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楽園の王に告ぐ.  作者: sajho
第五章『ビフォア・ラグナロク』
110/430

1-2

 


 ってことで翌日。


「……うわぁ、朝だよ」


 昨晩あの後の晩酌でもいつも通り飲み過ぎたらしく一切の記憶を無くした俺は、目を覚ました朝日の足元、シワクチャにしてしまったベットの上にて。

 ――まずは、悔恨に瞼を覆った。


「……………………はぁ。」


 なお、……部屋の感じを見る限り、ここはホテルか何からしい。

 ほぼ地理の無い状況で見知らぬ天井と言うのはちょっとだけ不安を駆られる状況だが、まあ多分、……誰かしらが何かしら俺に用事でもあるのであれば、きっと迎えに来てくれるに違いない。

 なので、

 俺はひとまず、欠伸を一つ。

 来訪の無いことを窓の向こうのお天道様にお祈りしつつ、カーテン越しの朝日で、瞼に残る眠気を洗った。





「……、……」

 その部屋はまず、たおやかな日差しが目に映る。

 夏日の陽を薄手のカーテンが濾して落とし、それが足元象牙色のカーペットを明るく照らしている。

 また、夏の陽ではあるが、暑さのようなものは感じない。

 どこかの窓を開けっぱなしにしていたらしい。俺の寝ぼけた頬を、風がそっと撫でた。

 あと気になるのは、……テーブルの上にあるアホみたいな量の酒瓶だろうか。

 察するに、俺一人で飲むような量ではない感じである。これはもしかして、あの男女比で酒池肉林なホテル飲み(?)でも決行されたとみるべきか。

 ……いやあ悔しい。マジで今回も一つも覚えてない。多分これ、酔った勢いでパンツや太ももの一つや二つや三つや四つくらい余裕で見たと思うんだけどなあ……!

「……まあ、いいや」

 実はあんまり良くないけど。

 ってことで置いといて、まずは、ロビーに行って事情とかを聞こう。

 具体的には、ここがどこかとか、俺はどうやってここに来たのかとか、ちゃんと金払ってここ入ってんのかとか、あとは朝食ってどこで食べれるのかとか。まあ、んなもん聞いた時にゃロビー係員の混乱たるや察するに余りあるが、そこは一つプロ意識で飲み込んでもらうとして、

 ……最低限で人に会う程度の身支度を整えた俺は、そのまま一息でホテル一室(暫定)を出る。

 はてさて、


「……、……」


 先ほどの室内の延長線上のような、それはたおやかな風景であった。

 音の気配を見るに、もしかしたら割に早起きをしてしまったのかもしれない。俺は通路に等間隔に据えられた広い窓から、階下の風景を視線でさらった。

「(やっぱり、朝っぽいな。……それに景色に心当たりもない、と)」

 ちなみに階下の風景と言うのは、まずは濃い灰色の石畳の路と、それから背の低い家屋の群れが見える。人通りは(街路の規模と比較すると)抑えめで、今は人よりも、旺盛な日差しの方が目立つだろうか。

「(今日は、暑くなりそうだなあ)」

 なお、翻って俺の往く通路の方だが、……パッと見た感じやっぱりホテルと見て間違いない。

 先ほど洗面所や浴室で見たアメニティ的にお高いトコっぽい感じはひしひし伝わっていたが、やっぱり結構なお手前空間であるらしい。あんまり高いようなら宿代はレオリアに付けておこう。

「(はてさて、と)」

 直感で以って階下につながりそうな方向へと進む。ちなみにここに限らず、この世界にはエレベータの技術が存在しているらしく、――果たしてここにも、俺が想像していた通りのエレベータホールが、この階層の中央部分に用意されていた。

「……、……」

 ボタンを押すと、

 それが光って、

 ……少ししてから「ちーん」という音が響いた。

「(……電気文明の希薄な世界だって、時々忘れそうになるな)」

 忘れるというか、使用感に差異があんまりない感じである。「お勉強」の必要がないのは助かるので無論文句はない。

 と、そんな風に休日っぽいけだるさを思考に反映させつつ、妙にいい匂いのするエレベーターにほんの少しだけ揺すられた後、

 俺は、エントランスロビーと思われる階層に滞りなく到着した。

「(……うえぇ。立派だ)」

 まずは、広い。それでいて、目に優しい。

 たおやかな色の明かりが天井や壁を彩る様は、何と言うべきか、朝なら朝らしく、夜なら夜らしく目に映りそうな感じだろうか。或いは、ロビーの広さに対して天井がやや低く取られているのも、ある程度その印象を補強しているかもしれない。

