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#7 戦場告白と1万隻の大艦隊

 艦内は急に慌ただしくなった。廊下を何人もの乗員が走っていく。さすがのマデリーンさんも、この慌ただしい雰囲気に何かを感じたようだ。


「なに!?今度は何が起こったの!?」

「敵が現れたんだ。」

「ええっ!?敵が現れた!?じゃあもしかしてこの艦は……」

「そう、戦場へ直行中だよ。」

「どうなっちゃうの!?あんたらの戦さって、どうやるの!?」

「前にも言ったけど、30万キロの距離を隔てて駆逐艦の先端に付けられた主砲を撃ち合うというもので……」

「駆逐艦って、何隻いるのよ。20隻くらい?それとも100隻?」

「いや、1万隻だ。」

「い……1万隻!?それって、王国の正規兵よりも多いんじゃないの!あんたら、どんだけ駆逐艦持ってるのよ!」


 そう言われても、この宇宙では一個艦隊は1万隻と決まっている。これ以上少ないと広い宇宙空間がカバーできないし、多いと維持費が破綻する。通常、1つの星は防衛艦隊、遠征艦隊で2万隻をそろえるというのが通例だが、余力のある星は第2、第3の遠征艦隊を持っているところもある。ちなみに我が地球(アース)401は、防衛艦隊と遠征艦隊を一つづつ、計2万隻のみ保有している星だ。


 再び艦内放送が入る。我々は今、小惑星帯(アステロイドベルト)へと向かっているが、到着まであと3時間。ほぼ同時に敵艦隊と我が地球(アース)401遠征艦隊も接触するとのこと。つまり、あと3時間で戦闘に突入する。


「マデリーンさんは以前、戦場の上を飛んでたんだよね?」

「そうよ、戦場専門の郵便屋だからね。敵の大軍に囲まれた城のど真ん中に、援軍を知らせる書簡を送ったこともあるわよ。あの時は矢がびゅんびゅん飛んできてやばかったわ~!でもおかげで『雷光の魔女』って呼ばれるようになってね……」

「てことは、我々より戦場慣れしているってことだよね。」

「まあね、でも兵士じゃないから、あなた達ほどじゃないわよ。」

「いや、それがね……私だけじゃなくて、この艦に乗る乗員のほとんどは戦闘未経験、訓練なら何度もやったことがあるけど、私も戦闘は初めてなんだ。」

「そ、そうなの!?本当に大丈夫なの、この船は!?」


 そんなことをマデリーンさんに話したところで仕方がないんだが、初めて経験する命のやり取り。徐々に恐怖が襲ってくる。


 我々の戦闘は、駆逐艦の先端につけられた直径10メートルの主砲を使って行われる。駆逐艦の主砲が放つビーム砲の強さは「バルブ」という単位で表現する。昔、主砲に送りこむエネルギーをバルブで調整していた頃の名残りで、そう呼ばれているそうだ。1バルブが最小出力で、装填に9秒かかるが、一撃で王都をほぼ焦土と化すほどの威力を持つ。


 バルブ数が増えると、攻撃力は倍増する。3バルブなら、攻撃力も3倍。ところが、装填時間は2乗に比例して増える。つまり3バルブの場合は装填時間が9倍、81秒もかかってしまう。


 駆逐艦の武器は、都市を一つ灰にしてしまうほどの破壊力を持つが、それを防御する仕組みも存在する。


 耐衝撃粒子散布装置、通称「バリア」と呼ばれる盾だ。耐衝撃(バリア)粒子と呼ばれている、衝撃の反対方向に力が作用する特殊な粒子を散布することで、2バルブ程度の直撃ならば弾き返すことができる。


 ただし、砲撃の際はバリアを解かなくてはならない。自身の砲撃が、バリアによって跳ね返されてしまうからだ。だから、砲撃をするタイミングで敵のビームの直撃を受けると、たちまち駆逐艦はビームの熱で融解し、この宇宙から跡形もなく消滅する。


