5-2
※本日の更新分を持ちまして、第五章『ビフォア・ラグナロク』は完結となります。
今しばらくのお付き合いを、どうぞよろしくお願いいたします。
「――ただいま」
「おけーりィ! なんだァテメエこっちが必死こいて向こうサンとヤり合ってるって時にヨォ、テメエはカノジョに慰められた挙句、プレゼントまで貰って来たってンだな良いご身分だ!」
「ああ、これ?」
――似合ってるだろ? と俺は嘯く。
「……フン、まァいーや。腑抜けは直ってンな? ンじゃ、テメエもこっち手伝え」
「ああ、任しとけ」
その『モノクル』に指先で触れ、俺は、
「――――。」
暴れ狂う『鉄の塊』を注視した――。
『FA.SCARs-ver1024LCNumber.UniqueCode『Personality』:性別無し・(‐)歳:機械種
・ステータス
体力・魔力・筋力・耐久:アベレージS
魔法素養・魔法耐性:オールF
幸運・知能・技能・身体操作:アベレージS
・スキル
‐‐
・エクストラスキル
演算〈EX〉
全耐性〈EX〉
技術体系〈EX〉
・ユニークスキル
パーソナル・アカウント〈EX〉
目的遂行〈EX〉
星に願いを〈EX〉』
「な、名前が長ぇ……っ!」
「あン? ステータス看破か? 向こうサン、どンなだって?」
「あー、えっと……?」
……たぶん、UniqueCodeってくらいだしあの後ろのが名前かな?
「恐らく、『Personality』ってやつだと思うんだけど……」
「ぱーそ? ハン、小洒落た名前貰ってやがるワ」
「おーいちょっとー話し込んでないでこっち手伝ってってばぁーーッ!」
『左腕も飛んだァ!? うぉお一時退避ィ!!!』
「……オットット。お呼びだネ、一緒行くかい? ニーサン?」
「ああ、――行こうか」
……そォ来なくっちゃ! とユイが笑う。
俺は、ベルトホルスターの中身を触って確認しながら、
――最前戦線の最中へと、一歩踏み出した。
/break..
フローズン・メイズの氷壁は、その全てが瓦礫と化している。
『鉄の塊』、――『パーソナリティ』の吐き出す光線がそれらに擦過し、軌道上の氷片を根こそぎ融解させる。
白昼の空は高い。
ボウル状に観客席が設えられたこの空間から見る空は、もっと高く見える。
そこにまた、
――「剣戟」が瞬いた!
『おまっとさん! なんだよ俺がいない間に倒してくれてもよかったんだぜっ?』
「勝手にいなくなってよく言いましたねえクソ甲冑! って言うか便利ですねその身体!」
『おう、フィードのヤツを殴り飛ばして正気にしてよ、ピカピカの新品貰って来たz――』
白光が劈く。
それが、「甲冑」の片腕を打ち抜き吹き飛ばす……。
『……おう、うっぷす』
「ば、馬鹿な! こんな緊急事態にしっかりお約束をする奴があるか! 空気読めてないんじゃないの!?」
『おうおう美人は焦り顔でも美人だねえ……。心配すんなよ、実はこういう造りだ』
弾け飛んだ片腕には目もくれず、甲冑が半身に構える。それは、「弾丸のように走り出すための姿勢だ」と、レオリアは脳裏で馬鹿正直にふと思う。
彼方へと打ち飛ばされたはずの「鉄の腕」が、空中で「ホバー」して、「甲冑」の周囲へと文字通りUターンしてきて――、
『俺は死ぬってことがないんでね、前衛は一通り任せてくれて構わない』
――弾かれたように甲冑が走り出す! 「ホバーする鉄の腕」が彼に並走し、共に『パーソナリティ』に襲い掛かる!
