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楽園の王に告ぐ.  作者: sajho
断章_XXX
108/430

【no_image】

 


「首尾は?」

「上々かと」


 宵闇の最中にて。

 二人の男が、会話をしていた。


 場所はバスコ国の、肥溜めが如き裏路地。

 古くは王都と呼ばれたその街は、……一応の名義だけはそのままに、ありとあらゆる過日の栄光を失って、打ち捨てられたように朽ちつつある。


 街に席巻するのは、この国を現在まとめ上げる大統領ジェフ・ウィルウォードへの嫉妬と、そしてこの街の支配者階層をまとめて最下層へと叩き落した「この国の黒幕」、レオリア・ストラトスへの【呪い】である。


 ――この世界には【呪い】がある。

 それは、祝福という言葉を対消滅させるためだけに存在するような概念で、呪いは、誰かや何かに寿がれた「綺麗な思い」に牙を向く。


 幸あれと幸先を願うのが植福なら、呪いはまさしくその逆だ。

 ()()()()()()()()()()()。この街には、それが汚泥のように、悪臭を巻き散らしながら横たわっている。


 ……が、その男たちについて言えば、ジェフやレオリアに対する悪感情は特別持ち合わせてはいなかった。


 呪いの厄介な部分は、体系化された魔術とは違い「体系化が不可能な性質」である。この世界における魔力、世界位相に漂う無色魔力(エーテル)が、ヒトの強い思いに呼応して発生するのが、祝福であり呪いだ。


 これらは、宿命という言葉で一つにまとめることが出来る。

 誰かの、或いは何かの運命に恣意を介入させるのが『宿命』という魔力属性だ。これらは、例えば親が子に「幸あれ」と願えば、それを抽象的に叶えるだろうし、親が子の仇に「苦しんで死ね」と願っても、願った相手の宿命をそのように歪める。


 絶対ではないが、「限りなく叶いやすい他者への強い願い」。

 それが『宿命』であり、――そして、この街には非常に強く、レオリアへのネガティブな『宿命の属性を持つ魔力』が溜め込まれている。


 さて、


 ――それゆえに彼らは、「主語」を濁すようにして会話を行う。

 彼らにとっては、レオリア・ストラトス個人への悪感情は特になく、更に言えば彼女は、彼らにとっての「鍵」でもある。


 祝福や呪いのような「何が起きるかは分からないが確実に彼女の運命を変容させる要素」を看過することは、彼らにとってはあり得ないことだ……、


「……()()()()()()()()()()聞くんだけど、なんでわざわざこの街で集まったのか聞いていい?」


「前提……?」


 男のうち一人、相手を揶揄するような半眼を作った『金色の少年』は、返ってきた曖昧な言葉に唾を吐く。


「分からないならいいさ。っていうか、分からないよな。だから置いておこうか。……でも、改めての確認だけどさ、この街で《《彼女》》の話は相当にし辛いわけ。人の悪感情は魔力に乗って本人に届く。ここであの子の名前を出したら、あの子に何が起きるか分からない。一応、()()()()()()()を考えたら心配のし過ぎでしかないけど、でも避けられるリスクは避けるべきだと思わないか?」


「……配慮が足りませんでした。てっきり彼女は、我々の敵だったのだとばかり」


「敵じゃなくて鍵だ。……フーロンから聞いてたけど、君は相当に性格が悪いんだな。こっち側じゃない人間相手なら、とりあえず機会があったら恨みが無くても殴っておくべきだと思ってるのか?」


「フ、フーロン様がそのようなことを……?」


 少年の相対者。

 ――整った容姿の優男が、狼狽を返す。


「……まあ、それは置いておこう。いいか? おれ達の仕事は相当丁寧に動かなきゃいけない部類の暗躍ばっかりなんだ。悪戯心で誰かを害するのも、それから利するのもなしだ。分かってくれ?」


「ま、まてよオイ?(笑) ……もう一回言ってみろオラ。フーロン様が俺の事を? は? クソ下らねえわマジで(笑) 妙なこと口走ってんじゃねえぞ手前でも殺すぞ?」


「――イキがるのは良いけど、おれはそのフーロンのために下手を打つなって言ってんだよ。面と向かってあの子に無能って言われてみたいのか?」


「……、……」


「さすがの忠誠心だ。じゃ、報告の続きを」



「……『名前のない群衆』を使っての『黒繭』の誘導は滞りなく進んでる。ただ、これはフーロン様からの命令じゃない。貸しだって理解してんだろうな?」


「貸し? ……わかった。オーケー。お前さっきの『殺す』って台詞、どうも本気で言ったらしいな?」


「あん? ……そうだよガキンチョ(笑) なに? 悔しいの? 泣いちゃいそうなの?(笑)」


「分かった分かった。よく聞けよ。――()()()()()()()()()()()()()()


「――殺ォォオすッ!!!!!!!!!!」



 優男が叫び、彼に可能なすべての戦闘準備を即座に完了させる。

 武器召喚魔法陣を、肥溜めが如き裏路地を埋め尽くすほどに展開し、それら全てに射出命令を下す。更に手持ちのスクロールを全て起動し、『デザインエネミー』と呼ばれる人工生物の召喚を実行。優男は、射出された武器群によって針の筵と化し、更にその上から『デザインエネミー』らのありとあらゆる魔術的攻撃によって魔力性空間特異点となった『金色の少年』周囲から三歩退き、そこで全身に膂力を溜める。


 そして、――奔り出しの一歩で石畳を割る。その亀裂は裏路地の壁を作る家屋の芯まで浸透し、一瞬遅れて周囲が瓦礫と化す。『金色の少年』は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そして、






「――これで分かってくれたと思うが、おれは格上だ。

 起動、■■■■:■■■■■」






 優男の耳には、その言葉が不明瞭に届いた。

 そして気付く。()()()()()()()


『世界の声』と呼ばれるこの世界の絶対法則と同水準の強度を持つ『世界概念』。それによって彼は、『金色の少年』の口に出した言葉を理解することが出来ない。


 彼に分かるのは、

 ――()()()()()()()()()()()()()()を一瞬で消化して、『金色の少年』がこの地獄を完璧に攻略し、無傷でそこに立っているという事実のみである。


「……、……」


「何が起きたって顔か、それは? 見ただろ? ……それはそうと、お前の態度がいけ好かない。モノを頼んだのはおれだけど、お互いにある程度の誠意は持って会話が出来たら素敵なことだよな?」


「……」


 優男は絶句をしている。

 それゆえに返答はなく、『金色の少年』は一人、舞台役者の口上のように語る。



「これは確かにフーロンの依頼じゃないが、フーロンの最高の友人の一人からの依頼だ。上手く行ったら、フーロンに自慢をしに行けよ。褒めてもらえるんじゃないか? ■■■からの頼みで、『黒繭』を■■とぶつけてきたぞって。……あ、何言ってるか分かんないか。まあでもいいや。お前の事なんてどうでもいい。命令だから、やって来い」



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