 砲撃効率を考えると、1バルブ砲撃の応酬が艦隊戦の常識。上手くバリアが展開されていない瞬間を狙って敵艦にビームを直撃させるかが、駆逐艦同士の砲撃戦の真髄である。


「艦内哨戒、第一配備!乗員は速やかに船外服を着用せよ!以上!」


 残り1時間を切ったところで、船外服着用命令が出る。食堂に待機している我々のところにも、船外服が持ち込まれた。


 ごわごわとした服で、おまけに邪魔臭いヘルメットまでついている。だが、万が一宇宙に放り出された時にもこれを着ていれば最大7時間は生きていられる。


 さらにこの食堂は、駆逐艦のもっとも中央部に位置する部屋。つまり、もっとも生存確率が高い場所だと言われている。このため、戦闘に参加しない乗員は、この食堂で待機するよう言われている。


 パイロットという職業は、駆逐艦同士の砲撃戦の時はまるで役に立たない。以前は近接戦闘もあったようだが、今は光の速さで1秒かかる30万キロの距離を隔ててビームを撃ち合うことが多いため、遠すぎて航空機では敵のいるところにたどり着けない。


 このため、我々パイロットも食堂での待機組となる。他にもモイラ少尉のような技術武官や、主計科、整備科など、砲撃戦に関わらない職種の乗員はここに集まってくる。


 ただじっと戦闘がはじまるのを待つマデリーンさんと私。いくら戦場慣れしているとはいえ、宇宙空間での未知の戦闘。魔女であることも、ここでは何の役にも立たない。さすがのマデリーンさんでも、不安で仕方がないはずだ。


 そういう私も不安だ。平均3時間といわれる艦隊戦において、撃沈率は平均で2パーセント。つまり、98パーセントは助かるから生き延びる確率の方が高いとはいえ、それでも死ぬ確率はゼロではない。かえってこの中途半端な生存率が、不安感を駆り立てる。


 そんな不安の中、突然、私はシェリフ交渉官のことを思い出していた。


 そういえばアリアンナさんとシェリフ交渉官殿は上手くやっているんだろうか?妙に利害が一致していた2人だから、きっと今頃は仲良く共に暮らしているだろうが、育った文化が大きく異なる2人。上手くやれているんだろうか?


 でも、戦闘に突入しようとしている我々よりは、よほどか幸せだろう。一緒にご飯を食べて、一緒に寝て、一緒に買い物して……なぜだろうか、急に私もそんな生活をしたくなった。


 そういえば、戦場では生きる希望が強いものほど生き残る確率が高いという戦場伝説を聞いたことがある。私はこの類の噂を信じないのだが、この時ばかりはなぜか信じたくなった。


 この2つの想いが、私をある行動に走らせてしまう。


「ねえ、マデリーンさん。」

「なによ。」

「ちょっと変なこと聞くけどさ。」

「なに。」


 ごわごわした暑苦しい船外服を着て、ちょっと不機嫌なマデリーンさん。そんなマデリーンさんに、私はとんでもないことを口走る。


「もしも生き残ったらさ、私と、結婚しないかな?」

「はあ!?」


 突然妙なことを言い出した私に、マデリーンさんはすごい形相で睨みつけてきた。


「あ!いや!その!なんていうか、生きる希望があると、死なないっていう伝説があってさ!だから生き残りたいと思える何かが欲しくなってね……」

「はあ!?それはあんたの希望でしょう!」


 すごい剣幕で怒られてしまった……うん、今ので間違いなく、嫌われてしまったな。


 しかし、周りを見渡すと、ここは場所が悪かった。


 緊張の中、静かに戦闘開始を待つ30人ほどが待機するこの食堂、よりによってそんな大人数の目の前で、私は大っぴらに告白してしまったのだ。さほど広いとは言い難い食堂、周りの人間にはもちろん、このやりとりの一部始終は筒抜けである。あっという間に、食堂にいる乗員から次々と責められる。


