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楽園の王に告ぐ.  作者: sajho
第六章『宿命の清算【表】』
222/430

1-4



「さあ、それじゃ私たちも動きましょうか」


 防衛拠点テントにて。

 彼女、レオリア・ストラトスが他の三名、……ジェフ、バスケット、エイルに言う。


「とりあえずの目標はリベット氏の保護です。ジェフは、そろそろ到着する旧王都兵と合流して、そのまま一部兵士を連れて旧王都に帰還。バスケットはこの拠点にて引き続き作戦(チェス)を練り上げててね。私は、エイルさんとリベット氏の保護の方に動きます」


 そこで、

 ジェフが言う。


「…………。君も、立場としては俺と同等だ。なんなら将来的な物も加味すれば俺よりも重要だろう? 敢えて言うけれど、俺と一緒に旧王都に来ないか? 君が出る必要なんて、無いはずだろ?」


 しかし、


「――心配性だな、ジェフ。私には逃げ場(・・・)があるって言ってるだろ? ……それに、いつか言った通り、リベット氏の保護と保証はこの国の義務だ。それから謝罪もね。誠意を見せるのに、当の私が安全圏に引きこもってはいられないだろ?」

「…………。……すまないね。わかってることを言ってしまった。気を付けて行っておいで」


 了解。とレオリアが短く返す。


 ……と、

 そのやり取りが終わるのを待って、次いでエイルがレオリアに声をかけた。


「レオリアさん」

「うん? なんでした?」

「私はあなたと共に行く。それは了解しました。察するに私の同行は、私があなたを守ることも加味されたものだと思います。どうでしょうか?」

「……正直言えば、そうですね。一応身を守るスキルは幾つか(・・・)あるんだけど、でもやっぱりエイルさんの力を頼りにしている節があります」

「では、……――進言を(・・・)

「うん?」

「……リベット・アルソンが邪心の巫女スキルを開花させていた場合、リベットに接触しているパブロ氏は今、『悪神ポーラ・リゴレット』の力の半分(・・・・)に晒されている可能性があります」

「……、……」

「パブロ氏の武勇は、私も聞き及んでいます。しかし彼は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、のではないですか?」

「…………なるほどね、なるほどです。それで、……進言というのは?」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。――どうですか?」

「……、……」


 なるほど、と再三の言葉をレオリアは呟いて、



「――任せました(・・・・・)

「パブロ氏の無事は、お約束いたします」



 それだけ応えて、エイルは弾かれたようにテントを出た。





 〈../break.〉





『ソード』とファフニ―ルの衝突地点にて。


「……って感じ(・・・・)で行く。オーケー?」


 桜田會のルクィリオが、敢えてグランの目を見て言った。


「……、……」

「不安があるなら言え。ここでそれを消化して作戦をより完璧に近づけよう。なにせファフニ―ルの魔法陣の完成まで、()()()()()()()()()()()()

「……分かった。分かったよ了解した。…………その上で一つ聞かせてくれ」

「なんだ?」

「さっきのウラのウラの切り札(・・・・・・・・・)、ガチなのか?」


 グランの問いにルクィリオは、

 ……さあな、盛ってるかも知れないわな。と答えて、



「んじゃ始めよう。めったに縁のない竜殺しってやつだ、経験できるだけラッキーだろ?」



 と、あくまで軽やかに、

 ――死戦の開始を、告げた。









『■■■■■■■■……』


 ――竜は「思う」。


 あと数秒で、この国の地図が変わる。それを、他でもない自分の手で、為そうとしている。


『彼』は、思う。


 過日自分は、スケールを履き違えた(・・・・・・・・・・)。文明の脆さを知らなかった。吹けば飛ぶ命は、吹けば飛ぶ程度の価値しかないのだと思っていた。それが、違った。



『――――。』



 黄金を求めた。財宝を。その価値も知らぬまま、黄金の眩さに目がくらんでそれを集めた。

 蒐集した芸術の真の価値(おもしろさ)を知ったのは、……集めたものが、全て燃えてしまったその後だった。


 敗北(よわさ)を知った彼は、そうして初めて弱者(ヒト)の芸術を、美学を、死生観を知った。黄金に照らされるだけの土くれ色の世界が、イミを知った絵画(えのぐ)の数だけ色づいていった。

