾を思いっきり掴みながら)」

 服伸びちゃうからやめて欲しい。

 しかしながら、このまま振りほどいて走って逃げてもどこまでも追っかけてきそうな雰囲気である。或いは一度、ここで互いの認識のズレを解いておくのが一番の早道かもしれない。

「ったく。わかったよ、いっかい離せ」

「やです! 離したら逃げるんでしょ! 絶対ヤダ!」

「逃げねえよ! 逃げねえから離せって言ってるんだ! ほら見ろこれ、裾の方ぐでぐでになっちゃってる!」

「ホントに逃げないっ?」

「逃げないってば!」

 そこで、不承不承そうではあるが、彼女は俺の裾を離してくれた。

 しかしなおも、「隙あらば服の裾を握ってやるぞ」と視線で訴えかけてくる彼女に、俺は敢えて向き直る。

「――いいか、リベット?」

「な、なによぅ……っ」

「俺はな、小娘には興味がないんだ。わかったら帰れ」

「うっ、ウソだね! だってさっき私のブラチラガン見してたじゃん!」

「ウソなことがあるか。リベット、俺がお前にいつウソをついたことがある?」

「初対面だからね! あったらマジで相当な人格だよね!」

「俺だってなあ、そこに乳首があったら……」

「わぶっ!? ウソだ! そこまでは出てなかったハズだっ!」

「――乳首あるなーって、なんの興味もなくても目が行くだろ?」

「最低だアンタッ!」

 胸元を抑えて「くうっ」と彼女がこちらを睨む。他方いい感じに株を下げられたという手ごたえを感じた俺は、この辺りが切り上げ時だと見切りをつけることにした。

「とにかく、マジで行くところあるからさ。飽きるまででいいからアルネさんの相手しておいてくれよ。借りってことにしてやるから」

「あれぇ私、一緒にいるだけで借りカウントになるような扱いなのー?」

「いや、本当に待って! ()()()()()()()()()()!」

「……、」

 ――唐突に、

 彼女の口調が悲痛さを帯びて、それで俺は少しだけ彼女に意識が向いた。

「……、……」

「ねえっ、どこにだってついていく! だから、話だけ聞いてよぅっ」

 これではまるで、俺が悪者ではないか。

 ……外聞が悪い。悪目立ちをするというのもいただけない。

 ゆえに、


「……。ったく、なんなんだよ?」

 ――理性的判断で以って、

 俺は仕方がなく、彼女の話だけは聞いてやることにした。





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