「おい!ダニエル中尉!なに1人で抜け駆けしてるんだよ!」

「そうだそうだ!お前だけの魔女さんじゃないんだぞ!」


 周囲から一斉に責め立てられる私。しまったな。場所をよく考えるんだった。戦闘がはじまる前だというのに、すでにここは戦場のようだ。


 その時だった。


「いいわよ!」


 それを見ていたマデリーンさん、突然立ち上がって叫ぶ。


「はい?」

「いいわよ!生き残ったら、あんたのお嫁さんになってあげる!だから、絶対に生き残るのよ!いいわね!!」

「あ、はい……」


 なんと……マデリーンさんから、あっさりとOKをもらってしまった。


 そのマデリーンさんの叫び声に、周りは静まり返る。私を責めていた周りの人達は皆、引き下がってしまった。


「いやあ、うだつの上がらないパイロットだと思っていたのに、大胆な戦場告白でしたねぇ~。モイラ少尉、感服いたしました。」


 代わりにしゃしゃり出てきたのが、この自称「恋愛の達人」モイラ少尉だ。


「な、なによあんた!」

「いやあ、恋愛の達人としては、この恋、ぜひサポートさせていただきます!それにしても、まさか私が戦場告白に巡り合えるなんて、運がいいですねぇ~!お互いに絶対、生き残りましょうね!」

「ちょ、ちょっとあんた!ベタベタ引っ付かないでよ!ただでさえ暑苦しいんだから!」


 マデリーンさんにすり寄って励ますモイラ少尉。ここにも生きる希望を持った人物が一人増えてしまった。希望が増えたら生き残る確率が高くなる。この戦場伝説が本当なら、私は多分生き残れる。


 ところで、モイラ少尉がさっきから言っている「戦場告白」というのも、古くからこの宇宙で語られている戦場伝説だ。戦闘開始前の生死の狭間で、切羽詰まった感情から思わず片想いの相手に告白してしまうという行動、それが戦場告白と言われているものだ。


 私のそれは、戦場告白なのだろうか?うーん、言われてみれば、まさにこれは戦場告白だな。


 いずれにせよ、私はマデリーンさんに告白し、マデリーンさんはそれを受け入れてしまった。あとは生き残れば、我々は夫婦になる。しかも、相手は魔女である。未だかつて、魔女を奥さんにすることになろうとは考えたこともなかった。


「敵艦隊まで、あと31万キロ!戦闘開始まであと3分!」

「砲撃戦用意!艦内操縦系を、砲撃管制室に移行!」


 戦闘開始が目前に迫っている。そこで私はひとつ思い出したことがあった。


「そうだ、マデリーンさん。」

「なによ。」

「ひとつ、言い忘れていたことがあるんだけど。」

「なに?」

「戦闘中は砲撃音でとてもうるさくなるんだ。一応、注意しておいて。」

「そう。でも私にそれを言っても、多分無駄よ。さっきと同様、騒ぐだけよ。」

「じゃあ、私も一緒に騒ぐかな。」

「騒ぎなら負けないわよ!なにせ王国一の魔女なのよ、私は!」


 それにしても、何度も一緒に飛ぶうちに、この魔女の扱い方を心得てきたような気がする。恋愛とは違う、私がマデリーンさんに感じる安心感というか、しっくり感とでもいうものが、多分私をマデリーンさんに告白させた要因だろうと思う。


「敵艦隊までの距離、30万キロです!」

「艦隊司令部より、砲撃戦開始の合図です!」

「1バルブ装填!撃ち方始め!」


 艦内放送で、戦闘開始が知らされた。その数秒後に、大きな雷が数発同時に落ちたような音が艦内に鳴り響く。


「きゃあ!」


 マデリーンさんもびっくりだ。さっきまでの大気圏離脱のエンジン音なんて比ではない。こちらは明らかに危険を感じさせる音だ。


「もう!なんなのよ、この音は!びっくりするじゃないの!!」


 予告通りに大声で騒ぎ出す魔女。大気圏突破時はともかく、この音は初心者にとっては心臓に悪い音だ。


 数秒おきに砲撃が行われ、雷のような砲撃音がガンガンと鳴り響く。その度にマデリーンさんは大騒ぎをする。ただ、砲撃訓練を何度もやってきている我々は、この音には慣れている。