「……お、おー。………………俺、ロケットパンチと一緒に走り出す奴初めて見たわ」
「ありゃァ、どっちかってったらファンネルだわナ。知ってる? ファンネル」
「知ってる、ファンネル」
「そーかい。しかしまァ、鎧サンが言ってたねェ、『前衛は死なねーヤツに任せろ』だってヨ?」
「……、わーったよ。ったく、とんだ外れクジだ」
ユイに背中を押され、
……非常に不承不承だが俺も「甲冑」の後姿に追随する。
「よお! 俺も死なないんで前衛加わるぞ!」
「え!? じゃあ魔法でまとめて打ち抜いても問題ないですか!?」
「……いやっ問題はあるよなあ! 気持ちの問題なんじゃねえのソレ!」
『俺はダメだぞ!? ちゃんと腹に穴が開くからな! 絶対にまとめて打ち抜いたりするんじゃないぞッ!』
左舷は俺、右舷が「甲冑」。
敵は知覚器官から攻撃方法から何から何まで正体不明の存在だ。不毛とは思いつつも、俺は『パーソナリティ』の不穏な蠢動逐一に意識を凝らす。
四肢による物理的な攻撃であれば構わないのだ。それにしたって蜘蛛の尻に火でも着いたような暴れっぷりだが、しかしそれらは、前衛たる俺が死ぬことがない以上無害である。
問題は……、
『殲滅挙動ニ移行。機構、「バグライト」ヲ使用シマス』
こちらの方だ。
「……ッ!」
その攻撃、「白条」を吐き出す攻撃は、しかし近付いて見れば分かる。あの鉄の身体の胴体、黒い繭のようなパーツから「出力」されているものであった。
砲身でもあれば、それを叩いて軌道を狂わせればいい。しかしその「白条」は、硬質な鉄の表皮から「ただ浮かび上がる」ようにして発露していた。
「(……クソっ! 完全に三次元全方位死角無しかよ! 滅茶苦茶に弾幕でも張られちまったら、流石に為す術無しかもしれないぞ!?)」
それこそ、先ほどのような「白条幾億による大規模攻撃」などがもう一度来たら、俺や「甲冑」が前衛で抑え込めるとは思えない。
「(いや、でも、――それが誰がどう見たって分かる最前手だってのに、こいつは撃ってこない。……、……考えられるのは)」
「意図」があるか、或いは、――「クールタイム」があるのか。
そして、前者は絶対にないと俺には断言できる。
ならば――、
「おい全員! コイツの撃つ白いビームは、砲身も何もなく、ただこいつの胴体のどこからでも打ち出せるもんらしい! もしかしたら、こいつの胴体でもひしゃげさせられたら出が悪くなるかもしれない! デカい一撃持ってるってやつはいるか!?」
次の致命的な一撃が来る前に、ここで決着をつける必要がある。不透明な時間制限に俺は、『パーソナリティ』の前腕薙ぎ払いを蹴り飛ばしながら、そう叫んだ。
……それに、俺のプランにしたって決して割りの低い可能性でもあるまい。俺の知る科学技術で言えば、「レーザー砲」などは埃一つも厭うような精密機器である。それが「身体中の至る所から放出できる」というのなら、察するに、こいつの蹴れども殴れども傷一つ付かない「外殻」は、内部の緻密な機構を完全に保護するためにこそ、かような堅牢さであるはずなのだ。
が、
「ええと、私の魔法はですね! さっきから撃ってるけどてんで効きが悪い! もしかしたら何かしらの『流動力学を魔術的に応用した類』の魔法プロテクトを持ってるのかもしれないですね!」
「テメエはさっきから俺の後頭部にもゴツゴツ魔法当たってるから気を付けろォ!」
『俺の一番の火力は、内部機構を燃やして推進力を確保した直接攻撃だ! けど、ここまで殴ってきた感じ、全力でやっても威力足らずかもしれない!』
「そっか! 畜生! ジリ貧じゃねえかどうしようかなあ!」
という状況に、俺が思わず前衛ほっぽり出して頭を抱えそうになると……、
「……アタシで良けりゃァ、案があるヨ?」
ユイが、ゆったりとした口調でそう答えた。
「ホント!?」
『マジか!』
「よろしく頼んだァ!」
「――はっはァ! 踏ン切りが良いのは景気の良さってンだねェ! よし来た任せろォ! コルタス来ォいッ!」
「こちらに!」
呼ばれたのは、いつかの、俺を幻覚魔法でクソおちょくりやがったジジイである。そいつはやはり忽然と、俺たちの前に姿を現す。
そして、――その手には、
「分かってんネ、その通り! 向こうサンの絶叫で足ガックガクのクセに偉いぜ!」
「滅相もない。こういうのは気合でございます」