 ゆえに彼は、


 ――ヒトの弱さを、受け入れることに決めた。




『(……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())』




 雑兵と共に地割れに落ちてくれれば、怪我だけで済んだものを……。なんて風に彼は嗤う。



『(そら。あと数秒でこの術式は完成するぞ? 尻尾を巻いて逃げるがいい、弱者よ。私は貴様らの背中を、尊敬を込めて見送ろう)』



 ヒトは、弱者であるからヒトである。それがヒトの存在意義であり価値である。

 ゆえにヒトは、『彼』には分らぬほど繊細で、美しく、儚き芸術を生み出すに足る。


 ヒトに、強さは、……求めない方が良い。



『(さあ、時間だ。逃げてくれたまえ。……頼むから、逃げてくれ(・・・・・・・・・・)。諸君らは(うつくし)い。そのことに気付け。弱さは悪ではない。儚きことは美しいのだ。命を守れ。そのために必死たれ。その選択を選べるのは、……知らなかっただろう? 諸君らだけなのだ。どうか――)』



 一つ、嘶く。

 威圧を込めて咆哮を上げる。不可逆の破壊を知らしめるべく、背の魔法陣で空を灼く。

 そこに、


 ――ガラス玉が、三つ(・・・・・・・・)




『(――――。)』





 ../break.





「――――ッ!!!!」


 竜の目下、地上にて。

 まずはハィニー・カンバークが、高空の魔法陣に向けて三つ、ガラス玉を投げた(・・・)


 ……それらは、ヒトの膂力を超えた速度で飛び、そして空の彼方で魔法陣の光に紛れる。そこで竜が、一つ嘶いた。三つの魔法陣がそれに呼応し光を吐いて、


 そして、魔法陣が、



 ――消える。



「……まじで、…………消えやがった」


 グランがそう、うわ言のように呟いた。


 彼が聞かされた説明は、まず、ハィニーの持つ『硝子属性魔法』についてであった。

 彼女は火・土・水の魔術属性を、「ガラスの生成に特化させる」ことで強化させているらしい。元来彼女の持つ「魔術の成立すら難しいほどに極微量の魔術量」を、そうして下駄をはかせる(・・・・・・・)ことで使用可能レベルまで引き上げる。

 そうして出来上がったのが、先ほどの「ちっぽけなガラス玉」である。


 それが、――竜の魔術を消し飛ばした。


「――正確に言えばあれば、魔法じゃなくて魔法陣を消し飛ばしたんだけどな?」

「……、……」

「んな顔すんなよ。殺すって決めたから解説してやるってわけじゃねえさ。……そっちも学者様なら分かるだろ? ()()()()()()()()()()()()()()()


 ……魔法陣とは、()で魔術式を「書く」ことによって魔法現象を発生させるものである。

 書くという工程一つ分だけ魔法陣とは煩雑とした技術であり、実用レベルでは「口頭で、最適化されたフレーズを呟く」という詠唱術が幅を利かせている。しかしながら、()()()()()()()()()()()()、その利便性は逆転する。


 行使する魔術が、大規模、複雑であればあるほど詠唱も複雑になる。他方で魔法陣は、()()()()()()()()()()()()。また口頭での詠唱魔術とは違い、「魔法陣を二つ三つと重ねる」ことで、多次元的な作用、相乗効果を乗せることもできる。総じていえば、今日までに淘汰され残ってきた魔法陣魔術は、――()()()()()()()()()()()()()()()()()であるとされる。


「――――。」


 そう。魔法陣魔術は「複雑」だ。複雑な精密記述の積み重ねを、大抵の場合魔力光で行う(・・・・・・)


「(――魔力()で行うからこそ、魔力で作った硝子ならその精密さに介入できる? ふざけんなよ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」


「それより手前もさっさと動け。作戦はもう始まってんだよ」

「…………分かってるさ。聞きてぇことは全部後だ。――んじゃ、行くぜ」


 グランが、両手を目前に突き出す。


 目前(・・)

 正確に言えばそれは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 彼はそこに、掌を当てて、



「――――ッ!!」

 白条(・・)を、ゼロ距離で打ち込む!