 しかし、我々にも慣れていないものがある。戦闘開始から数分後のこと。


「敵砲火、直撃来ます!」

「砲撃中止!バリア展開!!」


 緊張感のある叫び声が艦内放送で鳴り響いた後、訓練を受けている我々にも聞き慣れない音が鳴り響く。


 それは、とてつもなく不快な音だ。ギギギッというまるでグラインダーでやすりを削ったような音が鳴り響いた。私も、この音は初めて聞く。思わず私はマデリーンさんを抱き寄せてしまう。マデリーンさんも、私にしがみついてきた。


「ううっ!怖い……」


 戦場を飛び回った伝説を持つ魔女でも、さすがにこの直撃音は応えたようだ。そんな私も、バリアというのは、こんな音を出すことを知った。


 幸いにもバリア展開が追い付いたため、駆逐艦6707号艦は無傷だった。しかしもう、あの音だけは勘弁してほしい。


 しかしそれからも時々、この不愉快な直撃音を聞き続けることになる。おかげで、マデリーンさんはしがみついて離れない。


 戦闘開始から30分ほどして、突然、我々航空隊に命令が下る。


「艦隊司令部より打電!哨戒機隊、全機発艦命令!レーダー担当武官も同乗し、スパースレーダーを展開せよ!以上!」


 ここにきて私にも出撃命令が下った。スパースレーダーとは、たくさんの哨戒機を組み合わせてあたかもひとつの巨大なレーダーにする仕組みである。


 砲撃戦を続けると、ビームによる放射エネルギーにより、駆逐艦のレーダーの感度が悪くなる。このため、航空機を飛ばしてビームの放射エネルギーの少ない場所にスパースレーダーを展開し敵艦の位置を測定、その情報を使って砲撃の精度を上げるのだ。


 このレーダー任務をやれという命令である。直ちに私とモイラ少尉が出撃準備に入る。


「待って!どこ行くの!?」

「哨戒機だよ。私とモイラ少尉に、出撃命令が出たんだ。」

「私も行く!」

「いや、マデリーンさんはここにいて。哨戒機よりも強力なバリアを持った駆逐艦の方が安全だから……」

「あんたと私は夫婦なんでしょう!?だったら、生きるも死ぬも、一緒よ!」


 マデリーンさんに詰め寄られてしまった私。そこで、モイラ少尉から一言。


「そうでしたよね~、もうお2人は夫婦ですよ、中尉殿。こりゃもう一緒に行くしかないですよ。」


 私はマデリーンさんの手を握る。


「分かった。じゃあマデリーンさん、行こうか!」

「いいわよ!この王国最速魔女が、お供してあげる!」


 根拠のない自信を持ったこの魔女と「恋愛の達人」と共に、第1格納庫に向かう。途中でまた、あの不快な直撃音が鳴り響く。


「ダニエル中尉!発進準備完了!すぐに出られるよ!」


 ロレンソ先輩が叫ぶ。私は走って哨戒機に乗り込んだ。


 3人が乗り込んで哨戒機のハッチが閉まると、すぐに格納庫の空気が抜かれる。そして格納庫のハッチがゆっくりと開いた。アームで艦の外に連れ出され、いつでも発進可能となった。


「タコヤキよりクレープ!発進許可願います!」

「発進だぁ!?馬鹿野郎!今それどころじゃねぇ!」


 急に暴言を吐いてきたのは、砲撃管制室にいる砲撃長と呼ばれる人物だった。


 この砲撃長の名はミラルディ大尉というが、大きな声で暴言を吐き続けるため、皆からは「砲撃長」と言われて恐れられている。砲撃よりも、口撃で勇名をとどろかせている人物だ。


