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楽園の王に告ぐ.  作者: sajho
第一章『旅のはじまり』
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『旅のはじまり_/4』

『旅のはじまり_/4』


01


 いや驚いた。異世界にトランプってあるんだーどころの騒ぎじゃない。

 まさかの大富豪があった。縛りと八切りとJバックもあった、ハウスルール的に言うとこの世界は俺のハウスであるっぽい。


「…………(号泣)」

「(どや顔)」


 ……ちなみにではあるが、俺こと鹿住ハルの持つスキルの一つには、『黄金律(Ⅷ)』というものがある。バルク曰く、一生金に困らないスキルだとのことであるが、

しかし、

 ――何よりもまず、これは、俺が「大富豪である」ことを宿命づけるスキルであった。


「わっ、わーーーーーーーーっ! なんで!? どうして! どうして一度も勝てないの!? どうしてあなたは手札が八枚も残っているのに一手で勝つの!? ズルだ! 悪いんだぁッ!」

「わあああっはっはっはァ! ばっかお前マジでちんちくりんだなァ! こういうのはカウンティングなんだよ! サシでやってんのに全然相手の手札を予想するってことをしねえ! 貧すれば鈍するなあ下級市民さんよォ!」

「わーーーーーーーーーーーーーっ!(ガチ泣き)」


 と言った感じで、道中の暇を二時間ほど潰した頃である。

 荷台の尻の方から、パカパカと音を立てて、馬に乗った人影が現れた。

「……あの、エイリィンさん?」

「なんだっていうのよっ!」

「…………伝令です」

「……………………聞くわ。なんですか」

 ずびっと鼻をかんで、ごしごしと顔を拭いて、

 それでエイルは、平素通りの綺麗なおすまし顔に戻った。多分これも魔法なんだと思う。

「ええと、前方に敵影を確認。『赤林檎』らしきものは見えませんが、数は二十程度かと」

「ああ、そうですか」

 と、答える。

 そして、

「――ちょうどいい」

 とも。

 え? なに? 負けの憂さ晴らしを魔物にぶつけんの?

「こちらの進行状況は?」

「三分の一程度、『赤林檎』の暴発を考えた場合でも、街に行く爆発の影響は突風程度となる予測です」

「でしたらこの辺りで進行を緩めましょう。さしあたっては、先頭第二までの部隊を矢じりの陣形にお願いします」

「了解。突撃の合図は?」

「先頭第一はギルベッド隊長でしたね。ならばあの人に任せます。一つ伝令を」

「はい?」

()()()()()()()()()、と」

「――了解」

 その言葉を残して、彼の馬がつうと走り出す。

「それでは、私たちも向かいましょう」

「うん? どこに?」

「決まってます。『観戦』ですよ」

 ――今のうちに、この世界の戦闘に慣れておいてください、と彼女が言った。


 </break..>



 馬車の速度は、はっきりと言えば遅々としたものであった。人の歩みよりは早いが、それでも追いつこうと思えば走って追いつける程度であろうか。

 ――そんなわけで、大した慣性もなく馬車は止まる。

 それで俺たちが馬車を降りると、並走していた甲冑騎兵の一人がこちらに寄ってきた。

 なお、彼らは街の外から随時合流してきた連中らしい。俺たちが馬車で街を出た頃には護衛など一人もいなかったのだが、気付けばここの周囲にはちょっとした大所帯がある。

 どうやら、これでさえ先行する部隊と比べればほんの一握りであるのだとか。

「トーラスライト様、馬をお持ちいたします」

「ええ、ありがとうございます」

「……なにやら、目尻が赤くはありませんか?」

「…………心当たりがありません。仕事に戻りなさい」

「はっ」

 ということで用意された馬に、俺たちは乗り込んだ。

 まずは彼女が、次に、彼女の乗り方を見て、見まねで俺も彼女の後ろに乗る形である。

 ……なるほど、結構揺れるな。

「――ハル」

「……なにかね?」

「……、あなたが今、私のどこを触っているのかとかって、気付いてますか?」

「え? どこ?」

 叩き落とされた。

 おっぱいだったらしい。

 そもそもねえもんじゃ触れねえのにって思う(暴言)。

 さて、閑話休題。

 俺はエイルの運転で以って、戦場に横たわる騎士の一列を疾走する。

 こうしてみれば、二千人にも及ぶ隊列というのは中々に見ごたえがあった。延々と続く人の整列が、エイルの姿を見つけては敬礼を返す。

「……、お前、マジで偉いんだな」

「舐めてますね、もう一度はたき起こしますか?」

 今はやめて欲しい。怪我しないけど心がびっくりする速度であるからして。

 さてと果たして、その内に、この隊列の最前線が見えてきた。

「……、……」

 矢じりの陣形、などとエイルが指示を出していたのを覚えている。彼ら先頭隊は、確かにそのような隊列を敷いていた。

 そして、――その矢じりが向くのは、黒く蠢く彼方の敵影だ。

「飛ばしますよ。捕まって」

「どこに?」

「マナーとTPOをわきまえたうえで自分で考えてください! 行きます!」

 ぐわっと、風が鳴る。馬が風を裂く。

 その轟音さえもかき消すほどの、――一つの声が、向こうから轟いた。

「突撃ィイイイイイイイイ!」

 その突撃部隊の号令に、応ッ! と分厚い怒声が返る。

幾重ものそれが、地響きを起こす。土煙を上げる。

「矢じり」が、遂に放たれた。

「ぅおお!?」

 敵影の詳細がようやく見える。それは、おおよそ人の腰までの体高をした蜘蛛の群れであった。人の隊列と比べてはあまりにも雑然とした徒党の群れで以って、こちらを威嚇しているのが見える。高く、絹を切り裂くような声だ。それが、

