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楽園の王に告ぐ.  作者: sajho
第五章『ビフォア・ラグナロク』
114/430

1‐6

 


「レオリアの所」なる今日の目的地へは、先ほどの駅から電車一本で向かうらしい。

 それにあたってエイルの見まねで電車の使い方を手探った俺は、……しかし俺の国でス〇カを使うのと変わらない手順であったので、試してみると割と問題なく、駅舎構内へ入場できたのであった。

 ちなみに、外で見た通り内部も中規模程度の様子である。というか具体例出しちゃうと江〇島駅みたいなイメージだ。最低限の壁すらない解放感極振りのロケーション。あと流石にキ〇スクは無かった。


「では、こちらの電車に」

「へえ、立派なもんだなあ」


 と独り言ちた車両の様子であるが、こちらは魔法陣決済(マジカルス〇カ)などの先進っぽさと比べればややノスタルジックな、向かい二席の体裁であった。

 ……果たしてこれは、「この世界の文明レベルゆえにちょっと昔の電車の感じ」なのか、それとも或いは「ここが観光地であるためにゆとりのある車両造りをしている」のかどっちだろう。まあ、後者って答えられたらなんかちょっと嫌なのでエイルには聞かないけど。だってアレじゃない? 異世界にまでロマン〇カーあったらそれはもう小〇急沿線じゃん。異世界じゃないよ。

 閑話休題。

 電車に揺られて二十数分。窓の向こうで移り変わる景色は、俺の世界と比較すればずっと「自然」の領域が多い。

 或いは、人の集まる要所要所が自然で隔たれているからこそ、この領には「鉄道」が走っているのだろうか。

 ……なんて考えつつ、

「……、……」

 物珍しい光景に目を奪われているうちに、あっという間に俺たちは目的の場所へと到着した。





「……あっという間だったなぁ」

「まあ実際、一駅二駅ですからね」

 電車から降りて肩を回す。

 ……あとそれから今更ながらに、「そう言えばこれ電気で動いてないんだろーし正確には電車じゃなくね?」と気付く。がまあそんなものはどうでもいい。魔力で動いてるから「魔車」とかちょっとおどろおどろしすぎて普段使い出来ないし。

 さて、

 エイル曰くレオリアは、この先の改札口外で待っているらしい。こちらの駅も中規模程度で(或いはこれが、この世界の駅舎の標準サイズなのかも?)俺たちは殆ど迷うこともなく駅舎を抜ける。

 それから、目的の人影もさくっと見つけて……、


「やあやあお二方、お疲れ様でございます」

「いえ、こちらこそお迎えにご足労頂きまして恐縮です」


 と言う感じで、レオリアとエイルがフォーマルなのかよく分からん挨拶を、まずはした。

「ハル君も、どうも」

「ういっす。今日も暑いねぇ」

 ……『暑い服装はやめてくれ』とエイルに言っていたらしい彼女だが、あちらもしっかりとクールビズの装いであった。露出こそ少なめなシャツとスカートの格好ではありつつも、どちらも生地の軽やかさが一目でわかる爽やかな印象である。

 それから、……レオリアの両隣には何やら見慣れぬ姿もある。どちらも夏服で、細身の長身な男性であった。

「紹介させていただきますよ。こっちがウチの魔法エネルギー学士であります、グラン・シルクハットで、それでこっちが錬金学のパブロ・リザベルです。どちらも今回は、私の携帯シンクタンクとして付いてきてもらいました」

「(携帯シンクタンクとは……?)」

 ……とにかく、彼女の紹介で以って、二人の内からグランなる方が一歩踏み出した。

「どうぞ、よろしくお願いします」

「ええ」

 エイルが片手を差して、グランとの握手を交わす。そんな様子を一歩引いたところで眺めていた俺は、改めて男二人の様子を見聞する。

 まずは、グラン・シルクハットについて。年齢は恐らく、俺やレオリアと変わらない程度だろう。細身の長身だが、シャツから露出する前腕や首元にはよく引き締まった筋肉が見える。