 その砲撃長がこちらに向かって叫んできた。だが、私も負けるわけにはいかない。なにせこちらも命令を受けているんだ。


「砲撃長!一瞬でいいから、出撃タイミングを知らせてくれ!」

「はあ!?それどころじゃねえよ!」

「こっちだって、砲撃のために出撃するんだ!つべこべ言わずに、タイミングだけ知らせてくれ!」


 そういえば以前に一度、私はこの砲撃長とやりあったことがある。この砲撃長が、戦場の主役は砲撃科であり、パイロットの所属する航空科など取るに足らない奴らだと言い放ったのだ。それに腹を立てた私は、砲撃長に口論を挑んだ。


 相手は声が大きいが、こちらもひるむことなく挑んでいった。その結果、この砲撃長に一目置かれるようになってしまった。そういう過去がある。


「分かった!一瞬だけだ!聞き逃すんじゃねえぞ!」


 私の言葉を聞いて、砲撃長が折れる。私は、アームの解除レバーと、スロットルレバーを握った。


「今だ!」


 砲撃長の合図と共に、私は解除レバーとスロットルレバーを同時に引いた。哨戒機は直ちに発艦し、あっという間に駆逐艦から離れていった。


 外は静かだ。まったく音がない。だが、ビームの作り出す無数の青白い線がこの漆黒の闇の中を横切っている。


 外を見ると、それこそ無数の駆逐艦が整然と並んで、ビームを放ち続けている。反対側からも同じくらいの数のビームが飛び交う。ここは戦場の真っただ中。そう思い知らされた瞬間だった。


 しかし、今私の視界に見えているのはほんの数百隻ほどだろう。目が届かないが、幅数千キロにわたり我が艦隊1万隻が展開しており、30万キロ離れた同数の敵艦と交戦しているのだ。その友軍を手助けするため、私は指定のポイントに向かう。


「モイラ少尉!スパースレーダー、展開準備!」

「してますよ~、ちょっと待ってくださいね、中尉殿。」


 後席に詰め込まれたレーダー機器とにらめっこしながら、モイラ少尉はレーダーの調整をしていた。いくら自称恋愛の達人と言えども、こちらは本業だ。いつになく、真剣そのものな表情である。


 指定ポイントに着いた。哨戒機が多数、縦横に一定間隔で整然と並んでいる。私は指定された場所に向かって飛び、配置についた。


「中尉殿~、もうちょっと右に行ってくださ~い……はい、いいですよ~。」


 レーダーの微調整のため、モイラ少尉が私に指示してくる。それに従って、私は機を動かした。


「はあ、同じような哨戒機がいっぱいいるわね~。おまけに下には駆逐艦だらけ。1万隻いるって言ってたけど、すごい眺めね、ここは。」


 マデリーンさんが周囲にいる哨戒機と、眼下に広がる艦隊を目にして感心している。だが、ここは戦場。いつこちらに砲火が向けられるか分からない。


 哨戒機自体は小さいため、相手のレーダーには引っかからない。ただ、こちらは今、レーダー任務に就いている。だから、こちらの電波を逆探知されれば、敵の艦隊がここをめがけて撃ってくる可能性はある。そうなれば哨戒機など、ひとたまりもない。


 哨戒機にもバリアはついているが、駆逐艦のそれとは比べ物にならないほど弱い。1バルブの砲撃にさえ耐えられない。だから、ここではバリアの展開などしても役に立たないからやらない。ただひたすら運任せ。敵に見つからないことを願うばかりだ。


 レーダー任務の方は上手くいっている。ここから捉えた敵艦隊の姿は実に鮮明だ。この情報は各小艦隊の戦艦にデータリンクされて、さらにその先の駆逐艦に提供される。


 レーダーの画面を見る限りでは、敵も味方も膠着状態に陥っている。もっとも、我々は膠着状態にして敵をこの星に侵入させなければいいから、このまま推移すれば我々の勝利だ。できれば敵がなるべく早く諦めて、後退してくれることを願う。


 敵も、どう考えてもこの艦隊を突破できるとは思わないだろう。敵の勝利条件は、我々を突破してこの星にとりつくこと。まだ同盟関係を樹立できていない我々に先んじてこの星を乗っ取るのが連盟軍の狙いだから、ここを突破できなければ意味がない。