「っかァー! 他の連中に聞かせてやりたいねェ!」
ジジイのその手、……或いは、「ソレ」を地面に付けないように必死に抱え込んでいる「その腕の中」には……、
白金色の、「外部装甲」と表現する他にはない巨大な物体があった。
「花金四五六ってンだ! 着てくるからミナサンちょっと頑張っててネ!」
「んな!? マジでどいつもこいつも事後承諾でいなくなるなあ! こりゃあ私もそろそろお花を摘みに行こうかしら!」
「女ぶってんじゃねえ俺は手前の正体知ってんぞコラ!」
「な、なんだって! どうしてバレた! こりゃあ雉を撃ちに行くって言いかえるしかないですな!」
「ショ〇ベンなんざ垂れ流せ馬鹿野郎ッ!」
『……余裕があるのは良いことなのかもしれねえけどよ! 口よりも先に手を動かしちゃ貰えねえかな!』
閑話休題。
コルタスに手伝わせながら、その『外部装甲』(?)を装着したユイが、戦線に復帰する。
「おまたせィ! おいおいヤローども? オンナのコの化粧直しだヨ? なンかいうこたァねーの?」
「……うわ、そっか、実質これってユイの逆ハーレムみたいな男女比なんだ。一応聞くけど実はユイも中身男だったりとかしないよね?」
「しねェよ失敬な! どっからどう見てもナチュラルボーンな愛らしい女のコだろうがアタシァ!」
『(え? レオリアの中身男ってどういうこと? だってアレおっぱいあるよね……っ?)』
「か、かっこいい……ッ! 何ですかソレ! 男の夢百パーセントじゃないか!!」
なんて感じでレオリアが、確実にユイが求めた類のものではないであろう「賛辞」を送る。
はてさて、そんなユイの姿とは――、
「(ああ、そっかー。パイルバンカーと来たかー……)」
そう、パイルバンカーである。身体半身分の、甲冑とモビル〇ーマーを足して二で割ったような装甲の左腕の先には、ユイのシルエットよりもなお大きく厳ついパイルバンカーがあった。
また、薄いブロンドを帯びた白地の装甲は花紋の刻印があしらわれていて、暴力的なシルエット以上に、風雅なデザイン性の印象が強い。
「……まァ、言葉を尽くすようなンは期待してなかったわな。兎角準備ァ完了だ。アタシァいつでも、最大火力をお見舞いできるぜ?」
「あー、じゃあアレだ? そのパイルバンカーを向こうにブチかますって話だよな?」
「オゥとも! 隙を作るンはヨロシク頼んだぜ? 出来ればそーだな、アイツの顎の下アタリにでも潜り込めたらバツグンだネ」
「(あ、顎どこだよアイツ……)」
まあ察するに、『パーソナリティ』の前傾姿勢の胴体先端部のことだろう。ユイの背丈なら、近付いて打ち込めばちょうどアレの胴体をまっすぐに貫けそうである。
「発条にはまァ、三秒ありゃ十分だネ。近付いてヨ、そっから三秒分の時間稼ぎ、頼めるかい?」
「どうかなぁ。アイツ、俺とそこの「甲冑」とで羽交い絞めにしても止められないかもしれないぜ?」
『――いいや? なるほどね。じゃあ俺にも出番がありそうだ』
時間稼ぎじみた牽制を撃ちつつ作戦会議をする俺とユイに、向こうの甲冑が静かに言う。
「あん? プラン有り?」
『ああ、俺の内部機構じゃアイツの身体に傷はつけられないかもしれんが、ひっくり返すくらいなら出来る』
「おお! なるほど!」
『察したな? そうだ、俺が裏からぶん殴ってひっくり返す!』
「了解しました! じゃあ二手に分かれる必要がありますね、ハルさんはユイさんといてください! 私は、甲冑くんと一緒にヤツの注意を引きます!」
『おうよ! こっちは任しとけ! (……やっぱこのコおっぱいあるよな? いい匂いもするし、男ではないよな……?)』
「んじゃあ一旦仕切り直しな! ――俺自爆するんで各員ケガしないでくれよ!」
「「『……はァ!?』」」
三人分の絶句を置き去りに、俺は『パーソナリティ』へ向かって走り出す。フォーメーションを強引に崩し前に出たことで、『パーソナリティ』の注意は完全にこちらへ向いた。
『脅威度定義更新済ミノ個体ヲ確認。機構、「マントル・フォール」ヲ使用シマス』
「そうだよ! 久しぶりだ『パーソナリティ』クンッ!」
ばこんっ! と『パーソナリティ』の胴体が「口を開く」。それは、俺にとってみれば幸運な悪手でしかない。奔る勢いそのままに、ベルトホルスターから抜いた「自爆スクロール」を、俺はコイツの口内にぶち込んだ!