 それから他方のパブロ・リザベルの方は、グランと比べれてもう少し華奢である。理性的な印象だが、妙に童顔っぽい気もしないでもない。

 さてはて、

「私は公国騎士エイリィン・トーラスライトです。それからこちらが二級冒険者カズミハル。必要ないとは思いますが、私どもは一つ護衛と数えていただいても構いません」

「どうもです。二級になりたてのルーキーですが頑張ります」

 今度もまたグランが握手を差し出してきて、それに俺が応じる。

 ……思いのほか硬質な手応えである。過日ウォルガン・アキンソンの部隊拠点で覚えた感覚にも近い。もしかしたら、彼は彼でレオリア側の護衛みたいな面もあるのかもしれない。

 と、そこでレオリアが言葉を付け足した。

「二級とは言ってるけど、公国での『赤林檎』や『爆竜』の一件で名を挙げた大型新人らしいよ。あと、今回の案件を持ち込んでくれたのもハル君だし」

「(え? この話の発案ってハルなんですか?)」

「(まあ、一応ね)」

「(……キナ臭い持ち込み案件は全部あなたですね。この歩く逆風紀委員長め)」

「(逆風紀委員長ってなんだよ……)」

「そんなわけで、盗めるイイトコはガンガン盗んでいきましょう。この世界じゃ冒険者にコンプライアンスは無いからね」

「……、……」

 さて、俺は、

 ――なるほど、と。

 一つ「レオリアとサシになった時にでも聞いておきたいこと」を脳裏に止めつつ、彼女のヨイショに謙遜をしておく。

「いやいやそんなー」

「(なんつー取って付けたような謙遜だろうか……)」

 ……エイルのジト目は一旦置いておいて、

 レオリアの言葉を聞いたグランが、俺の方ににこやかな表情を向けた。

「確かに、学ぶところが多そうです。自分らは基本インドア業ですんで、冒険者の方との経験は勉強になります」

「そうです? まあ、もし分かんないこととかあったら俺なりに答えますので」

「どうも、自分はグランと言います。魔術エネルギー学の末席で、主にストラトス領で意見を挙げさせてもらってます」

 それであちらが錬金学の? と俺が敢えて他方に視線を振る。

「ええ。パブロと呼んでください。錬金学の担当です」

 はてと、魔術エネルギー学と言うのも不明だが、はたして一口に「錬金学」と言って、それが俺の世界の一般常識にそぐうものであるのかも不明である。なにせ絶対ぐーぐぐーるじゃないし。

 ってことで俺は、その辺を切り口として彼らとの話題を模索してみることにした。

「……実は自分、そう言った一般教養には疎くて。その錬金学ってのと魔術エネルギー学ってのは、どういった学問なんです?」

「なるほど、……ではまず、錬金学と言うのは」

 パブロが先んじて、そう応える。

「モノの構成物質を抽出し、それを組み替えて別のモノを作る。と言った解釈で正しいでしょう。……元来はモノの構成物質ほんしつを見極め、或いは構成物質ほんしつの帰納から『モノの成立』を探る学問ですが、広く一般的には、『1+1』を組み替えて、『2』でも『3』でもなく『B』にするようなものと考えられています」

「なるほど」

 モノの本質、成り立ちや構成を見極めるというのは、俺の世界における実物観測主義かがくにも近しいモノに聞こえる。元来俺の世界では科学の祖の一つには錬金術も数えられているらしい訳で、学問としての性質は俺の知る錬金術とも大差なさそうだ。

 ……まあ、化学実験をフラスコやアルコールランプでやるか魔法的手段でやるかの差異と捉えて、ひとまずは問題あるまい。

「じゃあ、魔法エネルギー学の方も軽く説明させてもらいます」

 他方のグランが、機を見てこちらにそう言った。

「これは読んで字のごとく、魔法におけるエネルギー的性質を主に取り扱う分野です。……ちなみにハルさんは、魔法エネルギーの民間リソース化について、どこまで知っていますか」

「ええと……」

 俺が言い淀むと、

 ……向こうからエイルが、

「例えば空調を例に挙げれば、温度管理の機能をもつ魔術陣や鉱石などに魔力を透過して『空調を操作』しますし、街灯一つでも、発光性質のあるそれらに、やはり魔力を透過して光を得ています。そう言ったお話をしているんですよね?」

 と、俺たちの会話に割って入った。

 ……察するにこれは、「知らないことがあり得ないレベルの一般教養」であったということか。ここで俺が率直に「聞いたことない」とか答えれば、それがこの世界の「異邦者秘匿の施策」に抵触するという危惧による介入だろう。