 ゆえに、敵は前進しようと試み、我々はそれを阻む。


 そういう撃ち合いが、1時間半ほど続いたその時。


 急に敵が後退を始めた。どうやら諦めたようだ。徐々に敵艦が後退していく。


 我々の艦隊もそれにつられて前進する。ただ、これもある程度前進したところで止まるはずだ。我々が敵を追いかける理由はない。ただ敵が帰ってくれれば、それでいい。


 後退は続く。とうとう敵と味方の距離は30万キロ以上となり、砲撃が止んだ。


 再び、漆黒の闇に戻る宇宙。さっきまでのあの青白い光のシャワーが、まったく見えなくなった。


「勝ったの……?」


 マデリーンさんが私に尋ねる。


「そうね、敵が引いたから、勝ったようだね。」


 するとマデリーンさん、いつもの調子に戻る。


「ざまぁないわね!敵兵め!この王国一の魔女がいる限り、ここを通さないわよ!」


 なんだってこういつも自信満々なんだろうか、この魔女。この前向きなところは、ぜひ見習いたいものだ。


 しばらく待機していたが、30分ほどで我々にも帰還命令が出た。駆逐艦6707号艦に向かって飛んでいると、周りに無数の駆逐艦が見えてきた。


 敵は撤退したものの、まだ反転してくる恐れがある。戦闘態勢を維持したままの整然と並ぶ駆逐艦の列の間を、哨戒機で通り抜ける。


「駆逐艦が整然と並んでいる。まだ陣形を解いていないようだな。」

「そうですねぇ~。この段階では、警戒態勢は説かれてないでしょうからね。」


 モイラ少尉は、後席で後片付けをしている。機器の電源を落とし、配線などを整理していた。


「壮観ね、こんなにびしっと並んだ駆逐艦の列をみると、まるで国王陛下に謁見する衛兵を見ているようね。」


 などと言いながら、マデリーンさんが私の横にやってくる。


 私は、マデリーンさんの方を見る。すらりとした身体、長くさらさらとした髪、くるんと丸い顔。戦闘の不安に後押しされたとはいえ、私はこの王国一の魔女に、告白して受け入れられたんだ。そんなマデリーンさんを見ていたら、嫌が上にも心拍数が高まる。


 が、マデリーンさん、ちょっと近すぎないか?妙に笑顔だし、こっちを見てるし……いや、どんどん顔を近づけてくる。どうしたんだろうか、なぜ急にこんなに顔を近づけて……


 マデリーンさんは両手で、私の顔を抱えるように引寄せた。そしてそのまま顔を寄せて、マデリーンさんは唇を、私の唇につける。


 全く予期せぬキス。操縦桿を握ったまま、気づけば私はマデリーンさんに唇を奪われていた。一瞬、頭の中が、真っ白になる。


 後ろで作業をしていたモイラ少尉も、前席で起きた突然の出来事に見とれ、持っていた配線を床に落としてしまう。


 ゆっくりと顔を離すマデリーンさん。満足げな笑顔を浮かべたまま、私の方を見ている。


「私のところじゃ、こうやって口づけをするのが夫婦の証なのよ。」


 ぽかんとマデリーンさんの言葉を聞く私とモイラ少尉。恋愛の達人でさえ、この事態は全く想定外の出来事だったようだ。


「あの、マデリーンさん……」

「つまり!あんたは今から私の夫!いいわね!この王国一の魔女を大切にしなかったら、ただじゃ済まないわよ!」


 満面の笑みで、相変わらずの自信満々なしゃべり口調で宣言するマデリーンさん。その時、モイラ少尉が叫ぶ。


「ちゅ、中尉!前!!」


 はっとして哨戒機の窓を見る。ある駆逐艦が眼前に迫っていた。このままでは衝突するところだった。すぐに操縦桿を握り、立て直す。


 マデリーンさんは再び左の助手席に座る。満面の笑みを浮かべたまま、こちらを見ていた。


 こうして私とマデリーンさんは、1万隻の大艦隊のど真ん中で、夫婦となった。

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