 所々のアクセントの黒色を起点に、ここはどことなく、日本庭園じみた「切り取った光景としての」完成度を思わせる。

「(つーか、ほぼ俺の世界のお高いホテルそのまんまだな。……ラグジュアリーの定義ってどこでも変わんないのか?)」

 俺の世界の「ハイソ」の定義などは、歴史過の、「欧米諸国の興隆」からこっちまでに全世界規模で「欧米化みぎにならえ」してきた結果出来上がった定義ものだが、それ自体は「欧米が先進国であった」という背景から、その他後進諸国が「追いつけ追い越せ」の()()()()()()()()()()()()()()()()()結果の普及率、……なんて事情もある。

 或いは、この世界にも俺の世界の「欧米」みたいな、上手いタイミングで頭一つ抜きんでた成長国などがあって、その「模倣された先進国(おうべいカッコカリ)」が俺の知る欧米文化に似たものであったのかもしれない。

「(うぅむ。……これはアレか? 成長しうる可能性のある国ってのが、その国の国土や周辺の環境じゃなくて、文化的なメンタリティで以って決まるって言う一面もあるってハナシか?)」

 つまりは、国土の持つ自然が豊かであるから「強い」のか、国民の持つ文化性が整合性を持つから「強い」のかと言う思考ゲームである。例えば学問には本道があり、小学生が学ぶ「基礎」から高等生の学ぶ「応用部分」までが最短距離になるよう体系化されているように、「国の成長」、つまりは「文化」にも、国の周辺環境による文化形成、文化淘汰とは別の、「王道」と呼ぶべき系譜の辿り方があるのかもしれない、みたいな話である、が……

「(……ああ、めんどくさくなってきた。っつーかちょっとテーマが危ないわコレ)」

 ので、そんな考察は置いておいておこう。なにせ今日は、こんなにも日和豊かな休日ムードである。。

 ゆえに俺は、深呼吸を一つ。頭の中身を空っぽに取り直してから、ロビー番のお姉さん(これも既視感のあるチョッキベストとパンツなスタイル)に声をかけた。


「あ、どうもどうも」

「おはようございますお客様。如何なさいましたか?」

「あの、……実は自分、昨日は滅茶苦茶飲んでチェックインしまして、バスコ共和国に来たところまでは覚えてるんですけど」


 みたいなことを言うと、スタッフさんの女の子は俺に充てられた『部屋番』を確認してきた。

 ……おっと?

「へ、へやばん?」

「……ええと、それが分からないことにはどうにも」

 へやばん。難解な問題である。……アレかな、髪の毛を束ねる奴かな? それはヘアバンである。なんちゃって、

「えぇっと、……あの、レオリア・ストラトスって人と一緒にチェックインしたんですけども」

 ぶっちゃけ部屋まで戻って確認するのがめんどっちゃかった俺は、「ひとまず伝わんないかあ」と思ってそんなことを言ってみる。

 ……と、

「ああ! なるほど、失礼いたしました!」

 みたいな感じでスタッフさんが手元の資料を確認し始めた。

 ……いや、やっぱり持つべきものは領主の友である。これもしかして大抵どこ行ってもアイツの名前出しただけで丸く収まるんじゃないの? ツケで飲み放題じゃんね。

「はい、冒険者カズミハルさまでございますね。この度はどういったご用件で?」

「……えっと。実は自分、ここがどこかも分ってなくて。地名にも疎いのでとりあえず、ギルドの場所と役所(?)の施設なんかも教えてもらえると……」

 かしこまりました、と彼女は言う。

 何やら地図を用意してくれるらしい。全くもっての至れり尽くせりである。……ということで、その待ち時間の間に俺はその他の質問をしておく。

「……あの、ちなみに自分って宿泊料金もう払ってます?」

「こちらに記載されている限り、ストラトス様名義でお支払いの確認ができます。問題はございませんよ」

「(おぉ、タダ宿じゃんやったぜ)……じゃあ、そのプランって朝食も付いてます?」

「ええ、当ホテルは全てのお客様に朝食のご用意をしております。ちなみに……」


 朝食はあちらで提供しております、と、

 彼女は俺の肩越しに向こうを指さした。


「そうですか。……あとついでに、誰かから自分向けの伝言とかあります?」

「いえ。……もしもございましたら、カズミさまのお部屋にご連絡をさせていただいても?」

「ええはい、どうも。こっちですよね朝ごはん」


 ――そちらを左手に。と返答が返り、

 俺はひとまず、そちらを目指し歩き始めた。




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