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楽園の王に告ぐ.  作者: sajho
湖章『Flower.(after_the_〝Lain〟)』
176/430

幕間_2.

 


「ちょっとグラン! そんなに乗り出たら見つかっちゃうよ!」

「何言ってんだよパブロ馬鹿め! こんなに離れてるんだぞ? 向こうからしたらこの集落の子どもがのぞき込んでるだけだって思うに決まってる! 顔なんか分かるかよ!」

「だからってそんなにスニーキングを放棄する必要はないじゃん! どうせ向こうが顔も分からないような距離にいるんじゃ僕らだって向こうの声聞こえないでしょ!?」

「遠くから雰囲気を見るんだよこういうのは! レオリアが言ってたろ? これは有用そうな情報源を探すところから始まるミッションだ!」

「女子更衣室に有用な情報源なんてないよっ!」



 夏の木陰にて。

 庭一つ分の距離越しにグランが息巻く視線の先には、この集落の集団浴場の更衣室がある。とはいえ集落規模のコミュニティにも潤沢な水路を引けるほどこの領は裕福なわけでもなく、集団浴場自体はそう書いて()()()()()()()()()程度のものだ。

 ゆえに……、


「せめて向こうの川にしようグラン! それなら間違って迷い込んだ子どもで最悪押し通せるんだから!」

「馬鹿野郎! 混浴状態のただの川に全裸の女の子なんて来ないに決まってるだろ!」

「だから軽犯罪で済むかもしれないって言ってるんだ! 肌着の下まで見ちゃったら僕たち殺されても文句言えないよ!?」

「生きるか死ぬか! 上等だぁ!」


 戦士の如く勇猛な表情を作る彼に、しかしパブロは理性の暴発をこらえる。

 ……言ってやれたらどれほど楽か。彼が同年代の女子になんと呼ばれているか暴露出来たらどれほど清々しいか。泣き虫エロガッパって呼ばれてんだぞ、と。


「くぅ、ぅぅう!」

「だぁっはっはっは!」


 しかし、彼のあだ名を彼に伝えては彼がまた泣く。ゆえにパブロは、伏して「泣き虫エロガッパの相棒」という身分に身をやつすほかになく、今日も今日とて馬鹿をしでかすグランの服の裾を力いっぱいに引っ張ることしか出来ないのであった。

 ――と、そこへ。


『prrrr』

「うぉわあ!?」

「どっひゃあ!?」


 唐突に響く第三者の『声』。

 畜生バレたか殺されるのかと身を堅くした彼らは、しかし遅れて、その音がグランの上着の内ポケットから聞こえていることに気付いた。


「え、遠話スクロール?」

「レ、レオリアからだよグラン!?」


 それは、グランの言う通り遠話スクロールからの着信であった。スクロール自体はカードサイズだがそれなりに高価な代物で、二人がそれぞれの両親から持たされた際には「みだりな使用は禁止」と固く言い聞かされたほど。そんな事情であるため、二人が遠話スクロールの受信音を聞いたのは、これが初めてのことであった。


「う、うぉおこれどうやって出ればいいんだ!? レオリアからだ! もしかしてバレたのか!?」

「バレたとしても遠話スクロールわざわざ使わないよ! えっと、普通にスクロール使うつもりで魔力を通せばいけるはず!」

「こうかっ? いやちがう! こうだ!」


 すぅ、っと、スクロールが魔力光を帯びる。それを確認したグランが紙幣をとって眺めるような所作でスクロールをつまみ直す。

 すると、二人分の注視に応えるようにして、スクロールが小さな魔法陣を一つ浮かび上がらせた――。


『グラン!? パブロもそこにいるか!?』

「ああ、どっちもいるよ!」

「ど、どうしたのっ? 何か焦ってる!?」


 スクロール越しの彼女の声、その異様な声色に、二人は即座に緊張のスイッチを入れる。

 ……焦っていて、殆どパニック手前のような声であった。だけれどどこか、声量を押し殺したようなニュアンスがある。

 魔物か野党の襲撃にでもあったか。或いは行方不明者の凄惨な死体でも発見したか。そんな壮絶なイメージが二人の思考を塗りつぶし、夏の日差しの暑さが肌から消失する。

 しかし――、


『まず言おう、無事だ。ひとまず脅威に晒される予定もない。心配は無用だ』

「それは……、よかった」


 ほとんど息を止めていたらしいグランが分厚いため息を吐く。ただしパブロの方は、緊張の糸を欠片ほども弛ませずにスクロールの声に耳を向ける。

 グランの未熟を正すのは、今ではない。そうパブロは感情を切り捨てた。何ならいっそ、グランの持つ武力では()()()()()()()()()のために自分がいるのだ、と。

 思考を回すのは自分の係だ。だからこそ今ここで、自分は一つとして気を抜くことが出来ない。レオリアが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()。その異常事態に対処することこそが、パブロの役職役目であった。


「用事は? こちらに可能なことなら全て従うよ」

『パブロか? 話が早い。じゃあ言うけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……わかった」


 その不穏すぎる言い回しに、しかしパブロは即座に肯定を返した。


『よし。じゃあ言うぞ。要件は二つだ。まず一つ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「な、なにを……っ!?」

『聞くって言ったよな? これに逆らうのは、騎士家としてストラトス領に逆らう行為だぞ。僕は君らを軽蔑する』

「……分かった。二つ目は?」

『パブロの方のスクロールを使って、今すぐ僕ん家のジェフに連絡を取れ。そこでの要件は二つだ。一つは、可及的速やかに僕のスクロールに連絡を取ること』

「了解、二つ目は」

『オーケーありがとう。それじゃよく聞いて、一言一句間違えずに伝えてくれ……。


 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と』



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