「ええはい。それで間違いありません」

 グランが答える一方で、俺はひとまずエイルの言葉から「魔法エネルギー」という概念の大脈を類推する。

 先ほどの彼女は「空調機能を持つ『魔法陣』に『魔力』を通して空調管理を行う」なんて例を挙げていたが、他方俺の世界のエアコンとは、「空調機能を持つ『機構』に『電気』を通して空調管理を行う」ものである。この世界における魔力エネルギーとは、翻って俺の世界の「電力」と見てよさそうだ。

 で、あるならば、

「魔法エネルギー学は、その透過魔力マジカルでんりょくを扱う学問ってことです?」

「マジカル? ……ええ、まあ?」

 ってことらしい。

「自分は基本的に、この領地内の魔力エネルギーの運用と、魔力エネルギーの生成方法の効率化を仕事にしてます。……運用ってのは、どう領内に行きわたらせるか、各コミュニティーにどれだけの総量を配分するか。あとは魔力透過を受ける方の、魔法陣等の開発などですね」

「はあ……。エネルギー配分の決定とは、学問って割には政治寄りですね?」

「まあ、そうですね。……実際のところ魔法エネルギー学管轄と呼べるのは先ほど言ったうちの、エネルギー生成方法の効率化くらいのもので、エネルギー配分政策や新機能魔法陣の開発なんかは、自分が魔法エネルギー学士としての見地を活かしつつ口を出させてもらってるような感覚で」

「そんな謙遜しなくていいのに。こいつは凄いですよ? 私が『こういうの欲しい』っていったら翌日には持って来るし」

 と、レオリアがグランを肘で突く。

 ……翌日までに用意させられるの間違いでしょ? と笑顔が引きつらせるグランがいたりしつつも、俺はレオリアの言うのが気になって更に問う。

「へえ? ちなみにどんな?」

「そちらさんも使ってきたでしょう。魔術的決済でスムーズに電車に乗って」

 ああ、この? と俺はポケットからカード、――ギルド登録証を取り出す。

 この世界には広く魔術決済と呼ばれるシステムが流通していて、俺は主にこの登録証をレジでかざしてお会計をしていた。……一応、用心で多少の現金も持ち合わせてはいるが、現金決済大国日本出身の俺がこの世界に染まるのも、そう遠い未来ではなさそうだという自覚がある。

「カードをかざしてピピっと決済。お手軽だけど、一つ大変なのが『魔力を使って機械を動かすのは人間の仕事だ』っていうところでしてね。グランに頼んだのは、『無人決済のシステムの確立』だったんです」

 ……ちなみに、ス〇カの例で言えばそこから先も結構大変な技術を使っていて、「膨大な乗客のそれぞれが、どの駅から乗ってどの駅で降りたか」の把握と、それを改札機で「当該値段分だけちゃんと引いとく手続き」では方々のプログラマーが血反吐を吐いたという逸話があるらしい。

 が、そもそもこの領地の電車料金は完全に一律であった。

「そりゃあ、結構なお手前で」

「いえそんな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ですし、自分はそれを形にしただけです」

 ()()()()、と俺は胸中で呟く。

 と、そこで、

「自己紹介は、まあこのくらいにしておきましょう。遅刻しても先方に申し訳ないんでね」

 レオリアがそう言って、先行して歩き出した。

「この先に馬車を待機させています。狭いもので恐縮ですが、二手に分かれて乗るということで、一つお願いしときます」

 曰く、俺とレオリアが相席で、もう一方の馬車にはエイルとグランらが乗るらしい。

「到着は、まあ大体一時間ちょっとを見てもらえればと思います。それじゃあ皆さん、今日はよろしく」




※先日頂きましたご感想につきまして、反応が遅れてしまいましたことをここに謝罪させていただきます。

 当シリーズに初めて頂いたこちらの感想には、わたくしなりの返信をさせていただきました。読んでくださっている方がいるんだなあという実感は非常に励みになります。感想送ってないけど読んでるよーという方にも、この場で改めて感謝を。しっかりPV数でほっこりさせていただいております


 今後、もしまた感想を頂く機会がございましても、恐らく反応は遅くなってしまうと思います。それでも全て余さず受け取らせていただく所存です。どうか引き続き、当シリーズをよろしくお願いいたします。

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