「効いてくれりゃあラッキーってなァ!」
『パーソナリティ』の「マントル・フォール」なる極光と、俺の起動した自爆術式が正面衝突する。間近で起こるのは、恒星爆発のような密度の「光と無音」である。極光と爆炎の拮抗は一瞬、当たり前のようにして、極光が自爆術式を纏めて灼いて食い散らかす!
が、当然――。
『……対象ノ損害ヲ皆無ト確認。対象脅威度ヲ更ニ再定義シマス』
「全員! 位置取り終わったか!?」
爆風に弾き出されて『パーソナリティ』の懐を離脱した俺は、未だ爆炎の残る光景の向こう、そこにいる筈の三人に叫ぶ。
その返答は、
――声ではなく、「風」で為された。
「……本当に! 全部! 事後承諾ですねッ!!」
レオリアの声とともに、一陣の風が周囲の爆炎を纏めて薙ぎ払う。
……俺の位置にて。まずは、『パーソナリティ』の姿があり、その更に奥にはユイと「甲冑」のいるのが見える。
そして、それらの光景の最奥にあったのは、
――「宙に浮かび上がった」レオリアの姿と、
『……対象兵器ノ推定威力ヲ算出。迎撃行動ニ移行シマス』
兵器、――ではなく、
アレは魔法だ。
「――流石に、ここまで大盤振る舞いにすれば多少は慄いてもらえましたか」
魔法、魔法、魔法。
アリーナ席の半周を覆うような、それは、おびただしい数の魔法陣であった。弧を描き、空高く整列する幾千の魔法陣、その全てが、『パーソナリティ』へと今まさに照準を引き絞り、
その最奥で彼女、レオリアは、
片手で小さな杖を構え、そして、
……もう片方の手では何やら、イヤホンでも抑えるような仕草をしていて、
「爆撃照準をオールペースト。術式標準、『シルエット・ファング』。――では諸君、狩りの時間だ!」
杖を、振り下ろす――。
その刹那幾千の魔法陣の全てが輝き、それらが、『青白い影』を吐き出す。
『青白い影』。
それは、狼の姿をしていた。
それが――奔る。
『甲冑』の彼を避けて、津波のように進行していく。
吼え立て、奔り、牙を剥き、しかし一個師団じみた統率で、そしてそれ以上の物量で以って、『パーソナリティ』へと殺到する!
『――機構、「フォトンライト」ヲ使用シマス』
対する『パーソナリティ』は、粒子じみた光を周囲に撒き散らした。それらは風に乗るように拡散し、そして狼の影の際に至って、唐突に「急激に膨張するように爆裂」する。
が、
「よしよし良い子だ! そのまま各々自分の判断で避けてくれ!」
狼の影は、奔る速度さえ殺さないままにそれを翻り避けていく。それでも徐々に、避けきれず光の膨張爆発に巻き込まれる個体は出てくるが、
しかし、それでも。
目減りしてもなお『パーソナリティ』の身体を埋め尽くすほどの物量の影が、遂にその喉元へと辿り着いた!
「諸君よくやった! その場で一斉爆発! 帰ったら今日は一番いい肉を大盤振る舞いしてやろう!」
その声に狼の影が遠吠えを行う。次いで起こるのは『影』の急速な「収斂」である。狼のシルエットが形も残らないほどに収縮し、
――そして、破裂、「青白いフレア」に変わる!
「今だ『甲冑』くん! ウチの子たちの仕事を無駄にしたら許さないよ!」
『分かってるよ! ――いくぜ、同類?』
先ほどの奔流が嘘のような空白地帯。
その最中に立つ『甲冑』が、陽炎を吐き出す――。
どるん、どるん、と。
大判の太鼓を叩くような音が響く、それが加速して、一つながりの「絶叫」となる。
熱が放出される。彼が身を低く構える。右拳を引き、左の拳を正中に掲げる。
そして――、
『――――ッ!!』
弾かれたかのように、『甲冑』が地を滑る! 陽炎を捲き、空気の灼ける高い音を撒き散らして進む!