 ――まもなく悲鳴に変わった。

 ()()()()()

 あまりにもシンプルな圧殺が、蜘蛛の群れを踏み砕き貫いて更地に変えた。

「おぅ、エゲつねえ……」

「流石はギルベッド。ハル、見えましたか?」

「……、見えたよ」

「これが、我が国における戦闘です。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 歩兵には騎兵を、騎兵には魔術を、魔術には遊撃部隊を当て蹂躙によって制圧する。()()()()()()と彼女は言った。

「……敵性第二陣もいるようですね。ハルは今のうちに、彼らとの息を合わせるイメージを作っておいてください。アレが、あなたと『赤林檎』までの道をこじ開けます」

彼女がそう言う間に、第二陣も既に更地に代わっていた。


 </break..>



 それから、()()()()()()()()()()()()()()

()()()()()()()?」

 エイルが、そう言った。


「……、……」

 ギルベッド隊長率いる突撃部隊が敵影を蹂躙するたび、しかし地平線の際にはすでに次の敵影が確認されている。そんな状況が、既に半刻も続いていた。……無論ながらその間、後続の部隊はその場待機である。前方の安全を確認するまではゴーサインが出されることはない。

 そして、

 次なる敵性第九陣は、

「……、うそ」


 ――どうやら敵の本隊であるらしい。

「……、……」


「…………()()()()()()()()()()()()()?」

 平原は、

 今まさに、黄昏色の様相を帯び始めている。

 視界の果ての地平では、赤く強い日差しとは対照的なインディゴが空を覆っている。察するに、向こうではもう夜が始まっているのだろう。

 ソレは、――夜から這い出してきた。

「……ッ! 全隊傾聴! 作戦行動の構えに入れッ!」

 エイルが叫ぶ。後方の隊列から、馬の嘶く声がいくつか響く。

 それ以外は、静寂を保っていて、

 ――()()()、と、

 不意に、地面が鳴った。


「    」

 それは、動く「一つの巨岩」であった。

 八つ足のシルエットが、静かに、確実に地面を踏みしめる。その度に大地が軋む。

 日差しを背に、それは、

 太陽を覆い隠すほどの威容で以って、――こちらへとただ歩いていた。


「――おいッ!」

「アレが『赤林檎』ですよッ! あなたはアレに、ただ自爆魔法をぶつければいい! やることは変わらないでしょう!?」

「な、なに言ってやがる!? 撤退だ! 撤退しろォ!」

「出来るか馬鹿ぁッ!」

 とんだ行政の横暴を見た。だから権力者というのは嫌われるのである。ホントそういうとこだぞって思う。――しかし、

 やるほかには、無いのだろう。

「――――。」

 俺こと鹿住ハルの、記念すべき初のクエストにて、

 報酬は身に余る富。俺の背には数限りない生命と可能性があり、

 ――相対するは天突く巨岩。勝利条件は、……俺の自爆。


「……ちっくしょうぅ」


 魔王と戦う時のBGMが聞こえそうな状況である。

 しかしながらエイルは、……何の遠慮もなく馬を更に加速させた。





 ――モンスター


 ロックスパイダー種


 脅威度:E~A

 基本属性:土・火

 種族基本変遷ロックスパイダー → アイアンスパイダー → ジュエルスパイダー

 備考:鉱石を摂取する蜘蛛型の魔物。主に鉱窟内にて分布。内部種族本来の性質としては非常に長命だが、大抵の個体は鉱石摂取による窒素中毒で死に至り、基本種全体の平均寿命は八年程度。窒素中毒を免れた個体は、身体にため込んだ鉱石を合金に変えてアイアンスパイダーと呼ばれる個体に変質する。

 また、胴体部分に摂取鉱石をため込む性質から、胴体の内部圧力が増加する傾向にあり、それで以って確保する熱量を魔力に変換し自身の活動エネルギ―としている。

 基本的に外敵は少ないが、敵対物に対しては「粘糸と鉱糸」による排除を行う。これについて、変遷種アイアンスパイダーについては「粘糸」の活用は見られなくなるが、ジュエルスパイダー種は「燃える粘糸」で以って敵対物を「燃やす」という対処が確認されている。

 なお、ロックスパイダー種の特筆変遷個体であるネームドエネミー『赤林檎』について。これは、スキルによって窒素中毒を無効化したものと考えられており非常に長命。冒険者ギルド定義における「A」判定の脅威度とされている。


エイル「『赤林檎』、非常に強大な相手です。気を引き締めていきましょう」

ハル「そんな厄介なの?」

エイル「いえ? もともとは温厚なヤツでしたよ」

ハル「え? そうなの?」

エイル「でかくてのんびり屋さんで、特に女性層からはキモ可愛いと定評でしたね。『赤林檎』見学ツアーなんかもありましたし」

ハル「誰だその、商魂たくましい発案者は」

エイル「国外からもエントリーのある人気コンテンツですよ。今回の一件は残念でならない」

ハル「……なあこれさ、『赤林檎』サイドが『見世物じゃねえんだよっ!』って怒ったって可能性ないかな?」


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