「おら! 手前らのオーダー通り綺麗に倒れるぞ!」

「了解! んじゃお前ら! 行ってこい!」

「よっしゃぁ……っ」

「いくぞぉ!」

「おうよ付いて来いよストラトス領!」

「なあ手前ら今更だけど俺のことストラトス領って呼ぶのやめろ!」


 倒壊する剣山の一柱。そこに、呼ばれた彼ら、……エノン、アリス、ミオ、グランの四名が足をかけ、駆け上る。その間にも柱は轟音を立てて角度を失い、そして……、


 ――柱の切っ先が今、竜の顎に照準を定めた!


「ストラトs、……グラン!」

「りょーかいッ!! 呼び方改めてくれてありがとよ!」


 指示をしながらルクィリオが全力でその場から距離を取る。それを後方の気配に確認したグランが、今度は両手を、彼らが奔る「柱の側面」に接着し、


「――――ッ!」


 ――閃光。それと共に、柱が光に両断される!


「んじゃ今度は俺の出番だなァ! 手前ら全員、()()()()()()()()()()()()!」

「来るならこぉい……ッ!!!」


 アリスの威勢を聞いて、柱の断裂面にエノンが奔る。他の三名は、柱の先端を目指す。

 そして、爆音。



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「fooooooooooooooooooooooooooooooooooooooッ!!!!」

「ミオ! よろしく!」

「任せとけ!」


 後陣二名の声を置き去りに、グランがその場で奔り出す。白条を後方に両手で吐き出し、流星のように加速し飛び上がる!



『■■■■■■■■■■■■!!!』



 彼方では今、竜が再び背に魔法陣を描き出す。その数は五つ、先ほどの『竜閃』よりも二回り小さいそれらが、しかし先ほどとは違い、描かれたと同時に力の兆し(・・・・)を見せ始める。


「お兄ちゃん!!」

「見えてる! ハィニー!」

「――――ッ!!」


 魔法陣五つに、投擲されたガラス玉が衝突した。魔法陣がステンドグラスのように割れて消える。しかし竜はなおも魔法陣を作り続け、そこでハィニーが、


「あッ!!?」

「どうしたハィニー!?」

一個すっぽ抜けた(・・・・・・・・)!」


 竜の作り出す魔法陣の一つが、遂に内包する魔力を現象(かたち)に変える!


「(……竜閃か!)」

「わあごめん!!」

「謝ってる場合じゃねえ! おいルクィリオ! 俺が迎撃する!」


 返事を待たず彼、エノンが、倒れる柱の根元から炎線を撃つ。

 しかし――、


「(クッソ! 普通に力負けしてんじゃねえか……ッ!!!)」

 エノンの撃つ炎線を竜閃が真正面から「割って」、飛翔する柱の先端に向かう。


「おい! ルクィリオ!?」

「問題ない! 『グラン聞こえてるよな(・・・・・・・・・・)!?』」

『聞こえてるし見えてるよ! 任せろ、こっちの「心臓」のが特別性だぜ!』


 ルクィリオが手元の念話スクロールに噛みつくと、グランのハイになったような叫び声が返った。――そして彼方で、竜の閃光が「白条」に撃ち抜かれる!


「オーケーだグラン! 着弾圏内に入った(・・・・・・・・)!」

『了解!』

「アリス! トドメ、刺しちまえ(・・・・・・・・・)!」

『任せてお兄ちゃん!!』


 向こうで、石柱が竜の腹に「着弾」する。大質量が竜の胴体に深々と刺さり、竜が、地を揺らす大絶叫を上げて、


 そして(・・・)




『――任務完了』

「さすがだ、アリス」




 絶叫が止まり、

 ――竜が、「氷結」した。



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