『機構、「ライナーライト」ヲ使用シマス』
『良いぜ! 来ォいッ!!』
『パーソナリティ』の黒い胴体から一条の白光が滑り出す。それがまっすぐに『甲冑』へ向かい、その正中に置いた左拳を半身ごと消し飛ばす!
『――行くぜェえええええええ!』
吹き飛ばされた半身を彼は意に介さない。ただすら前へ。『鉄の胴体』の懐へ、そして、
『機構、「フレアライト」ヲ使用シマス』
『ぶっとべやァああああああああああああアアアアアアアアッ!!』
――衝突。
しかし、
生み出された白い太陽が、『甲冑』のアッパーをがりがりと削り飛ばした!
『なんだとッ!?』
「おいふざけんな! 私許さないって言ったよな甲冑この野郎!」
『んなこと言ったってよぉ!』
加速を得たアッパーと白い太陽の拮抗――。それが、徐々に均衡を崩す。
白い太陽が、じりじりと『甲冑』の一撃を押し戻し始めて、
――そして、
しかし、
「――引いてください。私に任せて」
第三者の声。
或いは、――五人目の声が唐突に響く。
「彼女」は、
武器を連ねた『鎖』に「手を引かれて」、
「 」
戦場を射抜くように奔り、
――魔法を紡ぐ。
「武器生成!」
彼女、――エイルの右腕の傍らに、八つの剣が生成される。
それが彼女の右腕の挙動に合わせて、テールランプが光の尾を作るように虚空を舞う。
八つの剣が、或いは、
「彼女の片翼」のようにして、
「――――ッ!!」
ざりんッ!! と鉄鳴りを起こして『パーソナリティ』の顎を打ち抜いた!
「作戦は聞いていました! ハル! ユイさん! こいつにとどめをッ!」
「最高だエイル! 戻ってくるって信じてたぜ!」
「褒めるのは後で頂きます!」
『パーソナリティ』の鉄の身体が、衝撃をこらえるようにまっすぐに虚空を仰いでいる。
衝突威力と内部姿勢制御機構の拮抗が、その鉄の身体の「反転」ををぎりぎりの所で押さえつけて……、
『姿勢異常ヲ感知。機構、「ショットライト」ニヨル緊急回避ヲ――』
『させねえやなァッ!!』
両碗を無くした『甲冑』が、しかし残る頭で以って『パーソナリティ』の腹のド真ん中に頭突きをかます! それで以って、確実不可逆決定的に、遂に『パーソナリティ』はひっくり返る!
ならば、
……きっと、
「……、……」
――『ソレ』の視界の正中には、「その光景」があったに違いない。
「よォ? どンな気分だ、ブリキのカメ公?」
『 。』
「鋼鉄の眉間」に向かって、その暴力的な『鉄芯』の切っ先が向けられている――。
『機構、「レーザーライト」ヲ使用シマス』
「――残念、それが効かないのは実証済みだろ?」
『パーソナリティ』が口を開けたのを見て、俺が、その照準の真正面に立つ。
「じゃあユイ、――締めだ。よろしく」
「オウとも、派手にいくぜ。――全発条開放最高最大出力! ぶっ壊れろガラクタがァッ!!」
ダガンッ!!! と、
地を割るほどの轟音が響き、――『パーソナリティ』の身体が、文字通り「くの字」に折れ曲がる!
『……、……』
じじ、じじ、と。
「妙な音」が聞こえる。周囲の人間はそれを、あの『パーソナリティ』が吐き出す音だと遅れて気付き、
――そして、それがあの『パーソナリティ』の嗚咽であると、更に遅れて気付く。
「……、……」
「……、……」
『――損傷ヲ確認。インシデントト評価』
――そして、
『……離脱、シマス』
黒い繭に付いた四つの足が、力むように弛んで、……直後、黒いシルエットが虚空に消える。
「 」
……遅れて、観衆が『それ』に気付く。
つまりは、あの黒い繭を模した災禍の「離脱」を、
――ヒトが、確信する。
「……、……」
「……、……」
「……、ああ」
戦場の誰かが呟いた。
それが、――数万人分の勝鬨に塗りつぶされた。
※第五章完結までは、あと二話。
次回話の更新は、本日18日の午後二時ごろを予定しております。
少しお待たせしますが、よろしければ引き続き当シリーズ第四章にお付き合いください。