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楽園の王に告ぐ.  作者: sajho
湖章『Flower.(after_the_〝Lain〟)』
166/430

07.



「あれ? おかえりレオリア、早かったね?」

「うん……」



 ストラトス邸にて。

 用事でエントランスに通りがかったらしい彼、ジェフ・ウィルウォードが、レオリアの姿を見て声をかけた。

「義姉さんに聞いたよ、今朝からグランとパブロを派手に振って、そのアフターフォローだって? 無事に済んだのかい?」

「うーん。まあ、たぶん……?」

「? どうかした?」

「グランには会えたんだ、元気になったと思う。パブロの方は、会えなかったけど元気ではあったのかなぁ」

「妙に煮え切らないみたいじゃないか。悩み事があったら聞くよ?」

「いやー、パブロは書斎にいたから、ノックして声をかけたんだ。返事は無かったけど、部屋の中から『天啓の降りた発明家』みたいな奇声が響いてて」

「えー……?」

「シルヴィさんに言ったら、『元気な証拠だ』って」

「えー……っ」

「おじさん……。ぼくこれ、どう母さんに報告したらいいんだろ」

「えー……っと、だねぇ……」


 用事も忘れて言葉を失うジェフ。

 というか天啓の降りた発明家ってなんだ? 失恋こじらせておっかないシロモノとか思いついたわけじゃないよな? と子ども相手にちょっと本気で慄きつつあった彼は、しかし、


「まあ、用事が済んだらしいって俺から義姉さんに伝えとくよ。君はとりあえず、『元気な声が聞けた』って返しておけばダイジョブじゃない?」

「ホント? 他人事だと思ってない? それ……」

「まあー、……そこは置いといても。きっと大事じゃないさ。流石にあのリザベル家(・・・・・・・)でも、失恋一つで世界に絶望して悪の科学者れんきんじゅつしにーとかはないと思うよ?」

「悪の科学者って、……いや、そこまではぼくも考えてないけどね?」

「そっか、ははは……」


 あーそうだ、とジェフ。


「?」

「今日は忙しくなるらしくて、家庭教師はお休みらしいよ。家の人も用事で動いてるから、申し訳ないけど今日は一人で暇を潰してくれって義姉さんが」

「あー、そうなんだ。ふうん……?」


 煮え切らぬ様子のレオリアに、ジェフは思い出したように語調を急がせた挨拶を残し、そして通路向こうへと消えていく。

 その後ろ姿は、……確かにどこか急いだようなニュアンスがあった。


「……、……」


 グランもパブロも、今日は暇つぶしに付き合ってはくれないだろう、と。

 彼女、レオリアは、一つ溜息を残して、そして自室へ続く通路を辿った。











 〈../break〉











 ――さて、


 突然だけれど僕、レオリア・ストラトスは異世界からの転生者(・・・・・・・・・)である。



「(クリアリング完了。外には誰もいない……っと)」



 それ(・・)を間違いなく確認して、それから僕は自室の扉を閉める。……それと一応、ドア越しに外の音に耳を澄ませてみて、


「(よし、大丈夫っ)」


 改めて息を吐く。

 僕の部屋は、この館でも特に日当たりのいい場所にある。今日のようなよく晴れた日には、散歩よりも読書や日向ぼっこに気がそそられるような、そんな一室だ。

 右手にはベッド、左手には本棚と勉強机。――それから窓を見れば、見慣れぬ花瓶が一つ。

 ……たしか、ガーベラとマーガレットだっただろうか。今朝グランたちから貰った花束を、察するにコスナー辺りが気を利かせてくれたのだろう。日差しを浴びてほころぶその立ち居姿は、こんな僕でもちょっとだけ気持ちが軽くなるくらいに可愛らしいものだった。


 閑話休題。さてと、


 僕ことレオリア・ストラトスは異世界からの転生者である。この世界に来て、もう十年近く。それでも未だ、僕の精神性は前世のそれを根強く残している。

 物言いや、立ち居振る舞い。或いはこの、「僕」という一人称もその一つ。

 ()()()()()()()()()僕は、それゆえ女性らしさの欠如という点で、家族や友人に欠ける苦労に暇がない。母には結婚の心配で家庭教師にお金を掛けさせてしまっているし、今朝は悪友二人に、脈の皆無な告白などをさせてしまった。

 僕が可愛いのが悪い。それは認めよう。

 この容姿、『女神の造形〈EX〉』というスキルにまで昇華されたこの姿は、――実のところ、転生者として得た恩恵の一つであるらしい。

 今でもあの「時間と色の無い空間」を揺蕩う感覚と、そこで聞いた不思議な「声」は鮮明に思い出せる。



 ――おはよう、×××。死出の目覚めはいかがですか?


 ――あなたの願いを解析しました。三つの願いを、スキルとして出力します。


 ――あなたに、第二の生と、その結末(・・)の祝福を。



 と、

 それで僕が願ったのが、「これ」らしい。

 僕が前世で焦がれた願いと言えば、考えて思いつくのは「成功」だ。成功の確約(・・)ではなく、成功への『挑戦』。僕は僕の生涯に、「最高の手札」と、それをいかんなく振るい挑む「挑戦ステージ」を求めた。

 そうして僕は、この女神の如き容姿というアドバンテージと、……三つ目の、使い方のよく分からない『祝福の担い手〈EX〉』とかいうスキルと、

 そして何より、「この力」を得た。






「――起動、『結界:図書館〈EX〉』」






 右手にはベッド、左手には本棚。

 そんな八畳半の部屋の最中央、――そこに、光が舞い上がる。


「……、……」


 そうして顕れたのは、木製の、両開きの扉である。ぱっと見だけなら、「扉という家屋の部品」が忽然と顕れただけのように見えるに違いない。或いはこれが「僕の世界の住人」なら、その「虚空に扉だけが立っている光景」に、一つ思いつくモノがあるかもしれないけれど。

 とにかく、これが僕の得た能力の一つ。

 扉に手をかけて、……ゆっくりと、押し開ける。

 そしてその向こう、その光景にはまず、


 ――いつだって、むせ返るような「紙」の匂いがある。



※今回より、更新スケジュールをいつも通りのものに戻させていただきます。


 次回更新は24日の1時までとなります。よろしくお願いいたします。

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